Vol.1084 映画監督/TVディレクター 城戸涼子(ドキュメンタリー映画『人生ドライブ』について)

映画監督/TVディレクター 城戸涼子(ドキュメンタリー映画『人生ドライブ』)

OKWAVE Stars Vol.1084は熊本県民テレビ発のドキュメンタリー映画『人生ドライブ』(2022年5月21日に公開)城戸涼子監督へのインタビューをお送りします。

Q 監督ご自身は岸さんご一家をどう感じましたか。

A映画監督/TVディレクター 城戸涼子(ドキュメンタリー映画『人生ドライブ』)城戸涼子私は岸さんご家族を2回担当しました。1回目は2006年から2年間で、初めて岸さんのお宅を訪問した時は上のお兄ちゃん3人が家を出た後でしたが、いちばん下の子は幼稚園に入ったばかりで、上に年子の子どもたちがいて、名前と顔を一致させるのが大変でした(笑)。岸さんの自宅での取材は、大きなカメラではなくデジカメで撮影することもあるのですが、撮影をしている時間よりも、子どもたちと一緒に遊んでいる時間が長い時もありました。でも、それはおそらく私だけではなくて、取材のカメラが入ることへの緊張感がないように、子どもたちの中に溶け込んでいくことを他のディレクターらも意識していたのかなと思います。私は長女で妹がひとりいるだけなので、毎日こんなに賑やかでわちゃわちゃしているのは想像がつかなかったです。でも、大騒ぎしていても、子どもたちはちゃんとお手伝いもしているなど、たまたまきょうだいがたくさんいるだけで、仲のいい家族なんだと感じました。

Q 岸家を取り上げた最初のきっかけと、その後も報道を続けた理由は何だったのでしょう。

Aドキュメンタリー映画『人生ドライブ』城戸涼子私が入社する前からの関係性なので、初代の先輩から聞いた話になりますが、母・信子さんが雑誌に家族をテーマにしたエッセイを投稿して賞を獲ったという新聞記事を見たのがきっかけとのことでした。初代のディレクターは面白い人がいるからと取材に行ってみると、お母さんの家族への愛情に触れて、素敵なお母さんと一家だと感じたそうで、それ以降も、家族の夏休みやクリスマスといった節目のイベントを取材し続けたそうです。そうしていたら、10人目の妊娠が分かり、出産シーンにも立ち会って撮影をしたのがこの映画の中にも出てきます。最初に取材を始めたディレクターは熊本県民テレビを退社しましたが、そこで取材をやめずに、新学期になったら今度は大家族の制服や学用品を揃えるのが大変ということを知って別のディレクターが取材継続することになりました。そのうちに、上の子たちが家を発つことになったのでそれも追うぞと。この家族を取材し続ける確固たる信念があったというよりは、取材していると何かが起きる、何かの節目があるということで、気がつけば20年取材していたということなんです。初代のディレクターも最初に担当した20代の時の私もまさかその後20年も取材が続くとは思っていなかったです。最初に取材をした時には生まれてもいなかった10人目の子が今年成人式を迎えたので、本当に長いお付き合いになったと思います。

Q 岸家の皆さんは映画化についてどのような反応だったのでしょう。

A城戸涼子最初は信じてもらえませんでした(笑)。映画のための追加取材もあったので、それでようやく信じてもらえたんです。もちろんとても喜んでくださっているんです。3月に完成披露上映会を開いた際には、10人きょうだいの6人と英治さんと信子さんが来てくれて、みんなすごく喜んでくれました。子どもたちの中には「ただの家族の映画を誰が観に来るの」と言う声もあったようですが、当の岸家の皆さんが映画を観て喜んでいたので、私たちもまずは良かったと思いました。ちなみに取材を受け入れ続けている理由については「プロの人たちがホームビデオを撮り続けてくれているんだよ」というとらえ方をしてくださっています。

Q 映画化そのものの経緯をお聞かせください。

A城戸涼子熊本県民テレビが2022年4月に開局40周年を迎えるのを前に2年ほど前、社内で企画募集があったんです。私は岸さん一家の2回目の担当が回ってきていました。通常、テレビでは昔放送した映像をもう一回出すには再放送などしか手段がありません。視聴者の皆さんからまた観たいというご要望をいただいても、テレビは新しい情報を伝えるメディアですので、古い情報を引っ張り出すのは難しいです。最近、テレビ局発のドキュメンタリー映画が出始めていて、私も観たことがあったので、この開局40周年の企画募集に、せっかく20年も撮っていて、一度放送したきりの映像がたくさんあるのだからそれを引っ張り出したい、そして映画という形で観てもらおうと企画書を書きました。その企画が認められて映画化に至りました。

Q 映画化ではどんなところを大事にしましたか。

A城戸涼子映画化する時に大事にしたのは、短い時間で説明するということを一旦取り払うことです。報道番組では1つのニュースを数分、短いときには30秒程度で伝えようとします。その時に視聴者に勘違いをさせてはいけないし、私たちが取材したことを予断なく伝えなければならないので、どうしても説明が多くなります。結果、観た人に感想を100%委ねる、というのはテレビニュースではなかなか叶わないです。けれども、映画は過度な説明を省いて、同じ映像のシーンでも、隣で一緒に見た人と捉え方が違っていてもいい映像作品です。テレビ放送の時は何があったのかを細かく説明していたのをできるだけ取り払って岸さんたちの映像だけを観てもらって、観た方がたくさんの感想を持てるようにと思いました。誰かに自分を重ねてもらってもいいし、誰かを自分の知っている誰かと重ねてもいいようにと思いました。それとテレビでは出来事のハイライト部分を抜粋して見せていきがちですが、映画ではある出来事の前後をゆったりと見せることで、テレビとは違ったリアルな岸さんの一面を知ってもらえるようにと思いました。

Q 21年のエピソードを1本の映画にまとめる上で、テーマ性のようなものは意識されましたか。

A城戸涼子キーワードのようなものはなくて、テレビで何回も岸さんを取り上げてきたからこそ、映画ではできるだけリアルな岸さんをお見せしようと思いました。テレビ局側の都合で岸さん一家の言動を切り取るのではなく、できるだけ前後含めて出したいなと。そのため、編集もできるだけ切り刻まないようにして、些細な表情を入れるようにしました。
それと、これは大家族の物語ではなく、「信ちゃんと英治くん」という夫婦の物語だということを大事にしていました。たまたま10人も子どもがいるちょっと珍しい家族だったというだけで、大家族そのものを紹介するのではなく、この夫婦の、子育てと共に歩んだ21年間ということを大事にしようと思いました。

Q 21年分の映像や追加取材を経て、何か発見などはありましたか。

Aドキュメンタリー映画『人生ドライブ』城戸涼子このご夫婦はお互いがお互いをすごく大事にしているんです。それはもしかすると子ども最優先ではないかもしれないと映像を見ていて気づかされました。ふたりとも確かに子育てに奮闘されていらっしゃいましたが、夫婦ふたりだけで映画館に出掛けることもそうですし、信子さんが入院してしまった時には「ちょっと離れている時間があった方が会いたいと思うからいいじゃない」とさらっと言ってしまうんです。思い返すとそんなシーンがたくさんあるなあと。第三者のカメラの前で言えるくらいなので、相手を思うことを普段から自然とできているんだろうなと思います。身近な相手にそういう気持ちでいられるのは素敵なことだと思います。身内ほど、甘えていい加減な態度を取ってしまいがちですが、この夫婦はそうではないんだと、20年あまりの映像の中にたくさん残されていることに気づきました。

Q 城戸涼子監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!

A城戸涼子子育て世代の方には、毎月必ずある〇〇ちゃんの日というイベントなど、大家族でなくてもとり入れられることがたくさんあると思います。この映画は子育て世代に限らず、観た人が自分の大切な人のことを思い返すような映画になっていればいいなと思います。私は編集しながら自分の両親のことを思い返しましたが、家族に限らず大事にしている人は誰しもいると思いますので、そんな誰かを思い返す機会になればいいなと思います。

Q城戸涼子監督からOKWAVEユーザーに質問!

城戸涼子皆さんの大切な人はどなたですか。その人を思い返して映画を観ていただくと映画の見方も変わるのかなと思います。
そして映画を観ていただいた方には、映画に出てきた誰に自分を重ねたかもお聞きしたいです。

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■Information

『人生ドライブ』

映画監督/TVディレクター 城戸涼子(ドキュメンタリー映画『人生ドライブ』)2022年5月21日(土)ポレポレ東中野ほか全国順次公開

熊本県宇土市で暮らす岸英治さんと信子さん夫婦には7男3女、10人の子どもがいる。
映画から溢れ、みえてくるのは10人の子どもたちへの愛情や暮らしの工夫。
その中のひとつ、岸家には月に一度、自分が生まれた日にお父さんかお母さんを独り占めできるという、子どもにとって大切な日であり、大家族・岸家ならではの約束がある。同時に英治さんと信子さんは忙しい日々の合間を縫って2人でドライブをすることも。60代を過ぎた今でも、お互いを名前で呼び合い、他愛のない会話の中には、長年連れ添う夫婦だけの穏やかな時間が流れる。
そんな家族を襲った、自宅の全焼、2016年の熊本地震、緊急入院…次々と困難に見舞われても、時にはふたりで、また時には家族で乗り越えてきた。2000年頃から、岸家の生活を21年にわたり寄り添うように取材をしたのは地元“熊本県民テレビ”。「NNNドキュメント」にて話題となったTVドキュメンタリーを開局40周年を記念して劇場上映に向け再編集し、初の映画公開に挑んだ。ナレーションは2児の母である女優の板谷由夏が務めた。コロナ禍の今だからこそ、岸さん夫婦の暮らしや子どもたちへの接し方からは、普段見落としがちなすぐそこにある幸せに気づくヒントが見えてくる。
人生ドライブ、終点はもう少し先。

監督: 城戸涼子
ナレーション: 板谷由夏
製作・著作: KKT熊本県民テレビ
配給: 太秦

https://jinsei-drive.com/

© 2022 KKT 熊本県民テレビ


■Profile

城戸涼子

映画監督/TVディレクター 城戸涼子(ドキュメンタリー映画『人生ドライブ』)1979年生まれ、福岡県出身。
2002年4月、熊本県民テレビに入社し報道記者としてキャリアをスタート。2005年に制作に配属が変わり、企画・撮影・編集を初めて1人で担う中で映像の奥深さを知る(まだまだ勉強中)。2006年、汚染された血液製剤でC型肝炎に感染した患者たちが国を相手に起こした「薬害肝炎訴訟」の原告を追い、ドキュメンタリー番組を初制作。「ひとの人生にふれること」に魅力を抱き、その後は災害や過疎問題のほか福祉や政治、鉄道など様々なジャンルで20本以上のドキュメンタリー番組制作に携わる。岸さん家族の取材は2006年から2年間担当したが職場異動に伴い一旦外れ、2019年に再担当。現在はローカル情報番組「てれビタevery.」のニュース編集長として日々起こる熊本の出来事と向き合う傍ら、小さなデジカメを持って岸さんの取材へ足を運ぶ日々を送っている。今回の映画が初監督作品。


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