OKWAVE Stars Vol.1051は第34回東京国際映画祭 Nippon Cinema Nowにてワールド・プレミア上映された映画『なぎさ』の古川原壮志監督へのインタビューをお送りします。
Q 本作製作の経緯についてお聞かせください。
A古川原壮志この映画の企画はだいぶ昔から温めていて、プロットを7、8年前から書き始めていました。脚本の形にまとめたもので賞をいただいたり、ワークショップを行ったりする中、改稿を重ねながらプロデューサーと撮影に向けた準備を進めていました。ようやく準備が整ったのはコロナ禍の中でしたが、この機会に撮影を行うことにしました。
Q 監督自身のこれまでのキャリアをお聞かせください。
A古川原壮志CMやMVなどの映像の仕事をしながら、短編映画を撮っていて、今回が長編では初監督となります。準備に時間がかかった分、撮影に入る時は感慨深かったです。
Q 本作ではどんなところを一番大事にしようと思いましたか。
A古川原壮志この映画のテーマは昔から自分の中にあるものでした。先に撮った短編映画もこの長編を撮るためのものです。いずれも大切な人を失って残された人の姿がテーマです。短編とこの長編ではキャラクターの立場をはじめ何もかも違いますが、グリーフプロセス(大切なものを失った悲しみを癒し、乗り越えるプロセス)が軸としてあると思います。
Q 主人公の兄・文直の現在と回想を中心として描かれていきます。
A古川原壮志この映画は文直の妹・なぎさについての回想を描いていますが、彼の主観ではなく引いた視点で撮っています。ただ、彼自身の人格が乖離してしまっていることも描こうと思って、フラッシュバックのように時系列ではない過去の描き方をしています。
アルバイト先の同僚と肝試しに行ったトンネルの中を文直が彷徨うところから過去の回想を描いていますが、時間軸についてはいろんな捉え方ができるようにしました。
Q 映像的なこだわりについてはいかがでしょう。
A古川原壮志背中のカット、斜め後ろのカットを多く取り入れています。これも文直がなぎさの身に起きていたことで彼の人格が乖離している様子と、なぎさがどんな表情をしているのかを文直は知らないので、観客と一緒に想像するという意図があってバックショットを多用しています。メインビジュアルにも使用しているなぎさの表情が映し出されるシーンは文直の主観が入り混じったものという意図です。文直から見える風景を理解するために、公開の際には何度も観ていただければ幸いです。
それとジャンルオフの映画に挑戦したいという思いもあって、ホラータッチな始まり方ですが、そこから家族や社会のドラマがあって、最後はスピリチュアルな要素が入って、ジャンルが転換していく意図も込めました。
Q 兄妹のシーンの演出についてお聞かせください。
A古川原壮志僕はリアリティに重きを置いていて、脚本通りというよりもプラスの幅があればいいなと、現場でもインプロビゼーションによる脚本のその先のセリフややり取りを加えています。そういうところからも文直となぎさの関係を表現したいと思いました。例えば、予告編に出てくる文直となぎさが風鈴を作っているシーンは脚本から使用したセリフは一言くらいで、残りはふたりが自然に発しているセリフです。
長崎は僕の故郷ですが、住んでいたのは子どもの頃までです。とはいえ、初めての長編は長崎で撮りたいという思いがあって、東京と長崎の間にトンネルがあることで、過去と現在を繋ぐという意味でもいいなと思って長崎で撮りました。
Q 撮影の中でとくに苦心したことはいかがでしょう。
A古川原壮志なぎさ役の山崎七海さんのケアですね。撮影時は小学6年生だったんです。彼女が演じる役は性的な内容も含まれているので、それを理解して役を演じてもらうには、まず七海さんのお母さんから本人に性的な内容に関する部分を話していただきました。その上で僕からこの映画について話をしました。そういったシーンのことで傷つけたくはないと思っていましたが、僕自身は長編初監督で演出に集中していて、それと同時にケアをするということが大変だった部分ではあります。オーディションに来てくれた時は、題材的には無理かなと思いましたが、なぎさ役にはとても合っていたので、彼女と冒険をする形になって、相当攻めている作品になってしまいました(笑)。文直役の青木柚くんがとても芝居が上手で、考え方や勘所も良く、彼がいたことで七海さんにも良かったのだろうなと思います。
Q 本作を撮って新しい発見や気づきはありましたか。
A古川原壮志この映画を撮ることで自分が何をしたいのかを改めて認識しました。それと文直の話と同じで、撮影や時間をかけて編集をしている時に、自分の主観で真っ直ぐにいくところを、一歩引いて客観で見ることをたびたび感じたことが個人的にはよかったです。
Q 今後はどんな映画を撮りたいですか。
A古川原壮志映画はライフワークですし、映画といっしょに成長して、これからも自分と共に作品を変化させて作っていければという気持ちです。自分の想いを込めた作品をずっと作り続けていたいです。
■Information
第34回東京国際映画祭 Nippon Cinema Now 『なぎさ』
偶然訪れた心霊スポットのトンネルで、兄は妹の幽霊に出会う。そこは妹が事故死した現場だった。
トンネルの暗闇の中、兄は妹を探し彷徨い始める。暗闇は過去の故郷の時間へ、兄を誘う。
監督: 古川原壮志
出演: 青木柚 山崎七海 北香那
https://2021.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3405NCN05
©MMXXI Takeshi Kogahara, Mami Akari
■Profile
古川原壮志
1982年、長崎県生まれ東京育ち
カリフォルニア州 Art Center College of Designを卒業。
CMや短編映画が釜山国際映画祭、カンヌライオンズ等にて受賞。本作が長編デビュー作品となる。
https://club-a.aoi-pro.com/creators/121/
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