Vol.525 映画監督 門馬直人(『ホテルコパン』)

OKWAVE Stars Vol.525は『ホテルコパン』(2016年2月13日公開)門馬直人監督へのインタビューをお送りします。

Q 『ホテルコパン』映画化の成り立ちについてお聞かせください。

A門馬直人ドッグシュガーという映像企画制作会社を立ち上げた際に、映画監督志望でしたが自分が最年少だったのと、代表の片嶋一貴のプロデュースを手伝ってきたことから10年間、映画プロデューサーを続けてきました。その間に他の2人のメンバーも監督作品を撮り終えていたので次は自分の番かなと思って、準備を始めたのが2011年です。その前年の2010年に本作の脚本を担当した一雫ライオンさんと出会って、映画を作ろうという話をしていました。震災後に会って「こういう話を撮りたい」と『ホテルコパン』の大枠の話をしたら、夏前に会った時には脚本を作って来てくれました。その初稿はコメディ寄りだったので今の方向性に直してもらって、2012年には脚本は完成していました。映画会社に持ち込んだりしているうちに伊藤主税プロデューサーと出会って、監督未経験だったため、本作を撮るためにも名刺代わりとしてまず短編を撮っておこうという話になりました。

Q では本作を撮るためにショートフィルムを撮ったのですね。

A門馬直人そうです。『MinestronE(ミネストローネ)』を2012年に撮って、2013年に撮った『ハヌル-SKY-』がShort Shorts Film Festival&Asia2013ミュージックShort 部門UULAアワードを受賞しました。
ですので、短編を撮り続けて、今回長編を、ということではないんです。でも、伊藤プロデューサーがやっている短編のワークショップを見て、短編映画の良さというものも知ることができました。

Q 主演の市原隼人さんを起用した経緯はいかがでしょうか。

A『ホテルコパン』門馬直人『ハヌル-SKY-』で受賞できたことで、『ホテルコパン』の話を進めることができ、市原君に企画を話しました。当時の彼は『ROOKIES』の印象がありましたけれど、TVドラマの「カラマーゾフの兄弟」でそういう熱い男ではない役を演じていたので、今回の海人裕介役にも興味を持ってもらえました。市原君が決まってから映画化の話が一気に進みました。

Q 『ホテルコパン』はオリジナル脚本の作品ですが、方向性はどのように決めていったのでしょう。

A門馬直人最初に一雫ライオンさんに話した時には僕の頭の中にイメージができていました。主人公の海人が再生していく人間ドラマの話にしたいという想いがありました。一雫ライオンさんはエンタメ寄りの話もシリアスな話も書けるので、僕の元々の意思に合わせて形にしていきました。白馬が舞台なのは一雫ライオンさんのアイディアです。一雫ライオンさんが現地にリサーチに行って、書いてきてくれました。長野五輪の当時は盛り上がっていたけど、その後寂れてしまっていた白馬の町の姿が、登場人物たちが一度絶望と向き合う、という話の筋とどこか重なっているなと思いました。2年後に実際に撮影する頃には、白馬自体が活気を取り戻しつつあったので、絶望からの再生という物語とまさにぴったりで、いい場所を見つけたなと思いました。

Q 多数の登場人物の物語が平行して進んでいくグランドホテル方式のねらいをお聞かせください。

A『ホテルコパン』門馬直人映画をきちんと観始めた頃から一人の主人公の物語よりも群像劇が好きでした。当時観たタランティーノの『パルプ・フィクション』やガイ・リッチーの『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』などからカルチャーショックを受けたのかなと思います。伊坂幸太郎さんのような群像を描いた小説も好んで読んでいたので、映画を撮る時は群像劇を撮ろうという気持ちが根底にあったと思います。自分で意識してからはロバート・アルトマンのような群像劇がうまい監督の映画を観るようになって、群像劇や交差劇への興味が増しました。ただ、1994年頃から2000年台には『運命じゃない人』とか、そういう交差劇がたくさん生まれたので、交差劇にはしたくないなという思いがありました。その代わりに、登場人物たちのそれぞれの物語が他の人物の欠けている部分を補完するようなものにしようと思いました。

Q 現場ではどのような考えでキャストへの演出をされましたか。

A門馬直人登場人物が皆トガッていて、ちょっと特異な人物ばかりですが、物語をリアルに見せたかったので、なるべくキャラクターが濃くなり過ぎないようにしました。演技論には、キャラクターに自分を寄せる考え方と自分にキャラクターを寄せる考え方があると思いますが、今回は自分にキャラクターを寄せられるだけ寄せてほしいと伝えました。そうすると、たとえば市原君と近藤芳正さん、玄里さんが会話をしているところにキャラクターの設定が加わるので、その3人が話している事自体にリアリティがあるように見えると思います。

Q ホテルという舞台設定についてはいかがでしょうか。

A門馬直人群像劇をやりたいということから逆算したところもありますが、プロデューサー的な視点で言えば、予算の関係があるので、撮影も一か所に集められるようにと考えました。主人公の海人はある事件があって東京から逃げてきたので、働き先としてホテルという舞台にしました。せっかく白馬で撮っているのですが、ジャンプ台は出てきますがあまり外の景色が多くないのはちょっともったいなかったかなとは思います。

Q 初長編ということで苦労したことはいかがでしょうか。

A『ホテルコパン』門馬直人「大変だった」というところでは、湖での市原くんと清水美沙さんのシーンはカメラマンが湖に入って撮らないといけなかったので大変だったと思います。それと終盤のホテルの屋上のシーンは、近藤さんが屋上の端に立つので、本人含めみんな気分的に落ち着かなかったとは思います。
撮影全体で言えば時間との戦いでしたね。白馬は山なので、天気が変わりやすいので屋内のシーンでも大変でした。温泉のシーンは夜の露天風呂で撮ったので、役者2人は熱い露天風呂に浸かってのぼせそうになっていましたけど、スタッフは夜の冷気で逆の意味で過酷でしたね。

Q 本作を作って気づいたことや再発見したことはいかがでしょう。

A門馬直人「こうしておけば良かった」ということはたくさんありますが、良かったことで言えば、演出する上で役者をもっと追い込んでもいい、というところは役者さん自身から教えてもらえた気がします。今回ホテルを舞台にした話だったので、次はもっといろいろな場面を用意したいなと思いました(笑)。

Q 門馬直人監督からOKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。

A門馬直人老若男女10人の登場人物の、恋愛や老い、お金など、いろいろな生きづらさを描いている作品です。いろいろなテーマを投げかけている作品なので、自分の抱えている苦しみを解消する何かを見つけていただければと思います。登場人物たちも何かを救いたいとか、前に進もうとしていますので、皆さんの応援になればと思います。

Q門馬直人監督からOKWAVEユーザーに質問!

門馬直人皆さんが生きづらいと思っていたことをどうやって乗り越えたかをお聞かせください。

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■Information

『ホテルコパン』

『ホテルコパン』2016年2月13日(土)シネマート新宿ほか全国順次公開

東京で教師をしていた海人祐介は2年前から、長野県白馬村にあるホテルコパンで働いていた。
1998年の長野オリンピックで賑わった白馬村も、今では、かつての賑わいが嘘のように閑散としている。オーナーの桜木は、オリンピックの時のような活気を取り戻そうと躍起になるのだが、そう簡単に客は集まらない。もう一人の従業員のユリは、そんな桜木を尻目に無愛想に淡々と働いていた。
ある日、スーパーでの「生産者の顔が見える野菜」の販売にヒントを得て、ホームページをリニューアルする桜木。すると偶然にも数組の宿泊客が訪れることになり、久々の盛況ぶりに喜ぶ桜井だったが、やってきたひとりの女性客の顔を見て、海人は顔をこわばらせ過呼吸に陥る。
その女性・千里は中学校教師時代に担任した生徒・守の母親だった。守は中学校でいじめを受けていて海人はいじめから救おうと努力したのだが、努力も虚しく守は自殺をしてしまったのだった。ショックと自責の念にかられた海人は逃げるように東京を離れ、ホテルコパンに身を寄せ、人とのつきあいを避けるように働いてきた。母親の執念というべきか、逃げ出した海人をホームページのリニューアルによってようやく海人を発見しやってきたのだった。千里は滞在中、息子のいじめを知らされなかったこと、そして解決しないまま逃げ出したことについて陰湿に責め立てる。海人は突如、苦悩の日々に引きずり戻されるのだった。
一方、他の滞在客もそれぞれ問題を抱えていた。カップルの美紀と班目、多額の負債を抱えている宗教団体の教祖・段来示と資産家令嬢・ひかる、昔は脚光を浴びていた老女優・舟木とマネージャーの澤井。ホテルオーナーの桜木もまた、離婚した妻・美智代と娘・歩と偶然再会してしまう。
信じてたものを失い、人生の山場を迎える人々。
その先に待ち受けるゴール、それぞれの見る未来とは…。

市原隼人
近藤芳正 大沢ひかる 前田公輝 水田芙美子 栗原英雄 玄理 大谷幸広 李麗仙 清水美沙

監督・編集:門馬直人
脚本:一雫ライオン
主題歌:「もう、行かなくちゃ。」新山詩織
配給:クロックワークス
公式サイト:hotelcopain.com

©2015 and pictures inc.


■Profile

門馬直人

門馬直人(『ホテルコパン』)株式会社リクルートの広告ディレクターを経て、映画製作会社ドッグシュガーを立ち上げ、以降、映画・TVドラマのプロデューサー・キャスティングプロデューサーとして活動を続ける。その後、and picturesに参加、プロデューサーと監督を兼任。2012年に初監督した短編映画『ミネストローネ』が、shortshortsFilmFestival&Asia2013 JAPAN部門に正式ノミネート、監督2作品目の『ハヌル -SKY-』(13)は、ミュージックShort 部門のグランプリ:UULAアワードを受賞。続けて同年、アーティストコラボショートフィルム企画:SHORT MOVIE CRASHの1作品『柩』(コラボアーティスト:Chicago Poodle)を監督。また初の長編映画作品である今作品『ホテルコパン』に続き、ファンキー加藤主演の『サブイボマスク』(2016年初夏公開)を監督。短編では、UULAとshortshortsFilmFestival&Asiaの共同製作ミュージックショートフィルム『君を想う』(14)(主演:倉科カナ、アーティスト:浜崎あゆみ)を監督するなど幅広く活躍している。