OKStars Vol.472は劇作家、脚本家、演出家の鄭義信さんへの新歌舞伎座 新開場5周年記念『GS近松商店』についてのインタビューをお送りします。
Q 近松門左衛門の「女殺油地獄」「曽根崎心中」をモチーフにした意図をお聞かせください。
A鄭義信近松門左衛門の何百年も前の物語ですが、現代と全然変わりなく、延々と人間の営みがあるので、『GS近松商店』は僕の作品の中では暗めな作品ですが、近松門左衛門の作品をモチーフに現代を照射できればいいなと思いました。
Q どんなところに惹かれたのでしょう。
A鄭義信お隣りで起きた事件という言い方がいいのか、僕たちはTVのニュースで通り魔などの殺人事件を日常的に見ているので、ひとつひとつの事件に麻痺してしまっています。近松門左衛門で言えば「曽根崎心中」のような、それぞれの切迫した状況がTVなどではほとんど出てきません。そういうところの人間のちょっとした行き違いや想いの違い、経済に絡む状況を本作から等身大に捉えてもらえればいいと思いました。
Q ガソリンスタンドという設定にはどんな意図があるのでしょう。
A鄭義信「女殺油地獄」の殺しの場面を現代に持ってきました。歌舞伎では大量の油を使って愁嘆場を演じますが、今の時代なのでガソリンスタンドだろうと。ただ、ガソリンスタンド自体、地方ではどんどん廃業せざるをえない状況なので、そういう時代設定としての狙いもあります。ただ、タイトルのGSはグループサウンズと間違えられてしまうことが多くて、それだけは失敗したかなと(笑)。地方都市の県道の外れにガソリンスタンドがあり、街中には傾きかけた芝居の劇場がある。そういう街全体が傾きかけているなか、祭りという鬱屈としたものが溢れ出す時に殺人が起こる、という内容になります。
Q どのように芝居作りをしていくのでしょうか。
A鄭義信わりとすっと入っていける役者もいれば、お互いのカードを見せ合うようなやり取りの中で作っていく役者もいます。とはいえ、1ヶ月いっしょに一本の芝居について考えていくので、演劇的な共通言語で役者のやりたいことは見えてきますので、そういう中で作り上げていきます。演出はわりと出たとこ勝負なところはありますね。
Q 作・演出という立場だと、作品を一番ご自身が把握しているのだと思います。そこに役者が作ってきたものをどうまとめていくのでしょう。
A鄭義信だいたい役者が持ってきたものを活かす方向性です。僕が演出の駆け出しの頃は、舞台は作家のイメージが強かったので、作家の書いたものを大事にしなければと思ってやっていました。それがだんだんと、役者が持ってきたものを現場で作っていった方が面白いと思うようになりました。それで作家が書いた台詞やト書きを無視するようになりました(笑)。自分で書いたものなのに作家の意図がだんだん分からなくなってきて、現場で決めることが増えてきましたね。
Q 舞台上の動きとしてはどうなっていくでしょう。
A鄭義信役者の動きが中心になってきます。ダンスがあったり殺陣があったりしますので躍動的なものになります。今回、この新歌舞伎座の舞台の上に本物の軽自動車も載せます。歌舞伎で言う荒事に当たる要素がたくさん入っています。車に加えてオートバイ、自転車も出てきます。
Q 関西が舞台ということで、地域性も出てくるのでしょうか。
A鄭義信僕自身が姫路の出身ということもありますが、本作ではどこかは判別のつきにくい形ですが関西弁で台詞を書いています。モチーフが上方を拠点とした近松門左衛門作品ということもあるので、舞台を関西に置きました。わりと関西の作家さんは関西弁で書かないのですが、僕は関西弁はきれいで独特な響きだと思っているので、そういったものを戯曲として残しておきたいという気持ちもありました。
Q 注目ポイントについてお聞かせください。
A鄭義信「女殺油地獄」で言うところの殺しのシーンですね。結構派手にやります。観月ありささんが油まみれになるのは確かです(笑)。いろんな人物の愛憎がいろんなかたちで出てきます。本作は群集劇なので、役者の持っているパワーが集まって出てくると思います。
Q 鄭義信さんが戯曲を書いたり演出をする上でコアな部分は何でしょうか。
A鄭義信登場人物の真実です。その行動の元になっている真実が何であるかがコアになります。どういう気持ちなのか、その人なりの真実が分かれば良いなと考えています。
Q 鄭義信さんからOKWaveユーザーにメッセージをお願いします。
A鄭義信ベースは近松門左衛門ですが、それを現代に置き換えた時に、それがどうダイナミックに、そして切実な人間ドラマになるのかに主題をおいて作りました。荒事などもありますので、ぜひ楽しみに会場に足を運んでいただけたらと思います。
■Information
『GS近松商店』
大阪 新歌舞伎座
2015年9月27日(日)~10月14日(水)
じっとりとした閉塞感がぬぐえない、そんな暑い夏。
県道脇にある寂れたガソリンスタンド(GS)を切り盛りしている人妻とその家族、ある事件をきっかけに人妻の元に通うようになった若者。
関西地方のとある田舎町に巻き起こる愛憎劇。
作・演出:鄭義信(Chong Wishing)
出演:観月ありさ 渡部豪太 小島聖 姜暢雄 朴璐美 みのすけ 星田英利 山崎銀之丞 升毅 石田えり ほか
料金:1階席 9,500円、2階席 5,000円、3階席 3,000円、特別席 11,000円
(※全て税込)
チケットの申し込み・問い合わせ:新歌舞伎座テレホン予約センター 06-7730-2222(受付時間10:00~18:00)
※電話予約開始:2015年8月1日(土)
http://www.shinkabukiza.co.jp/perf_info/20150927.html
■Profile
鄭義信(Chong Wishing)
1957年生まれ。兵庫県出身。
劇作家、脚本家、演出家。映画やTVの脚本の書き下ろしなど、シナリオ作家としても活動。主な舞台作品は『カラフト伯父さん』(05年)、『ぼくに炎の戦車を−Bring me my chariot of fire−』(12年)、『しゃばけ』(13年)など。『焼肉ドラゴン』(08年)では鶴屋南北戯曲賞、芸術選奨文部科学大臣賞演劇部門など各賞を受賞。映画脚本では『月はどっちに出ている』(93年)の毎日映画コンクール脚本賞をはじめ、『愛を乞うひと』(98年)で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞するなど、数多くの功績を残している。2014年紫綬褒章受章。