Vol.1066 映画監督 曽根剛(映画『永遠の1分。』について)

映画監督 曽根剛(映画『永遠の1分。』)

OKWAVE Stars Vol.1066は映画『永遠の1分。』(2022年3月4日公開)曽根剛監督へのインタビューをお送りします。

Q 本作製作のきっかけをお聞かせください。

A映画『永遠の1分。』曽根剛3.11を経験して、私も何かできないかと考えて、できるとしたらやはり映画を撮ることだろうと漠然と思っていました。震災のすぐ後に私はアメリカに渡ったのですが、アメリカでは震災のことを全く分からずに聞いてくる人もいれば、詳しく調べて聞いてくる人もいました。そもそも、空港に着いた時には放射能のチェックまでされたんです。私は震災当日は東京にいたので被災した訳ではありません。そんな“部外者”の私よりもっと部外者であるアメリカから震災を見る視点はもっと違うのかなと感じました。それで震災から2年経ってそういう視点から見た映画にしようと具体的に企画していきました。そこから上田慎一郎に脚本を依頼したという経緯になります。

Q 企画を立てられてから撮影に至るまでの道のりはいかがだったのでしょう。

A曽根剛2013年に企画を立てて、翌14年に脚本の初稿ができあがりましたが、映画の中で主人公のスティーブらが直面するのと同じように「この映画を撮っていいのだろうか」という問題に自分たちも直面しました。私自身、その脚本を持って被災地に行って提案できるのか悩みましたし、制作会社に企画を出しても「コメディはやめた方がいいのではないか」と言われ続けてしまったんです。その状況を変えられたのは現地に行ってからでした。現地で実際に話を聞くと「ぜひ作って欲しい」と。「シリアスな3.11の映画なんて観たくないんです。悲しい状況から前を向けるようになったのは笑いやエンターテインメントがあったからなんです」と言われました。演劇の巡回公演が行われたりシンガーが各地へ訪問するなど、エンタメの力で元気がでたという話を聞いたり、久慈市では「あまちゃん」の撮影があって悲しいムードから明るい雰囲気に変わっていったという話を聞きました。悲しい気持ちをずっと持っていては人は生きていけないだろうし、「もっと早くこういう映画が企画されたらよかったです」とも言われました。それで私も上田も前に進んでいいんだと勇気づけられました。
けれども、2020年2月から3月にかけて撮影をしようと準備しているところにコロナ禍があり、映画を撮るどころではない状況になりました。一方で、困難に立ち向かっていく人間の姿というものは、震災であろうがコロナであろうが同じだと感じ、この映画はより広いメッセージになるのではと改めて思いました。それでこの映画の中にもコロナのことを盛り込むべきだと上田が提案して、脚本も変更してくれたことで、より大きなテーマの映画になったなと思います。

Q 監督ご自身がこの映画を撮るまでに体験したことをスティーブが体験していく物語にもなっていますね。

A映画『永遠の1分。』曽根剛まさにスティーブたちが直面していく問題は私たちが直面した問題と同じです。スティーブが撮る劇中映画は私たちが現地で取材して、「無理やりにでも笑うことが大事だったんだ」という話をお聞きして、実際にあったエピソードを全部盛り込んで構成しました。だから、この映画はドラマ仕立てではあるけれど、自分たちの体験も入っていますし、現地の皆さんから聞いた話も入っています。映画の中に出てくる水族館で上演される演劇も実際に2011年から毎年開催されている内容をそのまま盛り込んでいるので、半分ドキュメントのような、今までにない震災を題材にした、かつより広い意味合いを持った映画を作ることができたのではないかと思います。

Q 主演のマイケル・キダさんらキャストへの演出などの話をお聞かせください。

A映画『永遠の1分。』曽根剛日本とロサンゼルスが舞台ですので当初は日本とアメリカで撮影する予定でしたがコロナ禍で実現できず全部のシーンを日本で撮影しました。マイケルをはじめ外国人キャストの方々はみんな日本語が話せるのでスタッフらと言葉の壁はありませんでした。
キャスティングではAwichさんは演じた麗子とバックグラウンドがとても似ているんです。麗子は震災で息子を亡くしたという役どころですがAwichさん自身も震災とは別の理由ですが旦那さんを亡くされた辛い経験をしています。そこから立ち直れたのは歌がきっかけだったということも、シチュエーションは違いますが麗子と通じるところです。この映画に彼女ほど適任な方はいないと感じました。
その他の多くの方はオーディションで選んでいますが、被災地に縁のない“部外者”の方が大半でしたが、この映画の撮影を通じて感じるところが多かったと思います。スティーブらが現地を訪れて、津波の資料映像を見学するシーンがありますが、台本に若干の記述はあるものの、その映像がどんなものかをキャストらには事前には見せず、ガイドさんが何を語るのかも伝えなかったので、本番一発の彼らのリアルな反応をカメラに納めました。キャストの皆さんも震災への思いは段々と強くなっていったと思います。それ以上に、コロナで世界中が困難な中で、悲しいことばかり考えていても前に進めないと現場にいてキャストみんなが感じたと思います。

Q この映画の撮影を通じて新しい発見などはありましたか。

A映画『永遠の1分。』曽根剛私自身が取材したり撮影を通じて被災地のことを知っていくこと自体が作品の中に投影されていますし、映画を通じて伝えなければならないという思いを新たにしました。映画の設定は2019年から2020年ですので、現地のリアルをたくさん盛り込むと共にコロナ禍のリアルも盛り込んでいます。多くの飲食店がコロナ禍で閉店を余儀なくされてしまいましたが、実際に閉店してしまったお店の施設を撮影に使用させていただくなど、まさにこの映画の製作過程そのものがドキュメントとリアルが混ざり合っていて、より感慨深い作品となりました。製作期間中、いろんな問題が起きたときにも、これも映画に活かそうと前向きに取り組んでいきました。

Q スティーブらが3.11のドキュメンタリーを作るために来日した際に渋谷で街頭インタビューを行なうシーンがありますが、これらのインタビューの発言は脚本通りに筋書きのあるものなのでしょうか。

A曽根剛いえ、映像では発言のごく一部だけを使用していますが、質問項目を用意して一人10分は話を聞いているんです。ですので筋書きのない率直な発言をそのまま使用しています。撮影のために来てもらった人もいますが、実際にその場でお声がけして協力していただける方に聞いた一般の方の生の声も使っていますので、脚本に書かれた想定発言の一部は全く出てこない結果になりました。何人もの方にお話を聞きましたが、どなたも被災地に行ったことがなかったということが印象的でした。現在の東北の様子をリアルには知らないということでもあるし、「辛くなりそうだから行きたくない」という方もいらっしゃったので、そんな方にこそこの映画を観ていただきたいです。

Q 曽根剛監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!

A曽根剛3.11を題材にしていますがいろんな困難に直面した時にどう向き合うかを描いた映画です。そしてそんな時に一歩進むきっかけになるのがエンタメなんじゃないかということを描きました。被災された当事者の方にももちろん観ていただきたいですが、むしろ部外者の方にこそ観ていただきたいですし、関心を持つきっかけになればと思います。震災にとどまらないより広いテーマを盛り込みましたので、日本だけではなく、他の国の人たちにも観ていただけたらと思っています。

Q曽根剛監督からOKWAVEユーザーに質問!

曽根剛皆さんがこれまでの人生で一番大きかった困難と、それを乗り越えるきっかけが何だったのかをぜひお聞かせください。それを知ることでいろんな人の役に立つのかなと思います。

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■Information

『永遠の1分。』

映画『永遠の1分。』2022年3月4日(金)、全国公開

コメディが得意なアメリカ人の映像ディレクター・スティーブは、3.11のドキュメンタリーを作るために来日するが、被災地を訪れた際に見かけた演劇の舞台をきっかけに、コメディ映画を作ろうと考える。取材を重ねる中で被災状況を目の当たりにし、かつ週刊誌に誹謗中傷の記事が出るなど、暗雲が立ち込めてしまう。しかし、彼には映画を撮らないといけない理由があったのだ。一方、3.11で息子を亡くし、ロサンゼルスに移り住んだ日本人シンガーの麗子。歌のせいで息子を失ったという罪悪感に苛まれ、再びシンガーとして活動することや日本に残してきた夫と向き合えない年月を過ごしていた。ある時、彼女は夫からの手紙の中にあるものを見つけるが…。

マイケル・キダ Awich 毎熊克哉 片山萌美 ライアン・ドリース ルナ 中村優一 アレキサンダー・ハンター 西尾舞生 /渡辺裕之

監督: 曽根剛
脚本: 上田慎一郎
主題歌: Awich「One Day」(ユニバーサル ミュージック)
配給: イオンエンターテイメント

https://eien1min.com/

(C)「永遠の1分。」製作委員会


■Profile

曽根剛

映画監督 曽根剛(映画『永遠の1分。』)ロサンゼルスでプロデュース・監督した初長編映画『口裂け女in L.A.』(15)、『9つの窓』(15)が2016年に劇場公開。その後、台湾、ヨーロッパに渡り、『台湾、独り言』(17)、『パリの大晦日』(17)を手掛ける。韓国で制作した『ゴーストマスク~傷』(18)はモントリオール世界映画祭に、『透子のセカイ』(20)が上海国際映画祭に招待される。近年では、『ゴーストダイアリーズ』(20)や、全編香港ロケで制作した日本・香港合作『二人小町』(20)などを手掛ける。公開待機作として『リフレインの鼓動』(21)がある。『カメラを止めるな!』(17)では撮影監督を務め、第42回日本アカデミー賞優秀撮影賞を受賞した。


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