OKWAVE Stars Vol.1087は短編映画『CHAMBARA』を初監督した俳優の河原健二さんへのインタビューをお送りします。
Q 役所広司さんの“付き人”を10年されたとのことですね。
A河原健二最近は“付き人”という言い方や、弟子をとるといったことはあまりないですよね。僕はいわば役所さんに拾ってもらったようなものなんです。役所さんとの出会いは、役者を志して、何のツテもなく上京してきて、生活のためにテレビ東京の報道局国際部の裏方として働かせていただいていたときで、偶然、役所さんの現場に行くチャンスが巡ってきたんです。テレビ東京で「ガイアの夜明け」という番組がスタートしていて、番組に案内人として出演なさる役所さんと接点ができたんです。僕はこの前に役所さんが主演なされた舞台「ふたたびの恋」を拝観していたり、映画を通じてすっかり役所さんに憧れていて、役者を目指していることを公言していましたので、「ガイアの夜明け」のロケの現場を見学をさせてもらえました。そのとき偶然がもう一つ重なって、当時の助監督さんが大学の同級生だったんです。その助監督さんから「エキストラで出てみない?」と言われて喜んで出演もさせてもらいました。その帰りのロケバスの中で、番組が前役(スタンドイン=現場で照明や撮影の準備作業のために俳優の代理をする人)を探しているという話を聞いて、「それならぜひ」と手を挙げて、次の回から参加させていただけることになりました。それで役所さんの一人芝居のパートのカメラテストで、その一人芝居を自分なりに演じる、ということを7、8年に渡って続けました。僕なりに毎回全力でやっているのをもしかしたら役所さんは見ていてくださったのか、あるとき、「付き人をやってみないか」とお声をかけていただいたんです。それからは、付き人をしながら、一緒に現場に同行させていただき、僕も役者として出演もさせていただきながら、10年勉強させていただきました。その後、40歳のタイミングで独り立ちしようと決心して、役所さんからも「頑張れ」と背中を押して送り出していただきました。役所さんには感謝しかありません。
Q では『CHAMBARA』を企画した経緯についてお聞かせください。
A河原健二コロナ禍で役者の現場が延期になるなどがあって、あらためて自分が何をしたいのか考えたんです。映画が好きでしたし、自分で台本も書いていました。付き人をしているときから役所さんからも「自分で脚本を書いたら勉強になる」と言われていたので、役所さんにも読んでいただいたりしていました。2019年にこの『CHAMBARA』の準備稿を書いた際にも「おもしろいじゃないか」と言ってもらえたので、本格的に作ろうと思い立ちました。その後2020年になってコロナ感染拡大していきましたが、準備を進めてその年の9月4日に撮影に漕ぎ着けました。その日は台風が2つも来ていて、撮影監督とギリギリまで悩みましたが、その日だけ奇跡的に晴れてくれて撮影ができました。その後、音楽を作ってくれたriccaさんが撮影日のことは知らずに「晴れた日に」というタイトルを曲に付けてくださり、何だか不思議な気持ちになりました。
Q 時代劇を題材に取られた理由はいかがでしょう。
A河原健二日本映画が好きなので日本のオリジナルコンテンツを海外の方に観てもらいたいという思いが最初にありました。僕自身、時代劇が好きなのと、時代劇の短編は自分も観たことがなかったので、黒澤作品への憧れも込めてシネマスコープ、モノクロというフォーマットにしました。
Q 撮影までの準備についてはいかがでしたか。
A河原健二役者としての準備は殺陣の稽古など、共演した長谷川大さんと試行錯誤しながら進めていました。一方で、映画製作ははじめてですので、まずはスタッフさん集めからでした。ご縁のある方々にお声がけをして、撮影監督の平木慎司さんをはじめ、皆さんが心意気でお力を貸して下さり、段々とクルーの座組みができていきました。衣装などを揃えるのも大変でしたが、中でも一番の難関はかつらでした。さすがにかつらは自前では用意できないので、株式会社山田かつらの佐藤実さんという、役所さんの現場でもお世話になった床山さん(俳優の髪を結いかつらを整える職)にダメもとでご相談したら、「時代劇を応援したい」とお力を貸していただけました。そんな周りのご縁とご協力があってこそで撮影に至りました。本当にスタッフ・キャスト皆様のおかげです。
Q 御殿場での撮影についてお聞かせください。
A河原健二御殿場は時代劇の聖地、自然豊かな最高のロケ地です。広い平原と山間のロケーションですが、もちろん周辺には電線も民家もあるのでカメラの向きは制限せざるを得ませんでした。予算の潤沢な映画でしたら映り込みも消せますが、そうもいかなかったので編集のとき残念に思いながらカットしたところもあります。時代劇にとって京都の撮影所のような場はとても貴重なんだと改めて実感しました。
Q 12分の戦いの中にいろいろなドラマがありますが、構成はどのように考えた結果なのでしょう。
A河原健二もともと20分以内というつもりでいました。また、今回の『CHAMBARA』は元々考えていた長編の一部を短編として作っています。僕の演じた山本剱二郎と長谷川さんが演じた長谷部弥一という2人が激突する1シーンを抜粋しています。僕が描きたいことと込めた想いがこのシーンで成立すると思ったので、まずは短編として作りつつ、将来的には長編のトレーラーにもなればいいなと思いました。時代劇の長編を作るには超えなければならないことがたくさんありますが、まずはこの短編を観てもらう機会を増やしていければと考えています。
Q こだわったところなどはいかがでしょう。
A河原健二時代劇は現代劇よりも難しいところが多々あります。着物は古着を基に撮影用に加工しています。刀の下げ緒や草鞋なども同様です。それと刀については、時代劇でよく使う竹光ではなく亜鉛合金などの居合刀を使っているんです。重量があるので身体に当たってしまうと危険ですが、そこは稽古を重ねて事故のないように演じました。やはり、刀の重みのようなものを表現したかったし、長谷川さんは殺陣に慣れていて真剣を扱ったこともあるので、彼に師事して、おそらく本当の切り合いとはこうだっただろう、という日本刀を用いたリアルな殺陣を作りました。刀がぶつかり合う「カキーン!」や切った時の「ブシューッ!」といった効果音を用いなかったので、かえって違和感を覚えるかもしれませんが、その点でニューチャンバラシネマと銘打った、一味違う作品になったと思います。基本的には長回しで一連の切り合いを撮って、合間にカットを挿入するような撮り方をしました。
Q 海外映画祭での反響についてお聞かせください。
A河原健二ロンドン・シーズナル短編映画祭2021で特別賞「オナラブル・メンション」を受賞しましたが、「見事なクオリティ」と同映画祭の方から言ってもらえました。果し合いという題材ですが、最後まで観ていただくとコメディのようだったり風刺のようにも感じてもらえている部分もあるのかなと思います。
Q 本作を作って新しい発見などはありましたか。
A河原健二映画作りは奥が深いな、ということと、共同作業だということを改めて実感しました。プロデューサーを立てた方がいい、というアドバイスをいただいていた意味も実感しました。いま2本目の現代劇の短編を準備中ですが、自分は台本を書くのも好きだということにも気づきました。今後も監督と役者の両方をやっていければと考えています。その根源は、自分が観たい映画を作って自分も役者として出たいという思いなので、それこそクリント・イーストウッドさんのようなスタイルは憧れです。役所さんが『ガマの油』を監督・主演されたのを間近で見ていたときは「大変だし、よくできるな。自分には絶対に無理だ」と思っていたんです。ですが、挑戦してみると難しさよりも楽しさを感じました。
Q 河原健二さんからOKWAVEユーザーにメッセージ!
A河原健二時代劇が昔のようにもっと身近なコンテンツになればいいなと思っています。時代劇の映画作品も少なくなっている中で、この『CHAMBARA』が何かのきっかけになればいいなと思います。
■Information
『CHAMBARA』
江戸時代、秋晴れの下、二人の男が対峙している。男たちは浪人か、ならず者か!?
仇討ちか、果し合いか!? 何故、斬り合う運命なのか?
繰り返される人間の業に果たして救いはあるのか。それでもこの世は美しい…。
河原健二 / 長谷川大
企画・脚本・監督: 河原健二
撮影監督: 平木慎司
公式Twitter: @CHAMBARA_movie
本作「CHAMBARA」の予告編をYouTube「KENCHAN」にて公開中
■Profile
河原健二
1977年生まれ、大阪府堺市出身。
俳優として、日本を代表する俳優・役所広司氏に師事し10年間に渡り付き人として学んだ実力派。2007年『それでもボクはやってない』(周防正行監督)で映画デビュー以降、映画やテレビを中心に活動している。
主な映画出演作に『ガマの油』(役所広司監督)、『連合艦隊司令長官 山本五十六』(成島出監督)、『64ロクヨン』(瀬々敬久監督)、『花戦さ』(篠原哲雄監督)、『天外者』(田中光敏監督)等、テレビではNHK「八重の桜」「足尾から来た女」、CX「僕のいた時間」、TX「駐在刑事-Season3」等がある。現在、主演した短編映画『110番する』(パブロ・アブセント監督)がSmash.にて絶賛配信中。また、映画『宮古島物語-ふたたヴィラ』(上西雄大監督)、『ピエロたち』(北和気監督)が公開予定である。
俳優として活動する中、本作を自ら企画プロデュース。初監督作品となる『CHAMBARA』は、2021年のロンドン・シーズナル短編映画祭2021で特別賞「オナラブルメンション」を受賞。インドの第8回ゴア短編映画祭にオフィシャルセレクション。同じくインドで開催されたブッダ国際映画祭2021にもオフィシャルセレクションされ、監督賞「ベストディレクション」を受賞。今年は、第1回宮古島国際映画祭にオフィシャルセレクションされ、コロナ禍で順延中の第6回ベルガウム国際短編映画祭にも唯一の日本作品としてオフィシャルセレクションされている。
目下、短編2作目の準備中で、本作『CHAMBARA』の長編化に向けた脚本も執筆している。
河原健二Twitter: @kawaharakenjii
Instagram: @kawaharakenjiii