OKWAVE Stars Vol.524は2016年2月13日公開の映画『ライチ☆光クラブ』内藤瑛亮監督へのインタビューをお送りします。
Q 『ライチ☆光クラブ』映画化の経緯についてお聞かせください。
A内藤瑛亮プロデューサーから映画化の相談を受けました。古屋兎丸さんの初期作はよく読んでいましたが、この原作は相談があって初めて読み、初期作にあった資質が大きな形で結実した作品だと思いました。少年少女の鬱屈した感情が過剰な暴力に結びつく、というテーマはこれまでにやってきた自分の作品と共鳴しているように感じました。一方でロボットものは男子としてずっとやってみたかった(笑)、やってきたこととやってみたかったことの2つが詰まった企画なのでぜひやらせてほしいと引き受けました。
Q 映画化において一番大事にしたことは何でしょう。
A内藤瑛亮終盤の大殺戮が非常に重要だと思いました。原作もそうですが、大人や社会が象徴化されていて、場所も限定的です。主人公たちの愛憎劇が、闇を抱えた少年の内面世界のようにも感じました。ゼラ少年が抱えていた闇が具現した世界。9人の少年が9つの人格であり、悪い心も良心もあり、でも唯一の良心だったタミヤも今は悪に染まっている、という風にも捉えられます。最終的に、ライチという彼らが生み出した、純粋さの象徴とも言えるロボットが殺戮を繰り広げていきますが、悪い心をすべて壊す、ある種の浄化のようなものと感じました。なので、その終盤の殺戮に向かって物語を積み上げていこうと意識して取り組みました。そういう一本の筋があり、もう一方でライチと少女カノンの物語がある。少年たちが破滅に向かう反面、ロボットと少女の間には美しいつながりができていくところに救いが生まれます。
Q ゼラのキャラクターをどう作っていきましたか。
A内藤瑛亮ゼラのキャラクターが世界観を決定づけると思いました。ゼラのような支配者的な存在はパフォーマンスが上手です。ヒトラーもそうでしたし、会社の社長や政治家のような組織のトップに立つような人は、パフォーマンスによって周囲の気持ちをコントロールして、反抗する人を排除したり取り込んだりして、支配力を高めていきます。強烈な支配欲はあるんだけど、結局それによって何を得たいのかがよく分からない、内面が空洞になっている怖さを感じることがあります。ヒトラーはユダヤ人を迫害しましたけど、そうすることで彼自身、幸福を得られたのだろうかと、そもそも何でそんなに憎むのか、掲げている動機が実は表層的なものなんじゃないか、欲望の内側は空洞化しているように感じてしまいます。でも、そういう人の方が組織を拡大していけるような気がします。組織のトップにいる人ってサイコパスっぽくないですか?ゼラの存在ってそういうことじゃないかな、と。古川さんとはゼラのコンセプトについて話し合って、『意志の勝利』というナチスのプロパガンダ映画や子どもたちを洗脳する宗教ドキュメンタリー『ジーザス・キャンプ~アメリカを動かすキリスト教原理主義~』などを観てもらって支配者のメンタリティを得てもらいました。
古川さんは原作にあるゼラの独特なポーズを取り入れて、芝居を組み立てました。原作から削ったエピソードに入っていたゼラのポーズも古川さんなりにミックスしていましたね。漫画ではコマで切り取られているポーズの前後の動きを考えなければならないので、実際にやるのは大変だったと思います。でも、ゼラのポーズは先ほど言った支配者のコントロール術であるパフォーマンスなので、重要なファクターでした。
古川さんは入念に演技プランを練ってくれるので、現場では見せてもらって、それを「編集」するようなつもりで指示をしました。ここは間をとって、あそこの動きはこっちに持っていこう、貧乏ゆすりを加えてみて、みたいな。
「廃墟の恋人たち」のシーンでゼラがベロを出すところは原作の別のシーンのものですが、古川さんからぜひそれをやりたいという提案があって、面白いことを考えるなぁーとワクワクしました。実際にそれを撮った時には現場がざわつきましたね(笑)。その場にいなかった野村周平さんが翌日に「古川さんが『メェー』って言ったそうですね?どういうことですか?!」って聞いてきましたけど、みんなを惹きつけるようなパフォーマンスをどんどん提案してくれました。
Q 他のキャラクターのキャスティングはいかがだったでしょう。
A内藤瑛亮そのキャラクターの核となる部分に通じる資質を持った方を選びました。芝居に関しては僕からイメージを押し付けるよりは、本人が描いたイメージを膨らませていくようにアプローチしました。役者本人の内面から出てきたものでないと芝居が本質的なものにならないと考えているんです。僕はみんなの思い描いたキャラクターを一つの世界観として成立するように調整するような役割をしていきました。
Q 個人的には池田純矢さんのニコはうまいなと思いました。
A内藤瑛亮視線の芝居が力強いですよね。池田さんの使命感の強さや真面目さが反映されていると思います。池田さんは指示したら、いつも「はい!」といい返事をして、普段からニコっぽかったです。意外と「これで大丈夫ですか」と聞いてくる心配症なところもあって、彼には「いい感じだよ、ニコらしいよ」と応援していくように声かけしました。
Q 野村周平さんの演じたタミヤはゼラと対立していく立場ですね。
A内藤瑛亮野村さんは古川さんと対照的でした。古川さんは演技プランをきっちり決めてくるタイプですが、野村さんは現場に立った時の直感を大事にしたいタイプで、動物的な感覚で演じていました。「ここはこうした方がもっといい」という演出に反応していくので、テイクを重ねるほど良い芝居をしていました。古川さんの芝居は微調整をする感じでしたけど、野村さんは「もっと、もっと」という感じで演出したので、2人が共演するところは古川さんがちょっと大変そうでしたね(笑)。でも映画の中のキャラクターも対照的だったので良かったなと思います。
撮影後によく役者陣で飲んでいましたけど、野村さんはみんなを囲んで盛り上がっているタイプで、古川さんは飲みには参加せず部屋に戻って翌日の演技プランを考えていました(笑)。そんなところも対照的でしたね。
Q カノン役の中条あやみさんも目を惹きますが、彼女に関してはいかがだったでしょう。
A内藤瑛亮古屋さんが描くヒロインのように、お人形さん的なルックスと現実離れしたスタイルを持った女優に出て欲しいと考えていました。オーディションで中条さんを見たときには、漫画から抜け出してきたように感じました。原作でのカノンは象徴に近い存在でしたけど、映画では生身の人間が演じるので、意志の強さを出したいと思って、逃げる場面を入れたり、ゼラとの対峙をはっきり示したりしました。ゼラを罵倒する場面は「ゼラの頭のてっぺんからつま先まで、存在すべてを否定して下さい」と伝えて、まさにそういう芝居をしてもらえたので僕自身、気に入っています。それと、カノンが泣く場面が2度出てきますが、一度目はなかなか泣けませんでした。最終的に泣けたんですけど、脚本に「大粒の涙を流す」と書かれていたので、泣くことを意識過ぎてしまったんですね。ジョン・フランケンハイマー監督の「泣く場面で役者に泣けと言ってはいけない」という言葉をその時に思い出しました。二度目の場面は泣いてほしいなと思っていましたが、逆に「絶対泣いちゃダメだよ」と言いました。そうしたら、自然と涙がこぼれる芝居を撮ることができました。
Q ライチとカノンの素敵なシーンが沢山出てきますが、撮影はどのように進めたのでしょう。
A内藤瑛亮ライチはスーツアクターの荒川真さんに中に入ってもらって芝居をしてもらいました。最初はオフ声だけ聞きながら芝居をしてもらうことも考えましたが、目の前にいる相手との声のやり取りをしたすることで、芝居が良いものになるだろうと思って、荒川さんに演じてもらいました。芝居では聞くことが重要なので、カノンがライチの声をどう受け止めたのか、というところを大事にしました。
Q 監督から『ライチ☆光クラブ』の見どころをお聞かせください。
A内藤瑛亮本作はライチという赤ん坊のような存在が、光クラブの少年たちとカノンのどちらを学ぶのか、という選択の物語でもあります。果たしてライチは、カノンから人間的な正しさを学ぶのか、少年たちから暴力性を学ぶのか。血まみれの中二病絵本だと思って観に来てください。暗い青春を過ごしている人、かつて過ごしていた人には共感できる世界だと思います。
Q 内藤瑛亮監督からOKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。
A内藤瑛亮今の日本映画にはなかなか無いタイプの作品に仕上がっています。残酷なだけではないものが、血まみれの先にありますので、血が苦手な方も頑張ってそこまで辿り着いてください(笑)。
■Information
『ライチ☆光クラブ』
工場から黒い煙が立ちのぼり、油にまみれた町、螢光町。この貧しい地の廃墟へ、深夜に集まる9人の中学生がいた。この秘密基地の名は「光クラブ」。光クラブのメンバーは醜い大人を否定し自分たちだけの世界をつくるため、兵器として機械(ロボット)を開発していた。巨大な鉄の塊で作られた機械が動く燃料は、楊貴妃が好んだ永遠の美を象徴するライチの実。その機械は「ライチ」と名付けられた。ライチに与えられた目的は、光クラブに美しい希望をもたらす「少女の捕獲」。光クラブのリーダーであるタミヤ、実質的支配者のゼラ、ゼラを偏愛するジャイボと絶対的な忠誠を誓うニコ…それぞれの愛憎が入り乱れ、裏切りもの探しがはじまる中、ライチはとうとう美少女の捕獲に成功する。
カノンとの交流で、ライチが人間らしさを学んでいく一方で、少年たちの世界は、狂気に突き進んでいく。果たして、少年が願う大人のいない永遠の美の王国は実現するのか……。
出演:野村周平、古川雄輝、中条あやみ、間宮祥太朗、池田純矢、松田凌、戸塚純貴、柾木玲弥、藤原季節、岡山天音
監督:内藤瑛亮
原作:古屋兎丸「ライチ☆光クラブ」(太田出版)
配給:日活
公式サイト:http://litchi-movie.com/
©2016『ライチ☆光クラブ』製作委員会
■Profile
内藤瑛亮
1982年生まれ、愛知県出身。
是枝裕和、黒沢清らが講師陣に名を連ねる映画美学校のフィクションコース11期生修了。 短編デビュー作『牛乳王子』(08)が、国内外の映画祭で高く評価される。代表作に、センセーショナルなテーマを鋭く描き絶賛された『先生を流産させる会』(12)、夏帆、野村周平を主演に迎えた『パズル』(14)など。新たな才能として注目を集める気鋭の若手映画監督。森川葵・小関裕太主演のオリジナルホラー『ドロメ 女子篇/男子篇』が3月26日公開。