Vol.1033 映画監督 大森歩(映画『春』『リッちゃん、健ちゃんの夏。』について)

映画監督 大森歩(映画『春』『リッちゃん、健ちゃんの夏。』)

OKWAVE Stars Vol.1033は短編映画『春』および『リッちゃん、健ちゃんの夏。』(公開中)の大森歩監督へのインタビューをお送りします。

Q 『春』を撮られた経緯をお聞かせください。

A映画監督 大森歩(映画『春』)大森歩私は東京に上京してから2年半、おじいちゃんと同居していました。その後社会人になってからは別々に暮らしていたのですが、4年前におじいちゃんは老衰で亡くなりました。そこから、おじいちゃんと暮らしていた頃のことを思い返していくうちに、当時感じたことを映画にしたいと思ったのがきっかけです。

Q 映画を撮る上ではどんなところを大事にしましたか。

A大森歩セリフでしょうか。映画の中で、おじいちゃんが少しボケてきて、昔のことばかり話すようになるところは、私のおじいちゃんのエピソードも交えて考えました。人は本当のことを言わないものですが、認知症が進むにつれて、おじいちゃんは若い頃を思い出して、よく話すようになり、私自身の追体験するような話を盛り込みました。
映画の中のおじいちゃんはボケていく中で周囲に怒ったりするシーンもありますが、私のおじいちゃんはむしろ穏やかになっていったので、自分の体験と、創作を混ぜながら脚本を書きました。
ただ、この映画は認知症や介護を描きたかったわけではなく、年齢の離れた人間であっても、思春期に感じている自分へのやるせなさや社会の中でどう生きていくか考えたり戸惑ったりする気持ちが重なり合うところを描きたいとは思っていました。

Q 大学生のアミ役を演じた古川琴音さんについてはいかがでしたか。

A映画監督 大森歩(映画『春』)大森歩2年前の古川さんはデビューしたての新人でしたが、舞台をやられていたので、もうすでにオーラを放っていました。各シーンでのアミの気持ちは伝えましたが、演技指導はあまりしていません。古川さんは感受性が高くて私の取り止めのない話からも気持ちを汲んでくれたし、古川さんがアミを演じてくれて本当に良かったです。

Q 撮影はいかがだったのでしょう。

A映画監督 大森歩(映画『春』)大森歩撮影期間が3日間だったので、時間がない分、何度も撮るというよりは、そのための準備をしっかりするようにしました。役者が演じやすいようにカメラワークなどを工夫したり、1か2アングルだけのシーンが多いです。
物語の後半にいくにつれて息苦しさのようなものが出せればと思ったので、前半はカットを分けてテンポよく見せ、中盤くらいから長回しのシーンを増やして終盤に緊張感が感じられるようにしました。
おじいちゃん役の花王さんも舞台出身の華やかな身のこなし方や、演技の大きさが、認知症ゆえに変化していく祖父のわかりやすさに繋がった気がしました。

Q 映像でとくにこだわられたところは。

A大森歩戦争の話も盛り込んでいるので、「日本らしさ。」は意識しました。暮らす家の参考に、日本家屋が出てくる昔の邦画をたくさん観ました。ローアングルだったり、暗闇の中にポツンとあかりが灯る空間…日本独特ですよね。過去の面白さを意識しつつも、現代の話なので今の自分の感覚も持って絵作りしました。また、アミが追い詰められる気持ちを表現したくて、ホラーっぽさも意識したり。

Q 『春』を撮って、新しい発見などはありましたか。

A大森歩普段CMの仕事をしているので、映画は未知の領域で…新しい発見しかありませんでした。
特に人、役者さんの気持ちの作り方を意識して、撮影するように気をつけましたね。

Q 『春』と同時公開となる『リッちゃん、健ちゃんの夏。』についてお聞かせください。

A映画監督 大森歩(映画『リッちゃん、健ちゃんの夏。』)大森歩「渋谷TANPEN映画祭CLIMAXat佐世保」で、『春』がグランプリを獲ったのがきっかけで、ショートフィルムの監督を依頼されました。
佐世保と渋谷をPRする物語とのことで、主演の二人も決定しており、枠組みはほとんど決まっていました。『春』とは違い自分発信ではないので、CMを制作するような気持ちで構成していきました。
特にこだわったのはロケ地でしょうか。長崎県というと離島が思い浮かびまして、「佐世保にもそういった島がありますか?」と聞いたところ、黒島を紹介されました。「観光地ではないけれど、カトリック信者が多く面白い島ですよ」と。
現地にシナハンに行くと、日本家屋の畳の上にマリア像があったり、自分にとってはあまり見慣れない…少しドリーミーな場所だと感じました。現地で島民の方の話を聞き「この浜から海に飛び込んで遊んだよ」とか「ここでキスしたことがあるよ」とか(笑)、エピソードがワクワクする事ばかりで、昔と比べて過疎化が進む島ではありましたが、そんな地元の人たちの思いを形にしたい思いました。

Q 今後の抱負などお聞かせください。

A大森歩まだ映画にするかどうかは分かりませんが、母親に対して思うところがあるので、いつか形にしたいなと思っています。

Q 大森歩監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!

A大森歩『春』や『リッちゃん、健ちゃんの夏。』はこれまでにも映画祭で上映したことはありますが、劇場公開は初めてです。たくさんの方に観ていただきたいので、ぜひ劇場に足をお運びください。

Q大森歩監督からOKWAVEユーザーに質問!

大森歩『春』では、おじいちゃんは寝る際にびっくりするような挨拶をします。皆さんの家族の間で代々受け継がれているような挨拶や合言葉はありますか。

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■Information

『春』

映画監督 大森歩(映画『春』)2021年10月1日(金)よりアップリンク吉祥寺ほかにて全国順次公開中
(同時上映『リッちゃん、健ちゃんの夏。』)

祖父の家に居候して二人暮らしをしている、美大生のアミ。いつも満州に行ったことを自慢気に話す祖父を、「衛生兵だったんでしょ。私も戦争したよ、受験戦争」と馬鹿にするアミは、翌年に就活を控えている。
アニメオタクの同級生・橋本が我が道を行く一方、アミは、自分の描きたいものを描くのではない”広告”の課題に苦戦し、自信を喪失していく。同時に家では、どんどんボケていく祖父にイライラが募り、アミはとうとうキレてしまうが、ある日、初めて聞く祖父の話に気持ちが動き…

古川琴音
花王おさむ 加藤才紀子

監督・脚本: 大森歩
製作: AOI Pro. × 第8回きりゅう映画祭制作作品
配給: アルミード

公式サイト: http://haru-natsu-movie.jp/haru

(c)AOI Pro.


■Profile

大森歩

映画監督 大森歩(映画『春』『リッちゃん、健ちゃんの夏。』)1985年10月24日生まれ、東京出身。
愛知県の大森牧場で育ち、実家は骨董屋。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。Club_A所属、CMディレクター。ダイワハウス「かぞくの群像」、ミルボン「美容室の帰り道」、ケアリーヴ「僕は、ばんそうこう」、ラインクリスマス、マンダム・ビフェスタなど。本作『春』が映画初監督作となる。2021年公開作に【SSFF & ASIA 2020 クリエイターズ支援プロジェクト】の短編映画『卵と彩子』(出演:剛力彩芽、岡山天音)がある。


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