OKStars Vol.479はこまつ座第113回公演・紀伊國屋書店提携「マンザナ、わが町」(2015年10月3日~25日)に出演する笹本玲奈さんへのインタビューをお送りします。
Q 「マンザナ、わが町」はまさに戦後70年という節目に合った作品かと思いますが、本作にはどのような印象を持たれたでしょうか。
A笹本玲奈戦中にアメリカで生きていた女性たちの話、という風に聞いていたのですごく重々しいものを想像していましたが、台本を読んでみたら、すごく前向きに生きている女性のたくましい姿が描かれた作品でした。言葉の節々には、日本からの移民の方々の葛藤も描かれています。アメリカで生まれて国籍もアメリカなのに顔が日本人というだけで差別された人の葛藤など、台詞には考えさせられる言葉もありますが、それ以上の前向きさがあるので、読んでいてむしろ爽快さがありました。戦争について込められたメッセージは大きいですが、登場する女性たちは今を楽しく、明るく生きようと努力しているので、今を生きている私たちも勇気づけられるし、力強く明日も生きていこうという気持ちになれる作品だと思いました。
Q 演じられるリリアン竹内という役をどのように受け止めていますか。
A笹本玲奈この5人の中では一番年下で、18歳の役、ということにはぎょっとしました(笑)。でも、今の10代と当時の18歳は精神年齢もだいぶ違いますし、どこかで人生を悟って見据えているような大人びたところもあれば、10代にしかないような先を知らないからこその真っ直ぐさもあって、魅力的な役柄だと思いました。
Q アメリカでの成功を夢見続けているホテル歌手、という設定についてはいかがでしょうか?
A笹本玲奈彼女の両親は日本生まれの日本人で、おばあちゃんは山形に住んでいる、という設定です。リリアン本人はアメリカ国籍を持っていてアメリカに住んでいます。親とも国籍が違う複雑な背景を持っているので、私には到底想像もつかないような、二世の方にしか分からないような苦しみもあるのだろうと思います。真珠湾攻撃の後には、顔が日本人だからという理由だけで職場を解雇されてしまうような差別を受けて、日本人としての誇りを持ちたいのに、それを持つことで差別されてしまうという残酷な面もあります。そんな中で歌手になりたいという大きな夢があるので、歌に対する熱い想いは今の時代の歌手になりたいと思っている子よりもずっと重いものだと思います。途中で「God Bress America」という曲を歌う場面が出てきます。アメリカ人の友だちに聞いたら、国歌に次ぐ大切な歌とのことですけど、この歌を歌うシーンの台本のト書きを読んだら涙が出そうになりました。ト書きには「最初は批判的に。やがて愛を込めて歌う」って書いてあるんです。「批判的に」というところと「愛を込めて」という対称的な感情を持っているところが見どころだろうし、一番伝えなければいけない場面だと思います。アメリカに対する「何で?」という思いと、生まれ育った国だから愛おしい気持ちもあると思うので、それを全部この歌に込められたらと思います。
Q 共演の方々についてお聞かせください。
A笹本玲奈土居裕子さん以外は初共演になります。土居さんとは2006年にミュージカル『マリー・アントワネット』で共演しました。再会して一緒に生活するという設定で、自分の母親のような、親友のような親密な存在という役柄でした。『マリー・アントワネット』ではお稽古と公演で半年以上いっしょにいて、初演ということもあって、すごく苦労を重ねたミュージカルでしたが、ずっとそばにいて温かい声をくださっていました。今回の台本には、私の演じるリリアン竹内と土居さんのソフィア岡崎とは「まるで姉妹のような親密な空気が醸しだされていく」と書かれていて、私たちにぴったりだと思いました。私たちにしか出せない空気が出せるだろうなと思います。
Q 他の初共演の方々とはいかがでしょうか。
顔合わせの時に早速LINEでグループを作りました。私は先日まで『レ・ミゼラブル』に出演していましたが、あちらはキャストが80名のカンパニーなんです。それが今回は5人のカンパニーなので、稽古場がこんなに広くて、こんなに人が少ないんだとびっくりしました(笑)。みんな女性ですし、台詞も多いし、戦時中という設定なので、「みんなで乗り越えていこうね」とみんなで言っていました。作品の中の5人の結束力を出すには、私たちの結束力が強くなればなるほどいい影響をもたらすのだろうなと思います。
Q 本作で注目すべきところは?
A笹本玲奈最後に5人で言葉をどんどん重ねていくような形になるところです。その時のメッセージがこの作品の全てだと思います。“黄色、黒、赤、白、焦げ茶、地球から生まれた色は全て美しい”というような言葉ですが、最後の5人の言葉が即興で想いがどんどん重なっていく様が重要になってくると思います。
Q 笹本玲奈さんからOKWaveユーザーにメッセージをお願いします。
A笹本玲奈「マンザナ、わが町」は井上ひさしさんが「父と暮せば」を書いたのと同じ時期に書かれているそうです。「父と暮せば」は原爆を受けた広島で暮らす父と娘の愛の物語ですが、「マンザナ、わが町」の舞台は日本ではなくアメリカです。日本で起きた戦争のことは何となく分かっていても、アメリカやハワイに当時住んでいた日系人がどういう生活をしていたのかは私も詳しくは知りませんでした。この作品に出てくる収容所のことも今回の出演を通じて資料を調べて知ったことだったので、戦争では戦場と日本国内に住んでいる人だけが苦しんでいたわけではなく、他の国に住んでいる日本人がどんなに苦しんでいたのかを、この作品を通じて伝えられると思います。戦争はある場所で起きたことだけが全てではなくて、日本であろうとアメリカであろうと、属している人種ということで大きな被害を受けた人たちがたくさんいたということを知ってほしいと思います。日本は決して戦争をしない国ですけれど、絶対に戦争が起きてはならないんだということが伝わればと思います。この作品に出てくる女性たちは空襲のような被害は受けてはいませんが、戦争というものがもたらす影響力の範囲は広くて、いろんなところで苦しみや悲しみの被害を受けていたことを知っていただきたいなと思います。
Q笹本玲奈さんからOKWaveユーザーに質問!
笹本玲奈今回の作品に出てくる日系人は英語と日本語を話すことができる人たちなので、独特の喋り方で話します。カタカナの言葉は英語の発音なのが日系人の方々の喋り方だそうです。
最近は帰国子女の方も多いですし、日本語以外に英語や他の言語もネイティブな方もいると思います。そんな方々に質問ですが、何か考えたりする時はどちらの言語で考えるのでしょうか。また、眠っている時の夢など、無意識に出てくるのはどちらの言語でしょうか。
■Information
こまつ座第113回公演『マンザナ、わが町』
2015年10月3日(土)~25日(日)新宿東口・紀伊國屋ホール
1942年3月、カリフォルニア州マンザナ強制収容所。
4か月前の真珠湾攻撃以来、日系アメリカ人に対する「排日」の気運は一気に高まっていた。特に西海岸在住のおよそ11万人は、奥地に急造された10カ所の収容所に強制収容されることになった。
そのうちの一つ、「リンゴ園」という意味の名の土地につくられた「マンザナ収容所」。砂漠の真ん中のバラックの一室に集められた5人の女性たち。ジャーナリスト、浪曲師、舞台奇術師、歌手、映画女優。収容所長から彼女らに下された命令は「マンザナは決して強制収容所ではなく、集まった日系人たちの自治によって運営されるひとつの町なのだ」という内容の朗読劇『マンザナ、わが町』の上演。
日系人として受けた差別的な境遇を語り合い、自分の中の日本人らしさとアメリカ人らしさが明らかになるなかで、アメリカ建国の理念とは反している収容所を美化した台本の内容をめぐって激しく対立する5人。
果たして『マンザナ、わが町』は上演されるのか。
5人の個性あふれる女優たちが集結して、18年ぶりの上演!
作 井上ひさし
演出 鵜山仁
出演 土居裕子 熊谷真実 伊勢佳世 笹本玲奈 吉沢梨絵
入場料(発売中) 7,000円/夜チケット6,500円/学生割引4,000円(全席指定・税込)
お問合せ こまつ座 03-3862-5941
■Profile
笹本玲奈
1985年6月15日生まれ、千葉県出身、O型。
1998年、中学1年生で『ピーターパン』5代目として初舞台を踏む。以来、数々のミュージカルを中心に活躍。
主な出演作品に、舞台『レ・ミゼラブル』、『ミス・サイゴン』、『ミー&マイガール』、『マリー・アントワネット』、『ジキル&ハイド』(2016年に再演決定)、『ウーマン・イン・ホワイト』、『ラブ・ネバー・ダイ』、『ジャンヌ』、『こどもの一生』、ラジオ『スカパー! 日曜シネマテーク』(TOKYO FM他)レギュラーパーソナリティ、TV「フラガールと犬のチョコ」、「相棒」等。
読売演劇大賞女優賞・杉村春子賞、菊田一夫演劇賞受賞。
こまつ座作品には『日本人のへそ』に出演している。