OKWAVE Stars Vol.600は映画『バースデーカード』(2016年10月22日公開)の𠮷田康弘監督へのインタビューをお送りします。
Q 『バースデーカード』はオリジナル脚本を書かれて監督も務められましたが、映画化の経緯についてお聞かせください。
A𠮷田康弘余命を悟ったお母さんを描いた、ノンフィクションのお話をプロデューサーから渡されたのがきっかけです。家族の誰かが亡くなっていくことを追っていくようなものよりも、残された人が誕生日ごとに天国からやってくる手紙を読んで、亡くなった母と娘が共に生きていくバディ・ムービーのようなコンセプトを持てれば面白いんじゃないかと思いました。長い期間の母と娘の対話の物語にしようと思って、シナリオを書き始めました。
Q 監督自身はシナリオを作っていく中でどんなことを大切にしようと思いましたか。
A𠮷田康弘親と子の関係性が、亡くなってからも続くということを「バースデーカード」という形を通して提案したいなと思いました。シナリオを書いていた2010年から2011年には震災がありましたし、震災の4日前に自分には子どもが生まれましたので、その影響もありました。親子や家族の形が多様化している中で、親と子の絆は亡くなってからもきっと続いていくんじゃないかと前向きな提案ができればいいなと思いました。
Q 家族役の橋本愛さんやユースケ・サンタマリアさんらにはどんな演出をされたのでしょう。
A𠮷田康弘家族のコミュニケーションは大事なものですので、お芝居ではなく本当の家族のように見せたいと思いました。この物語は普遍的な王道のストーリーだからこそ、嘘のない世界を大事にしたい、とみんなと話し合いました。台詞ひとつとっても、言う本人に違和感がない台詞を心がけて、現場でも微調整したり、あるいは言葉をなくしたり、役者とも相談しながら進めていきました。そうすることで、よりリアリティが出るんじゃないかと思いました。カメラが回っていないところでも、役者同士お互いに家族のようにコミュニケーションを取ってくれている環境でした。積極的にコミュニケーションを取っている中で撮影ができました。
Q 主人公・紀子の成長段階での子役の方々への演出はいかがでしたか。
A𠮷田康弘違和感が出ないように最大限の努力をしました。まずは雰囲気が似ている子を探そうと徹底的にオーディションを行いました。似ている雰囲気の子を見つけて、リハーサルでお芝居を作っていきました。その中で、ほくろの位置を合わせたり、唇をかむ仕草を癖にしたり、できるだけ一人の人間の成長を違和感なく見てもらえるように、みんなで努力しました。この映画ではその部分の説得力が大事だと思いましたので、こだわりました。
Q 諏訪での撮影についてお聞かせください。
A𠮷田康弘ユースケ・サンタマリアさん演じる父親が天文学者という設定だったので、ロケーションとしては信州だろうとは思いました。当初は架空の都市でもいいかなと思いながら見に行った諏訪でしたが、どこからでも諏訪湖が見える景色でオンリーワンだと思いましたので、諏訪に生きる家族の話にしようと思い切って設定を変えました。映画に映える坂道がたくさんあったので、そこを活かしました。坂道で振り返るといつも諏訪湖が見える、その諏訪湖には空が映っていたり、時間帯によっていろいろな表情を見せてくれるのが素敵でした。気持ちのよい風が吹き抜ける場所なのでそういうものも感じられれたらいいなと思いました。家族でピクニックに行く霧ヶ峰高原は幻想的な所なので、この映画を観ていただいた方もきっと行きたくなると思います。ロケ-ションに味方された映画になったとも思います。
家族の住む家は、実際に建っているお宅に惚れ込んで、貸していただきました。まず坂道に惚れ込んで、坂道にあるどこかの家でロケがしたいと思い、なおかつあの家が一番いい、と思って、お住いの方に直談判をしました。快諾いただけたので、良かったです。やや強引でしたが(笑)運命的な出会いでしたね。
Q 「アタック25」とのコラボが意外な展開で面白かったです。
A𠮷田康弘どこにでもいる普通の家族の物語で、スポットライトを浴びる瞬間は何だろうと考えた時に、「TVに出演する」ことは人生で忘れられない1日になるのではないかと思って、視聴者参加型のクイズ番組を題材にしようと思いました。僕は大阪の出身なので「アタック25」は子どもの頃から見ていました。クイズ番組というよりは、最初は緊張している出演者が一問答えるたびに表情を変えていきますし、様々な人間模様が見られるドキュメントだと思っていました。この映画の中でもこの番組を使えたらいいなと思いました。「アタック25」は40年の歴史があるので、この映画の中の10数年の中で縦軸を表現するのにもマッチすると思いました。シナリオを書いて朝日放送さんに掛け合ったら、「ぜひやりましょう」とコラボレーションできることになりました。実際の番組のスタジオで、谷原章介さんの司会のもと、アドリブ満載のやり取りで撮影できました。スクリーンで普段見ているTVの世界が出てくるのはユーモアがあるなと自分でも思いました。
Q 今回の撮影を通じて得た気づきなどお聞かせください。
A𠮷田康弘オリジナルストーリーにはオリジナルストーリーならではの強みがあると思いました。現場でいいアイデアが思いついたら変えていけるところが強みだと思います。みんなの意見を取り入れたり、現場で変えていけるので、普遍的な映画を扱うにはいいやり方だと思いました。強烈な個性がある作品なら監督一人で決めてもいいと思いますが、今回は王道のいろんな人に観てもらいたい作品だったので、このやり方は強みだったなと気づきました。
Q ちなみに監督は作品によって進め方は変えていくのでしょうか。
A𠮷田康弘企画によって手法は変わってくると思います。オリジナルストーリーでも取材対象がしっかりとあって、取材を重ねることでディティールをシナリオに入れるという形だったら、脚本家が形にしていけばいいです。今回は想像で作っていくものでしたので、ひとりで考えて偏ってしまうよりは、いろいろな人に意見を出していただいて採用するやり方が正しかったと思います。今回の作品はスタッフも役者も目指すところへの理解がありました。役者の皆さんも普段のオーラを消して市井の人たちを演じていますし、自然なお芝居になったと思います。
Q 吉田康弘監督からOKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。
A𠮷田康弘この映画は派手なアクションシーンも豪華なCGもありませんが、どこにでもいる家族の王道のストーリーです。普通の人々の中にもたくさんのきらめきがある、ということを描いていますので、ご自身の人生の物語だと思って観ていただけたらと思います。母と娘の話を主軸にしていますが、父親に感情移入して観ていただけるとも思いますので、女性も男性も皆さん映画館に観に来ていただきたいです。
■Information
『バースデーカード』
21世紀のキに、子どもと書いて紀子。いま、この時代に、確かに私という人間が存在した、という意味を込め、パパが付けてくれた名前です。小学生時代のあだ名は「泣き虫のりこ」。引っ込み思案な性格で、クラス対抗のクイズ大会では、パパとママ、弟の正男と家族総出で協力してくれたのに、勇気が出せず一問も答えられませんでした。落ち込む私をいつも励ましてくれるのがママでした。優しくて、明るくて、そんなママのことが大好きでした。このままずっと隣にいて安心させてくれる、と当たり前のように思っていました。10歳の誕生日までは・・・。ママは病気に勝てず天国に行ってしまったのです。ママと過ごす最後の年になってしまった10歳の誕生日。ある約束をしました。それは20歳を迎えるまで私たち姉弟に毎年手紙を贈ること。
そして翌年、母がいない11歳の誕生日に、本当に手紙が届きました。“11歳ののんちゃんへ これからのんちゃんが20歳になるまで、毎年手紙を贈るので楽しみにして下さい”12歳の手紙には美味しいお菓子のレシピが書いてあり、クラスの人気者になれました。13歳は学校をさぼって映画鑑賞のススメ、14歳はなんとキスの手ほどき!17歳の時には、初めてママの故郷・小豆島に行き、中学生時代のママを知ることに。行動力があって、私とは大違い。本当に同じ遺伝子が入っているのか心配になるくらい…。19歳の手紙には驚きました。“…実は昨日ママとパパは喧嘩をしました。原因はママが手紙を破り捨てたからです”19歳の私がどんなことに悩み、どんなことで苦しんでいるのか?何を書いてあげたらいいのかがわからない、といつも元気なママが苦しんでいたのです。一言だけでもいいから書いて欲しいというパパの気持ちを汲み、素直な気持ちを綴った手紙でした。そんなママの思いを知り、涙がとめどなく溢れるのでした。
こうして、私に残された手紙はあと1通になりました。20歳を迎える最後の手紙。そこに綴られていたのは、初めて知るママの真実。そして、世界一しあわせなサプライズが待ち受けていたのです!
橋本 愛 ユースケ・サンタマリア / 宮﨑あおい
須賀健太 / 中村 蒼 / 谷原章介 木村多江
安藤玉恵 黒田大輔 清水 伸 田中 圭 洞口依子
監督・脚本:𠮷田 康弘
主題歌:「向日葵」木村カエラ(ELA / ビクターエンタテインメント)
配給:東映
http://www.birthdaycard-movie.jp/
(c)2016「バースデーカード」製作委員会
■Profile
𠮷田康弘
1979年7月5日生まれ、大阪府出身。
井筒和幸監督作品『ゲロッパ!』(03)の現場に見習いとして参加し、映画の世界へ。その後『パッチギ!』(05)、『村の写真集』(05)、『雨の街』(06)、『嫌われ松子の一生』(06)などの制作に参加。『キトキト!』(07)で監督デビュー。型破りな母子の物語として話題に。主な作品に『ヒーローショー』(10、脚本)、『黄金を抱いて翔べ』(12、脚本)、『旅立ちの島唄~十五の春~』(13)、『江ノ島プリズム』(13)、『クジラのいた夏』(14)や、TVドラマ「埋もれる」(14/WOWOW)、「びったれ!!!」(15/tvk他)等。
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