Vol.542 映画監督/ドラマ演出家 平川雄一朗(『僕だけがいない街』)

OKWAVE Stars Vol.542は『僕だけがいない街』(公開中)の平川雄一朗監督へのインタビューをお送りします。

Q 原作も3月発売号で完結ということでしたが、映画化はどのタイミングだったのでしょう。

A平川雄一朗単行本の1巻が出た2013年です。あるプロデューサーさんから薦められて読んで、面白いし、これは映画化しないといけないなと思っていたところに声をかけていただきました。原作者の三部けいさんからはかなり先のプロットもいただきましたが、スタッフとはタイトルの持つ意味などから先の話を予測して準備に取り掛かっていました。やはり多くの人に観ていただきたいので、誰しもが感じる「僕だけがいない街」にしたい、という想いがありました。プロットをいただいて原作の流れを受け止めながら、僕たちはこう映画化したい、というものを三部さんにぶつけたら、三部さんも漫画の編集部の方も懐が広い温かい人たちで、了承してくれました。そういった方々の協力があったから映画化ができたんだと思います。

Q <リバイバル>というタイムリープをどう映像化しようと思いましたか。

A平川雄一朗タイムリープそのものの表現は、脚本から現場、編集段階で変化しました。29歳の男が10歳に戻っても、一人の主人公が過去と現在にいなければならないので、どちらかといえば、少年の悟を演じた中川翼くんに負荷がかかったと思います。

Q その中川くんのキャスティングの決め手は何でしたか。

A『僕だけがいない街』平川雄一朗主演の藤原竜也さんに似た子を探せ、というオーディションで600人くらいの中から選びました。芝居は最初は未熟でした。中川くんは鈴木梨央ちゃんよりも1学年下で、かつ演技未経験だったので、最初はビビっていたし、演じることを恥ずかしがってもいました。何回もリハーサルをしましたが、その時は声も全然出せていませんでした。それがクランクインの時にはしっかりと出せるようになっていて、聞いてみたら家でバランスボールに乗りながら発声練習をしていたそうです。小学生役の子たちはほとんど彼よりも1歳年上でしたけど、本番では中川くんがリーダーシップを取って、役柄の29歳の悟のようにしっかりしていました。子どもは成長が早いんだと思いましたし、頼もしくも感じました。現場では怒られたりもしていましたけど、苦しんだ分だけ映像にいい表現が表れていると思います。

Q 連載中のミステリー作品を映画化する難しさはいかがだったでしょうか。

A平川雄一朗三部さんはこの作品を2時間の映画にはできないという割り切りがあったと思いますし、「僕だけがいない街」という作品が様々な形で成長すれば良い、という優しさがあったと思います。なので、展開としては別ものでも良かったところはあります。ですが、原作にある魂のような部分は映画の中にもちろんあります。映画のラストシーンがどうあるべきかは撮影中もずっと考えていました。藤原さんと一緒に最後まで戦ったことで生まれたラストシーンだと思っています。

Q 藤原竜也さんの芝居についてはいかがでしたか。

A『僕だけがいない街』平川雄一朗藤原さんは一緒にやって、すごく力がある役者さんだと改めて思い知らされました。本人は楽なようにやっているように見せていても実際は一生懸命で、そのスタイルが彼自身なんだろうなと思います。飄々としているようで芝居になるとちゃんとやる、というところは格好いいなと思います。

Q 愛梨役の有村架純さんについてはいかがでしたか。

A平川雄一朗藤原さんと有村さんはイメージキャストとして早い段階で決まっていました。悟は内向的な役なので、藤原さんが演じる上では、普段の発散する芝居よりは抑制する芝居だったと思います。愛梨は原作の設定よりも歳上ですが、前に行こうとする快活な女の子役を演じる部分では有村さんは苦労していたかなと思います。でもその頑張っている部分がしっくり来て良かったなと思います。

Q 愛梨と悟の関係性はどう作ろうと思いましたか。

A『僕だけがいない街』平川雄一朗悟と愛梨は好き嫌いの愛情というよりは、悟が持っていないものを愛梨が持っていて、愛梨にないものを悟が持っているからこその惹かれ合う関係にしたいと思いました。そうすることでふたりの間のせつない関係を描けるんじゃないかと。現代で殺されてしまったお母さんを救うために悟はリバイバルをして、過去では雛月のことも救おうとする。そうなった時に、タイムリープものとしては何かを得るための代償を提示することになります。悟と愛梨がこの物語の軸でもあるので、藤原さんと有村さんのふたりは良かったなと思います。

Q 連続誘拐殺人事件というミステリーの要素についてはどう取り組んだのでしょう。

A平川雄一朗犯人は誰だ、というミステリーを楽しみたいという人もいれば、登場人物は限られていますし、原作の読者であれば誰が犯人かは予め分かっています。ですのでそこのミステリーだけではなく、悟がリバイバルを起こすSFとしてのミステリーの理由と、悟と犯人がどのような結末を迎えるのかというミステリーが最後まであるようにしました。

Q 29歳の悟がいる2006年と、リバイバル中の1988年と、撮り方での違いなどはありましたか。

A平川雄一朗最初はトーンを変えようかとも思いましたが、都会と田舎の風景の違いだけで違いが出るなと思いました。現代は混沌とした人間の欲望があふれているところを出したかったですし、原風景は田舎にあるので、そういう場所選びにはこだわりました。

Q 原作のどの部分を一番描こうと思いましたか。

A『僕だけがいない街』平川雄一朗原作では日常生活の中で忘れてしまいそうな大切なことをセリフとして言ってくれています。なので、映画でも観ている人がそれを共感して受け止めてもらえるようにしたいなと思いました。ですが漫画のセリフをただ映画で言わせても伝わりにくいので、そこに出てくる人物や風景で感じてもらえるようにすることが原作の魂を映画に込めることだと思いました。
映画化する上では、原作の要素で入れられなかった部分もあります。たとえば雛月の虐待の描写は入れないようにしました。ですが、それがなくても伝えられると思いましたし、原作の持っている魂の部分は残す、というのはそういうことだと思います。

Q リバイバルという能力について監督はどう思いましたか。

A平川雄一朗何で悟はリバイバルしているのだろう、というのはみんな気にするところですし、僕の中には答えがあるので、観ながらぜひそれを探してほしいなと思います。みんな何かに後悔したことはあると思います。それがやり直せるとしたら自分だったらどうするのか映画を観て考えるのもいいと思います。
この映画を撮ってみて、自分自身はやり直したいとは思いませんが、もし小学生に戻ったとしたら、当時の景色がどう見えるのだろうという興味は湧きましたね。

Q 映画を作る上で大事にしていることは何でしょう。

A平川雄一朗答えがあるけれど答えがないところですね。映像の力を信じていろんなことを感じることができる余白を残しておくことだと思います。セリフがなくても観ている人の感情が伝わる力は映画ならではだと思いますし、そういうところを常に作りたいなと思います。「僕だけがいない街」は漫画では行動の理由などかなり説明をしてくれていてツッコミどころがないですけど、映画では様々な捉え方ができるし、むしろツッコミどころがあってもいいんじゃないかとも思います。

Q 『僕だけがいない街』をどんな人たちに観てもらいたいですか。

A平川雄一朗とりわけ疲れている人に観てもらいたいですね。生きていると、いろんなことに疲れてしまうと思います。この映画を観て、絶望の中にあるかすかな希望ですけれど、そういう力を持って帰ってほしいと思います。前を向ける、ということが僕が子どもの頃に観た映画の印象なので、作り手になったいまは逆に皆さんにそういうものを持って帰ってほしいです。

Q平川雄一朗監督からOKWAVEユーザーに質問!

平川雄一朗リバイバルできるとしたらいつに戻りたいですか。

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■Information

『僕だけがいない街』

『僕だけがいない街』2016年3月19日(土)全国ロードショー!!

売れない漫画家の藤沼悟は、アルバイトのピザ屋での配達中に何度も同じ時間が巻き戻る<リバイバル>という現象が起きる。周囲の違和感を察知した悟は、交差点に暴走するトラックから小学生を助けるが、その代償として自分がはねられてしまう。病院に付き添ってくれたのはバイト仲間の愛梨。他人に対して距離を置く悟に対し、なぜか気後れせずに接してくる特別な存在だ。
数日後、何者かに母親が殺され、愛梨も命を狙われる。警察から容疑者と疑われた悟が逮捕される寸前、またしても<リバイバル>…巻き戻った先は18年前、同級生の雛月加代が被害者となった連続誘拐殺人事件の起こる直前だった。29歳の意識のまま、10歳の身体に<リバイバル>した悟は、雛月と母親を殺した犯人が同一人物だと確信。真犯人を追い詰めるために、現在と過去を行き来しながら事件の謎に迫っていく。果たして、悟は18年前の事件を未然に防ぎ、大切なひとを救うことが出来るのか?

原作:「僕だけがいない街」三部けい(KADOKAWA/角川コミックス・エース)
監督:平川雄一朗
キャスト:藤原竜也 有村架純 及川光博 杉本哲太/石田ゆり子 ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画

公式サイト:bokumachi-movie.com

(C)2016 映画「僕だけがいない街」製作委員会


■Profile

平川雄一朗

平川雄一朗(『僕だけがいない街』)1972年生まれ、大分県出身。映画監督・ドラマ演出家。
TVドラマ「ROOKIES ルーキーズ」(08)や「JIN -仁-」(09/11)シリーズなどを大ヒットに導いたヒットメイカー。2007年に『そのときは彼によろしく』で映画監督デビューを果たす。その他の作品に『陰日向に咲く』(08)『ROOKIESー卒業ー』(09)、『ラブコメ』(10)、脚本も手掛けた『ツナグ』(12)、『想いのこし』(14)など。青春ものからラブコメディ、泣ける人間ドラマまで幅広いジャンルを得意とする気鋭の監督。TVドラマ演出作には「Stand Up!!」(03)、「世界の中心で、愛をさけぶ」(04)、「あいくるしい」(05)、「白夜行」(06)、「セーラー服と機関銃」(06)、「佐々木夫婦の仁義なき戦い」(08)、「とんび」(13)、「天皇の料理番」(15)、「わたしを離さないで」(16)がある。