Vol.1101 映画監督 早川千絵(映画『PLAN 75』について)

映画監督 早川千絵(映画『PLAN 75』)

OKWAVE Stars Vol.1101は大ヒット公開中の『PLAN 75』早川千絵監督へのインタビューをお送りします。

Q 『PLAN 75』は非常に大きな反響を呼んでいますね。

A映画『PLAN 75』(監督:早川千絵)早川千絵思った以上にシニア層の方々がご覧になられていると聞いて、驚いているのと同時に嬉しくも思っています。その中に違う世代の方が観にこられた際に「彼らはどんな思いでこの映画を観ているのだろう」とシニアの方が思われたり、「映画館を出た後、お年寄りに優しくしようと思った」という若い世代の声を聞いて、さらに嬉しくなりました。
それと、ここまで反響があるということに、どの世代も老後に対して不安があるのかなと思うのと同時に、そんな共通意識自体が国としておかしなことになっているのではないかと改めて思い始めています。

Q 映画の中では、<プラン75>が社会に浸透しつつありながら、老人を排斥しようとする人物が出てくるわけではない、という描かれ方が興味深かったです。

A早川千絵<プラン75>は優しい顔をした暴力だと思っています。フレンドリーに近づいて優しく死を薦めるというグロテクスさを描きたくて、ヒロム役の磯村勇斗さんや瑶子役の河合優実さんには「悪気がなく、目の前にいる人に親切に接している」という説明をしました。市役所のシーンでヒロムが足の不自由なおじいさんに気づいて車椅子を用意してあげるところも、この人たちを死なせてやろうと思って<プラン75>を薦めているのではないという、無意識の鈍感さ、想像力が欠けているものとして描きました。

Q 短編とこの長編の大きな違いとして、当事者側を主人公にして倍賞千恵子さんを主演に迎えられました。

A映画『PLAN 75』(監督:早川千絵)早川千絵ミチという78歳の女性を主人公としたのは、この映画を観る方たちはおそらく<プラン75>というシステムを使う側に気持ちを重ねるだろうと考えたからです。「そんな制度があれば使いたい」と思う方もいると思います。その立場からこのシステムがどう見えるのかを考えていただければという意図がありました。
また、女性が一人で暮らしていく大変さを描きたい気持ちもありました。日本は男女の格差がまだまだ大きいです。女性の方がより生きづらいという思いがありましたので、主人公は女性にしようと思っていました。
そして、その主人公をみじめに見せたくないと思いました。辛い状況になっても、最後まで凛とした、人間的な美しさのある人であってほしいなと。高齢者という社会的弱者にはなりますが、人としての矜恃や誇りのある、弱い人ではない主人公であってほしいという思いがありました。観客の皆さんがこの人に死んでほしくない、生きていてほしいと自然に感情移入できるのは誰かと考えたら、倍賞千恵子さん以外には思いつかなかったです。内側から出る気品や誠実さのようなものをミチに反映していただきました。

Q 終盤の夕暮れのシーンの映像が非常に美しいです。

A早川千絵狙って撮れるものでもなく、奇跡が起きたと思っています。当日は曇りで、その日にしかそのシーンが撮れないので心配していました。けれども、撮影の浦田秀穂さんが「絶対撮れるから大丈夫ですよ」と言っていて、現地に向かっていくうちに本当に雲が晴れていって夕日が見られたんです。夕日は雲がないときれいに撮れないもので、まさに絶妙なタイミングでした。倍賞さんが背を向けて、私やカメラがその様子を囲んでいるという、その光景が言葉にできない感動があって、すごいラストシーンが撮れたと思います。

Q 本作は海外との合作となりましたが、どういう経緯だったのでしょう。

A映画『PLAN 75』(監督:早川千絵)早川千絵この映画に最初から関わっていただいた水野プロデューサーが「この映画はいい企画だから、費用もきちんとかけてキャスト、スタッフを揃えた方がいい」という考えでした。国内だけで資金集めをするのではなく、当初から海外との合作がベストだという判断で、海外の映画祭や映画マーケットで企画ピッチをしながら、パートナー探しを進めていきました。

Q 日本はすでに超高齢社会となっていますが、海外での企画の反応はいかがだったのでしょう。

A映画『PLAN 75』(監督:早川千絵)早川千絵「自分の国でもいずれこのような社会になるだろうし、高齢化問題は深刻になってきている」という声をたくさん聞いて、日本だけの問題ではないんだと感じました。そして映画を作って観ていただくと、高齢化問題だけではなく、弱者を排除していくような政策の方向性は世界的にも顕著になってきているので、自分事として受けとめてくださっている方が多い印象でした。

Q 早川千絵監督からOKWAVEユーザーにメッセージ!

A早川千絵75歳以上の方が自分の死を選べる<プラン75>というと、題材的に重そう、暗そう、難しそうというイメージを持つ方もいるかもしれません。ですが、美しい映像と音楽を楽しめる映画ですし、「何かいい映画を観た」という声もいただいていますので、ぜひシンプルにいい映画を観に来ていただけたらと思います。

Q早川千絵監督からOKWAVEユーザーに質問!

早川千絵映画を観た際に、その映画を観ようと思ったきっかけは何だったのか知りたいです。
『PLAN 75』をご覧いただいた方もぜひそのきっかけを教えてください。

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■Information

『PLAN 75』

映画『PLAN 75』(監督:早川千絵)大ヒット公開中

少子高齢化が一層進んだ近い将来の日本。満75歳から生死の選択権を与える制度<プラン75>が国会で可決・施行された。様々な物議を醸していたが、超高齢化問題の解決策として、世間はすっかり受け入れムードとなる。夫と死別してひとりで慎ましく暮らす、角谷ミチは78歳。ある日、高齢を理由にホテルの客室清掃の仕事を突然解雇される。住む場所をも失いそうになった彼女は<プラン75>の申請を検討し始める。一方、市役所の<プラン75>の申請窓口で働くヒロム、死を選んだお年寄りに“その日”が来る直前までサポートするコールセンタースタッフの瑶子は、このシステムの存在に強い疑問を抱いていく。また、フィリピンから単身来日した介護職のマリアは幼い娘の手術費用を稼ぐため、より高給の<プラン75>関連施設に転職。利用者の遺品処理など、複雑な思いを抱えて作業に臨む日々を送る。果たして、<プラン75>に翻弄される人々が行く着く先で見出した答えとは。

倍賞千恵子
磯村勇斗 たかお鷹 河合優実 ステファニー・アリアン 大方斐紗子 串田和美

脚本・監督: 早川千絵
配給・宣伝: ハピネットファントム・スタジオ

公式サイト: https://happinet-phantom.com/plan75/
Twitter: @PLAN75movie #PLAN75

©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee


■Profile

早川千絵

映画監督 早川千絵(映画『PLAN 75』)NYの美術大学School of Visual Artsで写真を専攻し独学で映像作品を制作。短編『ナイアガラ』が2014年カンヌ国際映画祭シネフォンダシオン部門入選、ぴあフィルムフェスティバル グランプリ、ソウル国際女性映画祭 グランプリ、ウラジオストク国際映画祭 国際批評家連盟賞を受賞。18年、是枝裕和監督総合監修のオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の一編『PLAN75』の監督・脚本を手がける。その短編からキャストを一新し、物語を再構築した本作にて、長編映画デビューを果たし、2022年カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション「ある視点」部門に正式出品され、「カメラドール 特別表彰」を授与される快挙を達成。

写真: 西山勲


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