Vol.1064 映画監督 竹中貞人、団塚唯我、藤田直哉、道本咲希(文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2021」について)

映画監督 竹中貞人、団塚唯我、藤田直哉、道本咲希(文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2021」)

OKWAVE Stars Vol.1064は文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2021」にて劇場公開を控えた次世代若手映画作家4名(竹中貞人さん、団塚唯我さん、藤田直哉さん、道本咲希さん)へのインタビューをお送りします。

Q 「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2021」への応募のきっかけをお聞かせください。

A『少年と戦車』|文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2021」藤田直哉これまで自主映画を撮ってきて、今後も映画を作り続けることを考えた際に、今までとは違うベクトルでやってみたいと思っていました。「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2021」(以下、ndjc)は講師による指導やプロのスタッフとの製作を通して若手映画作家を育成する場であるので、商業作品の第一線で活躍されている方々と関わりながら、そこで自分がどんな映画を作れるのか興味があって応募しました。

竹中貞人僕はこのndjcの存在は東京に出てきた時から知っていて、いつか参加したいなという気持ちはありました。今回応募しようと思ったのは、映画から離れようかと考えていた時期があって、ここでダメなら離れてみようという分水嶺のような気持ちで参加したんです。こうして映画を撮らせてもらえることになったので、映画の神様っているんだなあと思いました。

道本咲希私は一昨年の冬まで映像業界の違う部署の仕事をしていましたが、監督をしてみたいという気持ちがあって、何かきっかけがないかなと探していたところndjcにたどり着きました。昨年選出された植木咲楽監督(『毎日爆裂クッキング』)とは知り合いだったので、話を聞いて刺激を受けたのが応募したきっかけです。

団塚唯我僕は2019年のndjcに選出された山中瑶子監督の映画『魚座どうし』が面白かったので、いいなと思って自分も応募しました。

Q ndjcでは5分の映像を撮るワークショップを経て選考されたそうですね。

A藤田直哉テーマは「失敗」ということが当日に発表されて、撮影1週間、編集は同じ環境・ツールを使ってプロの編集技師さんと相談しながら2日間で行う、というものでした。テーマ以外は自由でしたが講師の方からは「分かりやすいものを作ってください」と言われていました。ワークショップ参加者みんなで見て講評された後に、製作実地研修者として僕たちが選ばれました。

Q 製作実地研修では25分以上30分以内の短編映画を製作するとのことで、題材や台本作りではどんなところを意識しましたか。

A『遠くへいきたいわ』|文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2021」団塚唯我自分の体験をベースに考えていきましたが、それだけで撮ってしまうと映画が閉じていってしまうのが以前に作った時に感じていた反省点としてありました。それで今回は自分が観て好きだった映画の力を借りながら、“開いた映画”の印象になるようにしました。

道本咲希私も自分の体験が基になっていますが、テーマとして“中途半端な気持ち”を描きたいと思いました。どんなに辛い気持ちでいる人も笑わないわけではないし、ずっと暗い顔をしているわけではないだろうと、それを台本に落とし込むようにしました。

竹中貞人僕は浜松にある友人の旅館に行った際に、「浜名湖には戦車が沈んでいる」という話を聞いて面白いなと思ったのがあって、そこから何かできないかと考えた台本です。僕は今まで自分の個と向き合うことがあまりなかったので、脚本を書いている時間よりも自分の内側と向き合っている時間の方が長かったなと思います。

藤田直哉僕は今まで女性を主人公にしたことがなかったので、女性を主体に描きたいというところから考えました。その際には“男性から見る女性”というところを乗り越えたいという気持ちがありました。ある程度成熟した人間関係を描いた方がそれが出せるのかなと思って、若い人たちではなくアラサーくらいの世代の人物たちを描きました。

Q 4作品はそれぞれ主人公の年代は異なっていますが、家族、結婚という要素が大なり小なり含まれています。それについて思うところや作品の中にどのように投影したかをお聞かせください。

A『LONG-TERM COFFEE BREAK』|文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2021」藤田直哉僕らの世代的には昔と比べれば結婚というものへの「こうあるべき」というものは薄らいでいると思います。逆に意識したのは、これは結婚や家族に限らず「この人はこうあるべき」という部分を誰しも何かしら持っていて、そういう視線が人を傷つけてしまったりするのかな、ということです。

竹中貞人僕の映画では僕自身の結婚観、家族観というものは描いてはいないです。30分の短編で描きたいテーマを突き詰めて主人公の設定を作っていく中で一つの要素として取り入れていたものになります。

道本咲希小学生の子どもが主役の映画なので、家族観について言うと、子どもが子どもらしくいられない家庭はとても悲しいことだと思っています。昔と今の違いは分かりませんが、そういう環境は何かしら問題があって、家族以外に相談しても伝わらない、どうしようもならない問題を描きたいと思いました。

団塚唯我母を亡くした主人公と、娘を亡くした母が出会う映画を撮りましたが、僕も母を亡くしていて、その経験が基になっています。僕はこれまで映画の中に父親を出したことがなくて、父親を描き出すには相当な体力が必要だと感じているんです。家族を描くということはこれから大事なテーマになってくるのかなとも思っています。

Q キャスティングとプロのスタッフとの現場の経験についてお聞かせください。

A『なっちゃんの家族』|文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2021」団塚唯我二人の女性の話で、若い紗良役の野内まるさんはオーディションに来てくれて、初めての芝居とのことでしたが、いいなと思って出演していただきました。河井青葉さんをはじめ他の4名は全員キャスティングしました。河井青葉さんの竹内役は当て書きなんです。「河井青葉さんに出ていただきたいです」と初めから話していて、それが叶って、他の3名も僕がキャステイングしました。
プロの制作スタッフとの現場は初めてでしたが、意外と今までの現場と変わらずにいつも通りにできたと思います。

道本咲希メインのなっちゃん役の子役さん以外はキャスティングしました。子役のオーディションは初めてで「この子だ」と思えなければ始まらないのでやる前は不安でした。上坂美来さんが来た時に「ああ、この子だ」と、ピンとくるものがあって、無事に決まってよかったです。
プロのスタッフとの現場は、先輩方がたくさん来てくださって、最初、萎縮してしまいそうになりましたが、皆さんすごく優しくて、“お父ちゃん”がたくさんいる感じで私の作品を見守っていただけました。厳しく何か言われることもなくアドバイスをいただいて楽しく作ることができました。

竹中貞人キャスティングは鈴木福くん以外はほとんどオーディションで選びました。鈴木福くんは、主人公・田崎に起きるいろいろなことを誰に演じてもらうと面白いかを考えて行き着きました。彼がこう言うことをやってくれたら面白いんじゃないかという気持ちでオファーしました。
プロの方々との現場はやっていることはあまり変わらないなという印象ではあるのですが、今まで自主制作でやってきて、スタッフの人たちも映画学校で出会った、お仕事ではなく友達関係から関わってもらっている人たちでした。ですので分業化されたプロの方々との仕事は初めてです。講師の深川栄洋監督から「監督は孤独な仕事だよ」と言われていて、何が孤独なのだろうと疑問に感じながら現場に行くと、分業化された現場ではシーンとシーンの合間に監督がやることが意外にないんです。スタッフと一緒にお弁当を食べようと思ったらスタッフの皆さんにはやることがあって「ああなるほど」と感じました。

藤田直哉キャスティングは優子役の藤井美菜さんは佇まいや独立した女性のイメージがあってお願いしました。佐野弘樹さんはワークショップの短編にも参加してもらっていて、直樹のナンパでちょっとクズな感じが、僕が知る限り一番ハマるだろうと思ってお願いしました。福田麻由子さん、遊屋慎太郎さんはご一緒してみたいという興味がありお願いしました。小槙まこさんはオーディションで選びました。
現場は、考えることが多すぎるなと思う一方、分業制がきっちりしている分、演出に専念できるという楽さもありました。自主映画では自分でやらなければならないことも多いので、その違いはいいなと思いました。それとスタッフの意思が介在することで、自分でやるよりも偶発的なことが起きやすいとも思いました。すべてを確認するわけではないので「こうやったんだ」と後から確認することも多くて、僕自身はそれがすごく楽しい経験でした。

Q 劇場公開に向けてメッセージをお願いします。

A藤田直哉いつもと違う土壌で映画を作らせてもらって、今までの自分の作品とはある種違うテイストや一面を出せた作品だと思います。観客の皆さんが楽しめる作品になっていると思いますのでぜひ観ていただければと思います。

竹中貞人コロナのこういった時期ではありますが、日本のほとんどの方が知っている鈴木福くんが少し大人になった姿、「こんなことをするんだ」という姿をぜひ劇場に観に来ていただけたらと思います。

道本咲希私の映画は家族の話でもありますが、出てくる人たちがすごく深刻な状況にあって真面目にやりとりをしているのに、観ている側からはちょっと笑えると思っていますので、ぜひそんな映画を観に来ていただければと思います。

団塚唯我一般向けに初めて公開されますので、観客の皆さんにどう観ていただけるのか楽しみにしています。

QOKWAVEユーザーに質問!

竹中貞人ロードショーで東京、大阪、名古屋と周ります。各地の美味しい食事処や居酒屋さんを教えていただきたいです。

団塚唯我僕からは最近公開された映画で皆さんのおすすめを教えていただきたいです。

藤田直哉今回僕たちはそれぞれ30分の短編映画を撮りましたので、皆さんのおすすめの短編映画を教えてください。

道本咲希皆さんが好きな映画館をお聞きしたいです。

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■Information

文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2021」期間限定ロードショー

文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2021」【東京】2022年2月25日(金)~3月3日(木)連日18:30〜 角川シネマ有楽町
【大阪】2022年3月4日(金)~10日(木)連日18:00〜 シネ・リーブル梅田
【名古屋】2022年3月18日(金)~24日(木)連日18:00~ ミッドランドスクエア シネマ

特設サイト:http://www.vipo-ndjc.jp/screening/ippan2021/

『少年と戦車』

監督: 竹中貞人
君が楽しく生きられないのは、世界が悪いんだよ。
窮屈な日常やイジメに悩む中学生の田崎は時々言葉を交わす少女、咲良に思いを馳せることが唯一の楽しみだった。湖に戦車が沈んでいるという情報を知った田崎は捜索へと出るが、そんな彼を待ち受けていたのは自分自身の思春期と向き合う壮大な精神の旅だった。

制作プロダクション: 東映東京撮影所
出演: 鈴木福、黒崎レイナ、笠井悠聖、林裕太、松浦祐也

『遠くへいきたいわ』

監督: 団塚唯我
心配ないから、手をはなして。
アルバイト先へ面接にやってきた竹内(39)を見て動揺を隠せない紗良(21)。竹内の勤務初日、開店作業を終えたふたりはオープンを待つばかりのはずだったが…。互いに亡くしてしまった母 / 娘の面影を見出し合うふたりは、束の間の逃避行に何を求めるのか。

制作プロダクション: シグロ
出演: 野内まる、河井青葉、フジエタクマ、津田寛治、金澤卓哉

『LONG-TERM COFFEE BREAK』

監督: 藤田直哉
そのコーヒーは美味しいですか?
大手企業に勤めるキャリアウーマンの優子は、ある日、直樹という男にナンパされる。職業は俳優、しかも自身の家を持たず、他人の家を転々と居候しながら暮らしているという、これまで出逢ってこなかったユニークなタイプの男・直樹に惹かれ、優子は一年後、彼と結婚する。

制作プロダクション: ジャンゴフィルム
出演: 藤井美菜、佐野弘樹、福田麻由子、遊屋慎太郎、小槙まこ

『なっちゃんの家族』

監督: 道本咲希
なつみ、10歳、末っ子。
登校中に家出を思い立つ小学生のなつみ。遠い祖母の家を訪れると突然の訪問に驚かれるが、なつみの心境を察し温かく迎え入れてくれた。なつみは両親の不仲に疲れ切っていたのだ。自然体で接してくれるおばあちゃんとの時間になつみの心はほぐれていくが、翌日両親が現れ・・・

制作プロダクション: アミューズ
出演: 上坂美来、白川和子、斉藤陽一郎、須藤理彩、山﨑光

ndjc(New Directions in Japanese Cinema):若手映画作家育成プロジェクト

次代を担う若手映画作家の発掘と育成を目的に、特定非営利活動法人映像産業振興機構(略称:VIPO、理事長:松谷孝征、東京都中央区)が文化庁から委託を受けて2006年度より運営する人材育成事業。優れた若手映画作家を公募し、本格的な映像制作技術と作家性を磨くために必要な知識や技術を継承するためのワークショップや製作実地研修を実施すると同時に、作品発表の場を提供しています。
公式サイト: http://www.vipo-ndjc.jp
公式twitter: https://twitter.com/ndjc_project


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