Vol.1104 映画監督 太田隆文(映画『乙女たちの沖縄戦〜白梅学徒の記録〜』について)

映画監督 太田隆文(映画『乙女たちの沖縄戦〜白梅学徒の記録〜』)

OKWAVE Stars Vol.1104は映画『乙女たちの沖縄戦〜白梅学徒の記録〜』(2022年8月2日公開)ドキュメンタリーパートの監督とドラマパートの脚本を務めた太田隆文監督へのインタビューをお送りします。

Q 本作の企画の経緯をお聞かせください。

A太田隆文文化庁の支援プログラムに本作ドラマパートを撮った松村克弥監督が応募して承認されたところから始まっています。松村監督は『ひめゆりの塔』のような女子学徒の映画を撮りたいと考えていました。彼とは長い付き合いで、僕が撮った『ドキュメンタリー沖縄戦〜知られざる悲しみの記憶〜』(以下『ドキュメンタリー沖縄戦』)も観てくれていて、「ひめゆり学徒は有名だけど、白梅学徒というのもあったんですよ」という話もしていました。そのことも彼の頭にあって、白梅学徒を題材にしたドラマとドキュメンタリーから成る映画を提案、承認されたのが始まりです。それで松村監督から「ドキュメンタリーパートを撮ってほしい」と依頼があり、彼がドラマパートを務めることで、いわば2本立ての映画を作ることになりました。

Q ドキュメンタリーパートが前半、ドラマパートが後半という構成です。

A太田隆文ドキュメンタリーとドラマの組み合わせは面白いと思えました。前作『ドキュメンタリー沖縄戦』はドキュメンタリーのみの作品でしたが、その後「より深くリアルに戦争を伝えるにはどうすればいいか?」考えていたんです。戦争ドラマを観ると、リアリティがなかったり、どこか他人事のように感じるものが多い。その意味でそれぞれを補い合える今回の取り組みに賛成。沖縄戦の体験談は心に突き刺さるものがあります。一方で、「白梅学徒たちはガマ(洞窟)の中に造られた病院壕で勤務」という話だけだと、行ったことのない、見たことのない場所は言葉だけでは伝わりにくい。それをドラマで見せることで視覚的に伝わるものになります。それぞれの良さを生かして描くことで、沖縄戦はこうだった、白梅学徒はこんな経験をした、ということがより明確に伝えられるのではないかと思いました。

Q 『ドキュメンタリー沖縄戦』の製作を経て、今回はどのように掘り下げていこうと考えましたか。

A映画『乙女たちの沖縄戦〜白梅学徒の記録〜』太田隆文今回インタビューさせていただいた中山きくさんとは『ドキュメンタリー沖縄戦』の製作中にお会いしていました。ですが、沖縄戦体験者の方は講演や平和学習に呼ばれることも多く多忙で断念したんです。今回、こうしてお話を聞ける機会が来たので、いわば映画の神様がもう一度チャンスをくれたようなもの。さまざまな事実を紹介した作品だったのですが、女子学徒の悲劇を描いていなかった。その部分のみを今回は2時間かけて紹介できたことで、『ドキュメンタリー沖縄戦』が完結できたと思えています。

Q ドラマパートにも出演している森田朋依さんがドキュメンタリー部分の聞き手役を担いました。

A映画『乙女たちの沖縄戦〜白梅学徒の記録〜』太田隆文近年はドキュメンタリー映画が続いていますが、僕は元々、青春映画を撮っていて、若い女性を主人公にしたものが得意でした。松村監督との打ち合わせの中で「若い女性が沖縄に訪ねていく構成にすると、太田監督らしいものができるのでは?」と提案があって賛成。『ドキュメンタリー沖縄戦』では完全な第三者視点で沖縄戦を捉えましたが、若い人が聞き手を担うことで観客も見やすくなる。体験者側の語り口もやさしくなります。ドラマパートとの橋渡しにもなり、いい結果となったと思います。僕は大林宣彦監督の弟子筋ですし、もともと若い女性が冒険や旅をしていく大林監督の映画が好きなんです。その意味でも硬くて真面目なドキュメンタリーではない作品になり喜んでいます。

Q 森田朋依さんは聞き手役を担われて、どんな様子でしたか。

A太田隆文森田さんは非常に真面目な女優で、普段から出演する作品の背景、役柄の職業を調べてから演じているそうで、事前に体験者に会えるのを喜んでいました。が、実際に戦争体験者の方にインタビューすると、単に芝居がしやすくなるだけではなく「人生が変わった」と言っていました。いろんな本を読んで勉強をしたけど、体験談は想像を超えていて「打ちのめされました」と。演じると言うより、戦争体験を伝える!という思いでドラマパートを演じたといいます。
ただ、他の白梅学徒役の方たちの演技がどうなるのか心配していました。が、森田さんが聞いてきたことを話してくれたことで、そこから何かを感じ取ってくれて、他の女優さんたちも鬼気迫る学徒役を演じることができました。森田さんが体験者の話を聞いて人生が変わったと言うように、この映画を観た若い人たちも同じような思いを感じてくれることを期待しています。

Q ドラマパートの脚本についてはどのような点を重視されましたか。

A映画『乙女たちの沖縄戦〜白梅学徒の記録〜』太田隆文今回のドラマパートの脚本を書く上で、事件や出来事は脚色せず創作せず現実通りに描いています。が、全て現実通りにすると問題が起こることがあります。同じく実話を基にした映画『MINAMATA―ミナマター』で、真田広之さん演じる地元のキャラは3人の関係者を1人の人物にまとめたもの。それに対して事実ではないとの批判がありました。しかし、現実をそのままドラマにしてしまうと、観る側が混乱し分かりにくくなることがよくあります。その意味で分かりやすく整理する必要もあるんです。また時間や場所。名前も全て現実通りだと支障が出て来て30分のドラマパートに入りきらなくなる。その種のアレンジも大切。また、ドキュメンタリーパートと分離してはいけない。かと言って単なる繰り返しになってもいけない。体験談を伏線のようにしながら、「ああ、こういうことか!」と観客が納得するドラマ展開を心がけました。変えてはいけないところと分かりやすくするところのせめぎ合いに一番気を使いました。

Q いまウクライナとロシアが戦争をしている状況です。この映画を作っている中で現在の世界情勢は影響しましたか。

A太田隆文ウクライナへのロシアの侵攻は今年の2月ですが、この映画は昨年12月に撮影しています。年が明けてからニュースを見た人の話を聞くと、まるでスポーツ中継を見ているような意見が多いと感じています。ただ、戦争を知らない人にとって海外の事件は他人事なのかもしれません。今回の映画は、外国ではなく日本で起きたことなので、観てもらえれば身近なことと感じてもらえると思います。その上でニュースを見れば沖縄戦と同じようにウクライナやロシアの若い人たちも亡くなっているはず、女性兵士も戦場に行く。ウクライナでも若い女性の看護師が戦場に近い病院で看護しているかもしれないと感じ、他人事ではなくなるはず。その意味でも沖縄戦を見つめることは必要だと強く思いました。この時期に公開できることはとても大切。海外の出来事はテレビやネットでしか情報が得られません。だから余計に他人事になってしまう。学校の授業でも太平洋戦争の頃の歴史は3学期でバタバタと終わる。沖縄戦を知る・学ぶ機会もほとんどない。でも、日本であった戦争を見つめることで、今世界で起きている悲劇も自分たちのことのように受け止められるはず。沖縄では住民の4人に1人が亡くなっている。そんな悲劇を繰り返さないためにも、沖縄戦を見つめるということが今の日本にとってとても大切なことだと思えるのです。

Q 太田監督自身がこの映画製作から新しい発見のようなものはありましたか。

A映画『乙女たちの沖縄戦〜白梅学徒の記録〜』太田隆文広島・長崎への原爆投下は多くの映画やドラマにもなっているので多くの人が知っています。そして「アメリカ軍の新型爆弾が落とされて多くの方が犠牲になった」と説明することもできます。けれども沖縄戦は地上戦があったと、どこかの戦闘を取り上げ語っても全貌が伝わりません。本当にいろんな事件や悲劇があるからです。そこで『ドキュメンタリー沖縄戦』ではさまざまなエピソードをいろんな形で紹介し、沖縄戦を伝えました。ただ、白梅学徒の取材ができず。それが今回ようやくできたことで完結するかと思っていたんです。が、取材するにつれて今度は沖縄戦前後のことへの疑問が広がり、まだまだ知らない事実が多いことが分かって来ました。まだ入り口に立ったばかりなんだと思っています。

Q 特にどんな人に観てほしいですか。

A太田隆文若い人たちに観ていただきたいです。ですが、なかなか若い人たちにこういったドキュメンタリーに興味を持ってもらうのは難しい。ですので、あえて言うと、お子さんのいるお父さんやお母さんに観ていただきたい。もしも日本が戦争になってしまったとき、白梅学徒のように子どもたちも巻き込まれるかもしれない。子どもを持つ親が一番考えるのではないかと思います。親として何ができるのか、何を子どもたちに伝えていくのかを考えるきっかけになればと思います。

Q太田隆文監督からOKWAVEユーザーに質問!

太田隆文6月23日が沖縄戦で組織的な戦闘が終わった日であることから、沖縄では「慰霊の日」として8月15日の終戦記念日のような扱いとなっています。皆さんに質問ですが、戦争が終わり占領されていた沖縄は日本に返還されたのに、なぜ今も米軍基地がたくさん残っているのか?そのことをどう思いますか?

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■Information

『乙女たちの沖縄戦〜白梅学徒の記録〜』

映画『乙女たちの沖縄戦〜白梅学徒の記録〜』2022年8月2日(火)〜7日(日)東京都写真美術館ホールにて公開ほか全国順次公開

映画「ひめゆりの塔」は繰り返しリメイクされる反戦映画の名作。10代の少女たちで編成されたひめゆり学徒の悲劇である。だが、沖縄戦で看護学徒として動員されたのは、ひめゆりだけではない。多くは知らないが、沖縄県立第二高等女学校の4年生56名の生徒から編成された白梅学徒もその一つ。
たった18日間の看護教育を受けただけで八重瀬岳にある第一野戦病院に配属。負傷した日本兵が次々に運び込まれて、ベッドも足りなくなる。多くの兵士は床や通路に寝かされた。負傷兵は治療するよりも腕や足をノコギリで切り落とすしかないことが多かった。そんな手術の手伝いをしたのが10代の女子、白梅学徒たちである。
兵士の傷口に湧いたウジを取る。ズボンに溜まった何日分もの糞尿の処理。つい先日まで青春を謳歌していた10代の女子たち。やがて病院壕にも米軍が迫り、歩けない兵士たちを医師たちが薬で毒殺。学徒たちも米軍の攻撃にさらされて命を散らしていく。
ドキュメンタリーパート約90分、ドラマパート約30分の構成。沖縄復帰50年を記念して今夏劇場公開。

【ドラマパート】
出演: 實川結 森田朋依 實川加賀美 永井ゆみ
藤 真由美 布施 博

監督: 松村克弥
脚本: 太田隆文

【ドキュメンタリーパート】
証言者/中山きく 武村豊ほか
聞き手/森田朋依

構成・監督: 太田隆文

配給: 渋谷プロダクション

公式サイト: http://otometachinookinawasen.com
公式ツイッター: @otomeokinawasen

©Kムーブ


■Profile

太田隆文

映画監督 太田隆文(映画『乙女たちの沖縄戦〜白梅学徒の記録〜』)『スターウォーズ』G・ルーカスの母校、USC映画科に学ぶ。監督作『海と夕陽と彼女の涙~ストロベリーフィールズ』(06)、『青い青い空』(10)、『向日葵の丘・1983年夏』(15)、『明日にかける橋 1989年の想い出』(18)、原発事故の悲劇を描き山本太郎が出演した『朝日のあたる家』(13)は世界6カ国で上映。大ヒット『ドキュメンタリー沖縄戦〜知られざる悲しみの記憶〜』(20)に続く『乙女たちの沖縄戦〜白梅学徒の記録〜』が2022年8月に公開。


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