OKWAVE Stars Vol.1089は映画『頭痛が痛い』(2022年6月3日公開)守田悠人監督へのインタビューをお送りします。
Q 本作を企画した経緯をお聞かせください。
A守田悠人2018年、配信ライブ中に線路に飛び降りた高校生の存在が、今回の企画の発端となっています。彼女が飛び込んだ瞬間の映像や過去の配信動画がネット上に拡散されて、いわゆる“お祭り”のようになっていたのですが、その一連を携帯電話越しに眺めることしかできずにいたことや、当時の風潮が気持ち悪くて。今、映画を撮らないと、自分はこの気持ち悪さを有耶無耶にして無かったことにしてしまう、という焦りのようなものに背中を押されて映画の企画を立てていきました。今しか撮れないものを撮りたかったので、当時建設中だった新国立競技場を入れ込みました。
Q 撮影に至るまではどのような準備をされたのでしょう。
A守田悠人この映画を企画したのは大学4年生の時です。脚本を書く前にスタッフとして同期の友だちに声をかけました。僕は締め切りがないと書けないタイプなので、プロデューサーと助監督も務めてくれた佐藤形而くんにスケジュールを決めてもらって、「この日にオーディションやるからここまでに書いて」と段取りしてもらいました。ですが、結局、クランクイン時点で脚本は完成していなくて、それでも撮るしかないと、やりたいことを整理できていないまま撮影を始めました。自分に足りない部分を埋めてくれる仲間がいて良かったです。
Q オーディションで、いく役に阿部百衣子さん、鳴海役にせとらえとさんを選ばれた決め手は何だったのでしょう。
A守田悠人オーディションに来ていただいた方全員に「死にたいと思ったことはありますか」と質問をしました。涙ながらに過去を語る人もいれば、「ないです」と一言で返す人もいる中で、阿部さんは自分に当てられた焦点をうまくかわすような受け答えで、絶妙にはぐらかされたんですけど、そこに魅力を感じました。一方、せとらさんは映画のオーディションに来るような格好ではない子が来た、というのが第一印象でした。シースルーのシャツに派手な豹柄のパンツ姿で、挙動不審だし、緊張で震えているのが目に見えて分かるし、この人はすごく不器用だと感じました。僕も多分相当不器用なので、そういう挙動が他者に伝わってしまうというのは身に染みて分かりましたし、せとらさんの不器用さは鳴海役に活きると思って選ばせていただきました。
Q 阿部さん、せとらさんのふたりとも演技初挑戦ということでしたが、演出はどのようにされたのでしょう。
A守田悠人役柄について自分からはあまり伝えたくなかったので、それぞれに質問シートを用意しました。役になりきってもいいし、自分自身として答えてもいいですと伝えて、答えていただくことで、役をどのように捉えているかなどを把握しました。「こう演じてください」とも言いたくなかったので、ふたりのお芝居を見守りながら、まるで第三者のようにその時の考えを聞くことにしました。僕自身が書いたセリフを、脚本通りに喋ってもらっていても、現場となると何でこの場面でこんなセリフが言えるんだろうと思ったりしてしまって、そういうときは「なぜきみはこの場面でそんなことを言うの?」と質問したり。監督としての僕はふたりに対して側からヤジを飛ばしているようなものでした(笑)。
Q いくと鳴海の物語に加え、直樹というライターを登場させた狙いについてお聞かせください。
A守田悠人直樹には第三者としての立場で、空回りしてほしいと思っていました。僕自身の不甲斐なさみたいなものを直樹に託してはいるのですが、直樹が空回れば空回るほど、劇中で出てくる爆弾という存在の奥行きが出ると思いました。
Q 脚本の中で、梶井基次郎の「檸檬」を取り入れていました。
A守田悠人「檸檬」という作品のモチーフは本作のテーマと結び付けられると思って、「檸檬」に感化された高校生の話にしようと思いました。「檸檬」は主人公が一時的に自身の憂鬱から解放されたところで物語が終わりますが、現実では憂鬱というものはまたすぐにやってきますし、この映画では「檸檬」の先にある現実を描こうと思いました。
Q 撮影中に何か印象深い出来事はありましたか。
A守田悠人鳴海のラストシーンの撮影が印象に残っています。あることがきっかけで鳴海役のせとらさんや、自分、スタッフが同時にツボに入ってしまい、現場が全然進まなかったのですが、その傍らではクランアップした阿部さんが黙々と小道具を作ってくれている状況で、かなりカオスだった記憶があります。想定とは全然違った現場進行になってしまいましたが、結果的にそのシーンは自分が一番気に入っているものが撮れました。想定通りに進まないことがいい結果をもたらすというのは、今回肌で感じました。
Q 行き場のなさや憂鬱さといった内面を描いた映画ですが現場は楽しい雰囲気だったそうですね。
A守田悠人スタッフは大学の同期や同世代の人だけでしたし、阿部さん、せとらさんとも距離感が近かったように思います。ふたりとも「私たちの作品だ」という感じで作品と接してくれました。オーディションで出会ったとは思えないほど、撮影を通じていろんな話をしましたし、監督と俳優ということとは別に、今では友だちだと言える間柄だと思います。
今回、全てが手探りでしたが、スタッフとして関わってくれた仲間たちが良い雰囲気を作ってくれていたんだと思います。
Q 本作が初監督作ということでしたが、新しい発見などはありましたか。
A守田悠人編集作業のしんどさです。審査員特別賞を頂いた「ぴあフィルムフェスティバル」の「PFFアワード2020」に応募した際には一人で編集をしましたが、素材を見たり編集するたびに自分に対して絶望しました。今回の劇場公開では再編集したバージョンでの公開なのですが、再編集には高校を卒業したばかりの小本菜々香さんという方が手を挙げてくれて、彼女が編集してきたものに僕が意見するという進め方でした。意見のキャッチボールがリアルタイムで行えるだけで気持ちが大分楽でしたし、「小本が何とかしてくれるだろう」という感じで無責任なことも沢山言いました。自分で抱え込まず、他者に託すということは案外悪くないというのは、今回の再編集でより一層感じました。
Q 本作を撮り終えて、あるいはこうして劇場公開に至った今、2018年の事件に対して考えの変化や何か見えたものはありますか。
A守田悠人撮ったから言えるということはあまりなくて、むしろ終わりはないと感じています。それで今回再編集もしましたし、まだまだもがいている感覚です。自分の中に隠し持つくらいの気持ちはあっても、それを言葉にしてしまうことは危ないと思いますし、今回の映画のテーマとは、一生付き合っていくつもりだということだけは言えます。
Q 守田悠人監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!
A守田悠人本作はもちろん皆さんに観ていただきたいですが、とくに普段映画館に来れないような方にも観ていただけたらなと思っています。ネットでオーディションの告知をした際、保健室登校をしている東北在住の子から「参加したいです」というメールをいただいたんです。こちらにお金の余裕があまりなく、交通費の問題で結果的にお断りすることになりましたが、彼女がこの映画の企画に反応して応募してくれたことで、この映画は撮り切らなければならないとより一層思いましたし、今、生き辛い状況に見舞われている方々へ、一人でもいいので届けることができたら、と思っています。そして何より、皆様と劇場でお逢いできることを楽しみにしています。
■Information
『頭痛が痛い』
2022年6月3日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
東京五輪に向けた新国立競技場の建設が進む 2018 年の東京。不登校気味の高校生・鳴海はライブ配信を行うことにより、行き場の無さを埋めようとする。鳴海の同級生・いくはいつも明るく振る舞う反面、形容しがたい憂鬱な気持ちを吐き出せずにいた。ある日いくは、梶井基次郎の『檸檬』のように、自分の遺書を赤の他人の家に投函することで憂鬱を晴らそうとする。その遺書を読んだ鳴海と、フリージャーナリストの直樹は、いくが発するSOSを感じ…
出演: 阿部百衣子 せとらえと
脚本・監督: 守田悠人
配給: アルミード
公式サイト: zutsugaitai-movie.com
Twitter: https://twitter.com/eiga_zutugaitai
Facebook: https://www.facebook.com/zutsugaitai
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■Profile
守田悠人
1997年3月25日生まれ、愛知県出身。
大学4年時に執筆した『幸福なLINE』が第28回新人シナリオコンクールで佳作1位受賞。元々脚本家志望だったが、『ラザロ-LAZARUS-』(07/井土紀州監督)と出会ってしまったのを契機に、監督として自主映画制作を始める。『頭痛が痛い』は初監督作品。