OKWAVE Stars Vol.1016は映画『復讐者たち』(2021年7月23日公開)を手掛けた兄弟監督のドロン・パズさんとヨアヴ・パズさんへのインタビューをお送りします。
Q この映画を企画したきっかけをお聞かせください。
Aドロン・パズイスラエルの一般市民は皆、祖父母からホロコーストの話を聞いて育っています。けれども、ある時、僕の親しい友人の祖父が、第二次大戦後にナチスへの密告者を殺した人がいる、という話をしてくれたんです。その話をもっと追求しようとリサーチしていって、この復讐の物語にたどり着きました。ホロコーストからのサバイバルでもヒーローが出てくる話でもない、典型的な話ではなかったんです。そして、さらに恐ろしい「プランA」と呼ばれる大規模な復讐計画があった。もはやパーソナルな復讐劇ではなく国家レベルの話だったんです。そのテーマに興味を惹かれて、「プランA」に関わった人たちに話を聞きながら映画の企画を進めていきました。
ヨアヴ・パズユダヤ旅団やナカムといったナチスへの復讐組織のことはイスラエルの僕らの周りの友人も知らなかったことなんです。ホロコーストにまつわることは知っているつもりでも、これらの集団のことや「プランA」のことは例外的に知られていなかったんです。
Q 史実を元にサスペンス作品に仕立てていったねらいをお聞かせください。
Aドロン・パズこの映画はドキュメンタリーではなく、歴史を題材にしたスリラーです。主人公は当初ユダヤ旅団という組織に入り、そこからより過激なナカムへの潜入とグループを移行していき、そして「プランA」の全貌にたどり着きます。実在の人物はナカムのボス、アッバ・コヴナーだけで、主人公のマックスを含め、他の人物はフィクションです。こういった作品にしていくことで、より多くの人にこの歴史が伝わると考えました。
Q ナチスへの復讐を題材にしたクエンティン・タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』(09)にも出演したアウグスト・ディールをマックス役に起用したねらいはいかがでしょう。
Aヨアヴ・パズアウグスト・ディールはユダヤ人ではありませんが、そこは問題ではなかったです。イスラエルで暮らしている我々もみんな見た目は違っていますからね。アウグスト・ディールはいい俳優なので起用しました。
Q 演出で意識したことはいかがでしょう。
Aドロン・パズキャストに恵まれていましたし、みんなこの作品の世界に入り込んでくれました。史実を知った上で臨んでほしかったので事前に資料を渡していましたが皆、よく読み込んでくれていました。とくにアウグストには膨大な資料を渡していたのですが、1ヶ月後には全部読み込んでいて、僕らよりも知識を蓄えていました。アンナ役のシルヴィア・フークスもですね。イスラエル人の俳優の中には祖父が実際に活動に参加していた経験があった人もいて、この作品世界を理解するのは多少容易かったとは思います。
ヨアヴ・パズこの映画のテーマとしては歴史を描いているものの、全体としては「復讐」というものがどういうものであるのかを描いたものです。いまでも世界中で心痛む事件が起きていますので、誰もが共感できるテーマだと思います。もしも自分の身内が傷つけられたら、どのような感情が呼び起こされるのか。きっとその相手を傷つけたいという原初的な衝動に一度は襲われると思います。ではどのように復讐を行うのか、それによる代償は何なのか。それらを考える必要があります。我々から俳優たちに状況を説明する時には、この原初的な感覚や衝動をどのように理解するのかを考えてもらいました。
Q おふたりの役割分担はどのようにされているのでしょう。
Aドロン・パズ役割分担は無いですよ。僕らはコーエン兄弟とは状況が違いますし(笑)。脚本も製作も一緒にやっています。ただ、映画製作は何年も前から様々な準備を常にしなければならないし、長いプロセスを経て作られるものです。だからふたりいると、とくに撮影の前段階はやりやすいですね。それと、現場では俳優と話すときは僕らはどちらか一人だけと決めています。もうひとりはその間にクルーと話すようにしています。双頭のモンスターのような感じで僕らはうまくいっていると思います(笑)。
Q OKWAVEユーザーにメッセージ!
Aヨアヴ・パズ観客の皆さんにはこの映画を体験していただいて、彼らの立場になったらどのような行動を起こすのか考えていただきたいです。どちら側につくのか。マックスのように復讐という立場を取るのか、それともミハイルのようにそれを防ぐ立場なのかをです。
ドロン・パズ付け加えると、本作はユダヤ人の視点からホロコーストを描いていますが、世界中の方から見ても共感できるところはあると思います。やはり、自分の家族にひどいことが起きて、その日、翌日どんな感情になるのか。本能的に動くのか建設的に行動するのか、ぜひ考えてほしいです。
Qドロン・パズ監督とヨアヴ・パズ監督からOKWAVEユーザーに質問!
ドロン・パズ僕自身は、復讐することよりも、僕らが安全に暮らせる国を作ることが大切だと、この史実から学びましたが、もしも皆さんが家族や親しい人にひどいことが起きて、さらに復讐する機会を知ったのなら、どうするのか思いを馳せてください。
ヨアヴ・パズ私からも、この映画のことを知って、皆さんの心がどう動いたのかを知りたいです。
■Information
『復讐者たち』
2021年7月23日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネクイントほか全国公開
1945年、敗戦直後のドイツ。ホロコーストを生き延びたユダヤ人男性のマックスが難民キャンプに流れ着き、強制収容所で離ればなれになった妻子がナチスに殺された事実を知る。絶望のどん底に突き落とされたマックスは復讐心を煮えたぎらせ、ナチスの残党を密かに処刑しているユダヤ旅団の兵士ミハイルと行動を共にすることに。そんなマックスの前に現れた別のユダヤ人組織ナカムは、ユダヤ旅団よりもはるかに過激な報復活動を行っていた。ナカムを危険視する恩人のミハイルに協力する形でナカムの隠れ家に潜入したマックスは、彼らが準備を進める“プランA”という復讐計画の全容を突き止める。それはドイツの民間人600万人を標的にした恐るべき大量虐殺計画だった……。
監督・脚本:ドロン・パズ、ヨアヴ・パズ
出演: アウグスト・ディール、シルヴィア・フークス、マイケル・アローニ、イーシャイ・ゴーラン
配給:アルバトロス・フィルム
© 2020 Getaway Pictures GmbH & Jooyaa Film GmbH, UCM United Channels Movies, Phiphen Pictures, cine plus, Bayerischer Rundfunk, Sky, ARTE
■Profile
ドロン・パズ&ヨアヴ・パズ
イスラエル出身。
TVシリーズの監督を経て、POVスリラー『エルサレム』(16)で長編映画初監督を務める。続く『ザ・ゴーレム』(19)ではユダヤ教の伝承に登場する泥人形「ゴーレム」を題材にしたホラー作品を作り上げた。