OKWAVE Stars Vol.1076は映画『女子高生に殺されたい』(2022年4月1日公開)城定秀夫監督へのインタビューをお送りします。
Q 以前にも映画化の打診を受けたこともあるという本作ですが、今回の映画化にあたってどんなところを大切にしようと思いましたか。
A城定秀夫古屋兎丸さんの作品は雰囲気で読ませるところも大きくて、映画にするときの盛り上げをどこに置くのか、クライマックスをどう映画で表現するか、それらを古屋先生の世界観を壊さずにどうするかを考えました。台本作りでは原作から思い切った変更を加えています。その間の古屋先生とのやり取りはプロデューサーに間に入ってもらい、探りながらでしたので、完成した台本をお送りしてお会いするときは緊張しました。でも古屋先生からはお会いしてすぐに「素晴らしいアレンジですね」と言っていただけたので、そのまま進めることができました。
Q 主人公の教師・東山春人役に田中圭さんを配されたキャスティングについてお聞かせください。
A城定秀夫台本作りの終盤あたりに、田中さんが演じたいと言ってくれているという話をお聞きし、本当にやってくれるのかなという気持ちでした。田中さんは爽やかな役のイメージがありますが、昨年公開の映画『哀愁しんでれら』で病んだ役をやっていたのをいいなと思っていたので、やってくれるならぜひと思いました。
田中さんの出演が決まって、春人の役作りの話はほとんどしていないです。田中さんは撮影が始まったときは探りながら演じているようでしたが、途中からは田中さんが作ってきた役作りに「なるほどな」と、それに乗っかってどう切り取るかが僕の仕事だと思って進めていきました。
Q 生徒役の描き方についてですが、まず、真帆とあおいについてはいかがでしょうか。
A城定秀夫このふたりは原作にも出てくる役です。そのイメージを持ちながら、南沙良さん、河合優実さんとは本読みで固めた部分もありますが、僕は「役作りは役者の方がプロ」という考え方なので、あまり自分からこうしてくださいとは言わないんです。各自が作ってきたものがバラバラなら整えることはしますが、南さんも河合さんもすでにすごい役者ですから何も言うことはなく、途中からは本当に「用意スタート」をかけるだけでした。
ただ、真帆が豹変することに関しては原作と異なるところがあるので、アクション部と相談して映像でそのことが分かるような仕草をつけています。原作との違いのひとつとして楽しんでいただけたらと思います。とはいえ、そういったものがなくとも、南さんの目の芝居の変化だけでも表現できていると思います。
Q 原作には出てこない京子と愛佳についてはいかがでしょう。
A城定秀夫台本上では登場人物のキャラ分けをしなければならないという発想はありますが、それを生身の役者さんが演じるとどうなるか分からない部分もあり、莉子さん、茅島みずきさんが演じる中で、京子と愛佳はこういう子なんだと発見していく日々でした。原作にないキャラクターであっても、やはりそれを役者に押し付けるのではなく、台本に書いてあるところから読み取って演じてもらって、それをどう切り取るかでした。このふたりをどうこの作品の世界観に馴染ませるかは現場でやりながら決めていきました。こういうものは水物ですし、莉子さん、茅島みずきさんとは事前に本読みもしましたが、実際に制服を着せて教室のみんなの中に入れて初めて見えてくるものがあるなと。映画の撮影はそんなものだと思っています。
Q 春人が自分の計画を遂行していくのと同時に群像劇の要素も強いように感じられました。
A城定秀夫この物語は春人が自分の世界を作り上げるために選んだ人物たちの物語でもあります。春人が最終的な願望のために大勢の生徒たちの中から選んだのがこの4人です。僕自身は「女子高生に殺されたい」と思ったことはありませんが、春人の気持ちに乗っかって、彼ならどうするだろうかと考えながら作っていきました。
原作にも出てくる五月と雪生は春人を止めようとする役回りです。この映画の物語は途中から原作とは異なっていきますので、どう動かすかは考えましたが、雪生は真っ直ぐな性格なので、そこは変えずに動かしていきました。五月はより複雑な役柄で、春人への愛情を持ちながらも、彼を患者としても見ているという、元恋人の目と医者としての目、さらに教師としての目もあるので、春人を取り巻く物語に多角的な関わり方をしているのだと思います。
Q 「殺されたい」という願望もどう生きるかの裏返しの一つではあると思いますが、監督ご自身の死生観についてはいかがでしょうか。
A城定秀夫この「殺されたい」という感情はいわゆる自殺願望とは全く別のものです。死生観については春人が生徒たちに向けて贈る言葉が出てきます。これは原作にはない僕自身の哲学でもあるんです。すべての人間の死因は生まれてきたことにあると考えていて。だからこそ死ぬときに後悔しないように、ということをいつも念頭に置いています。
Q 本作を通じて新しい発見などはありましたか。
A城定秀夫この映画がどういうものになるのかは完成するまで分からないと思っていました。従来のサスペンスとは全く違いますし、女子高生を「殺したい」のではなく「殺されたい」という願望はどうなっていくものなのか、それを田中さんら役者らに演じてもらって、編集して、世武裕子さんの音楽がついて、段々と積み上がる中でこういうものかという発見でした。
Q 城定秀夫監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!
A城定秀夫この映画は「女子高生に殺されたい」という男の物語ですので、先が読めないどころか読みようもない物語になっています。ぜひ映画館で身を委ねて観ていただけたらと思います。
■Information
『女子高生に殺されたい』
女子高生に殺されたいがために高校教師になった男・東山春人。人気教師として日常を送りながらも“理想的な殺され方”の実現のため、9年間も密かに綿密に、“これしかない完璧な計画”を練ってきた。彼の理想の条件は二つ。「完全犯罪であること」「全力で殺されること」。条件を満たす唯一無二の女子高生を標的に、練り上げたシナリオに沿って、真帆、あおい、京子、愛佳というタイプの異なる4人にアプローチしていく……。
出演: 田中圭/南沙良 河合優実 莉子 茅島みずき 細田佳央太 加藤菜津 久保乃々花 キンタカオ/大島優子
原作: 古屋兎丸「女子高生に殺されたい」(新潮社バンチコミックス)
監督・脚本: 城定秀夫
音楽: 世武裕子
配給: 日活
公式サイト: https://joshikoro.com/
Twitter: https://twitter.com/joshikoro_movie
Instagram: https://www.instagram.com/joshikoro_movie/
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■Profile
城定秀夫
1975年生まれ。
2003年『味見したい人妻たち』で映画監督デビューし、ピンク大賞新人監督賞を受賞。その後、Vシネマ、ピンク映画、劇場用映画など100以上の作品を監督し、2016年から4年連続でピンク大賞作品賞を受賞。2020年公開『アルプススタンドのはしの方』がスマッシュヒットし、第42回ヨコハマ映画祭監督賞、第30回日本映画プロフェッショナル大賞監督賞を受賞。そのほか近作 に『性の劇薬』(20)、『花と沼』(20)、『欲しがり奈々ちゃん ~ひとくち、ちょうだい~』(21)、『扉を閉めた女教師』(21)などがある。2022年は本作のほか今泉力哉監督とタッグを組んだ監督作『愛なのに』、山本直樹原作『ビリーバーズ』と脚本作『猫は逃げた』や『よだかの片思い』などが公開。