Vol.1095 佐藤周、いまおかしんじ(映画『ヘタな二人の恋の話』について)

佐藤周、いまおかしんじ(映画『ヘタな二人の恋の話』)

OKWAVE Stars Vol.1095は映画『ヘタな二人の恋の話』(2022年7月1日公開)佐藤周監督と脚本のいまおかしんじさんへのインタビューをお送りします。

Q この映画の企画立ち上げの経緯をお聞かせください。

A映画『ヘタな二人の恋の話』佐藤周メンヘラで生きづらさを感じている女の子を主人公にした初期のプロットがあって、それをいまおかさんにお願いして本格的なプロット化を経て、脚本にしていただきました。

いまおかしんじ監督が付き合っていた彼女がメンヘラだったという話を聞いたんです。「すごく面倒くさいけれど、時々それがすごくかわいく見える時があるから、別れようと思っても思いとどまったことがあるんです」という話だったので、そういうところから作っていきました。

佐藤周実体験などから自然とストーリーが生まれたのかなと思います。この映画の主人公の綾子も祐太も表現が下手で人付き合いが苦手なんですよね。綾子は性行為に走ったり、激しくものに当たったり。祐太は内にこもってしまう。コミュニケーションや言葉が下手なところは僕も似たところがあるので祐太に共感できます。僕も自分でも思ってもみない失言をしてしまうことがあるので、すごく納得感があるんです。

いまおかしんじ監督の話や自分の体験を少し変えながら書いています。自分も祐太のように意中の相手を道端で待ち伏せしたことがあって(笑)。大学生の時に好きな子の家の前で待ち伏せして、帰ってきたところを抱きつこうとしたら突き飛ばされて「普通に会えなくなったじゃない!」と怒られて。気まずい関係になっちゃったんです(笑)。そういう失敗を繰り返していたので、その経験を脚本にして自分を浄化しました(笑)。歳を取ると段々と失敗しなくなるので人生はつまらなくなるんですが、振り返るとそういう失敗が楽しかったんじゃないかと思います。

佐藤周失敗するのも状況を打破しようとしたからなんですよね。大人になるとそもそも壁を乗り越えなくなるのだと思いますし、それは今の若者にもあるのではないかと思います。失敗してはいけないと思わされているのかなという気がします。

Q 本作はキングレコードの映画新レーベル、マヨナカキネマ第1弾とのことですが、何かその上で決まりはあったのでしょうか。

A佐藤周映画が完成してからこのマヨナカキネマの第1弾に決まったんです。いまおかさんが撮られた第2弾『甲州街道から愛を込めて』もこの映画同様に若者の生きづらさを描いていますよね。

いまおかしんじ『甲州街道から愛を込めて』は逆に中野太さんという脚本家が書いて僕が監督を務めているので、『ヘタな二人の恋の話』同様に若者の生きづらさを描いているところは偶然なんです。今、世の中的にこういう題材が求められているんじゃないか、ということでしょうね。

佐藤周僕自身、そんな若者たちを応援したいと思っていますし、映画レーベルとしてもいいコンセプトだと思います。真夜中の次には朝が来るだろうという意味も込められていると思いますし。一番暗いのは今だけど、その後に明るくなるんじゃないかという希望を前提にしていると思うので、すごくいいレーベル名だと思います。

Q 綾子と祐太の二人をつなぐのが冷蔵庫と、白くまアイスというところが面白いです。

A映画『ヘタな二人の恋の話』佐藤周最初から最後まで、いい記号としてそれぞれ面白く機能していると思います。

いまおかしんじ脚本を書いていて、セックスシーンの時、コンドームをつけようとしている間の気まずさを埋めるために何か言おうとする祐太の「地球温暖化で白熊が絶滅寸前らしい」というセリフを思いついたら、綾子の「私、白くまアイスが食べたい」がパッと思い浮かんで。どちらも完全に思いつきですが、それが最初から最後までいい形でつながったと思います。

佐藤周撮影に入ってから製作部は白くまアイスがどこに売っているのか探しに奔走していました(笑)。

いまおかしんじそういうことを思いつくときはうまくいっているんじゃないかという気がします。佐藤くんを助けたいって気持ちもあって、脚本は普段自分が撮る映画よりもがんばった気がします(笑)。

佐藤周それは嬉しいです(笑)。

Q 綾子役の街山みほさん、祐太役の鈴木志遠さんにはどんなお芝居を求めましたか。

A佐藤周ふたりには「とにかく感情を乗せてください」と。街山さんは映画初出演でしたし、鈴木さんも経験豊富ではありませんが、セリフに気持ちを乗せてくれれば、身体表現か表情のどちらかは良くなるだろうという持論があって、その通りうまくいったのかなと思います。この映画ではいつもより俳優さんたちとコミュニケーションを取るようにしました。僕が書いた脚本ではなかったのも良かったと思います。いまおかさんが書かれた脚本だったからこそ、「ここはこういう感情だと思うけどどう思う?」とか「ここではどんな気持ちなんだろう?」と3人で謎解きするようにキャラクターたちの気持ちを考える時間を持てたのがうまくいった要因かなと思います。それでふたりも気持ちを乗せやすかっただろうし、僕も演出しやすかったです。自分も一生懸命考えたので、いい経験でした。

いまおかしんじ綾子はやたらと泣き喚いているので、書き終えてから、撮るのは大変じゃないかと思っていました。「泣く」とか書くのは簡単なんだけど、泣くにもいろんな種類があって大変だったろうね(笑)。

佐藤周静かに泣く場面もあれば、走りながら泣くこともあるので、技術的にもよくやったと思います。街山さんはしっかり気持ちを入れて、ちゃんと泣いていました。逆に技術的にはできなかったからかもしれませんが、「泣けるまで待ってください」と言ってきて、彼女が準備できてから撮ったんです。気持ちを作るのはいいことですし、結果も良かったと思います。

Q 本作を通じて新しい発見などはありましたか。

A映画『ヘタな二人の恋の話』佐藤周僕はこれまでホラー映画を中心に撮ってきたので、本格的な恋愛映画は初めてだったんです。その脚本がいまおかさんだったので、初めての恋愛映画で大正解だったと思いますし、素晴らしい経験になりました。ホラー映画でももちろんキャラクターは大事ですが、僕自身どう怖く見せるかが好きで撮っていたのでギミックの部分に時間を割くことが多かったんです。恋愛映画はよりキャラクターと向き合う必要があるし、人で見せるしかないという当たり前のことに、映画監督を続けてきて初めて向き合うことができました。
また、新人俳優さんとどう向き合うといい作品が作れるかという手応えのようなものを感じることもできました。演技の技量ももちろん大事ですが、どれだけ俳優を乗せられるかということが、とくに新人さんの場合は大事なんだなと。綾子のバイト先の店長役の川瀬陽太さんのようなベテランの方であれば何も言わなくてもいい感じに演じていただけますが、俳優と向き合って気持ちを一緒に作っていくと、実在感が増してくるので、それを経験できたのは本当に良かったと思います。

いまおかしんじシナリオ作りは通常は設計図を書くように、なるべく客観的に書いていくんですが、この映画ではラストのふたりの会話も書きながらセリフがどんどん出てきました。そういう風に出てくる時は脚本がうまくいっているんだと思います。

Q佐藤周監督、いまおかしんじさんからOKWAVEユーザーに質問!

佐藤周「生きづらい時代」と言われていますが、何に生きづらいと思いますか。

いまおかしんじ三鷹で白くまアイス、どこで買えますか。

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■Information

『ヘタな二人の恋の話』

映画『ヘタな二人の恋の話』2022年7月1日(金)公開

人とのコミュニケーションがうまくできない祐太と綾子。偶然の出会いから知り合った二人がささやかな恋に落ちる。人生がヘタな二人の出会いから別れまでの7年間を描く青春映画。

監督: 佐藤周
脚本: いまおかしんじ
出演: 街山みほ 鈴木志遠 伊藤和哉 大久保雛 小田飛鳥(友情出演)
古藤真彦 川瀬陽太
製作・配給: キングレコード

http://mayonaka-kinema.com/hetakoi/
(C) 2022「ヘタな二人の恋の話」製作委員会


■Profile
佐藤周、いまおかしんじ(映画『ヘタな二人の恋の話』)

佐藤周

1988年7月1日生まれ、大分県出身。
2011年、立命館大学映像学部在学中に制作した短編ホラー『へんたい』が学生残酷映画祭にてグランプリと観客賞を受賞。同作は国内外多数の映画祭で上映された。2016年、岩井志麻子によるホラー短編小説を原作とした『伝染る物語 KADOKAWA怪談実話』の中の一話「振り返ってはいけない」でドラマ初演出。2017年、心霊ドキュメンタリー『怪談新耳袋Gメン 復活編』で劇場用長編映画を初監督。2019年、幽霊との性的接触を題材にした長編ホラー映画『シオリノインム』で「第6回 夏のホラー秘宝まつり」グランプリを受賞。2020年、第三回大蔵映画新人監督発掘プロジェクトにて優秀賞を受賞。2021年、『橘アヤコは見られたい』が第50回ロッテルダム国際映画祭にて招待上映。2021年、アクションホラー短編「日本の一番ヤバい場所」がTikTok TOHO Film Festival 2021にて観客賞を受賞。

いまおかしんじ

1965年生まれ、大阪府出身。
瀬々敬久、神代辰巳らの助監督を経て『彗星まち』(95)で監督デビュー。 2011年にはクリストファー・ドイルを撮影にむかえた日独合作映画『UNDERWATER LOVE おんなの河童』を発表。近年も『れいこいるか』(20)、『葵ちゃんはやらせてくれない』(21)など意欲作を発表。2022年はマヨナカキネマ第2弾『甲州街道から愛を込めて』をはじめ4作品が8月、9月に連続公開される。


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