OKStars Vol.504は『劇場霊』(2015年11月21日公開)中田秀夫監督へのインタビューをお送りします。
Q 島崎遥香さんの起用の経緯についてお聞かせください。
A中田秀夫当時AKB48のメンバーだった前田敦子さん主演の『クロユリ団地』の成功を受けて、秋元康さんから「劇場を舞台にしたホラーをやりましょう」という新しい企画を打診されました。今回、主演は秋元さんの指名ではなく、監督が選んでほしいということでしたのでAKBグループ全員をオーディンションし、300人くらいに会いました。島崎さんとは二次選考からお会いしましたが、演技をしていただく前からこの人はいいなと思いました。普段からちょっと不安げに見える大きな瞳が特徴的ですが、僕は「ネコ科の目」と呼んでいますけど、キッとした挑みかかるような目もできると思いました。映画はもちろん演技力が重要ですが、映画的なフォトジェニックさも重要で、とくにホラー映画に関しては、不安さや立ち向かおうとする時の佇まいのような資質が大切だと思います。もちろん島崎さん自身はオーディションの際にも自分の考えを持って演技も頑張っていましたので彼女を起用しました。
Q 『劇場霊』のストーリーの軸についてお聞かせください。
A中田秀夫プロデューサーや脚本家らと話し合って、島崎遥香さん演じる水樹沙羅という女優の成長物語が軸にあるので、怖いことだけを狙うというよりも、物語としてどうあるべきかを考えて、エンディングに至るまでのストーリーを組み立てていきました。
Q その沙羅の成長物語としてのストーリーの狙いはいかがでしょうか。
A中田秀夫『劇場霊』はホラー映画ですが、ショービジネスの裏側や稽古期間中の出来事、というものをベースにストーリーを作っていきました。脚本の加藤淳也さん、三宅隆太さんのふたりは僕の処女作の『女優霊』を意識してくれていましたけれど、『女優霊』は新人監督が初監督作品を撮る話に対し、『劇場霊』は新人女優がステップアップしていくという話なので、AKBグループを意識した部分はあったと思います。メンバー同士、仲は良くてもセンターの座を目指すライバル関係でもあると思いますので、この映画のストーリーの中でもそういったものを繰り広げたいと思いました。島崎さんには、自分自身の今や将来への不安や悔しい気持ちがあるとしたら、水樹沙羅という役を演じるのであっても、島崎遥香というアイドルとして過ごす時間、オフの時間に感じた生の感情をうまく利用して役にぶつけてほしいと伝えました。現実の彼女たちの感情を取り込んだ方が、生に近い感情が出せるかなと思いました。
Q 島崎遥香さんの現場での対応はいかがだったでしょう。
A中田秀夫劇中劇のシーンのリハーサルでは、演劇の演出家の方に特訓していただいたし、それ以外のシーンは僕がリハーサルで見ていきました。今回、リハーサルを長く行うことができたので、その分、現場でのやり取りもスムーズでした。ホラー映画では不安感や恐怖感がゆっくり上がっていって、クライマックスで最大になりますが、撮る順番はバラバラですので、慣れていないと感情の出し方は難しいものです。それで、ここでは5段階の3くらいで、という表現で指示を出したら彼女もしっかり理解して演じてくれました。僕は演出の際に言葉数が多いのですが、島崎さんはひとつひとつ頷きながら聞いてくれて、助監督らは「こんなに話を聞いてくれる女優さんは初めて見た」と笑い話にしていました。
Q 恐怖の対象を人形としたところはいかがでしょう。
A中田秀夫劇場の舞台でのリハーサル中、というシチュエーションからいろいろ考えました。劇場に幽霊が出る話、というだけでは、この20年間にJホラーというジャンルの中で、心霊実話のような作品を中心に描き尽くされています。そこで魔物的なものが襲ってくるというのはどうだろう、ということになって、舞台で使う小道具、とく人間の形をした人形であれば、さらに祟られ感のようなものが出せるだろうと思いました。僕としては小さな人形よりも、出演者たちよりも少し身長が高いような等身大の人形が襲ってくる、怪奇映画のようなイメージがありました。あの人形は、足や腕が動くようにできているのと同時に、人形役の女優さんにも演じてもらうことで、いろいろな表現ができたと思います。
Q フィルム撮影を行ったということですが、その意図など、解説をお願いします。
A中田秀夫デジタルで撮影すると暗い部屋でもそれなりに撮れてしまいますが、フィルムでは映りにくいです。いまはTVでも映画でもデジタルが主流の時代になってしまいましたが、フィルム撮影の場合は「ちゃんとライティングをすれば」という前提がありますが、暗い部分の表現がすごく豊かにできます。昔の映画ではフィルムの感度が悪かったので顕著ですが、照明をしっかり当てて女優の髪の艶を出したり、輪郭をしっかり出すという撮り方をしています。ホラー映画では暗い場面が多いので、表現方法としてデジタルよりも有利に進めらると僕は思っています。最近、香港で『リング』をフィルム上映してもらう機会がありましたが、竹内結子さんが演じた大石智子の家の2階の廊下を広角レンズで撮っているんですけど、実際には白い壁を黒に近いグレーで表現しました。絶妙なライティングがなければそのような表現はできなくて、デジタルではなかなかその域まではいけません。また、フィルムでは撮り手側が見せたいところ、観客側が見たいところを中心に丸く見えるんです。デジタルは隅々まで均等に映ってしまうので目移りしてしまいがちです。
今回はそういったことからフィルム撮影は僕やキャメラマン、プロデューサーの話し合いの中でフィルム撮影を実現できました。
Q 中田秀夫監督からOKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。
A中田秀夫『劇場霊』では、心霊ツアー的にじわじわと怖さが押し寄せる、というよりは、もちろん怖さはありますがポップな作風にしましたので、友達同士やデートムービー的に楽しんでもらえると思います。映画を観た後に話題にできるような気分の作品にしましたので、「ホラーだから苦手」と言わずに、ホラー好きな方と一緒に観に行ってその人にしがみついてでも観てもらえたら嬉しいです。
■Information
『劇場霊』
芸能事務所に入って5年、いまだに役に恵まれない若手女優・水樹沙羅は、気鋭の演出家・錦野豪太の新作舞台に端役で出演することに。演目は、若さを保つために少女の生き血を浴びていた実在の女貴族エリザベートの生涯を描く「鮮血の呼び声」。舞台にはエリザベートの内面を映し出す分身の人形が置かれ、その前で沙羅や主演の篠原葵、野村香織らは火花を散らしながら連日稽古に打ち込んでいた。そんなある日、劇場でスタッフの女性が変死体で発見される。その直後、今度は葵が転落事故で意識不明の重体に。
葵の降板を受け、沙羅は急遽主演に抜擢される。ところが稽古中に、沙羅は舞台に置かれた人形が動き出すのを目撃。果たして目の錯覚か、それとも…。
島崎遥香
足立梨花 高田里穂
町田啓太 中村育二 小市慢太郎
監督:中田秀夫
企画:秋元康
脚本:加藤淳也 三宅隆太
配給:松竹
公式サイト:http://gekijourei.jp/
©2015「劇場霊」製作委員会
■Profile
中田秀夫
1961年生まれ、岡山県出身。
東京大学卒業後、にっかつ撮影所に入社。小沼勝監督や澤井信一郎監督らの下で助監督として経験を積み、92年、TVドラマ「本当にあった怖い話」シリーズの「幽霊の棲む旅館」「呪われた人形」「死霊の滝」で監督デビュー。96年に『女優霊』で映画監督デビューを果たし、その後『リング』(98)、『リング2』(99)で日本映画界にホラーブームを巻き起こす。05年にはハリウッドリメイクされた『リング』の続編『ザ・リング2』を自ら監督、ハリウッド進出も果たし、その後も国内外で活躍している。その他の監督作品に『カオス』(00)、『ラストシーン』(02)、『仄暗い水の底から』(02)、『怪談』(07)、『L change the World』(08)、『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』(10)、『Chatroom/チャットルーム』(10)、『クロユリ団地』(13)、『MONSTERZ モンスターズ』(14)などがある。
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