OKWAVE Stars Vol.1060は映画『北風アウトサイダー』(公開中)の脚本・監督・プロデューサーならびに主演を務めた崔哲浩さんへのインタビューをお送りします。
Q この映画を企画した経緯をお聞かせください。
A崔哲浩コロナ禍の中で自分自身と向き合う時間が増えたことで、20代の頃から映画を撮りたいという思いがあることに改めて思い至りました。自分は役者を長くやってきて、役者が監督業にも手を出すのは、監督らに対して失礼なのではという思いでブレーキを踏んでいたんです。そんな中、映画の師と仰いで連絡を取り合っていた佐々部清さんが亡くなってしまうという出来事がありました。佐々部さんが初監督を務めた『陽はまた昇る』(2002)公開時は44歳でした。僕は43歳になっていて、僕も年齢的にも映画を作る時が来たのかなと思いました。それで映画を作ろうと決めたんです。僕は助監督の経験がないので、25年役者をやってきた目線から、自分のバックグラウンドである在日コリアンの分野なら自分が撮る映画になると思いました。どんな名監督もリアルな在日社会は知らないだろうから、この題材なら勝負ができるとあえて選んだんです。今やグローバルな時代ですから、在日コリアンをアピールしたいわけではなく、物の見方の一つとして、以前に舞台で手掛けて評判の良かった作品を基に映画化しました。
Q 初めての映画監督として、どんな前準備をされましたか。
A崔哲浩とにかくリハーサルをたくさんしました。2020年の8月31日にクランクインをしましたが、その1ヶ月前からリハーサルは始めました。特に、映画の中で韓国の歌や踊りをする場面がありますので、そういった練習から始めました。この映画のキャストは僕以外はほぼ日本の役者なので初めて触れる世界です。韓国の民謡、食事、大阪の話なので関西弁もそうです。監督としての準備はそこに思い入れを持って取り組みました。それと、今回の映画ではキャストがスタッフも兼ねているんです。今回のキャストは舞台役者が多く、スタッフワークの面では素人です。それで今回のパートナーの撮影監督の貫井勇志さんと一緒に、撮影期間中も定期的に舞台と映画の違いという話など映像の勉強会を開いていきました。舞台は一方面から距離を持って声を届けるものですし、髪の毛1本からつま先まで見えてしまうものです。映像では芝居を切り取ることができますので、演じる根本は同じでも表現技法は違います。今回、舞台役者が多かったので、リハーサルの時から映像での演技のディレクションしていきました。
Q 監督として現場に立つ時と、ヨンギ役として演じる時の切り替えはいかがでしたか。
A崔哲浩覚悟はしていましたが、自分が思っている10倍は大変でした。台本も自分で全て書いているので、役者の演技も美術もこだわってしまうんです。いわゆる自主映画として作り始めて、こうして劇場公開映画に至りましたが、そもそも僕が考える「自主」とは、自分が主体性を持って作るものだと思っています。多くの商業映画のような予算とスケジュールが先にあるものではなく、こだわり抜いた結果、数ヶ月にわたる撮影になりましたし、多くの役者が出演する映画になりました。ですので、そういった映画を作っている監督から一役者に脳を切り替えるのが大変でした。ディレクションと演じる脳は全く違うものです。役者は何ていい職業なんだと、監督を務めて初めて気づきました。役に徹して生きればいいですし、スタッフさんがお膳立てをして、最後に載る花が役者なんだとつくづく思いました。
Q では演じられたヨンギ役についてはいかがでしたか。
A崔哲浩ヨンギは奥さんを亡くして情緒不安定になってしまっています。そこから物語が進むにつれ、家族との再会で少しずつ正常に戻っていくので、その細かな変化の芝居にはこだわりました。
半自叙伝的な物語として台本を書きましたが、ヨンギとチョロとガンホの兄弟3人に僕の実体験や周りで起きたことを散りばめているんです。
Q どんなところにこだわりましたか。
A崔哲浩この映画は群像劇だというところです。「人間とは」「愛とは」「時代の継承」「血脈」という4つの大きなテーマを描きました。ポスターではヨンギがメインにいるようになっていますが、出番は櫂作真帆さん演じるミョンヒと上田和光さん演じるガンホの方が多いですし、主役も脇役もなく、カメラに映っている全ての人が生き生きとしている映画にしようと思いました。『仁義なき戦い』のような、何十年経っても、観るたびにエネルギーが湧き上がってくるような映画が好きなので、そんな躍動する映画になるように意識しました。
Q 在日社会の描き方についてはいかがだったのでしょう。
A崔哲浩僕以外はほぼ日本の役者なので、そんな彼らがこの世界に抵抗なく浸かってくれたのは、今思えばすごいことだと思います。海外の方に観ていただくと、ヨンギの兄妹を演じた櫂作さんも、伊藤航さんも上田さんも在日コリアンにしか見えなかったと言われました。もちろんそれぞれ役者の能力もあると思いますが、単純にうれしかったです。外国人の役ですから、見事に演じていると思います。僕自身が在日社会で生きてきたから、葬儀なのに騒いでいるオープニングのシーンは実体験を基にしていますし、感情の起伏の激しさは国民性であるということをみんなに伝えました。一人一人にそれぞれの役の性格も含めて細かく伝えていましたので、みんな意識して役作りしてくれたのかなと思います。そこを出さないと僕が監督する意味はないなと。日本には在日華僑や在日ブラジル人など、いろいろなコミュニティがあり、その一つが在日コリアンですから、それを描くことができて良かったなと思います。
Q 編集などのポストプロダクションは経験されていかがでしたか。
A崔哲浩これも初経験でしたのでここまで大変だとは思っていなかったです。1,000カット以上ありましたので、時間がいくらあっても足りないんです。それを1回つなげた粗編は3時間20分くらいになって。それを2時間半に編集しました。粗編を何回か観ていくと切っていい場面が段々と見えてくるんです。自分の出演シーンも含めて大胆に切りました。それと映画館ならではの5.1チャンネルの音とSE(音響効果)にもこだわりました。映画は映像と同様に映画音楽や歌がとても大事だと思っているんです。公開の直前までできることは全てやろうと細かな調整を続けました。
Q 歌が印象的ですがディレクションについてはいかがでしたか。
A崔哲浩結婚式で祥子が歌う歌は、僕の父が仲人の仕事をしていてよく口ずさんでいた歌なんです。祥子役の浦川奈津子さんは歌手でもあって、ぜひ彼女に歌ってもらいたかったのでキャステイングしました。韓国語の発音にはだいぶ苦戦されたようで、徹底的に練習してもらいましたので、韓国の方が見ても違和感のないレベルになっていると思います。
Q 崔哲浩さんからOKWAVEユーザーにメッセージ!
A崔哲浩映画やエンターテインメントは人間に必要なものだと思っています。この2時間半の映画をご覧いただいたらきっといろいろな意見が出ると思います。誰かとコミュニケーションをとることが大切なので、ぜひ観ていただいて、僕やお知り合いに感想を伝えてくれたらうれしいです。ぜひ映画館の大きなスクリーンでご覧いただければと思います。
■Information
『北風アウトサイダー』
2022年2月11日(金・祝)よりシネマート新宿ほか全国順次公開中
大阪府生野にある在日朝鮮人の町。
みんなの母代わりであるオモニ(オカン)の葬儀が行われていた。
15年前に失踪した長男・ヨンギはそこに現れない。
オモニが始めた店の借金に追われ、ヨンギを除く3兄妹たちは途方に暮れる。
そんな中、ヨンギが帰ってくる・・・。
変わり果てた長男に困惑する兄妹たち。
家族とは・・・。
様々な人の想いがすれ違うなかで、大きな愛によって、はたして家族の絆は取り戻せるのか。
崔哲浩 櫂作真帆 伊藤航 上田和光
永倉大輔 松浦健城 竜崎祐優識 並樹史朗 岡崎二朗
監督・脚本・プロデューサー: 崔哲浩
配給: 渋谷プロダクション
公式サイト: https://www.kitakaze-movie.com/
公式ツイッター: https://twitter.com/kitakaze_movie
公式facebook: https://www.facebook.com/kitakazeoutsider/
公式インスタグラム: https://www.instagram.com/kitakaze_movie/
©2021 ワールドムービーアソシエイション
■Profile
崔哲浩
1979年3月16日生まれ、大阪府生野区出身。
様々な映画・舞台・ドラマにて、ジャンルを問わず俳優として幅広く活動。
大規模な商業舞台を経験し、2007年に映画監督の入江悠と共に「劇団野良犬弾」を設立。
以降、数十本の舞台において出演・プロデュース・演出を行う。
【舞台演出作】「友たる証明」「ザ・警鐘 -シグナル-」
【俳優としての出演作】「ホタル -HOTARU-」「陽はまた昇る」「グラスホッパー」等
https://twitter.com/sai_tetsuhiro