Vol.1069 女優 黒沢あすか(映画『親密な他人』について)

黒沢あすか(映画『親密な他人』)

OKWAVE Stars Vol.1069は映画『親密な他人』(2022年3月5日公開)主演の黒沢あすかさんへのインタビューをお送りします。

Q 主演の経緯と本作の企画の印象をお聞かせください。

A映画『親密な他人』黒沢あすかドキュメンタリー映画を多く撮られてきた中村真夕監督がデビュー作以来の長編劇映画を撮るということで、その主演にというお話を頂いたのが2年ほど前です。監督とお会いする機会を作っていただいて2〜3時間いろんなお話をしました。私のどの作品を観てお声がけしてくださったのか聞いたら、瀬々敬久監督の『サンクチュアリ』や塚本晋也監督の『六月の蛇』、園子温監督の『冷たい熱帯魚』といった作品名を挙げてくれました。中村監督は14年ほど欧米留学をされていたので日本に向ける視線は独特で、お母さんと息子の密すぎる関係を深く掘り下げる映画を作っていきたいという話でした。台本はまだ完成していなかったので「完成したら見せてくださいね」と別れてから、だいぶ時期が空いてしまったんです。このまま話は無くなってしまうのかなと思っていたときに製本された台本が届いて、コロナ禍の中で生きていく日本人の姿や長年社会問題になっているオレオレ詐欺も織り交えながら、自分が過去に産んだ子どもの生命が事切れたことで段々と変貌していってしまうある女性の姿を追う映画になっていました。主人公は46歳の女性で、それを私が演じるというオファーをいただけたことは光栄でした。私の年齢で主演ということで果たして成功するのかという不安もありました。中村監督は「日本の映画には中年期の女性が主演の映画がないのでそれを私が作るんです」「イザベル・ユペールのような強さを描きたいんです」と声をかけてくださったので、私も腹が座って頑張ろうという気持ちになりました。

Q 恵の人物像についてどのように受け止めましたか。

A黒沢あすか恵のことを異端だとか、かわいそうという目だけで見たくないと思いました。むしろ寄り添いたいと思いました。今まで自分が積み重ねてきた表現方法や技術を見直さなければならないと思っていた時期だったので、恵を演じるにあたって、中村監督を通してそれをさらに強く意識しました。現場では中村監督は具体的な言葉で表現する方法を提示していただけたので、現実味を持って監督の背中を追うことができました。

Q 現実にありそうなリアルさと、スリラー映画らしさが絶妙だと感じられましたが、演じる上ではいかがだったのでしょう。

A黒沢あすか今回は自分でいろんなことをしないようにしました。私が準備をして現場に入ってしまうと、いつもと同じ引き出しで恵にアプローチしてしまうと思ったので、その場で中村監督の言葉に耳を傾けるようにしました。もちろん普段から監督の言葉を聞いていますが、今回そこに中村監督の姿があることで、演じる意識レベルの違いを感じる瞬間がたくさんありました。時には中村監督の方から『冷たい熱帯魚』の愛子のように振る舞って欲しい、といった私が一番理解しやすい言葉で提示してくださるので、映画の力の強さも感じました。だからこの『親密な他人』も皆さんの記憶に刻まれていくのかなと、逆に成功しなければならないと力が入ってしまって、それがいい方向に転がることもあれば、力みすぎて後で反省することもありました(笑)。

Q 共演された神尾楓珠さんの印象は。

A映画『親密な他人』黒沢あすかきれい過ぎて見惚れてしまいました(笑)。神尾さんがクランクアップする時の挨拶で、中村組の印象を「僕は撮影期間中に他の現場にも行っていましたが、中村組に入ると自然と雄二として男の子になることができました。ありがとうございます」と話されて。私が撮影期間中に会っていた神尾さんはこの現場ならではの神尾さんだったのだなあと思いました。様々な監督の現場で経験されていろんな感性を磨かれてきて、今回、中村監督の元に私と神尾さんがいたということがなんて素敵なことなんだろうと思いました。

Q 撮影現場の様子はいかがでしたか。

A黒沢あすか私も神尾さんも余計な会話はしませんでしたが、神尾さんとの程よい距離間でとても芝居に集中できる空間でしたので、役に入り込みすぎるのもよくないですが、ずっと恵でいられる居心地のいい現場でした。
終盤の恵と雄二が感情のぶつけ合いをするシーンは一番時間もかかりましたし、こだわりもありましたし、それをワンショットで撮るということを中村監督をはじめ、私たち演者もスタッフも全員こだわり抜きました。テイクは重ねましたが、誰も諦めずに取り組めたので、このシーンに全てを注ぎ込もうという情熱が感じられました。それも、役の感情に飲み込まれて感情がマグマのように沸騰するということではなく、青白い炎が常に登り立っているような、そんな感情の中で撮り終えたシーンでした。

Q 作品テーマの社会との連動性についてはどう感じましたか。

A映画『親密な他人』黒沢あすかこの映画にコロナとオレオレ詐欺というテーマが盛り込まれたことで、リアルすぎて映画ではなくドラマを撮っているような心持ちになることもあって、複雑な気持ちになってしまうことがありました。それに撮影中は、この映画がスリラー的なところに着地するとも思っていなかったんです。このテーマを通じて恵の気持ちの深いところまで辿りつく作品になると感じていました。

Q 東京国際映画祭での上映や公開を控えて感じることはいかがでしょう。

A黒沢あすかこういった取材をたくさん受けさせていただいて、もう映画は独り立ちして一人歩きしているようにも感じます。中村監督のような感性の方が作る映画だから唯一無二の映画になると感じていました。

Q 黒沢あすかさんからOKWAVEユーザーにメッセージ!

A黒沢あすかドキュメンタリー映画と劇映画の境界線がなく映画を撮り続けてきた中村監督のデビュー作以来の長編劇映画です。恵のことを奇異な目で見るのではなく、隣人ではないかという目で見ていただけたらと思います。心の内を話せる人と話せない人がいますし、そういう状態をスムーズに察知して声かけをしてくれる人もいますよね。自分が恵まれていると思える方には、自分だけ良ければいい、というのではなく、ちょっとだけ周りを見渡して誰かいないか見ていただきたいなと思います。

Q黒沢あすかさんからOKWAVEユーザーに質問!

黒沢あすかこの映画の恵と雄二の二人は本当の家族ではありませんが、そういう母と子の関係を皆さんは受け入れられるでしょうか。

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■Information

『親密な他人』

映画『親密な他人』2022年3月5日(土)渋谷ユーロスペースにて公開

行方不明になった最愛の息子・心平の帰りを待つシングルマザーの恵。ある日、彼女の前に息子の消息を知っていると言う20歳の謎の青年・雄二から電話が入る。呼び出された恵は、雄二から心平の持ち物を渡される。怪訝に思いながらも、マンガ喫茶に寝泊まりしているという雄二を、恵は自宅に招き入れる。やがて二人は親子のような、恋人のような不思議な関係になっていく。しかし雄二には隠された目的が、また恵には誰にも言えない秘密があった。だまし、だまされた果てに見えてくる驚愕の真実とは‥。

脚本・監督: 中村真夕
出演: 黒沢あすか 神尾楓珠 上村侑 尚玄 佐野史郎 丘みつ子
配給: シグロ

http://www.cine.co.jp/shinmitunatanin/

©2021 SIGLO/Omphalos Pictures


■Profile

黒沢あすか

黒沢あすか(映画『親密な他人』)1971年12月22日生まれ、神奈川県出身。90年に『ほしをつぐもの』(監督:小水一男)で映画デビュー。03年公開の『六月の蛇』(監督:塚本晋也)で第23回ポルト国際映画祭最優秀主演女優賞、第13回東京スポーツ映画大賞主演女優賞を受賞。11年に『冷たい熱帯魚』(監督:園子温)で第33回ヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞。19年に『積むさおり』(監督:梅沢壮一)でサンディエゴ「HORRIBLE IMAGININGS FILM FESTIVAL 2019」短編部門 最優秀主演女優賞を受賞。主な出演作に、『嫌われ松子の一生』(06/監督:中島哲也)、『ヒミズ』(12/監督:園子温)、『渇き。』(14/監督:中島哲也)、『沈黙-サイレンス-』(17/監督:マーティン・スコセッシ)、『昼顔』(17/監督:西谷弘)、『楽園』(19/監督:瀬々敬久)、『リスタート』(21/監督:品川ヒロシ)などがある。5月27日(金)公開『恋い焦れ歌え』(熊坂出監督)が控えている。

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