ドキュメンタリー映画『ウクライナから平和を叫ぶ〜 Peace to You All 〜』初日舞台挨拶

ドキュメンタリー映画『ウクライナから平和を叫ぶ〜 Peace to You All 〜』初日舞台挨拶

スロバキア人写真家ユライ・ムラヴェツJr.が2015年にウクライナ入りし、ドネツク側とウクライナ側の両方の生の声を記録してきたドキュメンタリー映画『ウクライナから平和を叫ぶ〜 Peace to You All 〜』が2022年8月6日より公開中です。渋谷のユーロスペースで行われた初日舞台挨拶には、スロバキアよりオンラインでユライ・ムラヴェツ Jr.監督が登壇。俳優の南圭介が司会を務め、監督から本作撮影時のエピソードや、2022年2月のロシアの侵攻以降にウクライナを取材した現実などが語られました。

Q 日本公開初日を迎えてご挨拶をお願いします。

Aユライ・ムラヴェツ Jr.まず来ていただいてありがとうございます。信じられないくらい幸せです。

Q 本作を作った理由をお聞かせください。

Aユライ・ムラヴェツ Jr.自分たちが住んでいるスロバキアは、もともとはチェコスロバキアという国で、ソ連圏の国でした。旧ソ連圏の国々には、似たところやエキゾチックなところがあると思って大変興味を持って写真を撮っていました。僕には戦争写真家としての経験もあり、当時争いが始まった時に、歴史的な出来事を撮影に行って記録したいという情熱があったので、この映画が始まりました。

Q 映画冒頭は2013年にウクライナで起こった大衆デモ・ユーロマイダンの写真から始まります。

Aユライ・ムラヴェツ Jr.危険な場所でもあって、少し広場を離れると警察とプロテストをしている人の争いが起こっていて、連れ去られたりする可能性もありました。両親に1989年にチェコスロバキアで起きた革命について聞いていたので、革命についても思いをめぐらせました。両親から革命時は連体感があったと聞いていたんですが、ユーロマイダンでも人々の間の連体感を感じました。困ったことがある人たちを周りの人が助けていました。ユーロマイダンを撮った写真はチェコの国際的な賞も受賞したので、この映画へのモチベーションに繋がりました。当時10名ほど撃ち殺されて亡くなったんですが、このような大きな戦争になるとは思っていなかったです。

Q 監督は本作の撮影で2015年4月にドネツクに向かいました。そして、本作撮影中には、ドネツク人民共和国情報省によって入国禁止ジャーナリストとして登録され、入国できなくなってしまいました。

Aユライ・ムラヴェツ Jr.2015年当時はたくさんのメディアが向かっていたけれど、スロバキアからは僕が最初でした。当時分離共和国側に行けてよかったです。
入国できなくなったことについても、どちらかというと幸運だったんじゃないかと思います。そもそも還してもらえただけでも幸運です。もっと悪い結果になってもおかしくなかったです。

Q その後ウクライナ側の人々の取材を開始されましたが、どのようなこだわりを持って被写体を選んだのでしょう。

Aユライ・ムラヴェツ Jr.出てきた人たちは偶然に出会った人たちです。一人だけ、最初の方に出てきた、残念ながら亡くなってしまった若者たちの携帯の管理をした女性については、探しました。彼女については本で知ったので、その作家さんの助けを借りました。当時の様子を再現するために、ご本人の顔は見せずに電話だけで撮影をしました。

Q 監督は今年2月から5月までウクライナに続編の取材に行ったそうですね。

Aユライ・ムラヴェツ Jr.本作で映っている場所の多くは既になくなってしまっています。ドンバスはタイムカプセルのような50年前の旧ソ連時代のような印象を受けるんですが、現在大変な戦いが行われているので、劇中ピアノを弾いている女の子やスクーターに乗っているおばさんがいたところは完全に崩壊してなくなっています。また、マウリポリは跡形もない状況です。銃撃戦が行われているので、大きく環境が変わってしまいました。

Q 本作の日本の公開では、監督が2014年と今年にウクライナにて撮影した写真を使用した2種類のチャリティTシャツを販売し、売上金の一部はウクライナ大使館に寄付されますね。

Aユライ・ムラヴェツ Jr.僕はウクライナとコンタクトがあるので、戦争が始まってからたくさんの人がウクライナに寄付をしたいと連絡してくれました。長年働いていたので、ウクライナのどういう人にお金を預ければ有効に使ってもらえるかもわかりました。微力なりともウクライナに寄付金を送れることは大変嬉しいことです。

Q 映画パンフレットは、本作製作時のモノクロ写真だけでなく、今年撮影したカラーの写真も掲載されています。本作の劇中で使用しているモノクロ写真とカラー写真とはどう使い分けているのでしょう。

Aユライ・ムラヴェツ Jr.白黒写真を世界で一番美しいアート形態だと思っているので、そういう形で撮ったものが多いです。現代の戦争を撮る時はデジタルでカラーで撮っています。というのも、モノクロ写真の撮影には作業時間を要するので、戦場で撮る時はデジタルになります。

Q では最後に一言メッセージをお願いします。

Aユライ・ムラヴェツ Jr.現在ウクライナでは大変フェアではない不正義なことが起こっていますが、まずはどのようなことが起きているのか知っていただくこと、学ぶことが大事だと思います。


■Information

『ウクライナから平和を叫ぶ〜 Peace to You All 〜』

ドキュメンタリー映画『ウクライナから平和を叫ぶ〜 Peace to You All 〜』渋谷ユーロスペースにて公開中

8月26日(金)にシネリーブル梅田(大阪)、名演小劇場(名古屋)、9月2日(金)にフォーラム仙台、アップリンク京都、八丁座(広島)、9月3日(土)にキネマ旬報シアター(柏)、9月9日(金)にシネ・リーブル神戸(兵庫)、シネマテークたかさき(群馬)、シネマクレール(岡山)、9月10日(土)にあつぎのえいがかんkiki、9月16日(金)に静岡シネギャラリー、9月24日(土)にシネマディクト(青森)、9月30日(金)に福山駅前シネマモード、近日上田映劇(長野)、シネ・ピピア(宝塚)にて上映決定

ドキュメンタリー『ウクライナから平和を叫ぶ〜 Peace to You All 〜』では、2010年より旧ソ連の国々を取材してきたスロバキア人写真家ユライ・ムラヴェツJr.が2015年にウクライナ入りし、ドネツク側とウクライナ側の両方の生の声を記録。ドネツク側では、戦場に参加した鉱夫と参加しなかった鉱夫、ウクライナ兵にスパイと間違えられ拘束された人、「プーチンに助けてほしい」と言う女性、ウクライナ側では、大佐、手榴弾で手足を失った退役軍人、老女、子供、ホームレスなど幅広い人の証言を網羅。当時の記憶を辿ることで、ウクライナで起こっている紛争の本質が見えてくる、今見るべき貴重なドキュメンタリー。

監督・脚本・撮影: ユライ・ムラヴェツ Jr.
配給: NEGA
配給協力: ポニーキャニオン
監修: 岡部芳彦

公式サイト: https://peacetoyouall.com
公式ツイッターアカウント: @MIRVAM_JP2022

© All4films, s.r.o, Punkchart films, s.r.o., RTVS Rozhlas a televízia Slovenska


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