OKWAVE Stars Vol.1106は大ヒット公開中の映画『女神の継承』バンジョン・ピサンタナクーン監督とメインキャストを演じたナリルヤ・グルモンコルペチ(愛称:ヤダー)さんへのインタビューをお送りします。
Q 『哭声/コクソン』のナ・ホンジン監督の原案・プロデュースとのことですが、映画化の経緯をお聞かせください。
Aバンジョン・ピサンタナクーンナ・ホンジン監督とは以前にバンコクで一度お会いしたことがありました。その後、ナ・ホンジン監督がプロットを書いて韓国映画を撮ろうとしていましたが「自分が撮ると『哭声/コクソン』に似てしまう」と。それで別の国の監督に全く違う形で撮ってもらおうと思ったそうです。それで私のことを思い出していただいて声をかけていただきました。テーマとして掲げられた「継承」を意識して脚本に取り入れました。いただいた30ページのプロットをもとにタイを舞台にした映画として脚本にまとめ、作り上げていきました。
Q 祈祷師にカメラクルーが密着するスタイルが興味深かったです。
Aバンジョン・ピサンタナクーン今回のドキュメンタリー・スタイルはナ・ホンジン監督からの提案で、やはり『哭声/コクソン』とは違うものを作りたいという意向のひとつでした。
Q ストーリーの中心となる女性・ミンについて、どのような役柄にしていこうと思いましたか。
Aバンジョン・ピサンタナクーンミン役はタイ東北部イサーン地方で育った女性という設定です。優等生というよりは少し不良っぽくて、謎めいたダークな部分もあるといいなと思いました。たくさんの方にオーディションを受けていただいて、ヤダーさんに会うことができました。
ナリルヤ・グルモンコルペチミン役はとても難しい役だと思いました。監督から事前に参考になる映画をたくさん送ってもらい「それを観て解釈してください」と言われました。それらをもとに考えてきたことを監督と話し合って、しっかりとミン役の準備ができました。霊に取り憑かれる経験はできないから、想像して演じるのはやはり難しかったです。
Q 物語の背景にある“精霊の伝説”については伝承でしょうか。それとも監督の創作でしょうか。
Aバンジョン・ピサンタナクーン元々、イサーン地方には全てのものに精霊が宿る、という信仰がありました。そこに自分なりの要素を加えていきました。その点が『哭声/コクソン』とは違いますし、今までのタイ映画でも取り上げてこなかったテーマです。ナ・ホンジン監督もこの設定を気に入ってくれました。
Q 撮影の様子についてお聞かせください。
Aバンジョン・ピサンタナクーンリアルに見せたいというのが今回の目標でしたので、俳優の皆さんにはナチュラルな演技を心がけてもらいました。今回の演出で初めて試みたことですが、台本に細かいセリフは一切書いていないんです。設定と方向性だけを俳優たちに示して、カメラの前では即興で演じてもらいました。
ナリルヤ・グルモンコルペチ即興の演技はとても楽しかったです。初めて演じるようなタイプの役だったので、自分の能力へのチャレンジでしたし、お芝居をしていて本当に楽しかったです。
Q 共演者の印象をお聞かせください。
Aナリルヤ・グルモンコルペチ全員と初めて会ったときからすごく驚かされました。とくに祈祷師ニム役のサワニー・ウトーンマさんは初日からすごい演技を見せてくれました。私の母役、伯父役のおふたりも素晴らしかったです。だから監督のキャスティングもすごいなと感じました。脚本を読んだ際のイメージと俳優たちのお芝居がほぼ同じでした。
Q 本作に携わって印象的だったことについてお聞かせください。
Aバンジョン・ピサンタナクーン私たちは終盤の儀式のシーンをリアルに作りたいと考えていました。あの儀式は実際にあるものではなく、完全に創作なんです。また、女神バヤンの像や信仰も同様です。エキストラで出ていただいた村の皆さんがこれを本物の神様だと思って手を合わせていらっしゃったので、その姿を見て神秘的だと感じました。映画を撮影しているのだけど、本当のことのように受け止めていただいているのが印象的でした。
ナリルヤ・グルモンコルペチ印象的なことは2つあって、第一に、監督がリサーチして決めたイサーン地方のロケーションが素晴らしかったです。ルーイ県というところで撮影しましたが、私も初めてで、とても神秘的な場所だと感じました。川や山を見るだけでもいろんなことを想像できるんです。また、超自然的な雰囲気も感じました。パヤナークというタイの空想上の龍の逸話もあり(※「バンファイ・パヤナーク」というメコン川上で見られる火の玉現象で知られています)、本当に興味深いところでした。
もうひとつは、今回の撮影スタッフとの関係性です。まるで家族や兄妹のような関係性の中で撮影できました。今まで7年間、芸能や俳優の仕事をしてきて、こんな現場は初めてでした。今回の出会いは偶然ではなく、本当に能力の高い方たちとの仕事だったからだと思います。ご一緒できて本当に光栄でした。
Q 本作の見どころを紹介してください。
Aバンジョン・ピサンタナクーンこういった映画は初めての試みでした。そこで感じたのは、怖さは人間が原因なんだということです。通常のホラー映画は誰かが亡くなって、その亡霊が人を驚かす、といったものだと思いますが、この映画はそういったものではありません。この映画の怖さはたった一人の女性に起因しています。だから奇跡も起こらないし、幽霊が何かをするということもありません。こういった映画はストーリーが大切ですし、少しずつ怖さを感じてもらえるようにディティールにこだわりました。画面をいかにパワフルに見せるかもそうですし、ロケーションへのこだわり、儀式の描き方も同様です。この映画を観るたびに、セリフの意味や場面の繋がりなど、様々な発見が毎回あると思います。そのように何度も観ていただければいいなと思います。
ナリルヤ・グルモンコルペチ完成した映画がこんなに怖いとは思っていなかったんです。演じた自分でも映画の中のミンは怖かったです。この映画で感じていただきたいのは、監督がおっしゃっているようにディティールへのこだわりです。ドキュメンタリー風に撮影されていますが、映像も色調もきれいです。とても謎めいた雰囲気で、先を知りたいという気持ちになると思います。脚本も素晴らしいです。この映画を観て、いろんな疑問が浮かんでくるだろうし、それを考えるのも楽しいと思います。
バンジョン・ピサンタナクーンそうなんです。映画館を出た後に、一緒に観た友だちと議論したくなる映画だと思います。
Qバンジョン・ピサンタナクーン監督とナリルヤ・グルモンコルペチさんからOKWAVEユーザーに質問!
バンジョン・ピサンタナクーン日本の皆さんはタイ映画についてどんなイメージがありますか。
ナリルヤ・グルモンコルペチ日本ではタイのBLドラマが人気だと聞きました。日本のBLドラマと比べてどんなところが好きですか。
■Information
『女神の継承』
小さな村で暮らす若く美しい女性ミンが、原因不明の体調不良に見舞われ、まるで人格が変わったように凶暴な言動を繰り返す。途方に暮れた母親は、祈祷師である妹のニムに助けを求める。もしやミンは一族の新たな後継者として選ばれて憑依され、その影響でもがき苦しんでいるのではないか。やがてニムはミンを救うために祈祷を行うが、彼女に取り憑いている何者かの正体は、ニムの想像をはるかに超えるほど強大な存在だった……。
原案・プロデュース: ナ・ホンジン(『チェイサー』『哀しき獣』『哭声/コクソン』)
監督: バンジョン・ピサンタナクーン
キャスト: サワニー・ウトーンマ、ナリルヤ・グルモンコルペチ、シラニ・ヤンキッティカン
配給: シンカ
提供: シンカ、エスピーオー
R18+
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■Profile
バンジョン・ピサンタナクーン
1979年、タイ生まれ。
バンコクのチュラロンコン大学映画学科を卒業後、いくつかの短編を製作する。パークプム・ウォンプムと共同で監督を務めた『心霊写真』(04)で長編デビュー。2004年度のタイ国内興収1位を記録した同作品は、落合正幸監督のハリウッド映画『シャッター』(08)としてリメイクされた。その後はホラー映画『Alone』(07)、2011年の大阪アジアン映画祭で上映されたラブ・コメディ『アンニョン!君の名は』(10・未)などを発表。タイの有名な怪談に基づくホラー・コメディ『愛しのゴースト』(13)は、国内の歴代興行成績を更新し、1,000万人を動員する大ヒットとなった。続いて、北海道ロケを行ったラブ・ストーリー『一日だけの恋人』(16・未)を発表。同作品は、2017年の大阪アジアン映画祭で日本に紹介された。
ナリルヤ・グルモンコルペチ
2000年生まれ。
「Until We Meet Again~運命の赤い糸~」(2019)、「運命の二人」(2021)出演後、オーディションでミン役に大抜擢された。
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