OKWAVE Stars Vol.1110は映画『SABAKAN サバカン』(公開中)の音楽を担当した大島ミチルさんへのインタビューをお送りします。
Q 本作に携わることになった経緯をお聞かせください。
A大島ミチル金沢知樹監督が以前に私の作曲した「風笛〜あすかのテーマ〜」という曲がお好きということで「ぜひそういうイメージでお願いします」というお話をいただきました。どのような音楽かを考えると、「風笛〜あすかのテーマ〜」と似てしまっても良くないし、かといって離れすぎると監督のイメージとも変わってしまうので、難しさがありました。自分の出身の長崎が舞台の映画ということは、私にとっては偶然だったようです。
Q 題材についてはどう感じましたか。
A大島ミチル私は高校まで長崎で過ごしましたが、小学校から中学校までは同じ学区ですので、毎日友だちと駆け回って過ごしていました。自分の中では、夏は水泳、春や秋は山登りと、ずっと体を動かして、走り回っていたイメージなので、いつ勉強や音楽をしていたのだろうと思うんです。そういう意味ですごく共感の持てる映画の題材でした。
監督と話して感じたのは、この映画の竹ちゃんのような力強さとまっすぐさです。監督が安定した信念を持っていらしゃったので、安心して取り組めました。監督は作品に対して全くブレない方でした。
Q 音楽作りはどのように進められたのでしょうか。
A大島ミチルある程度完成している映像を見せていただき、監督と打ち合わせして、それから作曲しました。
久ちゃんと竹ちゃんの二人が自転車で坂道を下っていくところなど素敵なシーンが多かったですし、監督の中でどのシーンに音楽をつけたいかのイメージがあったので、それを伺いながら作っていきました。
長年、映画音楽の仕事をしていますので、私の場合、脚本だけよりも、映像を見た方が音楽のイメージが瞬間的に湧いてくるんです。映像も音楽も時間軸があるものなので、編集された映像のリズム感が、自分が映像を見て感じたリズム感と合っていないと困ることがあります。逆にリズム感が同じだと、映像を見て思いついたフレーズがそのシーンにちょうど収まるんです。この作品は子どもたちのイキイキとしたリズム感が映像から感じられましたので、そこから作っていきました。
Q パンフルートの音色が、海の場面が多いこの映画に合っているのが意外でした。
A大島ミチルパンフルートは南米の楽器なので海の楽器ではないですが、風を感じさせるところは海風や夏の風のような抜けていく感じを彷彿させるのでしょうね。
Q キャラクターの感情描写を音楽ではどのように表現されるのでしょう。
A大島ミチル行動しているときに比べると、感情を表現しているシーンはより“湿度”を意識します。例えば、夏は湿度が高いからといって音楽もそうしてしまうとべったりとしたイメージになってしまいます。ちょっと乾いた感じにしてあげた方がいいですし、それを表現できる楽器は何があるのか、そしてどんな音符の並びがいいのかと考えていきます。感情を音楽で表すことは主人公との距離感を考えることでもあるんです。寄り添うようにしたり、離れたところから見ているようにしたり、高いところから俯瞰している感じ、並んで歩いているような感じ、そういった距離感を表現するのも映画音楽の面白さです。スポーツや戦っているシーンに元気な音楽をつけるとその人を応援したくなりますが、静かな音楽をつけると逆に自分が勇気づけられるような気持ちにさせられます。そういった距離感が音楽によって変わりますので、どんな種類の音楽をつけるとどう見えるのかをいつも考えるようにしています。
音楽がない状態で映像を見ると違いが分かって面白いです。例えば、サスペンスドラマでドアを恐る恐る開けるようなシーンで音楽がないと全く怖くないです。ドアに手を伸ばしたとき音楽が鳴り出すとドキドキすると思います。それが低い強い音で表現されると何か怪獣が出てきそうな雰囲気になりますし、オルゴールのような音色だと恐怖感が高まりますので、音楽の種類で映像の意味合いも変わってきますし、観ている人の気持ちへの影響も大きいです。映画を観ている人が全体を通してどんな気持ちになってほしいかを考えて、この映画では、昨今のコロナの影響で閉塞感がありますので、楽しい気持ちで誰かを応援できるといいなと思って、懐かしさだけではなく、元気をもらえるような音楽を目指しました。
Q 映画音楽の世界を目指している人に何かアドバイスをお願いいたします。
A大島ミチル以前に大学で特別講師を務めたことがあり、学生さんのやりたいことや夢を聞いてアドバイスをしていました。そのとき感じたのは、今の若い人たちの特徴なのかもしれませんが「どれだけできればいいか」「これだけできれば音楽家になれるのではないか」といった捉え方をしている方が多いということでした。ヨーロッパでは音楽は一つの哲学のようなものとして扱われています。普段から何を見て何を感じているかがとても大事だと思います。毎日映画を観てもいいだろうし、走りながら景色を見るのもいいし、本を読んで想像をめぐらせてもいいです。音楽の技術だけで映画音楽家になれるのではなく、日々何を考え、何に接しているかによって良い映画音楽家になれるのかと思います。そもそもクリエイティブとはそういうものだと思います。何かをクリエイトする、その一つが映画音楽なので、なるべく多くのものを見て、話して、経験してほしいですね。
Q 大島ミチルさんからOKWAVEユーザーにメッセージ!
A大島ミチル勇気をもらえる映画だと思います。悩んでいたり、立ち止まっている人の背中を押してくれる映画です。子どもたちの演技も素晴らしいですが、草彅剛さんはこの映画の中で癒される存在だと思います。夏の暑いとき、それこそ風が吹くような映画になっていますので、ぜひご覧ください。
Q大島ミチルさんからOKWAVEユーザーに質問!
大島ミチル草彅剛さんはこの映画でも素晴らしい演技をされていますが、皆さんは彼に今後どんな役柄を演じたり、どんな人と共演してほしいと思いますか。
■Information
『SABAKAN サバカン』
1986年の長崎。夫婦喧嘩は多いが愛情深い両親と弟と暮らす久田は、斉藤由貴とキン肉マン消しゴムが大好きな小学5年生。そんな久田は、家が貧しくクラスメートから避けられている竹本と、ひょんなことから“イルカを見るため”にブーメラン島を目指すことに。海で溺れかけ、ヤンキーに絡まれ、散々な目に遭う。この冒険をきっかけに二人の友情が深まる中、別れを予感させる悲しい事件が起こってしまう・・・。
番家一路 原田琥之佑/尾野真千子 竹原ピストル 貫地谷しほり 草彅剛 岩松了
村川絵梨 福地桃子 ゴリけん 八村倫太郎 茅島みずき 篠原篤 泉澤祐希
監督: 金沢知樹
音楽: 大島ミチル
配給: キノフィルムズ
(C)2022 SABAKAN Film Partners
■Profile
大島ミチル
映画音楽、ドラマ、アニメなど様々な分野で活躍。毎日映画コンクール音楽賞、8度の日本アカデミー優秀音楽賞、第31回最優秀音楽賞、他にもヒラリーハーンの委嘱作品の入ったCD「27アンコールピース」は2016年グラミー賞を受賞。中国やオーストラリアの映画、フランスの音楽祭やアメリカでのコンサートなど世界で活躍。大河ドラマ「天地人」、アニメ「鋼の錬金術師」、映画「失楽園」「ゴジラ対メカゴジラ」 始め、管弦楽曲やコンチェルトなど多数の作品を発表。2020年度アメリカアカデミー協会の招待会員。