Vol.1058 映画監督 オオタヴィン(ドキュメンタリー映画『夢みる小学校』について)

ドキュメンタリー映画『夢みる小学校』

OKWAVE Stars Vol.1058はドキュメンタリー映画『夢みる小学校』(公開中)オオタヴィン監督へのインタビューをお送りします。

Q この学校を知ったきっかけと映画化の経緯をお聞かせください。

Aドキュメンタリー映画『夢みる小学校』オオタヴィン一作目、二作目では保育園を題材にしていました。保育園時代の子どもたちは自分のことが大好きです。それが小学1年生になった途端に、急な環境の変化にお子さんの元気がなくなったり、学校を嫌いになってしまう「小1プロブレム」と呼ばれる問題があるんです。保育園の先生がそれをとても残念がっている声を度々聞いていたので、どこかにいい小学校はないかと探していました。それで見つけたのが「きのくに子どもの村学園」でした。
「きのくに子どもの村学園」は全国に5箇所あります。僕が住む地域から一番近い「南アルプス子どもの村小学校」に学校見学に行ったんです。授業中に子どもが先生の膝に座ったり、職員室で先生と子どもたちが和気藹々としている様子を目の当たりにして、この映像だけで映画になると直感しました。僕はひとりで撮影・編集・監督をするので、僕が決めれば、即、映画化決定なので、すぐに学校側に映画化のお願いをしたんです。
堀真一郎学園長をはじめ、先生方は本当に子どもたちが大好きで教えていらっしゃることがダイレクトに伝わり、大人たちに見守られて子どもたちはキラキラしながら楽しそうに授業を受けていました。
それは、“うれしい衝撃の風景”だったんですね。これは、全国の子どもたちに見せたい!と決断しました。

Q 監督自身は「きのくに子どもの村学園」の様子を見られて、どのように感じましたか。

Aオオタヴィン僕自身、率直にこういう小学校に入りたかったなと思いました。僕は小学生の頃、美術以外の科目に全く興味がなかったんです。特に理数系科目には全く興味がなくてそれらの授業中は落ち着きがなかったから、通知表には小学6年間ずっと「落ち着きがない」と書かれていました。現代なら多動児というレッテルを貼られていたと思います。それが、この「きのくに子どもの村学園」では、授業中に息抜きをすることにさえ非常におおらかです。考えてみれば、大人だって集中力はそんなに長くは続かないものです。僕のような多動な劣等生でも、ここで学んでいれば別の人生があったのではないかと思うほどです。この映画はそんな「劣等生が作った映画」なんです(笑)。だから、誰が見ても「難しい教育映画」ではなく「笑って泣ける楽しい映画」になったなと思います。

Q カメラが入った際の子どもたちの反応はいかがでしたか。

Aドキュメンタリー映画『夢みる小学校』オオタヴィン僕も最初は保育園と違って小学生の自然な表情を撮るのは難しいのかなと思っていました。それが映画に映し出されているように、大人に対して良い意味で警戒心がないんです。子どもたちはプロジェクトに夢中ですし、僕には子どもたちを自然に撮影するという特技があるので、とても撮影しやすかったですね。

Q 撮り始める時は、どのようにまとめるか事前に考えるものでしょうか。

Aオオタヴィン僕は予定調和ではないドキュメンタリーが好きです。事前には、どんな映画として完成するのか、まったく決めないようにしています。撮影の途中にコロナ禍となりましたが、それも感動的なエピソードに転換しました。
当初は「きのくに子どもの村学園」の1年間を追いかけるだけで完結する考えでした。撮影時はノープランですが、撮影後は様々な方に意見を聞いてコミュニケーションを取ることで編集を進めていくスタイルです。そうすると「夢のような学校だけど、私立だからできるのでしょう」という反応が強かったんです。それだと伝わらないので、もう少し誰でも身近なところに着地できるような映画にしたいと考え、公立学校の取材を追加しました。
伊那市立伊那小学校は65年間通知表がないし、「体験学習」を続ける公立小学校です。公立学校でも、ここまで自由に体験学習が可能なのです。世田谷区立桜丘中学校では、西郷孝彦さんが校長をされていた時代には、校則や定期テストをやめています。義務教育の公立の学校でも、実は、こんなに様々な可能性があることを伝えたい。
当初から『夢みる小学校』というタイトルで企画していましたが、「夢のような私立学校のお話」ではなく、「あなたの町の学校も、夢みる小学校なんですよ」という意味に変わっていきました。映画が完成して公立学校の先生の方々に観ていただきました。「自分の公立学校も変われる可能性があるんだ」という肯定的な感想が多く、より多くの方に受け入れられる映画になったのかなと感じています。この映画を、【アクティブラーニングのバーチャル学校訪問】として、公立学校の先生や、公立学校にお子さんを通わせている保護者の皆さんにも観ていただきたいですね。

Q 「きのくに子どもの村学園」の教育方針に反対するような意見を聞くことはありましたか。

Aオオタヴィンもちろん、それはあります。「主要教科」を学ばなくて大丈夫でしょうか、こんなに学校が毎日楽しそうでもよいのでしょうか、という意見です。
「きのくに子どもの村学園」の一校である南アルプス子どもの村中学校の加藤博校長が「学校は楽しければいいんです」と映画の中で発言されています。きっと驚かれると思います。僕たちの常識では、「勉強」とは「勉めて真面目に苦しいことを強いなければいけない」という思い込みがあるからです。それを茂木健一郎さんに脳科学者の立場から解説してもらっています。「楽しい」と脳内にドーパミンが発生します。体験学習を続けることで、ドーパミン・サイクルが形成され、「非認知能力が高まる脳のOS」がつくられるそうです。「学校は楽しければいいんです」という言葉には、脳科学的なエビデンスがあるのです。
ですから、海外の教育先進国では、「体験学習」や「アクティブラーニング」と呼ばれる自主的探求教育が幅広く実践されています。日本のように「主要科目別の一斉教育」しか選択肢がない方が特殊な状況なのです。日本の公教育は世界の中でも極端に多様性がないのです。映画に出演されている尾木直樹先生は「取り残される日本の教育」という本を書かれていて、ヒットしています。
ですから、はじめて体験学習を観た方からすると、違和感があったり、反対意見があるのも当たり前なのです。
世界の潮流に大きく遅れている中で、AI時代もすでにどんどんはじまっています。いよいよ日本の文部科学省もこうした新しい教育に変えていかなければならないと、2020年から教育指導要領をアクティブラーニングにシフトしました。だから、この映画は【文部科学省選定】をいただいているんです。日本にはGAFAに代表されるようなイノベーションが停滞しています。特に、経済産業省の危機感は大変なものです。経済産業省が主催した『ユニークな学校」はどう生まれるか?』「未来の教室」✕「夢みる小学校」という配信アーカイブは、1週間で2万アクセスを超えました。
まだまだ目新しいかもしれませんが、これからの教育の新しいモデルなんです。

Q 子どもたちはこの教育にすぐ馴染むものでしょうか。

Aドキュメンタリー映画『夢みる小学校』オオタヴィン僕が4月に撮り始めた頃にはまだ学校に馴染んでいなかった子どもが、9月頃になると全校集会で手を挙げて発言している姿もありましたから驚かされます。「体験学習」に子どもはあっという間に馴染みます。なぜなら、とても楽しいから。追いついていないのは、保護者サイド、つまり、先入観に縛られた僕たちの方なんですね(笑)。
映画を見ると分かると思いますが、「きのくに子どもの村学園」の子どもたちは、同年代の子どもと比べて、とても大人っぽいのです。子どもたちが地域のお店などに取材依頼の電話をしている様子や中学3年生の卒業の挨拶を聞いていると特にそう感じると思います。人間力の高い様子が伝わってくると思いますし、ペーパーテスト主体の教育ではなかなか養えない部分でもあると思います。

Q 特に新しい発見だと感じたことはありますか。

Aオオタヴィン日本の公立学校は、それほど厳しく規制されていないということが新しい発見でした。公立学校であっても「通知表」を渡す義務もないし、校則の規定もない。主要科目別に学ぶ必要もない。実はとても自由なのです。ではなぜ、公立学校に多様性がなくなっているのかと言えば、現場が自主規制していたからだ、それが驚きでした。これまでの一斉教育は、大量生産・大量消費の時代には合っていましたが、これからのAI時代には、自ら考える力や、人間力や創造力に代表される「非認知能力」がないと、人間の仕事がない。保護者の方々は良かれと思って受験教育に邁進されていると思います。それは自分たちの過去のサクセスストーリーに基づいたもので、そのような教育を受けた子どもたちが大人になった時に、今とは全く違う時代になっていたら、どうでしょうか。例えば、街のレコードショップをやっていたお父さんの時代が、わずか10年で子どもの代には音楽配信に置き換わっているというような劇的な変化が、分野を問わずこれから起きるといいますよね。この映画に登場する3つの学校は「ミライの学校」なのです。

Qオオタヴィン監督からOKWAVEユーザーに質問!

オオタヴィン僕が作った『夢みる小学校』には素敵な先生がたくさん登場します。
みなさんの記憶に残る素敵なアノ先生のエピソードをぜひ、お送りください。
ついでに、これだけは許せないコノ先生の一言も添えてもらってもいいですよ。

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■Information

『夢みる小学校』

2022年2月4日(金)よりシネスイッチ銀座・アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開中

宿題がない、テストがない、「先生」がいない。
「きのくに子どもの村学園」の子どもたちは「プロジェクト」とよばれる体験学習の授業を通じて、自分たちでプロジェクトを運営し自らの頭で考えます。
「楽しくなければ、学校じゃない」と、子どもの村のスタッフは口をそろえます。
キラキラした目で笑顔で学ぶ小学生の姿を見た事がありますか?
学校って、本当はこんなにわくわくする場所だったのです。
学校観が180度変わる”うれしい衝撃の授業風景”をご覧ください。

監督・撮影・編集: オオタヴィン

https://www.dreaming-school.com/

(c)まほろばスタジオ

映画出演者トークショー

銀座シネスイッチにて 12:50の回、14:50の回終了後に2回開催!
2月11日(祝・金)辻信一(文化人類学者)&オオタヴィン監督
2月12日(土)西郷隆彦(世田谷区立桜丘中学校前校長)&オオタヴィン監督
2月13日(日)加藤博(南アルプス子どもの村中学校校長)&オオタヴィン監督
アップリンク吉祥寺にて 16:45の回終了後に開催!
2月11日(祝・金)前川喜平(元文科省事務次官)&オオタヴィン監督
2月12日(土)二川先生(公立小学校教師)&オオタヴィン監督
要オンライン予約: https://eigaland.com/cinema/100


■Profile

オオタヴィン

オオタヴィン監督(ドキュメンタリー映画『夢みる小学校』)プロデユーサー、監督、撮影、編集、デザイン、雑用など映像制作のすべてをひとりで兼任することでパーソナルな質感の映画づくりを愉しんでいる(どうやら器用貧乏らしい)。
変なペンネームだが、愛知県出身、ただの日本人のオジサンである。
伝統和食や発酵食で、自身の体質を改善した「発酵映画監督」。“発酵食・医食同源・食養生”をテーマにした『いただきます1 みそをつくるこどもたち』を初監督。累計上映回数800回を今なお更新中のロングランヒット作となる。
“土壌微生物と腸内細菌の循環による生命の環(circle of life)”をテーマに、有機農家と食農教育を描いた2作目『いただきます2 ここは、発酵の楽園』は1作目を超える勢いで全国で上映されている。
幼年期に「多動児」だった自身の経験から個性を生かし自己肯定感を高める「自由教育」を密着取材。”心の発酵”をテーマにした『夢みる小学校』が最新作。
「冬期湛水不耕起農法」の棚田の四季を追い縄文的な発酵循環農法を描いた「UTAUTA 歌う田」などの映像作品を、主宰する「まほろばスタジオ」から毎月配信している。
“なつかしいミライ”へ向かう新作映画を、日々、妄想中。

まほろばスタジオ: https://www.mahoroba-mirai.com/


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