OKWAVE Stars Vol.1056は映画『ポプラン』(公開中)上田慎一郎監督と主演の皆川暢二さんへのインタビューをお送りします。
Q 構想10年の本作とのことですが、映画化への道筋をお聞かせください。
A上田慎一郎フリーターをしながら自主映画を作っていた10年前に「朝起きたら自分のアレがなくなっていた」というアイディアを思いつき、脚本もすぐに書いたんです。この10年間に何度か映画化したいと思うこともありましたが、自分自身、これが一本の長編映画になるという感触を掴みきれずにいました。その10年の間に結婚をして子どもが生まれたり、監督としての成功も失敗も経験して、親しくなった人もいれば疎遠になってしまった人もいる。そんな自分の経験してきた人生を重ね合わせれば映画になるんじゃないかという感触がようやく掴めてきたのと、Cinema Lab(シネマラボ)という映画の実験レーベルから好きな映画を作ってください、というお話をいただいたことで映画化に至りました。
皆川暢二上田監督は「この企画は対面してお話しした方がより伝わるんじゃないか」とものすごく丁寧に(笑)このオファーをしてくださったんです。男性のアレの話かと引っかかる人も多いと思いますが、僕はそう思わず、上田監督の中にしっかりと描きたいテーマがあったことに惹かれました。アレの呼称がポプランということなのですが、その突飛な設定にしっかり描きたい別のテーマが混ざることで、映画の完成形がどうなるのかまでは分かりませんでしたが、楽しみでした。
Q とくに大事にしたところはいかがでしょう。
A上田慎一郎あらすじだけ聞くとイロモノ的でジャンル映画のようなものですが、それとは相反する手法で作ることで、奇妙な味わいの映画にしたいという想いがありました。ある種のジャンル映画を非ジャンル映画として成立させたいなと。「ポップでクール。ベタでシュール。馬鹿で知的。下品で上品。エンタメでアート。」と言っていますが、様々な相反する要素を一つの映画の中に成立させることが自分の中での挑戦でした。
Q 主人公・田上のキャラクターはどのように作り上げていったのでしょう。
A上田慎一郎撮影前に皆川さんと何度も会って、それこそ膝を突き合わせて作っていきました。映画の中では描かれていない田上の年表を作って、皆川さんからもアイディアを出してもらって、一緒に田上の履歴書を作っていきました。田上が漫画配信の経営者という設定なので、実際の漫画配信の社長さんに二人で話を聞きに行くこともしました。
皆川暢二映画での田上のオフィスが高層階にあるのはその会社を参考にしていますが、話を聞きにその場所に行けたのが良かったなと思いました。人間は環境によって考え方は変わるものだと思います。高いフロアから地上を見下ろしている日常は、大袈裟に言うと、日本を手にしたかのような気持ちになるかもしれませんし、それを体感できたのが役作りでは大きかったです。
Q ポプランを探す旅のストーリーに加えて、田上の動きのコミカルさが面白い要素になっていると感じました。
A上田慎一郎日本では身体を張ったスラップスティック・コメディの映画は少ないのかなと思います。僕はカメラをフィックスした引きの画面の中で人物がドタバタを繰り広げているクラシックなコメディが好きなんです。動きに関しては皆川さんにお任せする部分が多かったです。
皆川暢二初めてポプランが“無い”ことに気づくトイレのシーンなど、要所要所で監督も細かく演出をされました。
上田慎一郎僕も現場で動いてみて、一緒に考えたところも結構ありますね。
皆川暢二ポプランが失くなると数時間おきに激痛が走るという設定がありますが、その痛み方に正解はもちろん無いし、毎回同じでもいけないので、シーンごとに違いも見せようと考えながら演じました。ですが、それを笑わせにいっていると思われてしまうと、この映画は成立しなくなると思うので、田上自身は真面目に痛がったりドタバタを繰り広げているというところを強い軸として持っていました。
最初は失ったパーツを取り戻しにいく話なのかなと思っていました。それが、この映画のチラシのように、逆に身にまとったものをどんどん脱皮していく話ですし、ストーリーが進むにつれ、田上は人と真っ直ぐに向き合うようになっていくので、むしろいろいろなものを削いでいくような芝居を心がけました。
上田慎一郎人は大人になるにつれ、いろいろな不要なものを着飾ってしまうんですよね。僕は子どもとお年寄りの方は裸だと感じていて、30〜50代が一番分厚い服を着ているような感覚があるんです。
Q 撮影での印象的なエピソードなどお聞かせください。
A皆川暢二ポプランを追いかけるシーンが何度もありますがどれも印象深いです。ポプランの動きはVFXで表現していて、演じる時は何も無いところで演じているので、それをやり切ることで、演じる上で感じることがたくさんありました。
上田慎一郎僕が印象に残っているのは、田上が実家に帰って、母親がそのままにしていてくれた自分の部屋に戻るシーンです。田上の部屋は僕自身の実家の部屋を再現したような作りなんです。自分が学生時代に好きだった漫画を並べさせてもらって、田上が中学生の頃に描いていたという設定の漫画も僕自身が当時描いたものを使っています。だからセラピーを受けているような不思議な感覚でした。映画を作りながら、自分の部屋だ、自分の漫画だ、と感じることが多くて、いろんなことを思い出させられました。
Q 上田慎一郎監督、皆川暢二さんからOKWAVEユーザーにメッセージ!
A上田慎一郎あらすじを見ると不思議に思う方もいると思いますが、想像とは違う映画になっていると思います。観終わった後に十人十色の感想が出てくる映画なので、ぜひ語り合っていただけると、より映画が豊かになるのかなと思います。ぜひ映画をご覧になって語り合ってください。
皆川暢二まずは劇場で観て体験していただきたいです。観た人にとってのポプランを見つけていただけたらと思います。
■Information
『ポプラン』
東京の上空を高速で横切る黒い影。ワイドショーでは「東京上空に未確認生物?」との特集が放送されている。
田上は漫画配信で成功を収めた経営者。ある朝、田上は仰天する。イチモツが失くなっていたのだ。田上は「ポプランの会」なる集会に行き着く。
そこではイチモツを失った人々が集い、取り戻すための説明を受けていた。
「時速200キロで飛びまわる」「6日以内に捕まえねば元に戻らない」「居場所は自分自身が知っている」。
田上は、疎遠だった友人や家族の元を訪ね始める。
家出したイチモツを探す旅が今はじまる。
皆川暢二 アベラヒデノブ 徳永えり 原日出子 渡辺裕之
監督・脚本: 上田慎一郎
企画・制作: パンポコピーナ
配給: エイベックス・ピクチャーズ
©映画「ポプラン」製作委員会
上田慎一郎
1984年4月7日生まれ、滋賀県出身。
中学生の頃から自主映画を撮りはじめ、高校卒業後も独学で映画を学ぶ。2009年、映画製作団体を結成。『お米とおっぱい。』『恋する小説家』『テイク8』など10本以上を監督し、国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得。
2018年、初の劇場用長編『カメラを止めるな!』が2館から350館へ拡大する異例の大ヒットを記録。
三人共同監督作の『イソップの思うツボ』が2019年8月に公開、そして劇場用長編第二弾となる『スペシャルアクターズ』が同年10月に公開。
2019年1月、映画の企画・制作を行う株式会社PANPOCOPINA(パンポコピーナ)を設立。
2020年5月、コロナ禍を受け、監督・スタッフ・キャストが対面せず“完全リモート”で制作する作品『カメラを止めるな!リモート大作戦!』をYouTubeにて無料公開。
2021年『100日間生きたワニ』『DIVOC-12』が劇場公開。
皆川暢二
1987年10月23日生まれ、神奈川県出身。
大学時代に俳優を目指し、舞台を中心に活動後、突如カナダに1年滞在しながら、北米大陸の自転車横断に挑戦。帰国後、映画制作も試み、2018年に主演兼プロデューサーという形で制作した映画『メランコリック』が『第31回東京国際映画祭 日本映画スプラッシュ部門』で監督賞を受賞し、前年に『カメラを止めるな!』が観客賞を受賞して話題となった「ウディネファーイースト映画祭」では新人監督作品賞に選出される。主演映画は、『ポプラン』が2作目となる。