Vol.1024 映画監督 青山真也(ドキュメンタリー映画『東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート』について)

映画監督 青山真也(ドキュメンタリー映画『東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート』)

OKWAVE Stars Vol.1024はドキュメンタリー映画『東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート』(公開中)青山真也監督へのインタビューをお送りします。

※本インタビューは東京オリンピック2020開催中の7月30日に実施しました。

Q 本作を撮ろうと思ったきっかけについてお聞かせください。

Aドキュメンタリー映画『東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート』青山真也2013年にオリンピックの東京招致が決まった際に、オリンピック関連の映画をいくつか観ました。オリンピックには公式記録映画というものがあって1912年から毎回作られています。その中でも1964年の東京オリンピックのときに作られた市川崑監督の公式映画は特別な作品です。オリンピックの競技シーンも素晴らしいのですが、映画の冒頭は開会式でも聖火リレーでもなく、丸い鉄球がいきなり現れてビルを解体するところから始まります。スポーツや五輪大会の外部に視点を向けて、それを冒頭に配置するという演出には、なかなか考えさせられました。それで、2013年はまだまだオリンピックが身近に感じられるわけではなかったのですが、今から何か記録する対象はないかと探し始めました。その中で、オリンピックのために人生で2度目の立ち退きをする、という人が都営霞ヶ丘アパートにいると聞いて、現地に足を運んで、撮影を始めました。

Q 撮影開始時点では、どのような作品になるのか想像はついているものでしょうか。

Aドキュメンタリー映画『東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート』青山真也脚本のない、記録として撮影していったので、最終形というものは撮影しながら変化していくものです。しかも撮影当初は行政から告げられる移転の要項も定まっていませんでした。この映画は2014年から2017年までの霞ヶ丘アパートの様子を撮影していますが、撮影当初、住民も本当に移転しなければならないのか、詳細が分からずに混乱していました。引っ越しなんてムリだと言っているご高齢の方もいれば、東京都や国にはかなわないと移転の準備を進める人々もいました。その時点で、オリンピックを開催するためにいろんなものを犠牲にしながら突き進んでいくということが想像できたので、そんな住民の不安さや不確かさも含めて撮影していきました。霞ヶ丘アパートでの日常がオリンピックによって奪われるかもしれないということを、他人から見たらたわいのないような生活の記録であっても、それをしっかりと残したいなと。それが第一の目的でした。その目的意義は、撮影開始当初から持ち続けていました。

Q 住民の方々の撮影への反応やアプローチの仕方はいかがだったのでしょう。

Aドキュメンタリー映画『東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート』青山真也かなり多くの人を映しているのでもちろん反応もまちまちです。「また来たのか」と言う人もいれば歓迎されるケースもありました。やはりカメラで撮影しているので、ありのままの生活を映し出しているわけではありませんが、それでも可能な限り意識せずにいてもらえるように、長い時間をかけて住民の方と接してきました。とはいえ、会ってすぐに撮影を開始したケースもあります。

Q 2014年からの撮影期間に、段々とオリンピック開催が近づく中で住民の気持ちの変化のようなものはありましたか。

A青山真也オリンピック開催を突き進めることを恨んでいる人や関わりたくないと思っている人もいれば、「私たちが国策に協力したからオリンピックが開催できるんだ」と自分に言い聞かせるように前向きに捉えている人もいました。結果的に、コロナ禍によって無観客開催となりましたので「複雑な思いで開会式をテレビで観た」と仰っている方もいます。「開催するのであれば成功してほしい」と話す住民もいますが、心からオリンピックを歓迎しているようには聞こえませんでした。
住民には移転後に亡くなってしまった方が少なくないので、そんな状況の中で迎えるオリンピックなのです。

Q 監督自身のオリンピックに対する気持ちは、撮影を通じて変化はありましたか。

A青山真也質問とは少し逸れますが、この映画は私自身の五輪に対する意見が分かりやすく表明されないような作りにしています。そうした理由は、この映画が多くの出演者によって成り立っていて、その彼らは五輪によって住まいを奪われたものの、五輪に対する意見はそれぞれであり、意思統一ができないというところが大きいです。彼らの不遇を、自覚的に都合よく使わないようにしています。
その上で、矛盾するようですが、私はこの映画で五輪への考えを表明しています。

Q この映画作りを通して、新しい発見などはありましたか。

Aドキュメンタリー映画『東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート』青山真也オリンピックの開会式のあった7月23日から東京と京都で1週間の先行上映を行いました。オリンピック中継を見ずに映画館に来てくださる観客は、五輪や立ち退きなどへの問題意識を高く持った方が多いのではと想像するのですが、その観客に対しアンケートを取ったところ、2014年当時に霞ヶ丘アパートの立ち退きの問題を知っていた人の割合は2〜3割程度でした。
当時、ニュースやテレビのドキュメント映像などでも何度も取り上げられていましたが、なかなか周知されなかったのだと改めて気づかされました。コロナ禍でオリンピック中止を求める声が多く聞かれましたが、その問題意識や熱量が開催が決まった頃からあったら霞ヶ丘アパートの問題はどうなっていたのかと、たまに考えてしまいます。

Q 青山真也監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!

A青山真也オリンピック・パラリンピックの期間中、そしてその中継が見ることができるいま、ぜひこの映画を劇場にてご覧ください。

Q青山真也監督からOKWAVEユーザーに質問!

青山真也オリンピックは公式記録映画が作られます。今回もしあなたが監督だったら、どの場面を映画に入れたいですか?
五輪大会で選手が活躍するシーンも良いですし、コロナ感染者の対応をする病院のシーンがあっても、このコロナ禍でオリンピックが開かれたことが理解できて良いと思います。
あなたが構成する五輪記録映画の構想をお聞かせください。

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■Information

『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』

ドキュメンタリー映画『東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート』2021年8月13日(金)より全国順次公開中

都営霞ヶ丘アパートは1964年のオリンピック開発の一環で建てられた。
国立競技場に隣接し、住民の平均年齢65歳以上の高齢者団地であった。
単身で暮らす者が多く、住民同士で支えあいながら生活していたが、2012年7月東京都から「移転のお願い」が届く。
2020東京オリンピックの開催、そして国立競技場の建て替えにより、移転を強いられた公営住宅の2014年から2017の記録。

監督・撮影・編集: 青山真也
音楽: 大友良英
配給: アルミード

https://www.tokyo2017film.com/
https://twitter.com/TOKYO2017film
https://www.facebook.com/TOKYO2017film

© Shinya Aoyama.


■Profile

青山真也

青山真也(ドキュメンタリー映画『東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート』)日本生まれ、東京在住。
映画監督。ドキュメンタリー映像作家。
自作以外にも田中功起監督の『可傷的な歴史(ロードムービー)』(19)や小杉大介監督の『A False Weight』(19)などの撮影監督を務めるなど、美術作家による映像作品やドキュメンタリー映画に多く携わるとともに、美術展示やパフォーマンスの映像記録も多数関わる。


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