Vol.568 映画監督/劇・作家/演出家 前田司郎(『ふきげんな過去』)

OKWAVE Stars Vol.568は小泉今日子さんと二階堂ふみさんのW主演の映画『ふきげんな過去』(2016年6月25日公開)の前田司郎監督へのインタビューをお送りします。

Q 2本目の長編映画を監督するに至った経緯をお聞かせください。

A前田司郎前作のプロデューサーからもう1本撮らせていただけるという話があって、前作『ジ、エクストリーム、スキヤキ』を1年ぶりくらいに観返してみると自分でも面白いなと思いました。撮影自体も楽しかったですし、もう一度撮りたいなと思ってシナリオのことなどを考え始めました。

Q 『ふきげんな過去』は監督の完全オリジナル作品ですが、作品の骨子のようなものはどんなところから生まれたのでしょう。

A『ふきげんな過去』前田司郎作品のアイディアを頭の片隅で考えている時に、この映画の舞台の北品川の街をぶらぶら歩いていて思いつきました。子どもの頃によく来ていて10年ぶりくらいだったのですが、子どもの頃の気持ちがよみがえったり、当時の建物をすぐ思い出せたのと同時に懐かしさも感じました。同時には存在できないと思っていた昔の自分と今の自分の二者が出会えるのだと思って、それを映像で表現しようと思いました。そこから過去と現在、過去と未来が出会う話にしようと思い至りました。

Q 北品川は独特な街ですよね。

そうですね、街並みや船着場、釣り船屋さんが昔のまま残っているのに、ちょっと顔を上げると品川駅港南口の新しいオフィスビルも見えるので、街自体が未来と過去が混じっている独特なところですね。

Q 小泉今日子さんと二階堂ふみさんというW主演のキャスティングについてお聞かせください。

A『ふきげんな過去』前田司郎シナリオを書いている時はとくにキャストのイメージはありませんでした。いざキャスティングとなった時に、未来子は誰がいいのだろうとすごく悩みました。プロデューサーから小泉さんの名前があがった時はぴったりだと思いましたが、同時にやっていただけるのだろうかという気持ちと半々でした。シナリオを読んでやっていただけることになった時には、本当に良かったと思いました。果子については、素人に近いような不安定な子というイメージがあって、小泉さんともそんな話をしていました。そこに二階堂ふみさんという名前が出たので、逆に百戦錬磨すぎるかなと思いました。でも、小泉さんと並ぶと同じ人間のようにも見えるし、すでに大女優のようなイメージがありますけど、カメラが回ると子どもの不安定さや何かわからないものにイライラしている様子をうまく出していました。もしかしたら本人が普段見せないそういう部分をオープンにしているのかなというくらいで、果子役にうまくハマっているなと思いました。

Q 高良健吾さんの役どころが謎すぎて面白かったのですが、高良さんに期待したところは?

A高良健吾『ふきげんな過去』前田司郎高良さんは格好いいですけど、近寄りがたいイケメンというよりはどこか愛嬌のある方だと思ってお願いしました。高良さんもこちらのそういう意図を理解して面白がって演じていただけたかなと思います。

Q 現場ではどんな話をして撮影に臨みましたか。

A前田司郎撮影に入る前にリハーサルをしました。その時にキャラクターの気持ちなどについての話をしました。そのリハーサルでは実際の立ち位置での動きなどの他に、食堂「蓮月庵」で女性陣が豆の皮を剥きながらの掛け合いの芝居をやってもらいました。ああいった掛け合いは、空気感のようなものが大事ですので本番でいきなりというのは不安がありましたので、そこで準備することができました。今回は準備期間も十分にありましたので、撮影に入ってからはあまり演技指導のような話はしなかったですね。

Q リハーサルを行ったのは舞台演出をやられている経験からでしょうか。

A前田司郎自分の舞台の場合は稽古8、本番2くらいの比率ですので、稽古をやらないと不安ということもありました。とはいえ、舞台のように1ヶ月間、稽古するわけにはいかないですし、映像作品の役者さんは自身が演出も兼ねているようなところがあるので、そこは合わせました。それと舞台の場合は、稽古で100%の力を出して、むしろ本番は肩の力が抜けた80%くらいのイメージでやってきました。映像の場合は逆で、役者さんはテストでは全て出さずに本番で一気に力を出すことが多いので、僕から言えることもあまりないのかなとも思いました。

Q 未来子の過去の出来事をはじめ、余白の部分を想像する楽しさもある物語ですが、その余白の部分はキャストの方々とイメージのすり合わせなどされたのでしょうか。

A前田司郎聞かれたことの説明はしましたが、それをロジカルに役を組み立ててしまうと人工的になってしまうので、それよりもそういう部分はぼんやりとなるように作ろうと思いました。

Q 撮影で面白かったところはいかがでしょう?

A『ふきげんな過去』前田司郎川下りなど、水回りは大変でしたが楽しかったです。僕らは岸にいて、小泉さん、二階堂さん、山田望叶さんが舟にいるのですが、岸から見ている分には楽しそうでした。二階堂さんが実はかなり船酔いするそうなんですが、撮影の時はそんな様子を全く見せなかったですね。

Q 長編2本目を撮り終えて、映画の面白さについて感じたことは?

A前田司郎撮って1年経ってから公開されるところは、舞台のように稽古して本番、と違って面白いなと思います。撮影が終わって、編集を終えて、何回も終わりのようなタイミングが来て、終わったと思ったらまた始まるので、死んで生き返って、ということのようですし、今回の映画とも少しリンクするかもしれません。

Q 本作で最も描きたかったところについてお聞かせください。

A前田司郎言葉にできない部分です。夏の雰囲気、家族のいる感じ、心地よさと気だるさ、怖さや閉塞感。そういう混ざらないようなものが混在することを表現するのはなかなか難しいことですが、映像でできると思って取り組みました。

Q 沖田修一監督や深田晃司監督が1シーン出演されていますね。

A前田司郎沖田とは中学時代からの友だちで前作にも出てもらいましたが、深田監督とも仲良しなのでふたりにはちょっと出てもらいました。自分の現場しか知らないから楽しかったと言っていましたね(笑)。

Q 前田司郎監督からOKWAVEユーザーにメッセージを願いします。

A前田司郎この映画は込み入ったストーリーがあるわけではないので、田舎の家族や親戚に会いに来るような感覚で観ていただいて、過去の自分や未来の自分のことを何となく考えるきっかけになればいいなと思います。

Q前田司郎監督からOKWAVEユーザーに質問!

前田司郎過去の自分と未来の自分のどちらに会いたいですか。そして会った時にどんな話をしますか。

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■Information

『ふきげんな過去』

『ふきげんな過去』2016年6月25日(土)テアトル新宿ほか全国ロードショー

北品川の食堂「蓮月庵」で暮らす果子は、毎日が死ぬほど退屈でつまらない。けれどそこから抜けだして他に行くこともできず無為な夏を過ごしていた。ある日、果子たち家族の前に、18年前に死んだはずの伯母・未来子が突然戻ってきて告げる。「あたし生きてたの」。戸籍も消滅している前科持ちの未来子。そして自分が本当の母親だというが…。

小泉今日子 二階堂ふみ
高良健吾 山田望叶 兵藤公美 山田裕貴 / 大竹まこと きたろう 斉木しげる / 黒川芽以 梅沢昌代 板尾創路

監督・脚本:前田司郎
制作・配給:東京テアトル(創立70周年記念作品)

http://fukigen.jp/

©2016 「ふきげんな過去」製作委員会.


■Profile

前田司郎

前田司郎(『ふきげんな過去』)1977年生まれ、東京都出身。
作家、劇作家、演出家、俳優。五反田団主宰。1997年の立ち上げ以来、40作品以上を発表。
2008年「生きているものはいないのか」にて第52回岸田國士戯曲賞を受賞。また小説家として07年「グレート生活アドベンチャー」にて第137回芥川賞候補、09年「夏の水の半魚人」で第22回三島由紀夫賞受賞。その他「愛でもない青春でもない旅立たない」「誰かが手を、握っているような気がしてならない」「逆に14歳」「濡れた太陽 高校演劇の話」など。
「大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇」が2011年に、「生きているものはいないのか」が2012年映画化。シナリオライターとして『横道世之介』(12/沖田修一監督)、特集ドラマ「お買い物~老夫婦の東京珍道中」(09/NHK)にて放送文化基金賞 平成21年度テレビドラマ番組賞、2008年度ギャラクシー賞優秀賞を受賞。「徒歩7分」(15/NHK-BS)でも第33回向田邦子賞を受賞。
本作は『ジ、エクストリーム、スキヤキ』(13)に続く長編映画。