Vol.1037 映画監督 川添ビイラル(映画『WHOLE/ホール』について)

映画監督 川添ビイラル(映画『WHOLE/ホール』)

OKWAVE Stars Vol.1037は映画『WHOLE/ホール』(2021年10月15日公開)川添ビイラル監督へのインタビューをお送りします。

Q この映画を撮るきっかけについてお聞かせください。

A川添ビイラル僕の弟が脚本を書く1年くらい前からハーフやアイデンティティについての映画を撮りたいと言っていました。弟といろいろ話す中で、確かにそのテーマを扱っていて感動できたり共感できる映画はあまりないよねと。だったら自分たちで撮らなければという使命感が芽生えて、この映画を作り始めました。

Q 映画化に向けて進めていく中でどんなところを大事にしましたか。

A川添ビイラル弟が脚本を書いて、自分が監督を務めるということから、自分たちの話になりすぎないかということは意識しました。そのためにも自分たち以外のハーフの話を調べなければならないなと、弟が脚本を書いている間に、僕はリサーチをして、それをストーリーの中にしっかりと取り入れていこうと考えました。ですので、実体験もあれば、リサーチによって膨らませていった要素もあります。

Q 誠と春樹のキャラクターについてはどのように描こうと思いましたか。

A映画『WHOLE/ホール』川添ビイラル誠に関しては弟の実体験が軸になっています。誠のようにハーフであることを気にしていない人もたくさんいますが、その裏にある葛藤というものを描いています。
春樹に関しては、誠よりもネガティブな経験をしている人物像を作り上げていきました。僕の周りにはハーフであることへのネガティブな感情を持っている人があまりいなかったので、しっかりと描かなければならないとリサーチを重ねて、実際に経験談も聞きながら作り上げていきました。
春樹を演じたサンディー海さん自身も、誠のようにハーフであることをそこまで気にしない、明るい性格だったので、演じる上では準備が必要だったかなと思います。その分、キャラクターにしっかり入っていただけたなと思います。
誠を演じた弟のウスマンは役者ではないので、どうしても演じてしまいがちになるのを、自然な方向に持っていくのにだいぶ苦労していたように思います。とはいえ、かなり準備をして臨んでくれたので、最終的にはうまくいったかなと思います。

Q 誠の同僚たちとの会話はいかにも関西ならではのテンポ感のトークですね。

A映画『WHOLE/ホール』川添ビイラル弟も誠と同様に工事現場で働いていた経験があるので、現場や居酒屋のシーンでの同僚たちとの会話は、それを再現したような会話シーンになっています。ところどころのツッコミも関西独特だと思います。
弟は東京をベースに活動していますし、僕も仕事で東京に来ることが多いです。東京にいると普段から外国人が多いからか、ジロジロ見られることはないですが、やはり関西の方が少し目立ちます。そんなところが会話の地になっていると思います。

Q 撮影時にはどのような演出を心がけましたか。

A川添ビイラル撮影監督の武井俊幸さんがドキュメンタリーをよく撮っていて、撮影前に話し合った際にも、できるだけドキュメンタリー風に撮りたいと。それを意識しながら撮影しました。シーンを美化しすぎずに、自然なままに撮るようにしました。

Q 春樹の話し相手の仁美の描き方についてはいかがでしょう。

A映画『WHOLE/ホール』川添ビイラルハーフ以外でも、相手の外見から人柄を勝手に判断することはよくあると思います。仁美の最初の登場シーンのやりとりを見たときにこの子はちょっと抜けている子かなと観客をミスリードさせたいという意図がありました。見た目と違って実際には芯があって言いたいことがちゃんとあるということを描こうと思いました。

Q 撮影で印象に残っていることをお聞かせください。

A川添ビイラル短い期間で一気に撮ったので大変でしたが、その間にもいろいろなことがありました。なかでも印象に残っているのは、撮影初日に撮った春樹が電車に乗っている映画冒頭とラストのシーンです。とくにラストシーンを撮影初日の、しかも限られた時間の中で撮るのは、うまくいくか不安だったのでとても印象に残っています。

Q 第14回大阪アジアン映画祭ではJAPAN CUTS Awardを受賞されましたが、映画祭での反響をどう受け止めましたか。

A川添ビイラル大阪アジアン映画祭では満席の中で観ていただいて、Q&Aセッションでもいろいろな質問があったので、自分が思っていたよりも伝わったのかなと感じました。ある双子の方からは「電車に乗っているとジロジロ見られるから共感しました」と言われて、この映画はハーフ以外にもアイディンティティのテーマとして広がりがあるなと感じました。
NYの映画祭「JAPAN CUTS 2019」では、それこそいろんな人種の方々に観ていただいて、感想だけではなく自分の体験を話しに来てくれるのが、日本とは異なる反応で印象的でした。皆さんの経験を聞くいい機会になって良かったです。

Q この映画を撮って、新しい気づきはありましたか。

A映画『WHOLE/ホール』川添ビイラル自分はこの映画を作る前まではハーフであることをあまり意識してこなかった方ですが、この映画を作った直後には敏感になってしまいました。実は聞き流していただけで、ハーフであることでいろいろなことを言われることがあるのだと気づいてしまったんです。

Q 今後はどのような作品を手掛けていきたいですか。

A川添ビイラルいろんなジャンルの映画にも携わりたいですが、やはりマイノリティや社会的なメッセージのある作品を手掛けたいと思います。映画はメッセージや社会を良くできるパワーがあると思いますので、そういう作品を描き続けたいです。

Q 川添ビイラル監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!

A川添ビイラルこの『WHOLE/ホール』のような映画はあまりないので、ユニークな体験になると思います。アイデンティティの問題は、ハーフ以外にも日本人が外国に行ったときなど、環境によって感じられる共通点があると思います。マイノリティの気持ちや経験を見ることができますので、ぜひご覧になっていただきたいです。そして、この映画がマイノリティの立場になって考えるきっかけになれば嬉しいです。

Q川添ビイラル監督からOKWAVEユーザーに質問!

川添ビイラル皆さんの周りにはハーフの方やマイノリティの方はどのくらいいらっしゃいますか。

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■Information

『WHOLE/ホール』

映画『WHOLE/ホール』2021年10月15日(金)よりアップリンク吉祥寺ほかにてロードショー

ハーフの大学生・春樹は、親に相談せずに通っていた海外の大学を辞め、自分の居場所を見つける為、彼の生まれ故郷である日本に帰国する。
春樹は日本に着くやいなや周囲から違うものを見るような目に晒され、長年会っていなかった両親にも理解してもらえない。
ある日、春樹は団地に母親と二人で暮らす建設作業員のハーフの青年・誠に出会う。「ハーフ」と呼ばれることを嫌い、「ダブル」と訂正する春樹と違って、誠はうまくやっているようにも見えるが、実は国籍も知らず会ったこともない父親と向き合うことができない葛藤を抱えていた。
様々な出来事を通して彼らは「HALF/半分」から「WHOLE/全部」になる旅を始める。

サンディー海 川添ウスマン 伊吹葵
菊池明明 尾崎紅 中山佳祐 松田顕生

監督・編集: 川添ビイラル
脚本: 川添ウスマン
配給宣伝:アルミード

公式HP: https://www.whole-movie.com/
Twitter: @WHOLE_Film21
Facebook: @filmwhole
Instagram: @078firm

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■Profile

川添ビイラル(Bilal Kawazoe)

映画監督 川添ビイラル(映画『WHOLE/ホール』)大阪ビジュアルアーツ専門学校放送映画学科での卒業制作『波と共に』(16)が、なら国際映画祭NARA-waveと第38回ぴあフィルムフェスティバルに入選し、第69回カンヌ国際映画祭ショートフィルムコーナーに選出される。短編第2作目『WHOLE/ホール』(19)は、第14回大阪アジアン映画祭インディー・フォーラム部門にてJAPAN CUTS賞 スペシャル・メンションを受賞し、北米最大の日本映画祭であるニューヨークのJAPAN CUTS 2019へ正式出品される。現在はフリーランスとして河瀨直美監督や世界的に活躍する監督の元で映画制作に携わる。


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