OKWAVE Stars Vol.567は『日本で一番悪い奴ら』(2016年6月25日公開)の白石和彌監督へのインタビューをお送りします。
Q 本作を撮る経緯についてお聞かせください。
A白石和彌脚本の池上純哉さんが原作の「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」をやりたいと紹介してくれたのがきっかけです。元警察官である稲葉圭昭さんのその原作を読むと、やっていることはとんでもないことですが、稲葉さん自身は楽しそうにやっていたのだろうと想像できてしまいましたし、シンパシーも感じました。この映画の主人公の諸星は学生時代に柔道をやっていて、柔道で見込まれて警察官になるので警察の世界しか知りません。僕も学生から助監督へと直接映画界に入ったので、社会の全てが映画界です。僕らは映画を作ることが全ての世界にいるので、例えば撮影許可が下りていない場所で無理に撮影するといった、多少のことに目をつむりながらやっていた面もありました。それは僕たちだけではなく、映画界の偉大な先人たちも同様で、『太陽を盗んだ男』の皇居前でのゲリラ撮影などは撮っていてきっと楽しかっただろうなと思います。そういう事の大小はありますが、この刑事も「拳銃を押収したい」という正義を突き詰めてとんでもないことをしてしまいます。普通に捜査をしても数丁しか押収できないそうですが、稲葉さんは100丁近く押収したのできっと楽しかったのだろうなと。そこを映画にしたいと思いました。
Q 諸星のどういうところを見せたいと思いましたか。
A白石和彌諸星は犯罪をしてしまいますが、そこに至るまでは豊かな人生にしたいと思いました。この作品は青春映画でもあって、諸星は見事なまでにひとりひとりの登場人物と出会って別れていきます。太郎と出会った時に、太郎が何の疑いもなく諸星についていこうとする彼の目の輝きのようなものは、人生で何度もあることではないですし、一方で誰にでも起こりうることです。そういう輝いている瞬間や出会いがあるだけで、人生は捨てたものではないと思います。そこはブレずにいました。
Q キャストの皆さんが熱演されていましたが、綾野剛さんについてはいかがでしたか。
A白石和彌綾野くんは楽しそうに演じていました。僕が諸星のキャラクターを決め過ぎないようにして、諸星がどんな人間かを綾野くんと一緒に探していきました。稲葉さんご本人と会った印象は色っぽくて人たらしで、面倒見もよさそうな方でした。だからといってそれをそのままコピーするのではなく、単純に魅力的な人物にしていこうと思いました。
Q S(スパイ)に俳優ではないおふたりの起用についてはいかがでしたか。
A白石和彌最初は若手俳優のオーディションもしましたが、なかなかイメージに合う方と出会えませんでした。それで、『TOKYO TRIBE』を観ていたので、目がキラキラしていたYOUNG DAISさんにどうしても会わせてほしいと。実は彼は綾野くんと同い年です。だけど彼の持っている舎弟感のようなものがすごく良かったです。デニスの植野行雄さんは見た目と違って日本語しか喋れないので、どこまで片言にしていくかは考えました。ただ、僕の現場は結構アドリブで作っていくので、行雄ちゃんは芸人魂があってたまにはツッコミたかったようです。それで僕の顔色をうかがいながら芝居の中にツッコミを入れてきました(笑)。そのおどおどした感じが役にもぴったりでした。
Q 中村獅童さんについてはいかがだったでしょうか。
A白石和彌YOUNG DAISさんと行雄ちゃんのふたりはだいたい同じ年齢なので、このチームに厚みと重みが欲しくて、黒岩は少し年上の人物にしました。僕も獅童さんとは仕事をしたかったので、心よく演じていただいて、すごく良かったです。
Q 警察組織の描き方についてはいかがでしょうか。
A白石和彌例えば駐禁を切られたりすると「点数を稼がれている!」と思ったりしませんか(笑)。これは警察組織だから笑えますが、どこの会社にもノルマがあるだろうし、点数稼ぎがあって、みんな右往左往するだろうから、どこの組織に入っても同じなのではないかなと思います。
Q 昨今、有名人の違法薬物使用に関するニュースも多いですが、本作の中での違法薬物の描き方についてはいかがだったでしょう。
A白石和彌最近の事件にリンクさせようという気はなかったです。ただ、この題材を選んだのには、世の中が潔癖になってきて、不道徳なものは目に触れるところに置いてはいけないような風潮が気になっていたところがあります。TVでは有名人の薬物事件後にその人の過去の映像は一切使わなくなります。僕らは小さい頃から映画を観てきましたが、感動する場面よりも酷い場面やすごい場面が頭の中に残っているものです。誰に見せても当り障りのないようなものだけを見せるよりも、そういったものも必要だと思います。この映画を観て違法薬物を使ってみたいとは思わないだろうし、僕らもこういうものを観て道徳を学んでいったので、TVでは流せないものを映画で見せることは大事だと改めて思いました。
Q 本作での女性の描き方についてお聞かせください。
A白石和彌弱々しいはかない女性という描き方はしないようにしました。僕自身は男性よりも女性の方が生命力も含め強いと思っています。瀧内公美さんが演じる婦警は諸星がエースではないと思った途端に切り捨てていくし、男が守りたくなるような女性よりも、強い女性でいてほしいと思って描いていきました。
Q 本作の撮影を通じての新しい気づきや再発見したことをお聞かせください。
A白石和彌警察組織の一刑事の悪事を描くので、組織を糾弾するような映画になるのかなと撮影前には思っていました。綾野くんと諸星をどうしていこうかと話していた時に、諸星は犯罪に手を染めて仲間を喪うことにもなりますが、それでも生きていくことは美しいと思えました。酷いことをやっていても、その時は幸福感に包まれている、そういうところを描こうと。現在、稲葉さん本人は札幌で八百屋をやりながら探偵もされていて、すごく幸せそうに生きていらっしゃるので、人間は何度でもやり直しができると思います。
Q 白石和彌監督からOKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。
A白石和彌この映画はやはり綾野くんの映画と言っていいですが、彼の見たことのない顔が見られます。綾野くんも自分で「酷い顔してますね」と言っていたくらいです。最初はホステスの前で緊張しているような男だったのが、いつの間にかとんでもないところまでいってしまいます。実話を基にした映画ですが、エンターテインメントとして楽しめる作品になっています。観ている人も観終わった後、景色が違うように見えると思います。それを楽しんでほしいと思います。
■Information
『日本で一番悪い奴ら』
北海道警察の新米刑事・諸星要一は、叩き上げの刑事たちの前で右往左往する毎日をおくっていた。そんな中、署内随一の敏腕刑事・村井から教えられた刑事として認められる唯一の方法、それは【点数】を稼ぐこと。あらゆる罪状が点数別に分類され、熾烈な点数稼ぎに勝利した者だけが組織に生き残る。そのためには裏社会に飛び込み、捜査に協力するスパイ=S(エス)を仲間すれば、有利な情報が手に入る。
こうして、その教えに従った諸星と、彼の元に集まった3人のSたちとの狂喜と波乱に満ちた生活がはじまった。
「正義の味方、悪を絶つ」の信念をもちながらも、でっちあげ・やらせ逮捕・おとり捜査・拳銃購入・覚せい剤密輸など、ありとあらゆる悪事に手を汚した北海道警察の刑事・諸星の行き着く先は!?「日本警察史上、最大の不祥事」と呼ばれる実際の事件をモチーフに、日本一ワルな警察官と裏社会のワルたちのタッグが巻き起こす“ヤバすぎる事件”の幕が切って落とされる!
監督:白石和彌
脚本:池上純哉
原作:稲葉圭昭「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」(講談社文庫)
出演:綾野剛、中村獅童、YOUNG DAIS、植野行雄(デニス) 、ピエール瀧
配給:東映・日活
(C)2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会
■Profile
白石和彌
1974年北海道生まれ。
1995年、中村幻児監督主宰の映像塾に参加。以降、若松孝二監督に師事し、フリーの演出部として活動。若松孝二監督『明日なき街角』(97)、『完全なる飼育 赤い殺意』(04)、『17歳の風景 少年は何を見たのか』(05)などの作品へ助監督として参加する一方、行定勲監督、犬童一心監督などの作品にも参加。初の長編映画監督作品『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(10)を経て2013年、ノンフィクションベストセラーを原作とした『凶悪』は、同年の各映画賞を総嘗めする。映画界が最も次作を期待する監督。
映画以外でも、TVドラマ「怪奇恋愛作戦」(15)、Webドラマ「女子の事件は大抵、トイレで起こるのだ。」(15)、NETFLIX「火花」(16)など。