OKStars Vol.497 「ベイビーさん~あるいは笑う曲馬団について~」座談会

OKStars Vol.497は舞台「ベイビーさん~あるいは笑う曲馬団について~」キャストらによる座談会の模様をお送りします!

■参加者(敬称略)
池田純矢、鈴木勝吾、井澤勇貴、松尾貴史、G2(演出)

Q 中島らもさんとの思い出などお聞かせください。

AG2大阪のTV局にいた新人の頃に出した「中島らもが司会をする」という番組企画が通って、それをきっかけに知り合いました。僕がまだ右も左も分からない頃から、包み込むように接してくれた方です。リリパットアーミー以外に戯曲を書いてくれたのも僕にだけですが、あそこまで頼み込んだのが僕しかいなかったんだと思います。裏話があって、らもさんがアル中で入院している病院にまでおしかけて行って「戯曲を書いてください」と頼み込んだんですが、らもさんは「わし、入院しているねんで」とニンマリ笑って、引き受けてくれたんです。

松尾貴史らもさんは、こちらが手下や弟子のような形を望んでいても、あちらは友達だという意識を絶対に崩さなかったんです。いろんなことを教えてくれましたし、何かの事象をどう捉えてどう感じるかということもすごく影響を受けていると思います。劇団を始める時には「呑むために芝居をしないか」と誘われました(一同笑)。旗揚げの時にはそうだったのがだんだんとプロ集団になっていったのと、僕は東京の事務所に入ったので、物理的に稽古に参加できなくなったので、その後は客演扱いで何度か出るようになったので、最初の3、4年しかいなかったんです。新作落語の台本を書いてもらったりもしましたが、それ以外ではダメダメなエピソードばかりでしたね…。偉いものにも弱いものにも、しっかりしたものにもダメなものにも分け隔てせずに愛情を傾けて、ギャグの題材にする時にもハンデを持っている人やタブー視されるような偉い人でも何でも同列に扱って笑い飛ばして愛する対象にしていたと思います。いい人は早くに逝ってしまいますね、と思います。

Q 中島らもさんの世界観を若手の俳優で体現する今回の取り組みについて、意気込みをお聞かせください。

A池田純矢僕は今回のお話をいただく前から中島らもさんのことを存じ上げていて好きでした。今回の「ベイビーさん~あるいは笑う曲馬団について~」(以下、「ベイビーさん」)の台本は視覚的でエンターテインメントだと感じました。サーカス団ですので、もちろんダンスやアクションもあるし、面白いと思える様々な要素が詰まっていると思いました。でも、本軸はそれだけでなく、稽古していて思うのは、人らしさだとか、機微のようなものを繊細に読み解ける作品だと感じています。こういう作品を演じられるのが純粋に嬉しいですし、意気込みとしてはこれだけ面白い作品だから、これで面白くなかったら我々がやばいぞ、くらいな(苦笑)、確実なものにしていかないと、という思いでいます。

鈴木勝吾僕は池田くんとは違って、初めてのものに触れて、初めての世界をまさに見ているところです。らもさんの世界観というものはまだ全然分からないですけど、また一つ新しい演劇の世界に触れられていることを嬉しく思っていて、そこに真摯にどれだけやれるか、ということだけですね。

井澤勇貴今まで僕が経験させていただいた作品とは違っていて、過去にもエンタメ要素の強い作品にも出ていますが、今回のエンタメ要素はまた違うなと思います。僕ら若手もいれば、大御所のベテランの方もいらっしゃるので、そういう現場でG2さんの演出、らもさんの脚本という作品をやらせていただけるのはすごく光栄ですし、その機会がこの年齢であるのには“得した感”というか、タイミングがいいというか、チャンスが降りてきたなと思います。その中で日々感じることを通じて成長できたらいいなと思います。

Q 中島らも作品はたくさんある中で、「ベイビーさん」を選んだ理由は何でしょう?

A「ベイビーさん~あるいは笑う曲馬団について~」G2ある時まで中島らもさんのリリパットアーミーの舞台をほぼ全作品観ていました。その中で大好きな作品はたくさんあるし、観ていて嫉妬心のようなものが浮かぶ作品もありますが、自分で演出してみたいと思った作品はこれだけなんです。他の作品は、らもさんを筆頭にキッチュ(松尾貴史さん)をはじめ、いろんな世界から異能の人が集まって、言葉は悪いけど“化け物”のような人たちが集まっているから、演出のやりようがない(笑)。キッチュも放送コードすれすれのキワモノでしたし、そんな人たちのオンパレードで、舞台袖でらもさんがクスクス笑っていそうな“してやったり”な作品ばかりなんですが、「ベイビーさん」に関してはある意味普通で、「え?こんなの書いたの?」という驚きがありました。普通なのにそこかしこにらもさんテイストがちゃんとあって、まさからもさんの作品でジーンとなるとは思わなかったという裏切りもあって、これなら僕も僕なりの演出で参加することができそうな気がしました。リリパットアーミーのラインナップの中で異質な作品だったんです。らもさんから「こどもの一生」という台本をいただいて、それは何度も演出していますけど、らもさんの作品で他にやりたいものは?という質問を受けるたびにいつも「ベイビーさん」というタイトルを口にしてきました。「いつか帝国劇場や歌舞伎座で演出したい」みたいな欲とはまた違った距離感ですが、この作品のことはいつも頭の片隅にありました。今回実現しますが、そういうわけで、力んでいるわけではないです。大上段に振りかざさずに、らもさんの言葉を大事にしていけば、きっと面白いものになるだろうなという感覚で稽古をしています。

Q 松尾さんは「ベイビーさん」についてどんなイメージがありましたか。

A松尾貴史僕が出ていた頃は草創期で俳優部と化け物部(一同笑)みたいにグループ分けされていたような感じでした。たとえば台本に「舞台袖から登場し、舞台上の全員をなぎ倒す」と書かれていて、ト書きには「キッチュ、ここで5分間、訳の分からない行動をする。最後には「お店来てー」と叫びながら舞台上手に退場」、そんなんばかりでした(一同笑)。だからこういう素敵な作品になっているらも作品は初めて出るんですよ。僕が出なくなってから上演されたのを客席から観て「いいな~」と思っていた作品です。そういう作品に関われて嬉しいですね。

Q “憧れの”G2さんの演出についていかがですか。

A松尾貴史全員苦笑いしてる。

G2話しづらいなら席立とうか。

池田純矢居てください(笑)!もちろんG2さんの演出している作品は大好きで幾つも観ていて、それこそ「いつか帝国劇場に」みたいな感覚がG2さんにはありました。今回この作品でご一緒できるのは純粋に嬉しいです。稽古に入って、ひとつのセリフに対して考えを巡らせてG2さんに「こういう考えでこのセリフを言いました」と言ったことに「ここがこうなるからこうじゃない?」と言われると「何だろうそれは?」と最初は腑に落ちないんです。でも言われたことをやるとそっちの方がしっくり来るんです。こういう感覚はあまり自分の中になかったので、「何だこれ」と思う感覚が大事なのかなと思います。そう思いながら、その理由を探しながらやった方がいいと最近やっと発見して、一昨日くらいから稽古が楽しくなってきました(笑)。最初はガチガチに緊張もしていましたが、G2さんとも仲の良い共演の横山敬さんからも「分からない気持ちを持ったままやった方が面白いと思うよ」と言われたので、なおさら「はい、やります」ではなく、疑問も持ちながら楽しくやっています。
松尾さんとは以前に映画でご一緒しているんですけど、セリフを交わすシーンがなかったので、今回同じ空間にいられるのが嬉しいです。

鈴木勝吾G2さんはすごく丁寧な方なんですけど、丁寧を装わず飄々としているように見せたいのかなと(一同笑)。

松尾貴史演出家だからね(笑)。

鈴木勝吾だからG2さんは稽古場から家に帰ったらめっちゃ怒ってるんじゃないかと思っているんですけど(一同笑)。こちらは作ろうとしているもののひとつひとつに丁寧に向き合ってくれるのですごく楽しいです。G2さんの言っていることはすごく分かるんですけど、頭で理解できていることが少年(ボーズ)の役でまだ出きていないことに戸惑っています。だからG2さんは家でため息をついているのかなと…

G2家でもニコニコ笑ってます。

鈴木勝吾それを信じて(笑)、僕としては新しいものとか人に出会えることが一番なので、このままいい時間で終われればと思っています。

井澤勇貴G2さんはダメ出しが的確で、腑に落としてやってみるとまだまだそこに到達できていないと感じることが多いです。ホームページの撮影の後にこの3人とG2さんと初めてお会いして食事会と対談をした時に、「見たことのないものを作るんだ」とG2さんは仰っていました。ベイビーさんの表し方をどうやるのだろう、と台本を読んで探っても思いつかないようなことを稽古場でG2さんの演出で見て、純粋に面白いなと思っています。役者の皆さんの対応力もすごいので、学ばさせていただいている感覚が強いです。今までの現場とはまた違った場所だと感じていて、こうやって芝居を作っていくんだなあという感覚です。

G2最初に対談した時の彼らの発言は優等生っぽくてつまらなかったんですよ(笑)。でも、その後に二次会で飲みに行ったらみんな弾けて面白い奴らだったから、コレならやれるなと思いました。

鈴木勝吾そんなに優等生に見えたのは嫌だなあ…。

G2でも、みんな素直じゃないのがいいね。説明をしても誰も即座に「イエス」とは言わないから。

松尾貴史それは僕とは違うところだ(一同笑)。

G2僕も軽はずみに「はい」って言う人はあんまり信用しないから。

松尾貴史えぇっ!?(一同笑)

G2みんな僕に言われたことを頭の中ですごく考えているから「イエス」と言うのを忘れているんです。この子たちと遊ぶのは楽しいなと思いましたね。

Q G2さんから見て稽古の様子はいかがですか。

AG2この子たちより、ベテラン勢の方が扱いが大変なので(笑)、家に帰って君たちのことで怒ることはないですよ。本当に分かっているかは分からないけど、僕の言葉を浴びてくれているので、こちらも言いがいがありますし、「はい、やります」と言われるとかえって萎えちゃいますね。結構難しいことを要求していますから。僕は非常に抽象的なことを言いますけど、彼らなりにそれを理解しようとしているので見ていて楽しいです。若い人たちが集まると休憩中にサーカスの大玉とかで遊びだしてうるさいですけど(笑)、僕に次女が生まれた時にキッチュがお祝いに遊びに来てくれて、長女と風船をとばしたり走り回って遊んでうるさかったことを思い出しました(笑)。
らもさんの台本は本当に良く出来ているので、それをどう受け止めるかを各自が考えてくれれば成立するので、後は、それこそ「ここでキッチュが5分」みたいなシーンがあるんです。歌や踊り、サーカスの芸をやるところは「芸をやる」くらいしか書いていないので、そこをどうやるかそろそろ決めていくことですね。そことらもさんの戯曲がどう絡んでくるかが僕の今一番やりたいところです。ボーズの一輪車とかゾウさんはちょっとだけ側転をしたり、内海少尉はカーテンコールですごいことをきっとやる(笑)。

鈴木勝吾今から決めれば何でもできる!

G2天井から落ちてくるのは楽日だけでいいよ(池田さん苦笑い)。若手はみんな初めてだけど、ベテランチームはやったことがある人たちばかりなので、そういう組み合わせは面白い空間ですね。

松尾貴史周りの皆さんを見ていると頭が下がるというか、「俺はダメだな…」と自己嫌悪に陥る毎日です。

一同・・・。

G2そこは笑ってあげなさいよ。

池田純矢どうしたらいいのかと(笑)

Q 時代感や戦争の部分についてはどう取り入れていますか。

A池田純矢昭和16年という時代を知ろうと勉強したり、僕は軍人役なので当時の映像を見て敬礼や歩き方などを吸収はしていますけど、そこばかり頭でっかちになっても仕方ないので、共演の方たちと芝居を合わせた時に自分の浮いている部分がないか考えるようにはしています。そこの空気感みたいなものが合ってくれば、時代感のようなものも出てくるかなと思います。

井澤勇貴「シルク・ドゥ・ソレイユ」やテントでやっているようなものなどサーカスはこれまで3回くらい見たことがあります。当時のサーカスは違うのかなと思って、昔の中国の槍とかを使った武術のようなものなどの映像も見ています。あのクオリティは流石に今からでは無理ですが、大玉や一輪車、槍などの小道具も揃ってきたので、見よう見まねでやりながらできることを考えています。それで今はお手玉の練習をしています。

松尾貴史イメージとしてはフリークショー(見世物小屋)なのかなと思っています。

G2らもさんの頭の中にもそういうメージがあったと思います。

松尾貴史みんなと違うものが集まっていて、そんなみんなが認められているんですね。多分らもさんは、みんないいんだと思っていて、そういうフリークショー的なサーカス団というムードがあるんじゃないかと思います。

Q 同年代ということでの仲間意識やライバル心のようなものもあるんでしょうか。

A鈴木勝吾年齢はずれていますし、ライバルだと考えると楽しい気分にならないので、考えないですね。純矢とは長い付き合いですし、勇貴とも2回目なので、ライバル心よりも心強さがあります。ちょっとやばい時には一緒にご飯に行ってもらえるし、気分を変えたい時に誘うこともできるし。俺にないものをふたりは持っているので刺激にもなりますけど、そういう関係でいる方がいいですね。

池田純矢作品で一緒にいなくてもプライベートでよく一緒にいる仲なので、ものすごく楽な関係です。自分のいいところも悪いところも知っているのは心強いですよね。僕のいいところが今出ているのかどうかは言われれば納得する部分もあるし、もちろん100%全てを肯定するわけではないですけど、そういう目線が近くにいるのは心強いですね。

Q では最後に本作の見どころをお聞かせください。

A池田純矢すごくエンターテインメント性のある作品で、見る軸によって何通りもの捉え方があるので見どころも変わってくると思います。そういう見どころがたくさんある作品も稀有です。舞台鑑賞はなかなかハードルが高いと思いますが、今まで敬遠してきた方もこの作品は舞台デビューの人にも優しい、というか舞台の何が良くて何が面白いのかがすごく分かるので、自分はすごく自信を持って観てくださいと言える作品だと思います。ある種、軽い気持ちでテーマパークに行くような感覚で来ていただくと思いもよらないものを家に持ち帰ることができると思います。

鈴木勝吾劇中にベイビーさんという得体のしれないものが出てきます。それは見る人によって形や姿が違います。この作品の脚本だけを読んでいると副題の「笑う曲馬団」だけでもいいんですけど、「ベイビーさん~あるいは笑う曲馬団について~」というタイトルが示しているように、きっとこの舞台そのものがベイビーさんのように、観る人によってどう見えても正解、物事は十人十色でいい、ということを伝えたいんだと思います。この作品の時代は個が組織の中に飲み込まれていたり、生きるために必死な時代ですけれど、いまやっと、みんな同じ色に見えなくてもいい、と言えるようになった時代だと思うので、この作品が皆さんにどう見えるのか、演じる側も楽しみにして作り上げていけたらと思います。

井澤勇貴タイトルのベイビーさんがなんぞやということを劇場でどう表すかということと、一から十まで全てが見どころですし、錚々たるメンツとG2さんということで、僕らもとてもやりがいがあります。こういった環境の中でできるのも役者人生の中でそう多くはないなと思えるほど、僕自身も気合を入れてやっています。仮に今後この舞台がDVDになったとしても、やはり劇場で舞台上での役者の汗とか、お客様もリンクした何かを感じてもらえればと思います。作品の時代や中島らもさんのことを知らない若い方でも、この作品から何かひとつでも感じていただいて誰かと共有していただけたら僕らも嬉しいです。
「ベイビーさん~あるいは笑う曲馬団について~」

Q座談会を代表して…
鈴木勝吾さんからOKWaveユーザーに質問!

鈴木勝吾劇中で曲馬団(サーカス団)に拾われ一輪車に乗るのですが、みなさんは一輪車に乗れますか?乗ったことがありますか?みなさんの経験など、ぜひ聞かせてください。

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■Information

『ベイビーさん~あるいは笑う曲馬団について~』

「ベイビーさん~あるいは笑う曲馬団について~」2015年11月7日(土)~14日(土)Zeppブルーシアター六本木

昭和6年(1931年)、満州のとある戦場で幕を開ける。
第二次世界大戦に日本が突き進んでいた時代、堂山中尉と八代少尉の二人は爆撃から逃れてとある塹壕に潜んでいた・・・。

それから10年、昭和16年。
いよいよ日本が第二次世界大戦に突入しようとしている時。
満州の新京。
とあるサーカス団が、軍隊の慰問をするために活動を開始している。
その慰問が適正かどうか視察にきているのは、八代大佐率いる一同。
見世物が終わって、八代大佐のもとに集まってくる、サーカス団の連中。

「サーカスではない、曲馬団だ」
士気を鼓舞するための慰問だ、間違っても敵性語を使用してはならない。

「そういえばここには動物はいるのか」
八代大佐に問われて、象やらがいると答える曲馬団の一同。
日本国中が食べ物を制限している中、餌をやることに不服をぶつけられて、サーカスの連中が思わず放った言葉は
「餌を食わない動物もいるんですよ」
餌を食わない動物なんているはずがない!と息巻く八代大佐のもとに連れてこられた一頭の動物。
「ベイビーさんで。」

こうして、ベイビーさんと曲馬団と八代大佐たちは出会ったのだった・・・。

作:中島らも
演出:G2
出演:池田純矢 鈴木勝吾 井澤勇貴 入来茉里/小須田康人/松尾貴史 ほか

チケット料金:8,500円(全席指定・税込)

公式サイト:http://baby-san.com/

お問い合わせ:セガ・ライブクリエイション 03-6871-7680 ※10:00~18:00(土日祝を除く)

『ベイビーさん~あるいは笑う曲馬団について~』公開直前プレイベント

本公演直前プレイベント!「ベイビーさん」出演キャストによるトークイベント、お客様とのQ&Aコーナー。さらにキャスト写真撮影タイム、ハイタッチ会と盛り沢山な内容で開催します。

開催日時:2015年11月2日(月)18:30開場、19:00開始予定、20:00終演予定
会場:Zeppブルーシアター六本木
出演予定:池田純矢、鈴木勝吾、井澤勇貴、入来茉里、坂元健児、小須田康人
司会:植木潤
イベント参加資格:本公演のチケットを2枚以上お買い求めいただいているお客様
※入場口にて、購入されたチケット(2枚)を確認の上、ご入場いただきます。購入済みチケットを必ずご持参ください。

詳細:http://baby-san.com/?id=special5