Vol.1109 映画監督 犬童一心(映画『ハウ』について)

映画監督 犬童一心(映画『ハウ』)

OKWAVE Stars Vol.1109は映画『ハウ』(2022年8月19日公開)犬童一心監督へのインタビューをお送りします。

Q 本作に携わるきっかけをお聞かせください。

A映画『ハウ』犬童一心シナリオライターの斉藤ひろしさんがこの『ハウ』のシナリオと小説を書いていて、「気に入ったら撮っていただけますか」と声をかけられました。
声帯切除を受けたことで「ハウ」と掠れた声でしか鳴けない犬という設定が今までになく新鮮だと思いましたし、「どうしてそうなったのだろう」「誰かがそうしてしまったことに、この犬はどう思っているのだろう」と、いろんなことを考えさせられました。シナリオはできているけれど、映画に向けてこれから直していくということだったので、参加すると面白そうだと思いました。そこから時間をかけてシナリオを直していきました。

Q ハウを演じたベックは名役者ですね。

A犬童一心ベックはドッグトレーナーの宮忠臣さんとの関係が良くて、優秀でした。その優秀さとは、人間に対してオープンマインドなところです。宮さんの指示が的確で撮影はスムーズでした。僕は猫を飼っていますし、これまで猫の映画やドラマも撮影してきましたが、猫は演技しないのが当たり前です。「そこに座っていて」と座らせてもすぐに立ってしまうものです。いわば、猫を撮影するのは“修行”なんです。お坊さんになった気持ちで、できなくてもいいという気持ちで進めていくんです。それと比べると犬は楽です。犬の撮影は人間の撮影と同じ感覚で撮っていけますので、心構えから全く違いました。そしてベックのような優秀な犬であれば、用意した絵コンテ通りに撮れるんです。犬も撮ったことがあるので、だいたいこのくらいはできるだろうという予測もありましたし、実際、決められた動きに対してNGも少なかったです。しかも、ベックはそれだけでなく魅力的な表情をしっかり出してくるのがすごいところなのですが。

Q ハウは青森から横浜の民夫のところを目指して旅をしていきますが、撮影場所が変わってもベックは動じなかったのでしょうか。

A犬童一心全く変わらなかったです。この映画は普通の動物ものと違って、代わりの犬がおらず、ハウを演じているのは全てベックです。その犬で全てを撮るというのが宮さんの考え方です。そうなると、撮影は何日もありますので、その日の撮影だけでベックが疲れすぎないようにしなければなりません。ベックは長毛なので暑いと本当に大変なんだと思います。気温が上がってきたらなるべく早く撮影を終える。翌日も元気に撮影できるようにする。そのための毎日のリズムが重要でした。もう少しできるんじゃないか、というところで止める判断もしましたが、それによって映画全体で良くなると考えるようにしました。替えがいないベックだからこそ、ベックの出演シーンは緻密に準備をしてできるだけ早く撮影を終えられるようにしました。

Q 田中圭さんのベックとの関係性はいかがでしたか。

A映画『ハウ』犬童一心田中さんの演じた主人公の民夫は、ハウを飼い始めて少し経ったところで離れ離れになってしまう役なので、ベックに関しては特別な訓練や準備はいらなかったです。田中さん自身も犬好きですしオープンマインドな方です。撮影前の準備段階でベックと会うたびに喜んで接していたので、オープンマインド同士で撮影本番でも何の苦労もなかったです。

Q では他のキャストの方々はベックとの関係性はいかがでしたか。

A犬童一心福島の帰還困難区域出身の朝倉麻衣役の長澤樹さんは準備が必要で、撮影前に宮さんのところに通ってベックと一緒に遊んでいました。とくに駅でのダンスのシーンですが、このダンスは振り付けではなく即興です。即興で踊る方法を振付師に習って、本番は即興のダンスの中にベックが入って一緒にパフォーマンスするというやり方で撮影しました。長澤さんにはベックに懐いてもらえるように準備してもらいましたので、あのシーンは訓練の賜物です。その点は、田中さんの性格の賜物とはまた別物ですね。

Q 本作に携わって新しい発見などはありましたか。

A映画『ハウ』犬童一心動物ものに関してですが、これまでに『グーグーだって猫である』の映画版とドラマ版、『いぬのえいが』の「ポチは待っていた」などの映画、その他にも犬の出てくるCMもたくさん撮っています。当初は動物は演技ができないのだからモンタージュのように「動物をこう撮って、人間のリアクションを撮って、それを編集する」ことで作品になると考えていました。それが『グーグーだって猫である』のドラマ版で、宮沢りえさんと猫を撮っていたときに関係性による化学変化のようなものが感じられました。今回の『ハウ』はそれがさらに明確だったんです。撮影の際には、ライティングや俳優の雰囲気などでそのシーンの空気が作り出されます。そして、そこに加わるベックはちゃんとその空気に反応しているのだと感じました。ベックを撮る角度や目の前に毛を垂らすといったビジュアルの工夫もしていますが、もしベックの表情が違って見えるのだとしたら、ベック自身がその場の雰囲気に影響されていて、それが映し出されているのだと思います。それを演技と呼ぶかは分かりませんが、モンタージュだけではなく、場の空気を作っていけばいくほどいいのだと思いました。これは、必ずカメラ2台で撮るようにしていて、人間と動物を同時に撮っていることが増えているので、よりそのように感じられるのだとも思います。今回ベックを撮って、今後も動物ものや犬の出てくる映画を撮りたいと思いました。

Q 犬童一心監督からOKWAVEユーザーへメッセージ!

A犬童一心この映画では、犬は人間にできないことを当たり前のようにする、ということを描きました。ハウは辛かったり、弱っている人の側に当たり前のように寄り添いますし、そもそも自分を傷つけた人間に復讐するのではなく許しています。犬からすれば普通のことかもしれませんが、人間側から見るとなかなかできないことをしていますので、そんなところに気づいていただければと思います。

Q犬童一心監督からOKWAVEユーザーに質問!

犬童一心動物が主人公で映画化してみたい漫画や小説、ノンフィクションなどの原作はありますか。

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■Information

『ハウ』

映画『ハウ』2022年8月19日(金)公開

婚約者にあっさりフラれ、人生最悪な時を迎えていた市役所職員・赤西民夫。
横浜で一人空虚な日々を送る彼は、上司からの勧めで、飼い主に捨てられて保護犬になってしまった真っ白な大型犬を飼うことになってしまう。
犬はワンと鳴けず「ハウッ」というかすれた声しか出せない。とびっきり人懐っこいこの犬を、民夫は“ハウ”と名付け、1人と1匹の優しくて温かい日々が始まった。
民夫にとって最初は戸惑うことも多かったハウとの暮らしだったが、何をするにもいつも一緒な“ふたり”の絆は次第に深まり、いつしかかけがえのない存在となっていった。
ハウと民夫の最高に幸せな時間はずっと続くと思っていたのだが…。
そんな時、突然ハウが姿を消す。
あらゆる手段を尽くしてハウを探す民夫だが、無情にも「ハウによく似た白い大型犬が事故死した」という情報がもたらされる。
しかし、横浜から遠く離れた北の地でハウは生きていた!
偶然のアクシデントが重なり、ハウは青森まで運ばれてしまったのだ。
ハウは、大好きな民夫の声を追い求め、「もう一度、君に会いたい」という一心で青森から横浜、798キロの道のりを目指す。民夫はハウがいないという現実に苦しみもがきながらも、少しずつ向き合おうとする。
民夫のそばで優しく寄り添う同僚の足立桃子の支えもあり、皆それぞれに悲しみを抱えながら生きていくことを学んでゆく。
一方、ハウは民夫を探して走る道中で、悩みや孤独、悲しみを抱えた人たちと出会う。
震災の風評被害に心を痛める女子中学生の麻衣。愛する夫を亡くし、ひとりで傘屋を営む老女・志津。深刻なDV被害に遭い、修道院のシェルターに保護された若い女性・めぐみ。彼女たちに寄り添い心を癒していく。

原作: 『ハウ』斉藤ひろし(朝日文庫)
出演: 田中圭、池田エライザ、野間口徹、渡辺真起子、モトーラ世理奈、深川麻衣、長澤樹、田中要次、利重剛、伊勢志摩、市川実和子、田畑智子、石田ゆり子(ナレーション)、石橋蓮司、宮本信子
監督: 犬童一心
脚本: 斉藤ひろし 犬童一心
音楽: 上野耕路
主題歌: GReeeeN「味方」(ユニバーサル ミュージック)
配給: 東映

公式HP: haw-movie.com
公式Twitter: @haw_movie2022
公式Instagram: @haw_movie2022
公式TikTok: @haw_movie2022

©2022「ハウ」製作委員会


■Profile

犬童一心

映画監督 犬童一心(映画『ハウ』)1960年6月24日生まれ、東京都出身。
長編映画監督デビューである『二人が喋ってる。』(97)で、サンダンスフィルムフェスティバル in 東京でグランプリ、日本映画監督協会新人賞を受賞。その後も『眉山 -びざん-』(07)、『ゼロの焦点』(09)、『のぼうの城』(12)で、日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞。主な監督作に、『ジョゼと虎と魚たち』(03)、『メゾン・ド・ヒミコ』、『いぬのえいが』(05)、『グーグーだって猫である』(08)、『猫は抱くもの』(18)、『最高の人生の見つけ方』(19)『名付けようのない踊り』(22)などがある。


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