Vol.1022 渡辺えり、高畑淳子(『喜劇 老後の資金がありません』について)

『喜劇 老後の資金がありません』

OKWAVE Stars Vol.1022は『喜劇 老後の資金がありません』製作発表記者会見の模様と、渡辺えりさんと高畑淳子さんへのツーショットインタビューをお送りします。

■製作発表

登壇(敬称略):マギー(脚色・演出)、渡辺えり、高畑淳子

※渡辺えりさん、高畑淳子さんのツーショットインタビューと公演情報はこちら

Q 本作への抱負をお願いします。

Aマギー今日、緊張しながら会見の会場に入ったら、ちょうど渡辺えりさんと高畑淳子さんがご挨拶されているタイミングで、おふたりがハイテンションで挨拶されている姿を見て、大きなお花が咲いているようで、すっかり緊張もなくなりました。この舞台はこういうことだとワクワクしています。この作品は原作がとても面白いです。「老後の資金がない」という誰もが抱える問題を、具体的な数字や身につまされるセリフで描いています。これを舞台化する上で「老後の資金がありません」を内向きに言うのかそれとも歌い上げるように言うのかでまったく変わってきます。この舞台ではお客様に明るく捉えていただければと思っています。歌や踊り、笑いでこの生活感溢れる作品をエンターテインメントにしていきたいと考えています。何より僕自身が楽しんでいきたいと思います。

渡辺えり私、本当に老後の資金がないんです(笑)。そんな中でこのお芝居をやるのは興味深いですし楽しみです。老後の資金はないけれど、必要なものはもっとあるなと、この1年考えてきました。それは友情や愛情のような目に見えないものなんだとつくづく考えさせられました。資金が足りないだけではない、その何かを、マギーさんが原作から面白く脚色されています。長年寄り添った夫婦に資金がないと分かったときにちょっと亀裂が走る、信頼に疑いが生じてしまいますが、それを乗り越えていく話だと捉えています。友情ということでは、高畑さんと共演したいと昔から思っていたけれど機会がなかなかなかったんです。それこそ30年前に『女たちの十二夜』という作品で酔っ払いの男役を演じているのを観てすごい役者さんだと、いつかご一緒したいと思ってそこから30年です。そんなこの舞台を夢のように明るく演じたいと思います。老後の資金がないのですから、暗く演じても仕方ないですよね。こういう時代だからこそ、楽しい芝居を目指してみんなで力を合わせて頑張っていきたいと思います。

高畑淳子おふたりが全部話してくれたので、私から申し上げることは何もなく、稽古場でもこうしてのほほんとしていられるんじゃないかなと、ちょっとのんきに考えています。えりさんはとにかくエネルギッシュな方です。私はこう見えてか細いので、新橋演舞場では以前に中盤以降声が出なくなってしまったこともあったので、まずは最後までやりきれるように頑張りたいです。いまの時代に不足しているのは心の滋養だと思います。私自身も心が不安なんです。先日は映画館の客席に座ってスクリーンを見ただけで涙が溢れてしまって。劇場に来ただけで魂が震えたんです。そういう力が劇場にはあって、心を強くして帰ってもらえる魔法のような場所だと思っています。新橋演舞場という場所もお芝居小屋らしい劇場なので、お客様の何かを満たして帰っていただける作品になればと思います。

Q 渡辺えりさん、高畑淳子さんお互いの印象についてお聞かせください。

A渡辺えり、高畑淳子『喜劇 老後の資金がありません』渡辺えり高畑さんは演じる役の印象が全部違うんです。セリフを言わないときの表情が面白い。舞台的に役として感じることができる稀有な役者さんの中のひとりだと思っています。

高畑淳子25年くらい前にある劇場でお芝居を観ていて、ひとりうまく演じられていない役者さんがいたんです。終演後に楽屋に挨拶に行ったら、えりさんがすごい勢いで楽屋にやってきてその方を捕まえて「あんた、あの役分かっているの」と詰め寄っていて、この人すごいなと(笑)。その光景が焼き付いているので、そんな方とお芝居をするのかという印象ですね(笑)。

渡辺えり若い頃は、自分も演出をやっていますし、友人同士だから高め合わないとならないと思っていたんですよね。でも今はそんなことはできないです(笑)。

高畑淳子でも、モノを作るということは刺激し合ってのことで、自分で気づかないことを教えあってこそだと思います。年齢的にも段々とそういうところから遠ざかっていきますし、誰も言ってくれなくて裸の王様のようになってしまうこともありえます。そういう意味でも、今回、久々にお芝居を作ることができそうだと楽しみにしているんです。

Q 面白い原作に、歌あり、踊りありということで、この舞台への第一印象をお聞かせください。

A渡辺えり歌があることで時間を飛べるんです。小説をそのまま脚色するとかなり長くなってしまいます。それを歌と踊りにすることで、その時間だけでなく、気持ちを切り替えることもできます。リアルに考えたら夜も眠れないようなことが起きているので、それを歌うことで、その悩みから解決したような気持ちで次の悩みを迎えられるのが舞台での歌のいいところだと思います。踊りについては、実際の生活では踊りたくても踊れませんよね。本当は殴りたいくらいに怒っているシーンを踊りで発散することでシュールにも見えると思います。気持ちの表現を端的にできるので歌と踊りはいいなと思いますし、演じるのも好きです。

高畑淳子私は言われるとおりにのほほんと演じようと思っていたので、今の話を聞いてえりさんはやはり演出家なんだと感動してしまいました。そもそも私は歌が苦手なんです。ドレミファ♪と歌い出すとソ♪の辺りでファルセットになってしまうのですが、えりさんは声も太くてとてもお上手です。私は声もか細いので「歌は一生やらない方がいい」と言われるくらいなんです。

マギーそれは楽しみです(笑)。この作品はまさにえりさんが仰られたように、心の中の独り言をモノローグで語ってしまうと暗くなりそうなところを、歌と踊りで表現することで、時にはバカバカしく見えるくらいであればいいなと思って脚色しています。えりさんがここまで分かっていらっしゃるので、僕としては「どうぞお任せします」という気持ちです。淳子さんの歌も楽しみですし、ソより上の音もきっと出てきます(笑)。

Q それぞれの役作りについてお聞かせください。とくに渡辺えりさんは“普通の主婦”とのことですが。

A渡辺えり“普通”ということも、何をもって普通なのかというところが難しいですよね。いまの世の中、普通の人が何をしでかすか分かりません。その中でも普通の主婦という設定です。私が演じる篤子さんは派遣社員として働いていて、夫も会社務めです。娘が結婚すると言い出して、急に出ていくお金が多くなるという、主婦だったら経験することが描かれます。とはいえ、その結婚式に600万円もかけることに私自身も驚きましたし、こんなにお金をかけたくないと節約しようとしているのに夫が見栄っ張りでそのまま進めようとするので篤子さんは我慢します。そんな風に自分の気持ちを言わずに夫や子どものために尽くしている主婦が大勢いるのだと思います。そういう男社会を何とかしたいと私自身は思ってきましたが、女性が自分の思うように発言をしたり行動できるようになるのは本当に難しいのだと再確認させられました。篤子さんは派遣が打ち切られて次の仕事が見つからなかったり、娘は自分たちで頑張ろうとするので、篤子さんはどんどん孤立していってしまうんです。私自身、新聞で人生相談の連載を持っていて、多くの主婦の方の相談に乗ってきましたので、そんな主婦の気持ちを演じられたらと思います。割と周りには癖の多い人物が多い作品ではあるのですが、現代を風刺するような、いまの日本が抱えている問題を笑いながら表現している作品になっています。

高畑淳子私も原作を読んだときに娘の結婚式に余裕もないのになんで600万円も出すのだろうと思ってしまいました。私が演じる神田サツキは節約家で夫とパン屋をやっていますが、駅ビルに大きなパン屋のチェーン店が出店する、といった時代の波に飲まれていきます。一見たくましそうな人に見えますが、実はそういう風に振舞っている人物で、そこに私は胸打たれています。

Q コロナ禍の中での本公演の意義についてお聞かせください。

Aマギーこの原作が書かれたのは2018年、僕が脚色に着手したのは2019年なのでコロナ禍の前です。ですので、この話は現代ではあるけれど、世界観としてはコロナになる前の世界として描いています。このコロナ禍の中で観に来ていただくお客様には、閉塞感漂う世の中でマスクの中でゲラゲラと笑っていただいて劇場から帰っていただけるようにと考えています。

渡辺えり大笑いして泣いていただきたいです。私も毎日孤独で、オンライン会議をしていてもマスク越しなので、意思の疎通が以前のようにできなくて落ち込むこともあります。そんなときに生のお芝居を観ると本当に救われます。この1年間、友だちが一生懸命やっている舞台を観ることが本当に穏やかな気持ちになれるときで、ここが自分の居場所なのだと感じています。家ではひとりで鬱々して、劇場でホッとしているので、皆さんも劇場で大笑いしてホッとしていただきたいです。私もこのお芝居を思いっきり演じて、お客様に笑顔になっていただいて、それを感じ取れればと思います。

高畑淳子ご高齢の方からの反響が大きいです。家にずっといるのが辛いからお芝居を観に行こうと思ったと仰られていて、心が枯れてしまわないようにと考えていらっしゃるのだと思います。コロナも含め、思いもかけないことにぶつかってしまうのが生きていることだと思います。そんな皆さんの心が強くなって帰っていただけるように、その一点に尽きると思います。えりさんがお芝居が大好きだから劇場に行くとほっこりすると仰られたのと同じ様に、私もこの世界が好きで、小説や映画、舞台が心を強くしてくれると思っています。お客様もそうなってくれると信じていますし、不要不急のものではないとも信じています。

後半:渡辺えりさん、高畑淳子さんのツーショットインタビューと公演情報はこちら