OKStars Vol.453は『トイレのピエタ』公開を控えた松永大司監督短編最新作『死と恋と波と』について松永大司監督、主演の岡山天音さん、門脇麦さんへのインタビューをお送りします。
Q 井上靖さんの「死と恋と波と」を取り上げたきっかけは何でしょう。
A松永大司岡山天音くん、門脇麦さんの二人で短編を撮らないかと声をかけていただいたのがきっかけです。この「死と恋と波と」はだいぶ前に読んでいて、短編を映像化する機会はもともとあまりなかったので、この機会に挑戦してみました。役者の芝居によって物語の出来がものすごく変わる原作。役者が魅力的な作品を撮りたいので、二人にとってハードルの高い作品がいいなとも思いました。
Q 原作を読まれてどう思いましたか。
A門脇麦「これを短編で撮るんだ」と、これがどう転がっていくのか、どういう風になるんだろうと思いました。
岡山天音起きていることは、そこまで複雑な話ではないけれど、いろんなことが繊細に描かれていて、あまり読み慣れなくて面白かったです。人間を描いた作品で初めて見るようなクオリティだという感覚がありました。
Q 台本はどのようにつくりましたか。
A松永大司原作はもともと映像向きの作品でした。難しかったところは、戦後の時代の話なので時代考証をどうするかということと、撮影日数が少なかったので、内容を凝縮することでした。ただ、物語の幹の部分はすでに出来上がっていたので、そこまで難しくはなかったです。
Q 台本を読んで新たに感じるところはありましたか。
A岡山天音普段の自分と次元が違うなと思いました。頭で考えて解釈して到達できるとは思いませんでした。日常生活の中で台本を読んで撮影を迎えるのは難しいと思って、アプローチの仕方を探ったりしました。
門脇麦短編ということもあって、はっきり何かが見えたり何かが動く瞬間が少ないという印象で、この物語に説得力をもたらすには各々の自己責任が大きいなと思いました。エネルギーが必要そうだなとも思いました。
Q 死と向かい合うという役柄についてはどう捉えようとしましたか。
A岡山天音現場で監督からもらった力が大きかったです。普段自分が生活していて、家族や友人と接している時には見ていなかった側面を見るきっかけを監督が与えてくれました。普段だったら目を背けたくなるような感情をヴィヴィッドに思い起こさせるようなきっかけをいろいろ言葉でかけてもらいました。それで無意識に目を背けているような普段見たくない感覚や死というものと向き合わされました。
門脇麦私は台本を読んだ時に天音くんの演じた千之助が那美によって引き立てばと思いました。千之助はいろんなことを一周し終えた上で死を選んでいるのに対して、私の演じた那美は性格や境遇もありますけど突発的なので、別の意味での強さが必要だと感じました。死ぬということを特別な何かとして選んだのではないような気がしていて、もう少しリアリティが持てる別の部分を大事にしようと思いました。
Q 完成した作品をどうご覧になりましたか。
A岡山天音客観的にはなかなか見られないですね…。
門脇麦話の筋書きとして、原作を読んでも台本を読んでもどうしてこういう結論をふたりが出すのかわからなかったんです。わからないまま現場に来て実際に演じてみると、二人のシーンでは自然と優しい気持ちが沸き上がってきたりして、いい意味で「そんなもんなんだな」と思いました。演じてみてもできあがったものを観てもそう思いました。
岡山天音何で映画とかを観ていて心を打たれたり救われたりするのかを、この現場に立って感覚的にわかったところがあります。今までやってきた芝居と全く違うやり方で、本当の感情や本当に傷ついたりしたことを芝居に載せることができました。フィクションですし、台本もありますけれど、そこに限りなく本物に近いものがあるから、お芝居に価値があると思いました。
Q 本作を作られてあらためて気づいたことはありますか。
A松永大司自分が映画を撮る中で、今の自分で勝負できるところは演出なんだと改めて感じました。役者の芝居を撮ることで技術的な限界を超える瞬間が絶対にあると思うし、僕自身、役者が好きなんだなと思う。好きな映画のことを思い返すと、映画の1シーンよりも、あの映画のあの人、という風に捉えている。だから、自分が撮る映画も人が浮かび上がってくるようなものを撮りたいのです。
Q 長編『トイレのピエタ』が公開されますが、死に向かう人を描いた点では『死と恋と波と』と重なっているところですが、どのような心持ちだったのでしょう。
A松永大司僕たちは生まれていつかは死んでしまいますが、死を意識してからの方がより生きることについて考える気がする。ある登山家が「生きている実感を得るために自分は苛酷な山に登る」と言っていたのですが、僕たちは生かされているわけではなくて、生きる義務を負っているわけでもないので、そういう意味では自分で死を選んでもいいと思います。じゃあ何で僕たちは生きているんだろうと考えると、『死と恋と波と』では死のうとした男女が本当に些細な恋のようなもので生きようとします。『トイレのピエタ』では主人公は年の離れた女子高生に刺激を受けて生きようとする。人が生きている価値は本人にしかわからない。ある種の振り切れた状態に主人公たちが放り込まれた時に、それが露わになる。そういう状況に登場人物を置くのが僕は好きなので、さっき門脇さんが言っていた「そんなもんなんだな」というのは死のうとすることにも生きようとすることにも当てはまると思うので、その機微を抽出できたら、共感できる人がいると信じてます。そしてそういうことを見逃さないでほしい。
QOKWaveユーザーに質問!
松永大司映画館で映画を観ることと、DVDで映画を観ることについて、何か違いを感じますか。
岡山天音皆さんは何をきっかけに映画を観たいと思いますか?
門脇麦最近モッツァレラチーズが好きなんですが、モッツァレラチーズの中のブラータというチーズを食べたらすごくおいしかったです。モッツァレラチーズの種類でおいしいものを、日本では手に入らないものでもいいので教えてください。
■Information
2015年第32回釜山国際短編映画祭インターナショナル・コンペティション部門正式出品
『死と恋と波と』
『トイレのピエタ』公開記念:特集上映「松永大司監督七番勝負」にて6月4日(木)渋谷アップリンクにて上映
http://www.uplink.co.jp/movie/2015/37379
自殺を決心するまで至った男女。しかも他人。
そんな二人がどんな運命のいたずらか、出会い、そして葛藤の末に二人が選んだのは?
出演:岡山天音、門脇麦、森下能幸、深水元基、北浦愛
監督・脚本:松永大司
原作:井上靖「死と恋と波と」(短編集「愛」角川文庫)
『トイレのピエタ』
「今一緒に死んじゃおっか?」余命3ヶ月と告げられた宏は、出会ったばかりの女子高生・真衣からそう誘われる。バイクの後ろに彼女を乗せてスピードを上げるが、そのまま死ぬことはできなかった。画家への夢を諦めてフリーター生活を送っていた宏にとって、ただやり過ごすだけだったこの夏。それが人生最期の夏に変わってしまった時、立ちはだかるように現れた真衣。「あのさ、背の低い子とキスする時はどうするの?」。純粋な真衣に翻弄されながらも、二人は互いの素性も知らないまま、反発しながらも惹かれ合っていく。
野田洋次郎/杉咲花 リリー・フランキー
市川紗椰 古舘寛治 森下能幸 澤田陸 MEGUMI 岩松了/大竹しのぶ(友情出演)/宮沢りえ
監督・脚本:松永大司
原案:手塚治虫
配給:松竹メディア事業部
http://www.shochiku.co.jp/toilet/
(C)2015「トイレのピエタ」製作委員会
■Profile
松永大司
1974年生まれ、東京都出身。
大学卒業後、矢口史靖監督「ウォーターボーイズ」、橋口亮輔監督「ハッシュ!」(01年)、サトウトシキ監督「手錠」(02年)などに俳優として出演。その後、矢口史靖監督「ハッピーフライト」、蜷川幸雄監督「蛇にピアス」(08年)のメイキング監督、橋口亮輔監督「サンライズ・サンセット」(12年)の助監督、テレビ東京系「レスキューファイアー」(09~10年)の監督を務める。性同一性障害の現代アーティスト・ピュ~ぴるを8年間追い続けたドキュメンタリー映画「ピュ~ぴる」(11年)を監督し発表。同作がロッテルダム国際映画祭2011、全州国際映画祭2010、テルアビブ国際映画祭2011、パリ国際映画祭2010など世界各国の映画祭に正式招待され絶賛される。他のドキュメンタリー監督作品に、格闘技界初となるドキュメント映画として日本総合格闘技PANCRASEの試合や選手たちを捉えた「MMAドキュメンタリーHYBRID」(13年)、黒人教会の宗教音楽であるゴスペルの本質を探り、日本まで影響を及ぼすまでになる背景を追いかけた「GOSPEL」(14年)がある。手塚治虫の病床日記の存在を知った約10年前から『トイレのピエタ』の企画を始め、劇映画監督のデビュー作にしようと決意していた。その思いが見事果たされる形となり、劇映画監督の第一作目となった。
https://twitter.com/daishimatsunaga
岡山天音
1994年6月17日生まれ。
2011年より映画、ドラマ、CM、舞台等で活躍中。2015年公開の映画では風間志織監督『チョコリエッタ』、飯塚俊光監督『チキンズダイナマイト』、小林達夫監督『合葬』に出演。
http://www.humanite.co.jp/actor.html?id=13
門脇麦
1992年8月10日生まれ。
2011年より映画、ドラマ、CM、舞台等で活躍中。NHK連続テレビ小説「まれ」に出演。2015年公開の映画では大森寿美男監督『アゲイン 28年目の甲子園』、小林達夫監督『合葬』に出演。
http://www.humanite.co.jp/actor.html?id=24