Vol.1019 映画監督 渡邉高章(映画『土手と夫婦と幽霊』について)

映画監督 渡邉高章(映画『土手と夫婦と幽霊』)

OKWAVE Stars Vol.1019は映画『土手と夫婦と幽霊』(2021年8月6日公開)渡邉高章監督へのインタビューをお送りします。

Q 本作を企画した経緯をお聞かせください。

A映画『土手と夫婦と幽霊』渡邉高章僕は自分の映画を作る時には、今いる環境や風景のような身近なものをきっかけにすることが多いんです。子どもが生まれた時に子どもの映画を作ったり、保育園に入れるのが大変だったので保活の映画を作ったり。そういう作り方をしてきましたので、今回は自分が結婚して少し時間が経つにつれて、夫婦とは何だろうなという気持ちが芽生えたことがきっかけになったと思います。夫婦に限らず、人間関係は強い結びつきであっても段々と新鮮さは薄れていきますよね。僕の中のイメージでは、再会することやもう一度やり直せる、というテーマが念頭にありました。

Q 小説家が書いた作品の世界を小説家自身がたどる、という作品の構造についてはいかがでしょうか。

A渡邉高章脚本だけだと役者さんに内容は伝わっても世界観が伝わらないのではと思いました。それで自分で実際に“原作小説”を書きました。小道具にも使えると思って、小説を文庫本化して役者さんたちに渡しました。それで雰囲気を分かってもらった上で、撮影台本を渡すという、自分にとっては初めての試みでした。の小説を書いた分、本作を製作するために費やした日数は大変長いものになりました(笑)。

Q 演出する上で心がけたことは。

A渡邉高章自分の演出方法は役者さんのまだ見ぬ面を引き出すというよりは、その人が準備してきたものを出してもらって、みんなで作品の世界を作り上げる撮り方です。台本を読んでもらって、撮影に入る前に不明瞭なところをあらかじめ払拭してもらってから現場に入るので、現場で僕があれこれ言うことはあまりないです。

Q モノクロの映像も雰囲気が出ていていいですね。

A映画『土手と夫婦と幽霊』渡邉高章実はカラーで撮っていたのですが、自分が意図していたものよりもお洒落な映像に着地してしまいました。文学的でクラシカルな作品に仕上げたかったので、モノクロにしました。役者の衣装はもともとモノトーンでしたが、ロケーションとして出てくる河原や土手は草花などの自然の色が意外に鮮やか過ぎて作品の印象が変わってしまう恐れがありました。結果的にモノトーンにしてよかったと思います。

Q ご近所で撮影しつつも、川の近くというのは死生観や原風景のようなものが連想されますね。

A渡邉高章タイトルの「幽霊」にもかかってきますが、僕自身の死生観として、“死”というものは身近にあると感じています。それこそ自宅の近くの多摩川にも感じますので、ロケーションとしてそのまま使いました。また、自分の作品には河原や土手がよく出てきますが、結果的には境界線のメタファーとして捉えているのかなとイメージしています。
そういう意味では、もし自分が別の場所に住んでいたら、例えばもっと都心だったら題材は同じでもまったく違う作品になっていたと思います。
助監督をやっていた時代にシナリオをよく読めと教わりました。登場人物がどこに住んでいるのか、その生活感を理解した上で、嘘がない距離感で描かなければならないと。今こうして自主映画を撮っていると、自分の生活圏なら効率もいいですが、それだけでなく嘘がない作品になるからと感じています。

Q シリアスなストーリーの中で“不味い食事”のシーンは笑えるシーンにもなっています。

A渡邉高章映画を作る上で必ず食事シーンを入れたくなるんです。役者さんにとっては演じるのは難しいシーンですが、生活していることが見えるので面白いと思っています。もちろんそれだけではなく、題材の一つの要素として“不味い食事”の理由は後半に明かされることになります。

Q 音楽も素晴らしいですね。

A渡邉高章音楽は押谷沙樹さんです。僕の映画ではよくお願いしていて、今回は映像を仮編集した段階で押谷さんに見てもらいました。セルゲイ・ラフマニノフの曲がイメージにあったので、予め場面を指定しクラシックなメインテーマから効果音まで、あらゆる音楽を作っていただきました。

Q 海外の映画祭でも受賞されました。

A渡邉高章映画祭で知り合った他のインディーズ映画の監督たちと意見交換する中で、最近になって全体的に海外の映画祭を意識するようになってきたと感じています。僕はこの映画を撮った時点では、そこまで海外を意識していたわけではありません。それでもいくつか出品した中で、言葉が通じない国の映画祭であっても良い評価をいただけたことで今があるので、出して良かったなと思います。

Q 本作を撮ったことでの発見はありましたか。

A渡邉高章この作品は自主映画ですが海外などで賞をいただいたこともあって、アップリンク吉祥寺などの劇場公開につながったので、自分の中ではとても感動しているんです。僕は20代の頃にドラマや映画の制作の現場にいましたが、その頃は自主映画が映画館で上映されるとは想像していませんでした。今は商業作品の現場を離れて、パラレルキャリアとして映像制作をしていますが、それがこうして劇場で上映され、本当にありがたいことだと感じています。この映画に関しては土日と有給を使って撮っているんです。

Q そうだったのですね!そんな撮影期間で印象的だったことはありますか。

A映画『土手と夫婦と幽霊』渡邉高章カイマミさんの撮影がアップした時に大泣きされてハグされたことですね(笑)。カイマミさんの気持ちにとても感動しました。
撮影中は主演の星能豊さんとカイマミさんと僕の3人で僕の自宅で合宿ロケをしていたんです。カイマミさんからは後日、実は食事のシーンがうまくいかなくて夜中に土手を泣きながら歩いたと聞かされたのですが、そんな経験もあったのでアップ時にこみ上げるものがあったんだと思います。

Q 渡邉高章監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!

A渡邉高章まずタイトルを見て何かリンクすることがあればぜひ観ていただきたいです。夫婦のこと、土手、幽霊、さらには生きることや人と人のつながり、はたまたインディーズ映画や自主映画といった観点から観ていただくのもありだと思います。コロナ禍で難しい時期ですが、劇場にとってもご来場いただくことが一番だと思いますので、対策をしつつお越しいただけると嬉しいです。

Q渡邉高章監督からOKWAVEユーザーに質問!

渡邉高章『土手と夫婦と幽霊』というタイトルにもあるように、この映画では幽霊が題材の一つです。皆さんは“あの世”をどのようなイメージで捉えていますか。

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■Information

『土手と夫婦と幽霊』

映画『土手と夫婦と幽霊』2021年8月6日(金)よりアップリンク吉祥寺ほかにてロードショー

小説家の「私」は、葬式の帰りに「高橋」に誘われて、土手沿いに住む「女」の元に行く。「私」は目覚めると、帰る場所もわからず、「女」の家に居座ることになる。思い出せない記憶、不味い食事、ぬるい風呂……輝きを失ったこの世界にはルールがあった。

星能豊 カイマミ
佐藤勇真 小林美萌

監督・脚本・撮影・録音・編集: 渡邉高章
配給宣伝: アルミード

公式サイト: https://www.dotefufu.com/
Twitter: @dotefufu
Facebook: @dotefufu

(c)2021 zampanotheater

舞台挨拶情報

8月6日(金)〜10日(火)まで、アップリンク吉祥寺での上映にて、渡邉高章監督、星能豊さん、カイマミさんが登壇。
横浜シネマリンでの上映では、 8月7日(土)、10日(火)に渡邉高章監督、星能豊さん、カイマミさん、8日(日)、9日(月)、11日(水)に渡邉高章監督、星能豊さんが登壇します。


■Profile

渡邉高章

映画監督 渡邉高章(映画『土手と夫婦と幽霊』)東京生まれ湘南育ち。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒。映画やドラマの演出部と制作部を経て、現在は「ザンパノシアター」にて映像制作を行っている。
現在多摩川沿いに住み、『土手と夫婦と幽霊』や『川を見に来た』、『多摩川サンセット』など「川」や「土手」をモチーフにした作品が多い一方で、『Elephantsong -A Tokyo Couple Story-』のような社会問題を扱った作品もある。
二児の父であり、フィクション作品と並行して、自身の子どもたちと一緒に「子ども映画シリーズ」も制作している。その始まりとなる『サヨナラ、いっさい』は、全国四十箇所以上で上映され、映画祭では最高賞を含む複数の受賞を果たした。
2020年12月に開催された「第25回ながおか映画祭 想像の映画館(オンライン)」では、俳優・星能豊とともに特集上映が組まれた。

https://takaaki-watanabe.weebly.com/


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