Vol.1097 映画監督 小山駿助(映画『初仕事』について)

映画監督 小山駿助(映画『初仕事』)

OKWAVE Stars Vol.1097は自身も出演した映画『初仕事』(公開中)小山駿助監督へのインタビューをお送りします。

Q 難しい題材ながら身近でもある題材である本作を企画した経緯をお聞かせください。

A小山駿助集英社の季刊誌「kotoba」で、死に関する特集が組まれているのを読んだのがきっかけです。その特集を通じて、カメラが生まれた当初、地域によってヨーロッパでは遺体の撮影が行われていた時期があると知り、その当時に撮られたとされる写真も見ました。亡くなった方への思い入れがない状態で見てしまっていますので、率直に感じたのは気持ち悪さでした。一方で、自分がその立場になったと想像すると、間違った行為ではないという共感のような感情も湧きました。その2つの感情をどう扱えばいいのだろうという興味がこの映画を作る経緯となりました。
「映画にするに値する題材か」という昔の映画の教則のようなことで言えば、“葛藤”というものは映画作りの代表的な題材の一つです。自分が感じたこの2つの感情は、まさに描くに足る題材だと思いましたので、そこから作っていきました。

Q 台本作りはスムーズに進んだのでしょうか。

A映画『初仕事』小山駿助映画作りにおいては「自分が経験した感情から汲み取っていく」という考え方もありますが、この映画はそれとは完全に離れたところからスタートしてしまっています。途中で困ることもあるだろうし、登場人物の感情に近づいていくのは数ヶ月程度でできることではないと最初から分かっていました。ゆっくり考えながら、撮影中にセリフを変えることもあれば、アフレコや編集中でも変えることもありました。そのくらい柔軟に考えないとできないと思って取り組みました。

Q 監督を務めながら主演もされました。どのような準備をされて臨んだのでしょう。

A小山駿助私を支えてくれるスタッフに恵まれたからこそ務められたところはあります。やはり当日現場に行ってその場で考えるのは出演しながらだと難しいので、ロケハン時に照明や撮影の画角などに目星をつけ、当日までに作成する絵コンテにそれらの情報を入れることで、私が出演していてもスタッフだけで撮影を進められるようにしていました。もちろん全部がそうとはいきませんでしたが、できるだけそのようにしようと心がけていました。

Q その映像や画角にはこだわりを感じました。

A小山駿助裏話をしてしまうと、カメラを固定するのは安上がりな方法なんです(笑)。この映画はEOS 5D Mark IIで撮影しています。使用したのは50ミリと85ミリの2種類の単焦点レンズで被写界深度も狭く、ちょっとでもピントがズレたら撮り直しになってしまいます。自主制作の機材ではできることに限界がありますので、いっそ同画角の場面が何回も出てくることにしてしまおう、という映像上の戦略を予め練りました。各シーン、役者が一人画面上にいればいいようなカメラ位置を事前に決めました。これらは自主制作ならではの工夫ではあるのですが、観た方にとって心地良い映像になっていればいいなと思います。

Q 亡くした子どもの写真撮影を依頼する安斎役を自ら演じられました。

A小山駿助他の方に任せてはいけない役だと感じたのが自分で演じた理由です。別の視点では、役柄も役柄なので、演じていただく役者さんにとってイメージの上で不利益になる可能性があるとも思いました。私は役者として生きていこうとは思っていないのと、裏話もすると、私一人だけで現場に行って撮影をする日もありましたので、それが楽しいのかと自問すると難しいですが(笑)、よい落とし所になったなと思います。

Q 沼に入っていくシーンは序盤の見どころですね。

A映画『初仕事』小山駿助撮影は一期、二期に分かれていて、あのシーンは撮影素材としては一番古いです。一期の撮影を終えて、沼に入っていくシーンの映像素材を見ながら、どういう物語にしていくのかをさらに考えて台本を変化させていきました。ですので、絵コンテなどの目指す形はその都度ありますが、映画全体としては帰納的というよりは演繹的な思考で作っているんです。とくに製作過程が長くなると、いかに撮影したものを活かすかという考え方になりますね。

Q “初仕事”となるカメラマン・山下役の澤田栄一さんにはどのような演出をされたのでしょう。

A映画『初仕事』小山駿助彼は録音のスタッフとしても関わってもらっていて、私と同様に役者一本で生きていこうという思考ではない人です。役者の技量を十分に持っている方への演出をやったことがなかったので、その分、澤田くんへの演出はやりやすかったです。「前のシーンは左足から隣の部屋に出ていったので、次のシーンはその左足から入ってください」といったシーンのアクションのつながりのような指示を中心にしていましたので、彼は大変だったかもしれません。

Q 緻密な計算をして作られているのですね。一方でエモーショナルな映画に仕上がりました。

A小山駿助実際、シーンによっては泣きながら編集することもあるんです。それとは別に、撮影したものは全ていいシーンだ、とも思っていて、「このシーンはカットしよう」と思ってしまうのなら、そもそも良さが足りないシーンだと思います。役者の感情表現に限らず、どんなシーンもエモーショナルにしたいという私の思考が入っているのかなと思います。
編集自体については、絵コンテのようにしたいと思っていても、実写作品では、例えば会話シーンで双方の顔を映す場合に、1コマ、2コマ増減させるだけでニュアンスも変わってきます。これは撮影時に意識しているというよりは編集で作っていく部分です。

Q シリアスなテーマを扱いながらユーモラスなシーンもあります。

A小山駿助企画時から意図していました。実際のお葬式でも、お焼香をして精進落としの部屋に行くと、人によってはシリアスな空気ではなくなることもあると思います。シリアスな映画に付き物の場面で埋め尽くされてしまうと、私は逆にリアルだとは感じられませんし、その場では違うことを考えている人もいるはずですので、会話の噛み合わないユーモラスに見えるシーンも入れました。

Q 東京国際映画祭などの反響をどう受け止めていますか。

A小山駿助作った映画の感想を映画祭関係者の方や一般の方からいただく機会はほぼ初めてでした。映画の「批評」であれば、批評するための論法がありますが、「感想」はそのときの感情だと思いました。もちろん、良い感想をいただけると嬉しいですが、一方で感想は鏡だとも思いました。「この映画には社会的な面がある」という感想をいただきましたが、その方が普段から社会に目を向けていらっしゃるからこそだと出てきた言葉だと思いました。

Q 自分は親の立場で考えたり、社会人一年目の頃を思い出して共感しましたので、それも鏡でしょうね。

A小山駿助そういう風に観ていただけるのがいいなと思います。先ほどのユーモアの話もそうですが、私はこの映画を自分ごととして受け止めていただけたらいいなと思っています。観ていただいた方の隣でこういうことが起きているかもしれない、という感覚で観ていただきたくて現代劇として作りました。観た方の状況や経験に照らして観ていただけると嬉しいです。

Q 監督ご自身の今後の抱負などはいかがでしょう。

A小山駿助最近は思っていることを言わないようにしています(笑)。東京国際映画祭でもそういった質問をいただいたのですが、実現していないことは言わないでおこうと。この映画を作っているときも「映画祭に出そう」といったことは明言していませんでした。不言実行で、作品を世に送り出すことで示したいと思います。

Q 小山駿助監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!

A小山駿助遺体の撮影という題材を扱っていますが、亡くなった方のためを思って行動するということは現実社会によくあることだと思います。この映画の中ではその行為を否定も肯定もしてはいませんし、悲しい局面を乗り越えた後、社会に戻っていくことが何より大事だと思います。そしてこの映画では子どもを亡くした安斎は、若いカメラマンの山下に難題を頼む中、山下との関係性の中で感情の変化に気づきます。映画をご覧になる方がもしも何か悩みや悲しみを抱えているのなら、自分ではなく他人を気遣うことで自身の苦しさが和らぐこともあるかもしれないということを感じてもらえたらいいなと思います。

Q小山駿助監督からOKWAVEユーザーに質問!

小山駿助劇場公開された映画はみんなの目に触れるものですが、自分だけが知っているようなあまり知られていないお勧めの映画を教えてください。

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■Information

『初仕事』

映画『初仕事』新宿K’s cinemaほか全国公開中

写真館のアシスタントである山下は、赤ん坊の遺体の撮影を人づてに依頼され、良い経験になるかもしれないと依頼を受ける。赤ん坊の父親であり依頼主でもある安斎は、始め若い山下に戸惑うも、正直で実直な山下に心を許し、撮影が始まる。 山下はほんの少しでも利己的になっていた自身を恥じ、誠心誠意彼ら家族のために撮影に取り組もうとする。遺体の状態を考えると時間がないという状況も、山下の使命感に拍車をかける。美化すべきでないという倫理観は、目の前の状況に吹き飛ばされる。 一方、安斎は自分が写った一枚を客観的に見て、これはもう未練なのだと、行き場を失った親としての義務感が自身を突き動かしていたことに気付き、撮影に固執する山下を止めようとする。

監督・脚本・絵コンテ・編集: 小山駿助

澤田栄一 小山駿助
樋口勇輝 武田知久 白石花子 竹田邦彦 細山萌子 中村安那

配給宣伝: ムービーアクトプロジェクト

https://www.hatsu-shigoto.com/

© 2022 水ポン


■Profile

小山駿助

映画監督 小山駿助(映画『初仕事』)1988年10月25日生まれ、東京都出身。
早稲田大学教育学部英語英文学科中途退学。大学在学中に監督、役者、撮影などを経験。CM制作会社や図書館での勤務経験がある。自主制作を続け、現在に至る。本作は長編初監督となる。


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