OKStars Vol.481は長編初監督作品となる『螺旋銀河』(2015年9月26日公開)の草野なつか監督へのインタビューをお送りします。
Q 『螺旋銀河』のアイデアはどんなところから出てきたのでしょう。
A草野なつかCO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)という大阪市が助成金を出して映画を撮ることができるコンペに企画を送りました。女性ふたりが主人公で、その片方がシナリオの勉強をしているという設定は同じですが中身は完成した映画とはだいぶ違うものでした。
あるオフィスに勤めていて、6畳くらいの一室でひとりで働いていた時に、別の部署のアルバイトの女性が私の席の向かいに座って仕事をすることになりました。向い合って仕事しているんですが、全く会話をすることもなくそれぞれの仕事をしていたんですね。何ヶ月か経ったある日、お昼に彼女が持っていた飴をくれたので私もチョコレートをあげた、ということがありました。その後にお互いに急に仲が良くなったら面白いなと思いましたが、翌日以降もそうはならず、そうしているうちに数ヶ月後に彼女はアルバイトを辞めてしまって、その部屋には私だけが残される、という出来事がありました。その時のことを思い返して、もしかしたら違うことが起きたかもしれないな、という想像からこの映画の元の話を書きました。
Q コンペに出そうとしたきっかけは何だったのでしょう?
A草野なつか大学卒業後に映画美学校という学校に通っていて、卒業後に短編を何本か撮ったり、他の方の自主制作の現場やもう少し大きな現場にもスタッフとして行ったりして、映画にはずっと携わっていました。ある時に知人から「CO2の締切が近いから作品を送れば?」と勧められました。それで何となく勘で「送ろうかな」という気になったのが直接のきっかけです。CO2のことは知っていて作品を送ろうと思ったこともあったのですが、その時は勢いで送ってしまいました。
Q 公募に通って作品を撮ることができるとなった時に感じたことは?
A草野なつかまず驚きました。長編は撮ったことがなかったので、その後は不安でした。でも、心配性ではあるけど楽観的でもあるので、最終的には何とかなるだろうと思ったので、気負いのようなものはありませんでした。
Q 本作ではどんなところに焦点を当てようと思いましたか?
A草野なつかキャストの人物像については明確なイメージがあったので、そこは後回しでいいと思いました。ただ、ストーリーが不完全で、作品化が決まった後も二転三転していたので、私自身、どんな話を撮りたいのか全く見えなくなった時期もありました。ですので、一番大事にしようとしたのはこのストーリーそのものですね。とにかく女性の関係性にまつわる話にしようということだけは変わりませんでした。
Q どのようにまとめていったのでしょう。
A草野なつか最初はCO2の事務局の方や審査員の方と進めていましたが、元々シナリオ執筆で協力してもらうつもりだった高橋知由くんに間に入ってもらいました。ちょっと手伝ってもらうつもりだったのが、ガッツリ相談に乗って欲しいと本人にお願いしました。それで彼に間に入ってもらって話を進めていったら、スムーズに話も進んで、私のやりたいことも明確に見えてきたので、いい転換期になりました。
Q キャストのふたりのどんなところを撮ろうと思いましたか?
A草野なつか先に幸子を澁谷麻美さんに決めて、それに合わせて綾は石坂友里さんに決めました。元々のタイトルが「antonym」だったので、ふたりのキャラクターの違いを描きたいと思いました。ただ、ふたりがリハーサルや読み合わせをしているうちに、対比というよりも、ふたりの人間的なところをちゃんと描いていったら、ふたりがリンクするところが出てくるんじゃないかと思うようになりました。それもあって“動”のお芝居よりも“静”のお芝居で見せたいと思いました。
Q 演出についてお聞かせください。
A草野なつかお芝居の話よりもシナリオの話をたくさんふたりにはしました。
幸子は口数が少ないので表情などで感情を見せるところも多かったのですが、澁谷さんとはこれまでに何回か作品に出演しもらっていましたので、あまり細かくは演出しませんでした。綾は初めてコインランドリーに行くシーンで、映画の中で初めての綾の弱い顔を見せたかったので、言葉の間合いや時間の使い方で、いかに表情を出さずに弱い顔を見せるかにはこだわりました。
Q ラジオドラマを作るふたりの話ですが、劇中劇という部分で考えたことは?
A草野なつか本編とラジオドラマは内容的にはリンクさせるということは決めていて、どうリンクさせるかなどの大枠と本編に出てくる印象的な台詞を入れるということはあらかじめ共同脚本の高橋くんと話し合っていました。それを基にラジオドラマ脚本はほぼ私が書きました。本編の第1稿は高橋くんが書いてくれたもので、ラジオドラマはそれを下敷きに自分が書いたので、文体の違いのようなものが少し出ているかもしれません。
Q とくにラジオドラマの収録シーンは映像的にも印象的です。映像的なところで意図したことは何でしょうか。
A草野なつかふたりの声を大事にしたので、台詞を音として伝えようと、抑揚などには気を使いました。会話している時の相手の言葉を聞いている顔や、相手の言葉を咀嚼してから返す、ということは細かく言いました。台詞を頭の中に入れてそれを交わす、というよりは、実生活同様に相手の言葉を聞いてから返す、ということは演出上、意識しました。
Q ふたりの間に出てくる男性、寛人の描き方はいかがだったでしょうか。
A草野なつかふたりの関係が大事だったので、どちらかというと彼の存在は、薄くする方向の演出をしてしまいました。「もっと表情を抑えてください」とか、感情を見えないようにしてしまったので、スタッフからは「男は人形じゃないんだから」と言われたこともありました(苦笑)。
Q 海外の映画祭にも出品されたり受賞もされていますが、手応えとしてはいかがでしょう。
A草野なつか手応えはあまり分かりませんが(笑)、感想がいろいろで面白いなと思いました。海外では、ドイツのニッポン・コネクション、シンガポール国際映画祭、フィンランドのCineAasiaの3つに行きました。2つは日本映画祭なので、質問や感想も日本の文化に対するものが多かったです。「日本の文化だとこういう考えや行動をするの?」とよく聞かれました。シンガポールでは、同じアジアということもありますけど、内容に特化した質問が多かったですね。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭も同様でした。内容について聞かれると次作に向けての反省にもなりました。
Q 本作を完成させて感じたことと、今後については?
A草野なつかまずは出来たことよりも出来なかったことの方が多かったなということですね。それと今までは短編で、大枠を決めて自由な形式で役者に応じて撮っていくやり方をしてきたので、きちんとした台本で1本の映画を撮るという経験も初めてでした。シナリオという下敷きがあって、それをどう撮るか、そこからどうはみ出すかは勉強になりました。しばらくはシナリオをきちんと設けていわゆるフィクションの作り方で撮っていきたいと思います。
今も次に撮りたい話を進めていますので、なるべく間を空けずに撮っていきたいです。
Q 『螺旋銀河』というタイトルについて聞かせてください。
A草野なつかもともとは「antonym」というタイトルで、対であるふたり、というところに重きを置いていました。現場に入ってから、改めてこの作品で描きたいところを考えてみると、まず、実際にコインランドリーという場所の持つ力がすごく大きかったんです。そして、ふたりは対極ではなくて、交わりそうで交わらないふたり、という描き方の方が正しいのではないかと思いました。それで交わりそうで交わらない、ぐるぐると同じようなことを続けていくイメージで“螺旋”にしました。コインランドリーのシーンは全て夜だったのと、幸子にとっては噂話や窮屈な人間関係から自分を守ってくれる、初めて獲得した自分の場所だと思ったので、宇宙の中における宇宙船のようなイメージもあったので“銀河”ということで今のタイトルになりました。
Q 草野なつか監督からOKWaveユーザーにメッセージをお願いします。
A草野なつかいろんな方に観てほしいですが、映画祭などでは女性の方からの意見が多かったので、とくに女性の皆さんに観ていただいて感想がいただけたら嬉しいです。
■Information
『螺旋銀河』
2015年9月26日(土)より渋谷ユーロスペースにてレイトショー上映、ほか全国順次公開。
美人だが自分本位な性格で友だちのいない綾は、OL勤めの傍らでシナリオ学校に通っている。ある日、綾の原稿が学校課題のラジオドラマに選ばれるが、今のシナリオでは不十分で共同執筆者を立てることが放送の条件だと講師に言われてしまう。負けず嫌いな綾は、会社で偶然言葉を交わした同僚・幸子の地味でおとなしい性格に目をつけ、共同執筆者に仕立て上げようとする。華やかな綾に憧れ過剰に接近して行く幸子は、綾と同じような服装をして行きつけのカフェに突然現れ、さらにはラジオドラマのシナリオにも「役に立てれば…」と口を出すようになる。そんな幸子を鬱陶しく思う綾。そして二人のことを知る寛人の出現により困惑を深める綾と幸子の関係性は、シナリオ朗読によるラジオドラマの収録を通して、思いもよらぬクライマックスへとひた走る。
監督・脚本:草野なつか
脚本:高橋知由(『不気味なものの肌に触れる』『最後の命』※共同脚本)
出演:石坂友里、澁谷麻美、中村邦晃
http://www.littlemore.co.jp/rasenginga/
■Profile
草野なつか
1985年生まれ。神奈川県大和市出身。
東海大学文学部文芸創作学科卒業後、映画美学校12期フィクションコースに入学。在籍中から自主映画制作に参加。2014年CO2助成作品『螺旋銀河』で長編映画監督デビュー。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭にてSKIPシティ・アワードと監督賞、第14回ニッポン・コネクションでは審査員賞を受賞。本作が初の劇場公開作品となる。