Vol.1013 映画監督 ダニエル・アービッド(映画『シンプルな情熱』について)

映画『シンプルな情熱』

OKWAVE Stars Vol.1013は映画『シンプルな情熱』(2021年7月2日公開)ダニエル・アービッド監督へのインタビューをお送りします。

Q アニー・エルノーの同名のベストセラー小説を映画化しようと思った理由をお聞かせください。

A映画『シンプルな情熱』ダニエル・アービッドこの原作が描かれたのは91年です。アニー・エルノーが自分の実体験を勇気を持って書いているんです。普通の恋愛ではなく妻のいる男性が相手ですから、その時の気持ちを詳細に書くのは本当に勇気がいることだと思います。それを赤裸々に書いているのだから彼女の強さを感じました。それと同時にまるで医者が観察するようにすごく精緻に書かれている印象も受けました。それは彼女自身のため、というよりも、ちゃんと読者のために書かれているんです。そんな勇気と医者が観察しているような乾いたスタイルに惹かれました。私自身、随分前からラブストーリーを撮っていませんでしたから、ラブストーリーを語りたかったんです。また、セックスと愛は離して考えることができないと思っているので、そんな作品がないか探していた時期でもあるんです。他の作品では情事よりも心情の方が大きく扱われていたり、不倫に苦しんでいる心情に焦点が当てられていたり、サディスティックな関係性だったり(笑)。私が思っていることを表している作品は他にはなくて、この「シンプルな情熱」はまさに私にぴったりな原作でした。

Q 不倫関係や性描写を描きながら個人的には自然に鑑賞できましたが、とはいえ映像作品として描き出すのは難しかっただろうなと感じています。映画化する上でどんなことを心がけましたか。

Aダニエル・アービッド映画化に動き出して一番大変だったのは資金調達ですね。中には「女が男を待つだけか」と言う人もいましたから(笑)。それと、こういう小説を映像化するのは難しいです。情事のシーンのいくつかは私が加えた部分でもあるんです。ただ、私が描きたかったのは、恋愛に対して情熱を持って飛び込んでいるのかどうか、ということで、その関係が不倫かどうかは重要ではないんです。過去の愛や後悔をしながら生きているのではない、いまを生きている人に届いてほしいと思いました。

Q エレーヌ役のレティシア・ドッシュ、アレクサンドル役のセルゲイ・ポルーニン両名とも非常に素晴らしかったですが、どんなことを期待しましたか。

A映画『シンプルな情熱』ダニエル・アービッドまずキャスティングが難しかったですし、時間もかかりました。存命の作家の実体験の話ですから、ある程度は本人に似せなければなりません。これが過去の偉人なら割とどうにでもできるんです(笑)。それと資金調達の上でも、全く無名の俳優を起用することはできませんでした。セックスシーンを削るつもりもありませんでしたから、それでも受けてくれて、かつ、知名度の高い女優を選ぶ必要がありました。ただ、幸いにも3名から受けてもいいという返事をいただけていました。そこからクランクインできるまでに時間が空いて、候補者のスケジュールも変わってしまう中で、レティシアは残ってくれました。彼女は映画だけでなく、舞台にも立ち、演出もすれば、ダンスもできる、そんな知的でアーティスティックであることにも惹かれました。やはりこの作品が持っているディティールを表現できないといけないので、彼女の懐の深さはまさにぴったりでした。
外見に関してはアニー・エルノーに似ているところも大事でした。レティシアはこの映画でブロンド姿を見せていますが、これまでの彼女は赤毛でしたしセックスシーンを演じるようなイメージではなかったんです。彼女はこの映画でブロンド姿を気に入って、いまでもブロンドのままなんです。
一方のセルゲイですが、ロシア人の俳優を探していた当初は全く見つからなかったんです。というのが、ロシアの女優は裸になることを厭わないのですがロシアの男性は保守的で全く受け入れないんです。諦めてポーランドかドイツの俳優にしようと有名俳優をリストアップしましたが、キャスティングディレクターが「ロシア人男性じゃなきゃダメ」と頑なに言うんです。
そんなときにイギリスの雑誌の表紙を飾っていたセルゲイの写真をファイルに挟んでいたのを見つけました。当時のセルゲイはダンサーのスーパースターで俳優ではないのでオファーをしようという発想はありませんでした。でもアレクサンドルはこういう人なんだと思っていたので「セルゲイはどうなの」と聞いたら、「彼は神のような人だからダメ」と取り合ってくれなかったんです(笑)。でも、あるとき、パリにいると聞いて「とにかく会いに行って」と頼んで、会いに行った3時間後には引き受けてくれることになりました。すぐにレティシアを交えて、セルゲイと3人でディナーをしましたが、並んでいるふたりを見て完璧だと思いました。今までの苦労が一夜にして解決したんです。
アレクサンドルを演じてもらう上では、まさに神でいてくれていいとセルゲイに言いました。女性が会っただけで卒倒するような、そんな存在であればよかったので、セルゲイならまさに完璧でした。

Q ダニエル・アービッド監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!

Aダニエル・アービッドこの映画を観て自分も恋をしたいと思ったらぜひ恋をしていただきたいです。皆さんが恋に落ちることを願っています。

Qダニエル・アービッド監督からOKWAVEユーザーに質問!

ダニエル・アービッドあなたにとって、いま、あるいはこれまでに“シンプルな情熱”を注ぐ対象は何でしたか。

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■Information

『シンプルな情熱』

映画『シンプルな情熱』2021年7月2日(金)Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー

去年の九月以降、私は、ある男性を待つこと以外、何ひとつしなくなった。
パリの大学で文学を教えるエレーヌはあるパーティでロシア大使館に勤めるアレクサンドルと出会い、そのミステリアスな魅力に強く惹かれたちまち恋におちる。自宅やホテルで逢瀬を重ねる度に、彼との抱擁がもたらす陶酔にのめり込んでいく。今まで通り大学での授業をこなし、読書も続け、友達と映画館へも出かけたが、心はすべてアレクサンドルに占められていた。年下で気まぐれ、妻帯者でもあるアレクサンドルからの電話をひたすら待ちわびる日々の中、エレーヌが最も恐れていたことが起きてしまう。

原作: アニー・エルノー「シンプルな情熱」(ハヤカワ文庫/堀茂樹訳)
監督: ダニエル・アービッド
出演:レティシア・ドッシュ(『若い女』)、セルゲイ・ポルーニン(『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』)、ルー=テモー・シオン、キャロリーヌ・デュセイ、グレゴワール・コラン

配給・宣伝: セテラ・インターナショナル/
宣伝協力: テレザ

http://www.cetera.co.jp/passion/

R18+

©2019 L.FP. Les Films Pelléas – Auvergne – Rhône-Alpes Cinéma – Versus production
©Julien Roche
©Magali Bragard


■Profile

ダニエル・アービッド(Danielle Arbid)

映画監督 ダニエル・アービッド(映画『シンプルな情熱』)1970年4月26日、レバノン、ベイルート生まれ。
87年レバノン内戦の頃、17歳でパリへ。文学やジャーナリズムを学び、97年から映画製作をはじめる。異なった物語形式に興味を持ち、フィクション、一人称ドキュメンタリーやヴィデオエッセイなどの表現を行き来する。これまでの作品はフランスや世界の30以上の映画祭に選出され、16以上の賞を受賞。2001年、レバノン内戦を描いたドキュメンタリー映画 “Seule avec la guerre”を製作。高い評価を受け、ロカルノ国際映画祭銀豹ヴィデオ賞、フランスの栄誉あるジャーナリズムの賞であるアルベール・ロンドル賞を獲得。
04年、初の長編劇映画『戦場の中で』は、戦争で荒廃したベイルートに暮らす少女を描き、カンヌ国際映画祭監督週間に選出された。07年メルヴィル・プポー主演『ファインダーの中の欲望』で再びカンヌ国際映画祭監督週間に選出。16年、パリに暮らすレバノン人の女子学生を描いた『わたしはパリジェンヌ』はトロント国際映画祭に出品され、フランスの外国プレスが選ぶリュミエールアカデミー賞を受賞した。長編劇映画4作目となる『シンプルな情熱』(20)は、カンヌ国際映画祭のカンヌ・レーベルに選ばれ、サン・セバスティアン映画祭コンペティション部門に出品された。

<プロフィール写真コピーライト>
Danielle Arbid(C)Lili Renee


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