OKStars Vol.486 俳優 山内圭哉

OKStars Vol.486はこまつ座公演『十一ぴきのネコ』に出演の山内圭哉さんへのインタビューをお送りします!

Q 『十一ぴきのネコ』、この台本を読まれた印象はいかがだったでしょう。

A山内圭哉びっくりしました。とくにラストシーンには「馬場のぼるさんの絵本はこんな話やったけ?」と。絵本を読み直したら、すごくシンプルな話だったので、井上ひさしさんはこれを読んで民主主義とか国づくりとかの縮図を見つけたんだと、おもろいおっさんやと思いました。井上さんの他の作品にも出させてもらって感じるのは、地方と中央とか、弱者というものに対して独特の感覚があったんやろうなと思います。この話も弱者がどう幸せになるかという話なので、それを馬場のぼるさんの絵本に見出したところがおもしろいと思います。

Q 演じられているにゃん十一は、にゃん太郎とも10匹のねこたちの中でも異質の存在だと思いますが?

A山内圭哉役者の間では、俯瞰して物事を見られる役者は天才だとよく言われます。にゃん十一は俯瞰してるんだろうなと思います。俯瞰する能力は人はなかなか持てないですよね。組織であろうと家族のようなミニマムな間柄でも。何か物事を斜めから見ているというか、何か皮肉を持っていて、何で自分はそう思っているのだろうと考えているうちに俯瞰するようになっていったんだろうなと思います。思い返してみると、学生の頃にクラスに何を考えているのかわからん人がいましたけど、何にも参加しないんだけど、自分たちのことをずっと見ていたんだろうなと、にゃん十一もそんなやつなんだろうと思います。にゃん太郎に対する鏡のような存在で、正論でエネルギーのようなものを持っているにゃん太郎とは全く逆のものを持っていると思います。そのふたりの間でにゃん次からにゃん十までがどっちかに移ろいやすい市民の凝縮のようになっている、そういうサンドイッチの構造になっていると思います。でも、にゃん太郎と対立しているわけではなく、すごくシンプルに、みんな腹が減っている、という立場が一緒です。なので「じゃあどうすんねん?」というアプローチの違いです。

Q 2012年に上演されて、今回の再演ということについてはいかがでしょうか。

A山内圭哉初演の時は幸せな要素がたくさんありました。この人たちがやるとおもしろい、というキャスティングで、僕らもフルスイングでやれました。それをお客さんが観て喜んでくれて、それで再演できるのでありがたいことだと思います。

Q 役や芝居を構築していく上で前回の引き出しを活かすのでしょうか、それともゼロから作り直すような心持ちなのでしょうか。

A山内圭哉『十一ぴきのネコ』山内圭哉この作品には普遍性があるので、時代に呼応するところがあって、初演は3.11の翌年なのに、1970年に書かれたこの台本が全く色あせていなくて、当てはまるところをたくさん僕らは感じました。今回はそれから3年半経っていますが、前回とは違う台詞がビビッドに入ってくるんですよね。たとえば飼い主がベトナム徴兵逃れのGIだったにゃん四郎とにゃん吾のところとか。つまり、何にも世界は変わっていない、ということなんですよね。なので、あの時にしかできなかった台本、ということではなくて、時代と向き合うということです。なおかつ、井上さんの作品は否が応でも日本語と向き合わなければならないです。台詞を腑に落として吐く時に、隙のない日本語ですし、現代口語でもないので、真っ向から向き合わなければなりません。普段僕らがやっている演劇ではあまり体験できない課題があると思っています。

Q ミュージカルとしての歌や踊りの部分に関してはいかがでしょう。

A山内圭哉日本のミュージカルは内容よりも歌のうまい人を観に行くものなのかなと思うことがあります。僕は技術がなくても楽しそうにやっている人の方に目が向くし、それは芝居も同じだと思います。もし音楽劇としての音楽に重きを置くのならこのキャスティングには合ってないと思うんです(笑)。だから、長塚圭史の演出にしても、絶対に芝居からブレないようになっています。僕らも何でここで急に歌うの、とは思っていなくて、ちゃんと流れがあって歌や振り付けが始まっています。なので、ミュージカルファンの方にもぜひ観てもらいたいです。僕らができる最善のお芝居での歌って踊って、というところをちゃんと内容とリンクさせていますので、難しいけれど頑張っているところです。それと、宇野誠一郎さんのメロディはやっぱりすごいなと思います。僕らは子どもの頃に宇野さんのメロディを知らないうちに聴いている世代なので、聴いているとノスタルジックな気持ちになりますね。

Q 普段、芝居に取り組む時はどこを取っかかりにされますか?

A山内圭哉心がけているのは、台本の台詞通りに喋ろうということですね。それはすごく難しいことなんです。それができないと崩しもできませんし。ドラマや映画を観ていても台詞を喋らされていると感じることも多いので、そういうのは嫌だなと思います。井上さんの場合はとくに、何でここに句読点の点が入っているのだろうとか、考えさせられます。それが自分の演じる役の情報だったりするので、台本通りに読むことがすごく大事だと思います。

Q 共演陣についていかがでしょう。どんなやり取りをされていますか?

A山内圭哉この中の何人かと他のカンパニーで一緒になることはありますが、これだけ集まるのは今の演劇界ではあまりないです。絶対面白いメンバーですけど、動員が難しいだろうからなかなかプロデューサー側がやりたがらないです(笑)。だから初演の時も今回も僕らにとってもご褒美みたいな公演だなと、頑張ってきて良かったねとお互いに言ってました。
今回は、長塚圭史がやりたがっていたり、彼とやり慣れていたり、キャスト同士が共演していることが多いので、コミュニケーションは十分に取れています。その分、思ったことを言い合える空気が他の現場よりもあると思います。ただ3年半経っていますけど、年齢もその分老いが激しいなと(笑)。本当にあの人は台詞が出てこなくなったなとか、そういうところを補いながらやってます。やってて楽しい人たちです。

Q 改めてこの作品にかける想いをお願いします。

A山内圭哉演劇は効率の悪いもので、稽古に1ヶ月、スタッフもそれに合わせて準備をして、お金も結構かかっています。それを何でやっているのかは劇場に来ないとわからないと思います。この『十一ぴきのネコ』は劇場に観に来てくれた時に「なるほど」とわかる作品だと思います。たまに「金返せ!」という当たり外れもあるのが演劇の面白さですが、これは保証できます。若い人たちが、大人もパンキッシュだったりアグレッシブなんだなということが感じられると思います。演劇はそもそも、井上さんや寺山修司さんもそうですけど、元々はサブカルですから、若い人ほど引っかかりがあると思います。自分がこうだったらいいなということをやっていることが多いので、これをきっかけに下北沢界隈などにそういう人たちを探しに来てほしいです。TVでは見られないことを演劇ではやっていますから。それと想像力の面白さですね。何もないところに対象が見えてくることもありますし、実はすごく豊かなものだということがわかってもらえたらいいなと思います。演劇はいろいろな自主規制からも唯一緩いところだとも思います。だから最近では本当に刺激的なものは劇場にしかないだろうと言っても過言ではないと思います。それを生でその場でやっていますからね。

Q山内圭哉さんからOKWaveユーザーに質問!

山内圭哉劇場にはどういう演劇だったら観に行きたいと思いますか?

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■Information

こまつ座第112回公演・紀伊國屋書店提携
『十一ぴきのネコ』

2015年10月1日(木)~10月17日(土)新宿南口・紀伊國屋サザンシアター

野良ネコにゃん太郎はいつもお腹を空かせていた。ある日にゃん太郎は自分と同じようにお腹を空かせている十匹の野良ネコ仲間たちと出会う。みんなで知恵を出し合って、色んなことを試しても、何も食べられなければ飢えて死んでしまう!
そんなときに鼠殺しのにゃん作老人に出会い、目の覚めるような話を聞いてしまった。 「あの星の下に大きな湖があって、そこには途方もない大きな魚がいるそうな」
一大決心!大きな魚を求めて十一匹のネコが大冒険の旅に出た!
はたしてネコたちは満腹感を味わうことが出来るのか?

あの『キャッツ』がロンドンで誕生する十年前に、井上ひさしが世に送り出したネコだけのミュージカル。現代演劇を牽引する長塚圭史が前回に引き続き井上戯曲に挑み、北村有起哉、山内圭哉をはじめ、演劇界の猛者どもがネコになる!にゃあごろ!

作:井上ひさし
演出:長塚圭史
出演:
北村有起哉 中村まこと 市川しんぺー 菅原永二 金子岳憲 福田転球
大堀こういち 木村靖司 辰巳智秋 田鍋謙一郎 山内圭哉 勝部演之 荻野清子(ピアノ演奏)

入場料:大人7,000円(全席指定・税込)
子ども:1,100円(3歳~小学生)
学生割引4,000円
※学生割引:中学、高校、大学、各種専門学校ならびに演劇養成所の学生対象

こまつ座:03-3862-5941
こまつ座オンラインチケット:http://www.komatsuza.co.jp/

◇大阪公演 シアターBRAVA!
10月24日(土)13:00開演/18:00開演、25日(日)13:00開演
一般:7,800円、学生席(高校生以下)4,800円(全席指定・税込)
お問合せ:シアターBRAVA! 06-6946-2260(10:00~18:00)

◇北九州公演 北九州芸術劇場 中劇場
11月7日(土)14:00開演、8日(日)14:00開演
お問合せ:北九州芸術劇場 中劇場 093-562-2655


■Profile

山内圭哉

山内圭哉『十一ぴきのネコ』1971年10月31日生まれ。大阪府出身。AB型。
舞台、TVドラマ、映画に多数出演し活躍中。
NHK連続テレビ小説「あさが来た」に出演中。

https://twitter.com/yamauchi_takaya