Vol.597 映画監督 雑賀俊朗(『カノン』)

OKWAVE Stars Vol.597は映画『カノン』(公開中)の雑賀俊朗監督へのインタビューをお送りします。

Q 『カノン』の映画化への経緯についてお聞かせください。

A映画『カノン』雑賀俊朗大きくは2つあります。ひとつは2011年に七年間寝たきりだった母が亡くなったことです。母は家族や子どものことが大好きなのに、最後の一年間は子どもの名前や顔を思い出せないこともあって、そのことがせつないなと思っていました。その翌年には、それまで元気だった父も亡くなってしまいました。父は亡くなる直前の正月に戦争に行った時の話をしてくれました。話し始めたらずっと喋り続けて、詳細な話を聞くのは初めてで、父親のことは何でも知っていると思っていたけれど親しい家族でも知らないことがあるものだと思いました。そんな両親のことをメモに残していました。
その後、2013年に『リトル・マエストラ』という映画を撮った時に石川県をはじめ北陸の方々に作品を気に入っていただけて「次もぜひ北陸を題材に一本撮ってください」と言われました。「2015年に北陸新幹線が開通するのが私たちの悲願なのです。それをぜひ題材に」とも言われたのですが、新幹線を題材にするのもなかなか難しいなと悩みました。そんなある晩に風呂に浸かっている時にこの映画のアイディアが浮かびました。金沢、富山、東京の三つの都市に分かれて住んでいる三姉妹と母の話にすれば、親の話と北陸のことが全部つながると思いました。
それでその骨子を書いて、脚本家の登坂恵里香さんに依頼しました。私は姉が二人いる三姉弟で、実は登坂さんも三姉妹とのことで「ぜひやらせてください」と言っていただけて始まりました。

Q 三姉妹の役柄についてはどのように考案されたのでしょう。

A映画『カノン』雑賀俊朗登坂さんと話して主人公は三姉妹の真ん中にしようと決めました。一番上と一番下は親からかわいがられるのに対して、その間の子は一番愛情に敏感な位置にいるので、次女を主役にしようとしました。キャラクター付けとしては、次女の藍は積極的にいくタイプではないけれど、物語の後半は長女の紫や三女の茜を動かしていくようにしました。三姉妹それぞれが母親の一部を引き継いでいるということを発想していきました。母親の芯の強さを次女が受け継いでいて、長女は真面目で誠実なところを、三女は甘えん坊で言いたいことを言ってしまうタイプですが、母親と同様にプレッシャーに負けそうになった時にお酒に逃げてしまいそうになるという部分を受け継がせました。
実は三姉妹を演じた長女のミムラさん、次女の比嘉愛未さん、三女の佐々木希さん全員三兄弟なんです。

Q タイトルにもなっている楽曲「カノン」の選曲についてはいかがでしょう。

A雑賀俊朗台本を何度も書き直しましたが、三姉妹がお母さんに思い出の曲をピアノで弾く、ということは早い段階から決めていました。選曲については登坂さんから「カノン」はどうでしょうという話がありました。私も候補には挙げていて、好きな曲だったので、あらためて楽曲のことを調べました。すると「カノン」はもともとバイオリンの三重奏の曲だったそうで、三人で演奏する曲が始まりだったということなのでまさにこれしかないなと思いました。

Q 比嘉愛未さん、ミムラさん、佐々木希さんの三姉妹役の皆さんにはどんな演出をされましたか。

A雑賀俊朗クランクイン前に河合楽器さんのところでピアノのレッスンを一ヶ月やってもらいました。その時に何度も様子を見に行って、その時に役柄について話しました。十分な話し合いができたので、撮影の現場では三人とも自分の役どころを深く理解していて、自然に演技ができたと思います。いつもだと芝居の演出をつける方ですが、今回はみなさんとクランクイン前に話ができたことで、自然に演じられたと思います。

Q ラストの三重奏の場面が美しいです。

A映画『カノン』雑賀俊朗最後のピアノ演奏も三人が実際に演奏しています。
その撮影の時にも映画の神様がいるなと感じました。それまでの撮影中のほとんどが雨でしたがこのシーンを含め、大事な時だけは晴れてくれました。このピアノの演奏シーンも前日は雨で、キャストが揃う日も少ないし、撮影当日の朝に河合楽器さんが浜松からピアノをトラックで運んできてくれる段取りでしたので、晴れて本当に良かったです。

Q 母親役の鈴木保奈美さんとはどんな話をされましたか。

A映画『カノン』雑賀俊朗鈴木保奈美さんとは以前に別の現場を経験していましたので知らない間柄ではなかったです。今回は、アルコール依存症の役なので、まずは病気のことを知ろうと、専門病院に保奈美さんにも足を運んでもらって話を聞いたり、本を読んで勉強しました。症状自体は人それぞれですが、第一段階は虫が見えるようで、第二段階が幻聴、第三段階になると幻覚が見えるということだったので、そういった要素や手の震えを入れました。とはいえ、作り込むよりその場の雰囲気に合わせて演じた方がより自然に見えるだろうと話し合いました。保奈美さんは実際にも三姉妹の母親で子どものことが大好きですが「三姉妹の子役の子たちには一切話しかけません」と徹底していました。あの母親を演じる上で徹底してやり抜く女優魂と言うものを見せてもらいました。
三姉妹が大人になった時には記憶をなくしてしまっている状態の役なので、比嘉さんらとは普通に接していました。とかく女優が集まると大変と言われますが、今回の現場は三姉妹役、保奈美さんみんないい人たちでそういうことで困ることはなかったですね(笑)。

Q 雑賀俊朗監督からOKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。

A雑賀俊朗いろんな要素が詰まった作品ですが、母親がなぜアルコール依存症になってしまったかの原因を観客の皆さんが納得できないといけない作品なので脚本の登坂さんと何度も話し合って作っていきました。自分が良かれと思ってやったことが裏目に出る運命のいたずらのようなものに対して人間は為す術がありません。真面目なお母さんがそれに対する怒りをどこにもぶつけられずに徐々にお酒に走ってしまった、というところには時間をかけました。
この映画を観ることで、家族のことを改めて考えるきっかけになってくれればいいなと思います。

Q雑賀俊朗監督からOKWaveユーザーに質問!

雑賀俊朗皆さんは最近何かで号泣しましたか?

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■Information

『カノン』

映画『カノン』2016年10月1日(土)より角川シネマ新宿ほか全国公開中

死んだはずの母が生きていた。あの頃とはすっかり変わり果てた姿で……。三姉妹は祖母が遺した手紙を手がかりに、真実を探し求める旅に出る。
19年前、なぜ母はわたしたちの前から姿を消したのか?
なぜ約束を守ってくれなかったのか?
母へのわだかまりを抱えたまま大人になり、それぞれ別の街で恋や家庭、仕事に奮闘する三姉妹。彼女たちがともに母の過去を辿り、自分たちの傷に向き合い、未来への一歩を踏み出そうとする時、ある懐かしいメロディーが流れ出す。
心温まる音楽と旅情にのせて、今を生きる女性たちの愛と葛藤を描いた珠玉の映画が誕生した。

監督:雑賀俊朗
脚本:登坂恵里香
出演:比嘉愛未 ミムラ 佐々木希 / 桐山漣 長谷川朝晴 古村比呂 島田陽子 / 多岐川裕美 / 鈴木保奈美
配給:KADOKAWA

公式サイト:http://kanon-movie.com/

©2016「カノン」製作委員会


■Profile

雑賀俊朗

雑賀俊朗(映画『カノン』)1958年生まれ、福岡県出身。
早稲田大学卒業。泉放送制作に入社し、数多くの作品のディレクターやプロデューサーを務める。2001年『クリスマス・イヴ』で劇場映画監督デビュー。 その後、『ホ・ギ・ラ・ラ』(02)、『RANBU 艶舞剣士』(04/ゆうばり国際ファンタスティック映画祭出品)と続けて監督作を発表。2008年、鹿児島の遠泳を題材にした『チェスト!』を監督。同作は第8回角川日本映画エンジェル大賞を受賞し、香港フィルムマートの日本代表作品に選出された。その他の監督作に、ヨットレースに挑む少女たちを描いた『海の金魚』(10)、石川県の港町を舞台にアマチュアオーケストラの奮闘を描いた『リトル・マエストラ』(13/上海国際映画祭日本映画週間正式招待)、宮崎県に伝わる神話を子どもたちのダンスで描いた『神話の国の子どもたち』(15)などがある。