OKWAVE Stars Vol.565は15周年を迎える京都芸術劇場での公演を控えた、日本の舞踏界を牽引されてきた麿赤兒さんならびに笠井叡さん、山田せつ子さんへのインタビューをお送りします。
>(前ページ)麿赤兒さんへのインタビュー
笠井叡さん、山田せつ子さんへのインタビュー
Q 「燃え上がる耳」というタイトルは笠井さんのオリジナルですが、まずこのタイトルの意味を教えてください。
A笠井叡タイトルの由来自体は直感です。“燃える”というイメージが今の時代の象徴的なもので、耳は人間の体なので、人体も含めて燃える、ということをテーマにしています。作品は山田せつ子さんをイメージして作ったので、その燃えるものは男性ではなく女性だということです。男女の違いで言えば、戦争に例えるなら、戦争を仕掛けるのは男性で、被害を被るのは女性ということだったり、そういう男性に対しての女性ということもイメージしました。
Q 前作「今晩は荒れ模様」に続いて山田せつ子さんと作品を作りたいと思った一番の理由は何でしょう。
A笠井叡「天使館」にせつ子さんがいた頃から見ていますが、せつ子さんのダンスや動きは他の人にない独特なものがあるんです。いわゆるバレリーナらが持っているようなダンス的な動きでは絶対に出せないような身体性があります。いわゆる踊り的なものではなくて、動きの根源に迫る側面があるということです。すごく珍しいと思います。
山田せつ子そう言われると嬉しいです。元々ダンサーやバレリーナになれると思って笠井さんの「天使館」に行ったわけではないんです。募集があって面接を受けた時に「ここに来てもダンスは上手くなれないし、舞踊家にもなれないよ」と言われたんです。それを承知して入りました。脚も上がらない、身体も回らないけれど、ただひたすら自分の身体と向かい合って自分の身体というものを見つけ出したいと思っていました。それが根源的に続いている自分の態度なので、踊ることを仕事にできているのは偶然としか言いようがないです。「天使館」は常に何かを問われる厳しい場所でしたがその経験がなければ今はないですし、それで今、笠井さんとご一緒できるとは思っていなかったです。今回は少しデュエットもあるんです。
笠井叡僕は自分が踊るよりも人に踊ってもらうシチュエーションを作るのが好きなんです。ただ、今回は前回よりは長く踊ります。
Q お二人それぞれのソロとデュオ、関西の若手女性ダンサー4人が出演します。どのように振り付けていくのでしょうか。
A笠井叡前もっては決めていません。私の場合、その人と同じ空間を共有することで、どこか身体も共有する感覚になります。ですので、そこにいないと生まれないものがあるんです。それと、止めてしまうと上手くいかないので、止めずに振り付けるから、振り付けも速くなってしまいます。そこは大変だろうなと思います。
Q 振り付けを身体で覚える作業、それをどう踊るかのプロセスを聞かせてください。
A笠井叡まずどうしてそのような方法を取るかについてですが、身体を限界まで持っていかないと、身体の中にあるものはなかなか出てきません。私はサディストなので苦しませて出てくるものでないと納得できないんです(笑)。
山田せつ子本当に大変ですよ。一般的なダンスのコードとは違うので、動きと動きのつながりを見つけ出さないといけません。動きを覚えられても、動きと動きの間の動きをダンサー自身の身体でやっていかなければなりません。振りの数が非常に多いし速いので、ただ動きを追ってしまわないよう、自分の身体の中に入っていかないとまずできないです。前回やった時は翌日歩けませんでしたね。
笠井叡音楽に例えると横笛を全音符で吹くようなことと、ベートーヴェンの曲を32分音符で弾くのと、聴き方によっては同じようなひとまとまりの音に聞こえるかもしれません。それと同じようにただ腕を上げる動きを、32分音符が16小節続くような感覚で腕を上げたいので、練習も何日もかかるんです。
山田せつ子7月の公演ですけど、昨年12月から始めています。通常コンテンポラリーダンスの稽古は公演の2ヶ月前からなのですが、それではまず間に合わないです。
笠井叡ダンサー本人が気づいていないような未知のものを引き出す手法ですが、言ってみれば何かを生み出すためにあえて自分を殺すような方法です。自爆テロを例に出すと、何かを変えるために人間は自分の身体を壊してまで達成しようとしてきた歴史があります。それが歴史が先にあったのかそうする人間が先だったのかは分かりません。今シリアなどで起きていることも、何百年か経たないと何が起きていたのかを正確に知ることはできません。ダンサーとしては、そういう今起きていることを自分の身体で確認しないと収まらない、ということです。踊ることで自分の身体の中に流れている歴史を炙り出したい、という思いで振り付けています。そういう歴史の上に立っている人間だから振り付けをしたいし、舞台に持って行きたいと思っています。
Q その振り付けを理解するという感覚についてお聞かせください。
A山田せつ子昨年末から作業が始まりましたが、私の場合は自分から出かけないとそもそも身につかないんですね。それでいただいた振りを自分流にやってしまうと笠井さんから「違う」とチェックされてしまうんですが、何が違うのかを自分の身体で自問自答していくことになります。自分流に解釈するのではなく、動きの中に徹底的に入っていくと、つい出てしまう間のようなものが自分が解釈しているものだと気づくことができます。ではそれが正しいのかと、それをまた身体で確認していく、という繰り返しになります。演劇のように俳優と演出家がいて役を理解して演じる、ということとはまた違った作業になります。自分の踊り手としての身体性を知っていく作業なんだと思います。
Q とくにダンス公演を初めて見るような人への鑑賞ポイントをお聞かせください。
A笠井叡舞台でなされていることを前提なしに正直に観ていただければ、それでいいと思います。観るということも作品を作ることと同じくらい創造的な働きがあるので、作る側も観る側も同じ所に立てるはずです。そのためには観客はゼロの状態で観た時に初めてそこで起きていることが見えてくると思います。有名なダンサーだからこうだろう、といった前提を外して観ることでそこで行われているものが見えてくると思います。
■Information
京都芸術劇場15周年
笠井叡×山田せつ子新作ダンス公演
「燃え上がる耳」
2016年7月2日(土)、3日(日)15:00開演 京都芸術劇場 春秋座
構成・振付:笠井叡
出演:山田せつ子
佐伯有香、野田まどか、福岡まな実、松尾恵美
笠井叡
一般3,500円、シニア3,200円、学生&ユース(25歳以下)2,000円、友の会3,000円
※3歳以下のお子様の入場はご遠慮ください。
主催:京都造形芸術大学舞台芸術研究センター
撮影:笠井爾示
ティーファクトリー公演
「荒野のリア」
2016年10月1日(土)17:00、2日(日)14:00 京都芸術劇場 春秋座 特設客席
3人娘が登場しないリア王!? 男だけしか出てこないリア王!?
いきなり第三幕から始まるリア王!?あの麿赤兒が演じるリア王!?
手塚とおるが舞台出演するリア王!?火星にたどり着くリア王!?
初演時ケンケンガクガクの大反響を呼び起こした『荒野のリア』が新たなキャストを加えて甦る!
川村毅のシェイクスピア演出、新たなる王道か?はたまた邪道か?ジャッジするのはあなただ!(川村毅)
構成・演出:川村毅
出演: 麿赤兒 手塚とおる 他
原作:W.シェイクスピア『リア王』(松岡和子訳)
友の会 3,000円
シニア 3,200円
学生&ユース 2,000円
※京都芸術劇場チケットセンター、劇場オンラインチケットストア、大学生協のみ取り扱い。
※未就学児の入場はご遠慮ください。
☆全国公演
9月14日(水)~19日(月・祝)吉祥寺シアター
9月22日(木・祝)長野市芸術館 アクトスペース
10月1日(土)~2日(日)京都芸術劇場 春秋座 特設客席
10月8日(土)長久手市文化の家 風のホール
10月15日(土)~16日(日)KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
撮影:宮内勝
■Profile
麿赤兒
1943年生まれ、奈良県出身
早稲田大学中退。1964年より舞踏家土方巽に師事、その間、唐十郎との出会いにより状況劇場設立に参加。唐の「特権的肉体論」を具現化する役者として、60~70年代の演劇界に大きな変革の嵐を起こし、その後の動きに多大な影響を及ぼす。
1972年に舞踏集団「大駱駝艦(だいらくだかん)」を旗揚げし、舞踏に大仕掛けを用いた圧倒的スペクタクル性の強い様式を導入。“天賦典式”と名付けたその様式は日本はもちろん、1982年のフランス・アメリカ公演で大きな話題となり、「Butoh」の名が世界を席巻する。
舞踏家として、毎年新作を国内外に向けて勢力的に振付・演出・上演し続けている一方で、映画・TV・舞台で独特の存在感を放ち、各方面から多くの支持を得ている。
1974年、1987年、1996年、1999年、2007年、2013年舞踊評論家協会賞受賞。2006年、文化庁長官表彰受賞。2016年東京新聞制定第64回舞踊芸術賞受賞。
笠井叡
1943年生まれ。
明治学院大学経済学部卒業、シュトゥトガルト・オイリュトメウム(ドイツ)卒業。モダンダンスを江口隆哉に師事、クラシックバレエを千葉昭則に師事、63年大野一雄に出会い師事。71年、天使館設立。『磔刑聖母』等の作品発表後、79年から舞台活動中止。90年にオイリュトミーシューレ天使館設立。93年舞台活動再開。『日本国憲法を踊る』により平成25年度第64回芸術選奨文部科学大臣賞舞踊部門受賞。著作も多数、最新刊に「カラダと生命―超時代ダンス論」(2016年書肆山田)。
山田せつ子
明治大学演劇科在学中の1971年より1980年まで天使館に在籍、笠井叡に師事。独立後、求心的で繊細なフォルムとピュアな作品作りで日本のコンテンポラリーダンスの先駆けとなる。1983年のアヴィニヨン、バルセロナのフェスを皮切りに海外主要都市で招待公演多数。1989年よりダンスカンパニー枇杷系を主宰。2000年より京都造形芸術大学映像舞台芸術学科教授。現在、同大学の舞台芸術研究センターの主任研究員。著書に「速度ノ花」(五柳叢書)