Vol.587 演出/振付家 ジェリー・ミッチェル(『キンキーブーツ』)

OKWAVE Stars Vol.587はブロードウェイ・ミュージカル『キンキーブーツ』<来日版>(2016年10月5日~)の演出・振付を担当したジェリー・ミッチェルさんへのインタビューをお送りします。

Q ミッチェルさん自身は『キンキーブーツ』のどの部分を気に入っていますか。

Aジェリー・ミッチェルヒューマニティの部分です。この物語は、それぞれ別々の世界に住んでいるチャーリーとローラが探り合っていくうちにお互いに共通の部分を持っていることが分かります。課題というハードルは、皆が気持ちを合わせた時にはじめて乗り越えられる、という古典的な要素ですがその点が一番気に入っています。

Q シンディ・ローパーさんが全曲書き下ろした楽曲とのことですが、その楽曲の印象はいかがだったでしょう。

A『キンキーブーツ』ジェリー・ミッチェルシンディとは旧知の仲です。90年代前半にはミュージックビデオの振付で共演したことがあります。脚本のハーヴェイ・ファイアスタインも他の作品でシンディと仕事をしています。今回はこちらからアプローチしてシンディに参加していただきましたが、音楽的な実力は十分に分かっていました。とはいえ、彼女自身のために作詞をした楽曲は知っていても、登場人物の心中を描いた歌詞がどうなるのかは分かりませんでした。それでシンディにはまず3曲お願いしました。中にはカットしてしまった曲もありますが1幕で使われている「Not My Father’s Son」という曲を聴いた時には瞬時に涙が出ました。まさにこれこそがストーリーを語る上で欠かせない曲だと思いました。その曲を聴いた時の感触は一生忘れないくらい、とても特別な思いがあります。

Q ではそれらの楽曲から振り付けはどのようにしていこうと思いましたか。

Aジェリー・ミッチェルシンディがさらに素晴らしいのは振付家としての自分のことをよく知っているということです。彼女は僕がダンスを大好きだと分かっていたので、そういう曲を作ってくれました。「Land of Lola」、「Sex Is in the Heel」、「Raise You Up / Just Be」など、どちらかというとポップな曲ですが、ビートの利いた曲に仕上がりましたし、踊っていて楽しい曲になりました。

Q 本作は映画を基にした作品ですが、どのようにミュージカルにしていこうと思いましたか。

A『キンキーブーツ』ジェリー・ミッチェル僕が手掛けた『ヘアスプレー』も映画からミュージカルになった作品です。他にもそういう作品はあります。映画と舞台の違いでは、オリジナルの楽曲であることと、キャストがストーリーの一部を歌って表現することです。ミュージカルはとにかく音楽がセンセーショナルでなければならないと思います。ですので、作曲家と密に接しながら作っていきます。映画のあるシーンを音楽に置き換えるにはどうすればいいか、そういうところに気を使って作品作りをしています。

Q 創作過程でのエピソードなどありますか。

Aジェリー・ミッチェル今回については3人とも他のプロジェクトよりも一体になって取り組むことができたと思います。僕はチャリティ活動のための舞台製作を、シンディは「トゥルー・カラーズ基金」を通じた慈善活動を、ハーヴェイもアクティビストとしての活動を行っています。ですので考え方もお互いに似通っているところがあります。このストーリーを最大限良いものにするために、意見を闘わせるというよりも一緒にやってきたところがあります。エピソード的なことで言えば、9曲ボツにしてしまいました。いくつも書いて書き直して、ということをしました。準備には3年かけましたが、その結果がブロードウェイでの評価につながっています。今でも仲良しで、昨晩の日本版キャストの公演を観た感想と映像もふたりにはメールしました。

Q 日本公演に向けて何か演出面での変化などはありますか。また、見どころをお聞かせください。

Aジェリー・ミッチェル変更するところは無いです。自分にとって興味深いことを言えば、これまで韓国のソウルやカナダのトロントでも上演してきましたが、やはりN.Y.とは違います。ロンドン公演もありましたが同じ英語圏でもやはりN.Y.とは違います。10月に来日するメンバーは2年間ツアーしていますので、2年間の成長が見られます。僕自身、ブロードウェイでの公演後にしばらく経ってからツアー公演を観て驚きました。同じキャストで公演していますので本当に一体感があります。お互いに同じストーリーを共有して演じられるカンパニーです。そこには本当に感動できます。

Q ご自分で好きなシーンは?

Aジェリー・ミッチェル「Not My Father’s Sun」という曲が使われるお手洗いのシーンが大好きです。というのはこのシーンで登場人物たちが一体になるからです。この『キンキーブーツ』をミュージカルにする上で、ハーヴェイとシンディと僕の3人で話した時に、このシーンこそが重しとなるような、感情がきちんと乗った楽曲が必要だという話になりました。ハーヴェイも、映画版よりも深くそのシーンを膨らましたいと言っていました。主人公チャーリーは「自分は父の息子だが、父が夢見た存在になりえていない」と歌います。父親という存在に対して親しい関係の方もいれば距離を置いている方もいると思います。チャーリーとローラという男二人が、両者とも父親から見た自分は落ちこぼれだと分かり合うことと、そこから先に行こうというパワフルさが感じられるシーンです。

Q ベルトコンベアの上で踊るシーンが印象的ですが、そのアイディアが出てきた経緯や実現までの苦労話などお聞かせください。

Aジェリー・ミッチェル台本では、靴工場のベルトコンベアに作られた靴が載って出てくる、という一節がありました。僕はそのシーンを想像して楽しいだろうなと思いました。そのコンベアベルトの上でダンスできたら最高だろうなと(笑)。そこで思い出したのが、OK Goというバンドの「ヒア・イット・ゴーズ・アゲイン(Here It Goes Again)」という曲のミュージックビデオです。ベルトコンベアの上でメンバー4人が歌い踊るそのビデオをミュージカル装置を担当したデイビット・ロックウェルに見せました。そしてベルトコンベアをテーブルの高さにできないかと相談しました。それで作ってもらったのでさっそく乗ってみたら、もちろん床に落ちてしまいました(笑)。それで本番を観ていただければ分かりますが手すりをつけました。そのおかげで落ちることはなくなりました(笑)。ちなみにこのベルトコンベアは変速機付きです。靴はゆっくり出てきますが、ベルトコンベアの上で踊る時は速く動きます。こうして完成したベルトコンベアを5台作って、ダンサー10人と1日8時間、4週間に渡ってその上で踊るダンスを作り上げました。アイディアが生まれて形になるまでこの1曲で6ヶ月かかりました。それをプロデューサーたちに見せたら「もっと長くできないの」と言われるくらいでした。苦労もありましたが楽しいひとときでしたね。

Q ブロードウェイではヒット映画の舞台化が近年多く見られますが、ミッチェルさんはどのように分析していますか。

A『キンキーブーツ』ジェリー・ミッチェルみんな本を読まなくなったのでしょう(笑)。僕は自分にとって意味のある作品を探していて、本を読んでミュージカルにしたい作品と出会えたので準備中です。でもプロデューサーたちからは書籍ではなくDVDを渡されることが多くなったのも事実です。プロデューサーからすると映像を渡したほうが分かりやすいという考えもあるのでしょう。ですがヒット映画を何でもミュージカルにすればいいわけではないです。ヒット映画のミュージカルはお客様の期待度がはじめから高いですからね。『キンキーブーツ』の映画はアメリカではイギリスほどヒットしなかったのでアメリカでの知名度は低かったところもあります。

Q シンディ・ローパーさんは阪神大震災の際の援助や、東日本大震災直後にも来日公演を実施するなど、日本でも特別な存在です。彼女が関わる作品が日本で公演されることについて何か思うところをお聞かせください。

Aジェリー・ミッチェルシンディは素晴らしい方です。彼女の心の広さを楽曲が表していると思います。ドアを閉じてそのまま去ってしまうことができない人柄です。大スターでありながらそういう素振りを見せずに謙虚で、自分でドアを開けて自分の足で前に進んでいくような方です。『キンキーブーツ』の作品性にも賛同していて、そのような人柄がこの作品に反映されているのだと思います。シンディは仲間の輪の中に入れない人の気持ちが分かるので、『キンキーブーツ』の登場人物に気持ちを寄せて当て書きのような楽曲を作ることができたのだと思います。シンディが日本好きなことは僕も知っています。先ほどメールを送ったと言いましたがすぐに「良かった」という返事がきました。

Q ジェリー・ミッチェルさんからOKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。

Aジェリー・ミッチェル『キンキーブーツ』のメッセージは今日の世界にとって大事なメッセージが込められています。つまり、世界を変えられるのは考え方を変える時だということです。人が他者を必要とし、また自分自身を受け入れることです。そして何より『キンキーブーツ』は楽しいです。ぜひご覧ください。

Qジェリー・ミッチェルさんからOKWAVEユーザーに質問!

ジェリー・ミッチェル『キンキーブーツ』のテーマは「自分が変われば 世界も変わる!」です。あなたの『自分の考えを変えたときに世界が変わった!』経験談を教えてください。

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■Information

ブロードウェイ・ミュージカル『キンキーブーツ』<来日版>

『キンキーブーツ』ミュージカル『ヘアスプレー』、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』、グロリア・エステファンの曲を使用した最新作『オン・ユア・フィート!』が好評のジェリー・ミッチェルが演出と振付を担当、ブロードウェイのみならずハリウッドでも俳優・脚本・演出などマルチな才能を発揮しているハーヴェイ・ファイアスタインが脚本、そして「トゥルー・カラーズ」「タイム・アフター・タイム」など数々の大ヒット曲を持つ世界のポップ・アイコン、シンディ・ローパーが音楽を担当し、話題となった本作。

イギリスの田舎町ノーサンプトンの老舗靴工場「プライス&サン」の4代目として生まれたチャーリー・プライス。父親の意向に反してフィアンセとともにロンドンで生活する道を選んだ矢先、父親が急死、工場を継ぐことになってしまう。
しかし、父の工場が実は経営難に陥って倒産寸前であることを知り、幼い頃から知っている従業員たちを解雇しなければならないと思い悩む。
工場の若手従業員のローレンに「倒産を待つだけではなく、新しくニッチな市場を開発すべきだ」とはっぱをかけられたチャーリーは、ロンドンで偶然出会ったドラァグクイーンのローラとの会話にヒントを得て、危険でセクシーなドラァグクイーンのためのブーツ、“キンキーブーツ”を作る決心をする。
チャーリーはローラを靴工場の専属でナイザーに迎え、二人は試作を重ねる。
型破りなローラと保守的な田舎の靴工場の従業員たちとの軋轢の中、チャーリーはファッションの街ミラノで行われる靴の見本市に新作キンキーブーツを出し、工場の命運を賭けることにする。チャーリーとローラ、そして工場の従業員たちの運命やいかに!?

脚本:ハーヴェイ・ファイアスタイン
音楽・作詞:シンディ・ローパー
演出・振付:ジェリー・ミッチェル
出演:J.ハリソン・ジー、アダム・カプラン、 ティファニー・エンゲン、アーロン・ウォルポール ほか

東京公演:2016年10月5日(水)〜30日(日)全32公演
東急シアターオーブ(渋谷ヒカリエ11階)

大阪公演:2016年11月2日(水)~6日(日)全8公演
オリックス劇場

S席13,000円、A席10,000円、B席8,000円(全席指定、税込)
生演奏、英語上演、未就学児入場不可、日本語字幕あり

【お問い合わせ】
東京公演:Bunkamuraチケットセンター 03-3477-9999(10:00~17:30)
大阪公演:キョードーインフォメーション 0570-200-888(10:00〜18:00)

http://www.kinkyboots.jp/


『ミュージカルキンキーブーツ完全攻略SP』~最高のハッピーをあなたに~

ブロードウェイ・ミュージカル「キンキーブーツ」<来日版>特番放送決定!!!
演出・振付のジェリー・ミッチェル氏の撮り下ろしインタビューも放送予定!

8月23日(火)25:25~26:25(予定) フジテレビ関東ローカル

ナビゲーター:はるな愛

全世界で多くの人を魅了するキンキーブーツの魅力に迫る!ただいま大阪公演上演中、そして東京凱旋公演を控える日本人キャスト版からチャーリー役の小池徹平、ローラ役の三浦春馬、 そしてエンジェルス(穴沢裕介、森 雄基、風間由次郎、森川次朗、遠山裕介、浅川文也)の6名も出演いたします! 10月の来日版に備えて、「キンキーブーツ」の見所をたっぷり解説! 日本人キャスト版のバックステージにも潜入、 さらにNYクリエイターやキャスト陣が語るこだわりや秘密など内容盛りだくさん!ブロードウェイや日本版の舞台映像もお届けいたします。どちらも違う魅力がたくさんありますので要Check!この特番を見て、更に「キンキーブーツ」の虜になるかも!お楽しみに!!!!


■Profile

ジェリー・ミッチェル

ジェリー・ミッチェル(『キンキーブーツ』)50以上のブロードウェイ、オフ・ブロードウェイ、ウエスト・エンド、ツアー作品に関わる。
ブロードウェイのデビュー作は振付を担当した『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』。振付家として『フル・モンティ』(☆)、『ジプシー』、『ネヴァ・ゴナ・ダンス』(☆)、『ペテン師と詐欺師』(☆)、『ラ・カージュ・オ・フォール』(トニー賞受賞)、『イマジナリー・フレンズ』、演出も手掛けた『リーガリー・ブロンド』(☆)、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』など。 ☆トニー賞ノミネート
『キンキーブーツ』ではトニー賞ベストミュージカル賞を受賞し、振付賞受賞、演出賞ノミネート。
この他、チャリティ活動「Broadway Cares/Equity Fights AID」のために年に1度上演するコメディ・バーレスク・ショー『ブロードウェイ・ベアーズ』を製作。『ブロードウェイ・ベアーズ』の本やウェブサイト、N.Y.のファイア・アイランド・パインズでの公演、5年続いているラスベガスでの『ピープショー』、ロンドンの『ウエスト・エンド・ベアーズ』など、エグゼクティブ・プロデューサーとして慈善活動に力を注いでいる。