OKStars Vol.455は2015年6月13日公開の映画『海街diary』の是枝裕和監督へのインタビューをお送りします。
Q 原作のどういうところに惹かれましたか。
A是枝裕和元々、吉田秋生さんの作品が好きというのと、原作の山形の父親の葬式の後に、映画では変えましたが、4人が高台に登ってすずが泣くシーンで4人のシルエットが重なるところに心奪われてしまいました。読み進めていくと、本当に繊細に4人の描写をされていまして、「捨て子が捨て子を育てる話なんだ」というところにも惹かれました。
Q 4姉妹の1年間を描く中で、鎌倉の四季の映像が美しかったですが、どんなところに気を配られましたか。
A是枝裕和すずが経験する光の変化をきちんと描こうとしました。大事件が起きるわけではないので、季節の移ろいや光の変化は丁寧に撮りましょうという話を撮影の瀧本幹也さんとはしていました。今回は季節に合わせて撮影できましたが、その合間に定期的に広瀬すずさんを呼んでサッカーをやったりしていました。
Q 広瀬すずさんへの演出についてお聞かせください。撮影の最初と最後で変化などありましたか。
A是枝裕和最初から素晴らしかったです。すごく勘が良く、耳もいいし、集中力もあって、運動神経もある。完璧でした。いつも子役には台本を渡さずにセリフを口伝えにするスタイルを取っていて、彼女はオーディションの時にどちらのやり方でも上手くできたので、本人にどちらがいいか聞くと「台本なしでやってみたい」ということだったのでそうしました。現場で完成させる意識が強くなりますし、台本の文字を読んで覚えて来るよりも、現場で姉の役の3人からのセリフを聞いて返すやり方のほうが今回はうまくいったと思います。彼女は台本全体をわかっていないので、シーンを受け止めてその場の役を生きていました。もちろん姉の3人がうまく受け止めたからなので、3人も素晴らしかったです。4姉妹のシーンはみんなその場にちゃんと生きていて良かったです。
Q 綾瀬はるかさん、長澤まさみさん、夏帆さん、広瀬すずさんの4姉妹の皆さんは現場での様子はいかがだったでしょう。
A是枝裕和本人たちは映像のままでした。カットがかかった後も、役柄の4姉妹のまま現場でお喋りしているか何か食べているかして過ごしていました。その様子を見ながらこちらも次のシーンをどうするか考えたりしていました。本人たちがギクシャクしたりすることもなかったので、今回のような映画の現場には良かったと思います。
Q 食事のシーンが何回も出てきます。食事のシーンのこだわりをお聞かせください。
A是枝裕和食事のシーンは原作でも重要な要素ですし、映画では法事が3回出てくるので、死に引き寄せられすぎないように、彼女たちが生きているという描写をするためにも、ちゃんとご飯を食べているシーンを入れることが大事だと思いました。とくに千佳役の夏帆さんには千佳はあぐらで、しっかり食べてくださいと言いました。幸姉はキチッとしているので正座しているし、佳乃はだらしなくしたり、食べ方でそれぞれの性格も出ていますね。
Q 食事のシーンで幸がすずに注意をするシーンが印象的です。
A是枝裕和すずが注意されて嬉しそうな顔をする、といったところまで台本に細かく書きました。山形でヤンチャな弟の面倒を見ている長女としてのすずが、鎌倉の香田姉妹のところに末っ子として入ってきましたが、幸とすずはしっかりしているところは似ています。そんなすずが「ご飯はかきこない」と幸から注意されることで、姉妹の距離感が近づいたことを表現しています。
Q 冒頭の父親の葬儀、母が訪れる法事、最後の葬儀の帰り、法事のシーンそれぞれの演出の狙いをお聞かせください。
A是枝裕和冒頭の父親の葬儀ではすず以外の3人は悲しいと思っているわけではないので、そのギャップをどう出すかでした。中盤の祖母の七回忌では、3人の母親が帰ってくることについての4人の感情のざわめきをどう描き分けるかでした。最後の葬儀の帰りのシーンは終わりであり、また始まりでもあるので、それを受け止めていく4人ということを考えていました。
Q 4姉妹の物語を撮り終えて、是枝監督ご自身は家族に関する捉え方に何か変化はありましたか。
A是枝裕和僕の中では個人的な変化は感じないですが、この作品を手がけるにあたって、実際の姉妹の方に話を聞いたりしましたので、4姉妹がいたら楽しいだろうなと思いました(笑)。
Q 是枝監督ご自身が映像の仕事に携わるきっかけをお聞かせください。
A是枝裕和大学に入った時には小説家になりたいと思っていました。すぐに大学には行かなくなって、大学の周りの映画館に行くようになりました(笑)。元々、TVドラマが好きで、山田太一さん、向田邦子さんといった方々の全盛期だったので、脚本も面白そうだと思って、小説から脚本にシフトしました。脚本の学校にも通ったりしているうちに、一度現場に入ってみたいと思って映像の世界に入ったのがきっかけです。
Q 映像制作を目指す人たちに、監督が普段現場で感じていることをお伝えしたいです。
A是枝裕和現場で考えることと、人の話を聞くということです。口よりも耳、そして目を使うことです。集団作業なので観察することを意識しています。
Q OKWaveユーザーに是枝裕和監督からメッセージをお願いします。
A是枝裕和4姉妹がとても魅力的に撮れています。ぜひ4回、毎回姉妹の誰かに注目して観てください。
Q是枝裕和監督からOKWaveユーザーに質問!
是枝裕和海猫食堂のメニューのアジフライにちなんで、アジフライをおいしく食べるにはソース、醤油、タルタルソース、何を使いますか。ぜひ皆さんのアジフライの美味しい食べ方教えてください。
■Information
『海街diary』
まぶしい光に包まれた夏の朝、鎌倉に住む3姉妹のもとに届いた父の訃報。15年前、父は家族を捨て、その後、母も再婚して家を去った。父の葬儀で、3姉妹は腹違いの妹すずと出会う。3姉妹の父を奪ったすずの母はすでに他界し、頼りない義母を支え気丈に振る舞う中学生のすずに、長女の幸は思わず声をかける。「鎌倉で一緒に暮らさない?」しっかり者の幸と自由奔放な次女の佳乃は何かとぶつかり合い、三女の千佳はマイペース、そんな3姉妹の生活に、すずが加わった。季節の食卓を囲み、それぞれの悩みや喜びを分かち合っていく。しかし、祖母の七回忌に音信不通だった母が現れたことで、一見穏やかだった4姉妹の日常に、秘められていたトゲが見え始める。
監督・脚本:是枝裕和
出演:綾瀬はるか 長澤まさみ 夏帆 広瀬すず 大竹しのぶ 堤真一 加瀬亮 風吹ジュン リリー•フランキー 前田旺志郎 鈴木亮平 池田貴史 坂口健太郎
原作:吉田秋生「海街diary」(小学館「月刊フラワーズ」連載)
配給:東宝 ギャガ
©2015 吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ
■Profile
是枝裕和
1962年、東京都生まれ。
早稲田大学を卒業後、テレビマンユニオンに参加。主なTV作品に「しかし…」(91/CX/ギャラクシー賞優秀作品賞)、「もう一つの教育~伊那小学校春組の記録~」(91/CX/ATP賞優秀賞)などがある。1995年、初監督した映画『幻の光』がベネツィア国際映画祭で金のオゼッラ賞を受賞。続く『ワンダフルライフ』(98)は、世界30カ国、全米200巻で公開された。2004年の『誰も知らない』では、主演の柳楽優弥がカンヌ国際映画祭で映画祭史上最年少の最優秀男優賞を受賞。
その後、『花よりもなほ』(06)、ブルーリボン賞監督賞を受賞した『歩いても歩いても』(08)、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品された『空気人形』(09)を手がける。2011年、『奇跡』がサンセバスチャン国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。2012年、初の連続ドラマ「ゴーイング マイ ホーム」(KTV-CX)で脚本・演出・編集を務める。2013年、福山雅治を主演に迎えた『そして父になる』が大絶賛され、カンヌ国際映画祭審査員賞ほか、国内外の数々の賞に輝き大ヒットを記録した。2014年に独立し、制作者集団「分福」を立ち上げた。