Vol.594 映像作家/演出家/映画監督 堤幸彦(『真田十勇士』)

OKWAVE Stars Vol.594は『真田十勇士』(公開中)の堤幸彦監督へのインタビューをお送りします。

Q 『真田十勇士』は2014年の舞台から始まって、今年は映画化と舞台再演という壮大なプロジェクトとなりました。

A『真田十勇士』堤幸彦原作がないと作品が立ち上がらない時勢の中で、オリジナルの脚本で公演した舞台が映画になり、さらに映画公開と同時に舞台が再演され、ノベライズも出るということで、本当に幸運なことだと思います。それもこれも、前回の舞台を観に来られた約9万人のお客様の力だろうし、このプロジェクトを世に知らしめようとしてくれた気概のあるプロデューサーたちのおかげでもあるので、感謝の気持ちでいます。

Q 当初から映画化を見越していたのでしょうか。

A堤幸彦ここまでの話になるとは想定していませんでしたが、最初の舞台を上演した時には映画にもしたいという欲がありました。舞台は想像力で作っていくものなので、プロジェクションマッピングを使うなどの手練手管を使いましたが、やはり合戦の平原や大坂城の中の様子も見せたいなという気持ちになりました。映像作家の自分の欲がメラメラと燃え上がって、役者の皆さんともそういう話をしていたら、本当に映画化できて、驚き感謝しています。

Q 真田十勇士という題材の魅力は何でしょう。

A『真田十勇士』堤幸彦私自身は歴史にそれほど詳しい人間ではないですが、真田幸村のことは知っていました。ある種の滅びの美学や哀しいヒーロー像というイメージがありました。いろいろ調べると、家康に向かっていく幸村の戦いぶりに家康自身が一度、切腹を決意したというエピソードもあります。強大な権力にアイディアを持って突進していく幸村はすごいし、父親のエピソードも含め、これは大河ドラマにもなるなと(笑)。ところが、本作はマキノノゾミさんの独自の発想で、さらに一捻り加えた面白いストーリーが生まれ、架空の十勇士という存在は個性豊かなキャラクターとして作り上げられました。これはまさに私が子どもの頃にワクワクして映画館に観に行ったような娯楽作品です。今からすればローテクな作品かもしれませんが、当時は特別な思いで観ていました。そういうものをもう一度映画館で観せたいなと思っていましたので、「真田十勇士」は最高の題材だと思いました。

Q アニメから始まる意表をつく出だしです。

A堤幸彦その部分が舞台の一幕に当たるのですが、映画化するにあたって、それをそのまま実写で描くのはさすがにどうかと思いました。2時間というボリュームの中で合戦とこの映画が目指しているトリッキーな結末に時間をかけたかったので、十勇士が出会うシーンはなるべくシンプルにしようと思い、日本人の大好きなアニメーションにしました。そういったところでも「この作品は何なんだ?」と思っていただければいいなと思います。エンディングにもおまけをつけ、いろいろな角度で楽しめる作品にまとめました。

Q 中村勘九郎さんをはじめ、出演者の方々にはどのようなことを期待しましたか。

A『真田十勇士』堤幸彦十勇士はそれぞれのキャラクターがかぶらないようにしたいと思いました。勘九郎くんは日本の芸能の宝です。すごい身体能力ですし、中村家が持っている表現に対する貪欲な熱量にはやはり驚かされました。彼に感化されて、他のみんなも芝居の中で成長していく姿がありました。松坂桃李くんには究極のイケメンだけど人間味のあるイケメンを演じてもらいましたし、加藤雅也さんには全開の演技を披露してもらいました。幸村の息子・大助役の望月歩くんはもっと早く会いたかったと思わせるほど大助にぴったりでした。各人、各所において譲れないキャラクターを作ってそれを全力で演じてもらいました。

Q 随所でキレキレのアクションについてはいかがだったでしょう。

A堤幸彦この映画で私がやったことは半分くらいかな(笑)ほとんどは、アクション監督の諸鍛冶裕太さん、世界で最高峰と言えるCGチーム、美術や衣装などの各スタッフの努力の賜物です。しかもこの映画を娯楽作品として盛り上げようと一つの方向に向かって、皆さんで楽しみながらアイディアを出し合って頑張った結果です。逆に、私も殺陣のところではお客さんになったような気持ちで「すごいな」と思いながら見てしまうこともありました(笑)。

Q 今回の映画を作り上げる中で、新たな気付きなどはありましたでしょうか。

A堤幸彦時代劇は過去にも撮ったことはありますが、やはり面白いなと思いました。例えば、日本家屋というものは中途半端なものがなく、しっかりとした直線で構築されています。そういうスタイリッシュなものが自分の血にも刻まれているのだなと思いました。これまであまり追求してきませんでしたが、撮りながら日本人の持つフォルムの感覚のようなものに感動しました。それは美術デザイナーの清水剛さんのデザイン力に依るところが大きかったです。また、黒澤和子さんの衣装の作り方は、日本のデジタル技術では拾いきれないくらい細かなアイディアに満ちていて、あらためて感動しました。この映画のお手本は黒澤明監督の『乱』です。あの合戦の緊張感やスタイリッシュな感じに一歩でも近づきたいという気持ちでチャレンジしました。

Q 映画と合わせて上演中の舞台再演についての考えをお聞かせください。

A堤幸彦初演で出しきったと思いましたが、想像で見せる舞台が映画になると具象の連続となります。その2つの究極を突きつめてみると、次はもっと面白いものをやってやろうという欲になってきます。奇しくもみんながそう思っていて、初演の殺陣とは全く違う殺陣に作り直していますし、ストーリーは同じでも、ギャグの入れ方も含めてほとんど作り直しています。全員がもっと面白くしてやろう、2回観に来た人の度肝を抜いてやろう、とボルテージがあがり、熱に浮かされたような稽古ができました。

Q 堤幸彦監督からOKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。

A『真田十勇士』堤幸彦私が子どもの頃にワクワクして映画館に行ったような娯楽活劇の大作を、皆さんにも楽しみにしていただけたらと思います。かつて映画が特別なものだった頃の作品のような、日本人にとって心の奥底に響くような作品にしたいと思いました。“盆暮れ正月が一気に来た”と言っていますが、まさにアニメーションからユーミン(※主題歌は、松任谷由実が担当)まで、面白いことをすべて詰め込みましたので、映画館でぜひ楽しんでほしいです。舞台については、初演をはるかに凌駕するアイディアを随所に入れています。ご覧になれば、まさに一秒目から前回と違うということを発見していただけるでしょうし、役者も前回以上にパワーアップして心に響く芝居を作り上げています。その日1回しか見れないものの連続ですので、こちらもぜひ劇場で楽しんでいただきたいです。

Q堤幸彦監督からOKWAVEユーザーに質問!

堤幸彦この映画をご覧になっていかがでしたかと。一番聞きたくない質問ですが(笑)、直接ご意見を聞く機会もないので、全ての回答を見させていただきます。

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■Information

『真田十勇士』

『真田十勇士』2016年9月22日(木・祝)より全国超拡大公開中

関ヶ原の戦いから14年。天下統一を目前にした徳川家康と、復権を狙う豊臣家の対立が深まっていた戦国の世で、“天下に並ぶ者なし”の名将として、世間から尊敬を集めていた男、真田幸村。しかし実はこの幸村、その男前な容貌と、偶発的な幸運の連続によって勝ちを拾ってきただけの、気弱な〈腰抜け男〉だったのだ!
実像と虚像の違いに悩んでいた幸村はある時、猿飛佐助と運命的に出会う。忍者の里から飛び出してドデカいことを成し遂げたいと思っていた佐助は、幸村を担いで「本物の天下一の英雄に仕立て上げようじゃないか!」と、同じ抜け忍の霧隠才蔵を筆頭に一癖も二癖もある九人の男たちを集め、世にいう《真田十勇士》を誕生させる!
亡き秀吉の妻・淀殿に呼び寄せられた幸村、そして十勇士たちは、またたく間に徳川との最終決戦の最前線に立つこととなった。戦国最後にして最大の戦い、徳川対豊臣の〈大坂の陣〉がついに幕を開ける!
ついに明かされる“真田の謎”、佐助と才蔵を狙う、くノ一(女忍者)の火垂との“因縁”、淀殿と幸村の禁断の“秘密”、そして勝つ事は不可能とも思える圧倒的に不利な徳川との戦いで、佐助と十勇士が企てた驚愕の“大仕掛け”とは…。徳川軍二十万VS十勇士、時代を変える《大逆転》がいま、始まる!!

監督:堤幸彦
脚本:マキノノゾミ 鈴木哲也
出演:中村勘九郎、松坂桃李、大島優子、
加藤和樹、高橋光臣、石垣佑磨、駿河太郎、村井良大、荒井敦史、望月歩、青木健
伊武雅刀、佐藤二朗、野添義弘、松平健(特別出演)、加藤雅也、大竹しのぶ

配給:松竹・日活
公式HP: http://sanada10braves.jp/

©2016『真田十勇士』製作委員会


■Profile

堤幸彦

堤幸彦(『真田十勇士』)1955年11月3日生まれ。愛知県出身。
映画、TVドラマ、音楽ビデオ、ドキュメンタリー等、手掛ける作品は多岐にわたる。近年の主な作品に映画『くちづけ』(13)、『エイトレンジャー』シリーズ(12、13)、『劇場版SPEC』シリーズ(12、13)、『悼む人』(15)、『イニシエーション・ラブ』(15)、『天空の蜂』(15)など。TVドラマでは「トリック」シリーズ、「SPEC」シリーズをはじめ「神の舌を持つ男」(16)など。ドキュメンタリーでは「Kesennuma,Voices.東日本大震災復興特別企画~堤幸彦の記録~」(12~14)など、舞台では「悼む人」(12)「真田十勇士」(14、16)「スタンド・バイ・ユー~家庭内再婚~」(14)など様々なジャンルに挑戦し、幅広い世代から高い評価を得ている。