映画『恐るべき子供たち4Kレストア版』日本公開に際してあがた森魚、白井晃らからコメントが到着

『恐るべき子供たち4Kレストア版』

フランス公開70周年を記念して修復された映画『恐るべき子供たち4Kレストア版』日本公開に際して、自身のSNSを本作品のキーパーソンとなる役名ダルジュロスの名前を冠するほど『恐るべき子供たち』フリークのミュージシャン・あがた森魚、フランス文学者・巖谷國士氏と野崎歓氏、TikTokでナツメロをカバーした動画で多くのフォロワーを擁するアーティスト・中村月子、映画監督の諏訪敦彦、深田晃司、想田和弘、元TAKEO KIKUCHI、現テイラーデザイナーの信國大志氏、劇団・天井桟敷出身で映像作家の萩原朔美、舞台版『恐るべき子供たち』の演出で話題を集めた演出家の白井晃ら、世代やジャンルを超えた方たち多彩な17名からのコメントが到着しました。

また、『恐るべき子供たち4Kレストア版』日本公開に際して、絵本や企業広告、ハイブランドへの作品提供などの活動を行う画家のヒグチユウコ氏、「食べないの? おおかみさん」の著者・小石川あお氏にて、それぞれ本作をイメージしたオリジナルドローイング作品が描き下ろされました。

巖谷國士【フランス文学者・批評家】コクトー原作の映画のなかでも、白眉の名作というべきだろう。とくに終盤のクライマックス、映画史上に稀な古典悲劇風のすざまじい戦慄を走らせるのは、メルヴィルでもなくコクトー自身でもなく、あの奇跡のような女優、ニコール・ステファーヌである。恐るべきエリザベート!

野崎歓【フランス文学者】往年の傑作が、リストアによってまるで未知の新作のようにみずみずしい輝きを放っている。これはコクトーとメルヴィルが二人で見た夢の鮮やかな結晶だ。前半の弾けっぷりから一転して悲劇に雪崩れこむ展開に息をのむ。主演女優ニコール・ステファヌ、一世一代の名演技に瞠目せよ!

あがた森魚【シンガー・ソングライター】一点突破!!の雪合戦!! ダルジュロは学校の雄鶏だった。挑戦する者にも見方につく者にも等しく好意と闘志を抱く。ポールはそのダルジュロが好きだったが、性欲も目的も理屈も伴わぬ清浄な欲望は強烈な苦しみであり歓喜でもあった。ポールはそのダルジュロの強力な雪玉の一撃に倒れる。この冒頭の美しすぎる純愛シーンがこの物語りは始まる。超古典主義の超古典。純愛のための純愛はこの映画から始まったとさえ言いたくなる。ともかくダルジュロ精神全面展開の一本なのです。

萩原朔美【映像作家/演出家】子ども達が自由に羽ばたくのは、ベッドの上だ。何をしても許される。
映画「恐るべき子ども達」の舞台は全てベッドだ。列車の二段ベッド。狭い姉弟のベッド。玉突き台のベッド。そうなのだ。この映画が魅惑的な秘密の匂いを発するのは、子どものベッドが語る大人の詩だからなのである。

白井晃【演出家】新たな技術は、幼い姉弟の愛憎劇を残酷なまでに露わにする。
毛穴から滲みでる汗、小さな瞳の動きまで、コクトーが作品に込めた人間の心理描写があたかも罪であるかのように告発する。

中村月子【音楽家】美しく儚い、人間の心の世界に引き込まれ、終始、自分の中に宿る”瞬間と対話”をする感覚に。
雨霰と飛び交うエリザベートとポールのやり取りは、お互いが同じように”最も憎み最も愛する自分の存在”を確かめ合う為の愛情表現の一つであり、とてもピュアな感情として印象的だった。
そしてまた小さな部屋で繰り広げられるこの描写が行き場のない感情、そして有り余る二人のエネルギーを描いていた。
物語は進み彼らを乗せた列車は海へ向かう。
列車の規則的な音は退屈な人生そのものを表す様で、そしていつか訪れる”その時”へのタイムリミットを刻み知らせる様にも感じた。
過去と未来を繋ぐ列車はまさに儚く過ぎ去ってしまう永遠の様。
鼓動が続く限り永遠と一瞬は同じだ。
そんな事を考えさせられた。

諏訪敦彦【映画監督】ウィルスに感染するように、わたしの中に恐るべき子供たちの棲む部屋が作り出される。そこは怒りの声とばか笑いが同時に炸裂するガラクタのような宝物に満たされた空間だ。もうこれを消去することはできない。つまり永遠の宝物を手にしたのだ。

深田晃司【映画監督】笑うときも怒るときも悲しむときも止まることなく死へと映画は前進していく。私たちの人生がそうであるように。いつかみんな死ぬけどこの映画の雪と影の美しさを見ないで死ぬのはもったいない。

想田和弘【映画作家】映画とは「体験」である。そのことを改めて実感させられる。いったい自分は何を観たのだろうと、何日もうなされそうな映画である。

信國大志【テーラー/デザイナー】コクトーが絶賛ヘロイン中毒中に3週間で書いた名作。ストラヴィンスキーと製作した、戯曲エディプス王同様の禁断の愛を主旋律として、不安定な四角関係が描かれる。子供の頃観て理解できなかったが、今にして面白いと思えるのは、拙者もそのような複雑な愛を理解できるようになったからだろうか?

岩谷俊和【デザイナー】とてもフランス的でありコクトーそのものであろう映像作品だった。
コクトー自身とコクトーの周りにいた芸術家たち。何に美や芸術性を求めたか?
劇中のコクトーによるナレーションも重なりコクトーに思いを馳せた。
殆どがセットではないので当時の軽くない独特の空気感を感じながら、一昨年に亡くなった敬愛してやまないファッションデザイナーであるカールラガーフェルドがドイツからパリにわたった10代に見た景色、感じた感情が映像化された様な感覚を覚えた。

藤岡篤子【ファッションジャーナリスト/fプロジェクト代表】陰影に富んだ映像の美しさに重なるコクトーのナレーションに、底知れぬ不安感が募る。悲劇への道標を暗示しているのか。姉弟の倒錯した感情は、激しく、他の介入を許さない。これが「愛」ならば、ギリシア悲劇の様相を帯びるのは、当然の帰結だろう。姉弟の秘密「夢想の国」へと「出発」するシュールな結末は、この映画が「ヌーヴェルバーグのゆりかご」であることを示唆している。

ヴィヴィアン佐藤【ドラァグクイーン/美術家】ビリヤードの球が乱反射する如く、モンティエ広場の雪合戦で堕天使ダルジュロスが放った雪玉はポールの心臓を穿ち、人生に影響を及ぼし続ける。 子供部屋という最も純粋な王国は、最も未開で野蛮で残酷な宇宙だ。 その空間では美と死は同義であり、少年少女たちとは美と死そのものだ。 しかし、彼らは自身の姿を決して見ることはない。 そして、私たちは一体いつ子供部屋を出てしまったのだろうか。 一体誰に心臓を撃ち抜かれたのだろうか。

CHE BUNBUN【映画ブロガー】ジャン・コクトーからジャン=ピエール・メルヴィルへと受け継がれた「大理石の拳の一撃」が、雪玉から姿形を変えながら凶暴さを増していき、世界の広がりから拒もうとする小さな空間に亀裂を与える瞬間を目撃した。

東佳苗【ファッションデザイナー】ふたりには永遠の子供部屋が必要だった。
社会を遮断したまま、夢想へ出発する為の窮屈な揺り籠。
悪戯に傷付け合う背徳感は、耐えがたく純愛であった。
愛を知る前の欲望が許されない場合信仰として神聖化され、抗うことなどできないのである。

睡蓮みどり【女優・文筆家】深い自己愛なのか、それとも他者への猛烈な求愛なのか。内と外の区別が曖昧なまま、性別のない天使たちは重なり合い、奪い合っては離れていく。そこに響く笑い声は、楽しげで、意地悪く、とても悲しい響きを持っている。

ゆっきゅん【歌手】エリザベートとポールの暮らす子ども部屋という閉鎖的空間の中に、大人の決めた倫理はまるで存在しない。その危うさがこの映画を“出発”させる。加速してゆくエリザベートに「やめとけ…」と思いつつ、悲哀を感じました。

■予告編


■Information

『恐るべき子供たち4Kレストア版』

『恐るべき子供たち4Kレストア版』2021年10月2日(土)より、シアター・イメージフォーラム他にて全国縦断公開決定

ある雪の日の夕方、子供達の雪合戦が熱を帯びる中、ポールは密かに想いを寄せていた級友ダルジュロスの放った雪玉を胸に受け倒れてしまう。怪我を負ったポールは自宅で療養することになるが、そこは、姉エリザベートとの秘密の子供部屋、他者の介入を決して許さない、危険な愛と戯れの世界だった。

監督・脚本: ジャン=ピエール・メルヴィル
脚本: ジャン・コクトー/ジャン=ピエール・メルヴィル
撮影: アンリ・ドカエ
衣装デザイン: クリスチャン・ディオール
出演: ニコール・ステファーヌ/エドゥアール・デルミット

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日本語字幕: 横井和子
監修: 中条省平

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