Vol.598 俳優 タハール・ラヒム(『ダゲレオタイプの女』)

OKWAVE Stars Vol.598は黒沢清監督の海外初進出作『ダゲレオタイプの女』(2016年10月15日公開)主演のタハール・ラヒムさんへのインタビューをお送りします。

Q 黒沢清監督との出会いや、日本文化との関わりについてお聞かせください。

A『ダゲレオタイプの女』タハール・ラヒム黒沢清監督と初めて会ったのは、とあるアジア映画祭でした。そこに私は審査員として来ていて、彼はマスタークラスを開催していましたので、ご挨拶に行ったのが最初の出会いです。私は大学で映画の専攻をしていて、その時に黒沢監督の『CURE キュア』などを観ていました。 とくに『叫』は私の中で一番の作品です。そんな黒沢監督の作品に出演しないかという話をいただいたので、とくに、当初は日本で映画を撮るのだろうと思ってとても喜んでいました。最終的にはフランスで撮ることを知りましたが、それはともかく黒沢監督からの出演依頼がとても誇らしく、とても嬉しかったです。撮影自体もとてもうまくいきましたし、私たちの関係性もとても良いものでした。完成した映画はとても自由で、素晴らしい、満足のいく作品になりました。
私自身の日本文化との関わりのはじまりは、子どもの頃に見た「北斗の拳」や「ドラゴンボール」などのマンガです。とくに好きなのは「DEATH NOTE」と「MONSTER」ですね。日本映画では是枝裕和監督、河瀬直美監督、黒澤明監督、深作欣二監督、北野武監督の作品が好きです。巨匠である宮﨑駿監督の作品ももちろん大好きです。

Q 『ダゲレオタイプの女』のシナリオを読まれた際の印象をお聞かせください。

Aタハール・ラヒム初めてシナリオを読んだ時には、私の演じるジャンと他の人物との関係性にいろいろな問いかけが浮かびました。ジャンは初めは普通の若者ですが、徐々に奇妙な世界に入ることで変わっていきます。観客もジャンと同じようにそれを感じていきます。それをどう表現しようかということに興味を惹かれました。このシナリオには黒沢監督の得意なテーマも入っていますし、フランスではなかなかこういったジャンル映画はないので、そういった意味でも興味深かったです。

Q ジャンをどのように演じようと思いましたか。

A『ダゲレオタイプの女』タハール・ラヒムこの役を演じる上で、いわゆるアカデミックな準備というよりは、監督とよく話して、普通の若者であるジャンのことを理解していきました。この人物がどんな風に魅力的なマリーに惹かれていくのか、いかにして惑わされていくのかを監督と話し合いました。撮影現場では、元々のフランス語に訳された台本はどちらかというと硬い表現がされていたので、いかにこなれたセリフにするかについて、翌日の撮影分のセリフについて前日に話し合う、ということを監督や共演者としました。

Q ダゲレオタイプの写真家ステファンを演じたオリヴィエ・グルメさん、ジャンが惹かれていくステファンの娘マリー役のコンスタンス・ルソーさんとの共演はいかがだったでしょうか。

A『ダゲレオタイプの女』タハール・ラヒムコンスタンス・ルソーについては、それまでの作品はあまり知らなかったのですが、このマリーという役は彼女にとってとてもいい役だったと思います。彼女はどちらかと言えば、周りが守ってあげたくなるような、まるで陶器でできた人形のようなところがあります。そして彼女の眼差しはとても強くて、ちょっと不思議な感じもします。それがこの黒沢監督の映画に合っていると思いました。
オリヴィエ・グルメとは以前にもレベッカ・ズロトヴスキ監督の『グランド・セントラル』という映画で共演していましたので、素晴らしい役者だということは分かっていましたし、また共演できて嬉しかったです。

Q 日本人監督がフランスでフランス人キャストと共に映画を撮られましたが、そういった異なる文化が合わさった作品ということについてはいかがでしょうか。

Aタハール・ラヒム日本映画とフランス映画は全く正反対のもの、ということはないと思います。今回の映画に関して言えば、日本映画かフランス映画かと言う前に黒沢清監督の映画だと言えると思います。そして黒沢監督の映画が成功するのはテーマやストーリーが普遍的だからだと思います。

Q ラブストーリーの側面と奇妙な出来事に巻き込まれるという意味では愛と幻というテーマもあるように思いました。

A『ダゲレオタイプの女』タハール・ラヒムこの映画の中ではいろいろなことが語られています。ラブストーリーと事件性のある出来事という意味では『叫』にも通じるテーマです。今回の映画の「愛と幻」ということでは、ジャンはマリーとのある場面を境に理性を失っていきます。理性のある人間だったジャンがマリーのために自分を見失って突き進んでいってしまうのです。

Q もしご自分がジャンのようなシチュエーションに置かれたらどうなってしまうと思いますか(笑)。

Aタハール・ラヒム自分がジャンの立場だったら、そもそもあんなにひどい雇い主の元からすぐに逃げ出したと思います(笑)。ですがジャンは留まってしまうんですね。

Q タハール・ラヒムさんからOKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。

Aタハール・ラヒム日本の観客の皆さんにはまずは映画館に観に来てくださいと言いたいです。この映画の中には黒沢監督の得意なテーマが描かれています。それをフランスの俳優が演じていますし、ラブストーリーになっています。この身震いするような“怪談”の世界を楽しんでいただきたいと思います。そうすることで、黒沢清監督の映画が単なる日本映画、単なるフランス映画ではない普遍的な映画であることが分かると思います。

Qタハール・ラヒムさんからOKWAVEユーザーに質問!

タハール・ラヒムどうすれば、美味しい日本料理を作ることができるのでしょう。私が妻に教えることができる日本料理の秘密をぜひ教えてください。

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■Information

『ダゲレオタイプの女』

『ダゲレオタイプの女』2016年10月15日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国ロードショー

パリ郊外、再開発中の街の一角、古い路地に佇む屋敷。ジャンは、そこに住む気難しそうな中年の写真家ステファンの助手として働きはじめた。
「これこそが本来の写真だ!」等身大の銀板には、ドレスを着て空虚な表情を浮かべるステファンの娘マリーが写っている。ステファンは娘をモデルに、ダゲレオタイプという170年前の撮影方法を再現していたのだ。露光時間の長い撮影のため、動かぬように、手、腰、頭……と拘束器具で固定されていくマリー。「今日の露光時間は70分だ!」ステファンの声が響く。
ダゲレオタイプの撮影は生きているものの息遣いさえも銀板に閉じ込めるかのようだ。この屋敷ではかつてステファンの妻でマリーの母ドゥーニーズもダゲレオタイプのモデルをしていた。ドゥーニーズは今はもうこの世にいない。しかし彼女の姿は銀板に閉じ込められ、永遠を得たのだ。
ダゲレオタイプに魅入られたステファン。そんな芸術家の狂気を受け止めながらも、父から離れて自分自身の人生を手に入れたいマリー。そんな彼女に惹かれ、やがて共に生きたいと願うジャン。
ダゲレオタイプの撮影を通して、曖昧になっていく生と死の境界線。3人のいびつな関係は、やがてある出来事をきっかけに思いもよらぬ方向へと動き出す。

監督・脚本:黒沢清
出演:タハール・ラヒム、コンスタンス・ルソー、オリヴィエ・グルメ、マチュー・アマルリック、マリック・ジディ、ヴァレリ・シビラ、ジャック・コラール
配給:ビターズ・エンド

公式サイト:http://www.bitters.co.jp/dagereo/

© FILM-IN-EVOLUTION – LES PRODUCTIONS BALTHAZAR – FRAKAS PRODUCTIONS – LFDLPA Japan Film Partners – ARTE France Cinéma – 2016


■Profile

タハール・ラヒム

タハール・ラヒム(『ダゲレオタイプの女』)1981年6月4日、フランス生まれ。
モンペリエ第三大学で映画理論を学んだ後、パリの演劇学校に通う。ベアトリス・ダル主演の『屋敷女』(07/ジュリアン・モーリー&アレクサンドル・バスティロ監督)などに出演後、ジャック・オディアール監督の『預言者』(09)の主役に抜擢され、セザール賞で主演男優賞と有望若手男優賞をダブル受賞、さらにヨーロッパ映画賞を受賞し、国際的に注目を集める。その後、チャニング・テイタムと共演した『第九軍団のワシ』(10/ケヴィン・マクドナルド監督)のほか、アントニオ・バンデラスと共演した“Black Gold”(11/ジャン=ジャック・アノー監督)、『パリ、ただよう花』(11/ロウ・イエ監督)、『ある過去の行方』(13/アスガ-・ファルハディ監督)、『サンバ』(14/オリヴィエ・ナカシュ&エリック・トレダノ監督)、『消えた声が、その名を呼ぶ』(14/ファティ・アキン監督)などに出演。数々の名匠からオファーが絶えないフランスを代表する実力派俳優である。