OKStars Vol.476 俳優 作・演出家 宅間孝行

OKStars Vol.476はあの名作『くちづけ』を自身が主宰するタクフェス第3弾公演として上演する宅間孝行さんへのインタビューをお送りします!

Q 『くちづけ』を書こうとしたきっかけをお聞かせください。

A宅間孝行初演は5年前で、僕が台本を書くようになってちょうど10年くらいでした。10年間自分のところのお芝居で、ずっとお客さんに寄り添うような作品を書いてきましたが、僕の中にもやり尽くした感がありました。それで、当時3年ぶりの新作を書くことになった時に、自分の琴線に触れる物語を作ろうと思いました。その当時から10年くらい前に見た新聞記事のことを思い出しました。この作品の内容の元となった事件で、10数行の概要を伝えているだけの小さな記事だったのがすごく切なくて、いつかこれは物語にできないかなと思っていました。それでその時に書こうと思いました。

Q 主人公の愛情いっぽん先生とマコの親子の関係性をどう描こうと思いましたか。

A宅間孝行宅間孝行実際の事件では80代のおじいさんと50代の息子さんの関係性でした。分かりやすくするために父と娘にしましたが、これは究極の親子愛の話だと思っています。この事件のような選択をつきつけられた時に、これが是か非かという話ではなく、誰にでも起こりうる話にしたいと思いました。金田明夫さんがつくる愛情いっぽんは、娘のマコに対しての愛情の持ち方が素晴らしいんです。金田さん自身も3人のお子さんがいて、一番下のお子さんも20代後半でみんな結婚もされていますけど、とにかく金田さん自身が子煩悩なんです。だからこの役にハマっていて、子どもが大好きで仕方がない金田さんそのままで演じることなく演じています。

Q 初演の反響はいかがだったでしょう。

A宅間孝行とても評判が良くてありがたかったです。自分の親や親戚などに似た境遇なんだということを打ち明けてくる方が多かったのが印象的でした。こういったナイーブな題材なので、反発や批判を覚悟していましたが、一切なく、むしろこういう世界によくぞスポットを当ててくれた、と言ってもらえました。「障がい者を扱った作品は偽善っぽいから嫌いだ」と当事者の親御さんから言われるケースがあると聞きますが、『くちづけ』では良いところも悪いところも描いているのですごく喜んでくれてもいます。ですので、評判が良くて嬉しかったのと、観てくれた方が少なからずこういう世界に興味を持ってもらえたのが良かったなと思います。

Q 堤幸彦監督の手で映画化されてご出演もされましたが、映画化された時に感じたことはいかがだったでしょうか。

A宅間孝行映画はなかなか成立しないんです。企画があり、台本ができ、キャスティングがあり、撮影もして、でも公開されずにストップ、ということもあります。TVドラマは放送されることが決まっているので突き進んでいきますが、映画は完成してから配給会社が決まるということが一般的です。映画化のお話をいただいた時は「どうぞ、どうぞ」と進めてもらいましたが、公開が本当に決まるまではぬか喜びしないぞと思っていました。完成披露までたどり着いて、「さすがにこれなら公開できるでしょう」という話をした覚えがあります(笑)。だから、『くちづけ』はすごく恵まれていますね。映画化のお話を頂いてから、3ヶ月後には撮り終わってました。そういう勢いというものもあるんだなと思いました。

Q 「タクフェス」としての今回の公演について新たに思うところは?

A宅間孝行今回、初演からグループホームのメンバーが2名増えています。映画版では1人増やして初演の時に足りないなと思っていたところを解消しました。さらに今回増やしましたが、その子はマコ役のオーディションを受けに来た子で、身長が180cmあるからマコ役には合わなかったのですが、制作チームから「見ておきませんか」と言われて会いました。実は本当に知的障がいがあって、20歳の時に知能は9歳と診断された27歳の女性です。考えていた話には役はありませんでしたが、僕らが『くちづけ』という作品を届けたいと思っていて、そこに「出たい」とやってきた彼女を僕らは何らかの形で受け入れるべきではないかと思ったので、これから彼女の役を考えるところです。この彼女も含めたカンパニーで『くちづけ』を届ける、ということで、前回とはまた意味が違った公演になるのかなと思っています。

Q キャスティングについてお聞かせください。

A宅間孝行初演からは金田さん以外はみんな変わっています。今回は僕の芝居にはお馴染みの方が多いのでいいメンバーが集ったなと思います。初演版、映画版とやって、今回が決定版になればいいなと思っています。マコ役の森田涼花さんはオーディションで役を勝ち取ってきました。初演版では加藤貴子が演じて評判が良かったので、オーディションではその加藤貴子のイメージを良い意味で引きずっている人が多かったです。映画版から入った人はブルーリボン賞も獲った貫地谷しほりのイメージが強いと思います。森田さんにはそんな大きな壁が用意されているわけですが、彼女だったらそれを覆せるんじゃないかなと思いました。マコは30歳の設定で、本人は22歳なので僕が演じるうーやんとのバランスを考えたりもしましたが、オーディションを見ていて、彼女ならお客さんたちの娘になれるんじゃないかなと思いました。お客さんが自分の娘にダブらせる何かが感じられたので、この子しかいないなと思いました。でも、本人に後で聞いたら「絶対に私がこの役に受かると思っていました」と言っていたので、プレッシャーを感じるよりもむしろあっけらかんとしていましたね。

Q 今回ならではの見せどころはいかがでしょうか。

A宅間孝行毎回お芝居をやっていて思うのは、ここで到着、というのがないんです。1ヶ月稽古で模索し、本番に入っても日々変わっていくと思います。その中で今回ならではの部分はやはり人数が増えていることですね。初演の時は3人しかいなかったグループホームのメンバーが5人に増えているので、似て非なるものに見えるかもしれません。そのパワーみたいなものに自分の中でも期待しているところがあります。現実の話をすると、ホームは6人いないと成立しないんです。今回5人とマコで6人になるので、そこから人がいなくなるとホームの経営が成り立たなくなる、という現実論に近づくので、そのリアリズムが加わってもいます。

Q 演出は普段はどのようにされているのでしょう。

A宅間孝行僕は細かく演出する方です。役者には芝居を持ってきてもらって、それに「こうしたらもっと面白いんじゃない?」というようなやり取りをしながら作っていきます。いまここで何が行われるべきかということも含めて全部作っていくので、時間はものすごくかかりますね。冒頭から一瞬一瞬をどう積み重ねていくかを考えているし、エンターテインメントには無駄なものは無く、全部に何らかの意味と意図があるので、それを説明しながら演出していきます。

Q 「タクフェス」というと、公演後のパフォーマンスも楽しいところかと思います。

A宅間孝行今回もあります。ただ、今回は『くちづけ』なので、前回とは違うテイストで、出演者が役のまま出てきて何かをやろうと思っています。芝居前のふれあいタイムや劇中写メタイムなどは今回も考えています。

Q 宅間孝行さんからOKWaveユーザーにメッセージ!

A宅間孝行一般的には日本の方は芝居や演劇に対してアレルギーのある方も多いと思いますが、『くちづけ』は映画にもなっている作品ですし、こんな世界もあるんだということを知る機会になると思います。とくに僕らの芝居はお祭り感が強いので、ひとつのイベントとして、映画になった作品をどうやるんだろうと思って来てもらえると、そのライブの良さを感じてもらえると思います。芝居見物という未知の世界があると思っているなら、その取っ掛かりにしてもらえればと思います。

Q宅間孝行さんからOKWaveユーザーに質問!

宅間孝行本作執筆にあたって取材をした時に東京都から聞いた話です。知的障がいのグループホームを建設するにあたり、周りの住民に理解を得るための話合いをするそうです。それ自体必要だとは思いませんが、その話合いをすると反対する住民がいて建設できないケースもあるそうです。反対する理由としてその人たちは「地価が下がるから」と言っているそうです。
質問ですが、とくに不動産関係者の方にお答えいただきたいですが、本当にグループホームがあると周りの地価は下がるのでしょうか。信頼できる回答がいただけたら劇中に入れようと思っています(笑)。

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■Information

タクフェス第3弾『くちづけ』

池袋サンシャイン劇場:2015年10月7日(水)~10月18日(日)

全国ツアー:札幌、富山、新潟、松本、福岡、島根、大阪、仙台、愛知

天使のように純真なハートをもつマコはなぜ…
知的障がい者たちの自立支援のためのグループホーム『ひまわり荘』では、カラダは大人、心は純真な子供のままの人たちが、みんなで楽しく暮らしている。
そんなホームにかつて大ヒット作品を1度だけ世に送り出した、漫画家の愛情いっぽんが娘のマコを連れて住み込みで働くことに…。
ひまわり荘の住人となった30歳のマコの心は純真な子供のまま。
そんなマコの心の扉をあけたのは、ひときわ明るく元気なうーやんだった。
惹かれあった2人は、マコの誕生日であるクリスマスの日に“結婚しよう”と指きりを交わす。
そして約束の日、うーやんはひまわり荘の仲間と一緒にマコがやって来るのを待つが…

金田明夫 森田涼花/
大和田獏 かとうかず子/
弓削智久 中村有沙 布川隼汰 ハレルヤまつこ
西岡ゆん 田中卓 葉石充 町田萌香/
柴田理恵 上原多香子/
宅間孝行

作・演出:宅間孝行

チケット:S席:7,800円
TAKUFESシート:4,000円 ※後方席になります
(前売・当日共/全席指定/税込)

チケットに関するお問い合わせ:サンライズプロモーション東京 TEL:0570-00-3337(全日10:00~18:00)

主催:ネルケプランニング

公式HP:http://takufes.jp/kuchiduke/


■Profile

宅間孝行

宅間孝行1970年7月17日生まれ、東京都出身。
2012年まで劇団「東京セレソンデラックス」主宰。現在、「タクフェス」主宰。
役者として舞台に立つ傍ら、サタケミキオの名前で脚本家としても数多くの作品を手掛ける。2009年より役者・演出・脚本家の名前を本名の宅間孝行に統一した。
現在、NHK大河ドラマ「花燃ゆ」に西郷隆盛役で出演中。今後の出演作としては、12月5日公開の日本・トルコ合作映画『海難1890』、2016年公開映画『団地』の公開を控える。

http://takuma.ts-dx.com/