Vol.605 シンガソングライター/俳優 松下洸平(こまつ座「木の上の軍隊」)

OKWAVE Stars Vol.605はこまつ座「木の上の軍隊」(2016年11月10日~27日)に出演する松下洸平さんへのインタビューをお送りします。

Q 3年前に初演が行われた「木の上の軍隊」についての印象をお聞かせください。

A松下洸平何年も前から上演しかけては実現しなかった作品とのことだったので、初演を客席で拝見させていただいた時は、幻の作品が上演されるお祭り感もあって、すごい作品を観たなという印象でした。とくに藤原竜也さんの身体の張った役者魂をまざまざと見せつけられました。山西惇さんも片平なぎささんも全身全霊で演じていましたので、自分もいつかこういう命をかけて挑む舞台に立てたらいいな、という目標をもらえた思い入れの大きい作品でした。

Q では、今回その「木の上の軍隊」に新兵役として出演するご感想はいかがでしょう。

A松下洸平そのように思っていた作品にまさか絡むことになるなんて、という気持ちです。出演できると聞いた時は本当にびっくりしました。最初はプレッシャーしかありませんでした。演出の栗山民也さんにお会いして「頼むぞ」と言われたり、台本も手元に届いて、腹をくくるところまで来ました。

Q 新兵役を演じる上で、どのような準備をしてきましたか。

A松下洸平(こまつ座公演「木の上の軍隊」)松下洸平自分は沖縄の人間ではありませんし、戦争を体験していないことと、戦争を体験した方からお話を聞く機会もこれまでなかったことが問題だと思っていました。まずはどんな形でもいいので沖縄の風のようなものを体感しなければならないなと思って、9月にこの基となった話の伊江島にこまつ座代表の井上麻矢さんに同行いただき、現地で話をお聞きしました。新兵のモデルになった佐次田さんという方の息子さんにお会いして、当時のことをお聞きしました。息子さんは疎開されていたので当時の伊江島の状況は聞けませんでしたが、戦時中のことや、佐次田さんが木から降りられた後の話を聞きました。それだけでも新兵を演じる上では十分で、自分がやるべきことが分かりました。知らないことが多い中で、語り継いでいく役割は僕にはできないと思いましたが、昔こういうことがあったと語り継ぐ人からの話を受けて、それを演劇というもので表現して伝えることがやるべきことだと思いました。
台本は史実とは違う内容なので、二人のありのままの史実を伝えるというよりは、過酷な場で生きる二人の兵士の人間模様を描いた演目になります。戦争の悲惨さや哀しみを伝えるだけではなくて、そういうところに置かれた時の人間がどうなるのだろうか、というものが描かれます。台本の蓬莱竜太さんの力だと思いますが、現代に生きている戦争体験のない僕たちにも分かることがあるとも思います。極限まで追い込まれた人間の理性がどうなるのか、蓬莱さんがうまく書かれているので、その部分を演じようと思っています。

Q 新兵と上官の関係性の変化も見どころの作品ですが、芝居でどう見せていきたいですか。

A松下洸平新兵と上官は間逆な性格です。僕が演じる新兵はすごくピュアな存在で、まっすぐな青年です。今回僕が演じる新兵によって山西さんの演じる上官は初演とは変わってくると思います。新兵が考えていることは一つのことだけです。なぜかは分からないけど自分の育った島が戦場になっていて、自分がしなければならないことは、ここにいる敵兵を倒すことだけです。それをなぜしなければならないのかは本人にも分かっていないのだと思います。そのピュアさ、無垢さを抱えながら銃を持っている新兵の痛々しさが見えると、上官の気持ちも変わってくると思います。ですので、僕は純粋無垢ということだけを考えるようにしています。彼はまっすぐに受け止め、傷つき、すぐ泣く(笑)。それが彼のいいところですが、そういうピュアさが上官をどんどん苦しめていきますので、僕も山西さんを苦しめたいです(笑)。山西さんを新兵の持つ無垢さで追い詰められたらと思います。

Q 木の上で2年過ごした、ということについて思うところはいかがでしょう。

A松下洸平実際にセットの上で動いてみると感じることがたくさんあると思います。伊江島に行った時には実際にガジュマルの木に登らせていただきました。貴重な歴史資料だと思っていたので、見るだけで満足していたのですが、木を管理している方が「一緒に登ろうか」と仰られて、70歳を過ぎているのに軽々と登っていくんです。僕は必死でついて登って、木の上からの景色を見させていただきましたが、僕は居られて半日だと思います(笑)。ものすごく大きな蜘蛛が巣を作っていて、案内していただいた方は木の枝でさっさと追い払っていました。虫全般が苦手な自分には無理だと思いました。そんなところに2年もいるのは不可能です(笑)。
真夏ののどかな伊江島でもそんな感想なので、恐怖と哀しみと憎しみ、いろんな感情が渦巻いた精神状態であの木の上に2年もいなければならなかったことを思うと、上に登った時には涙が出ました。なぜ木の上にいなければならなかったのか、戦争とは何なのか、人間とは何なのだろうか、といろんなことを考えました。
語る女役の普天間かおりさんもガジュマルの木を見学されたそうですが、普天間さんはガジュマルの木を抱きしめたまま木と5分間くらいおしゃべりしていたそうです。沖縄の方にとっては、ガジュマルの木は僕たちよりももっと特別な存在でもっといろんなことを感じていたのだと思います。今回の伊江島の旅でお世話になった方々が東京での公演を観に来てくださるそうなので、その人たちの気持ちにも応えたいと思っています。いろんな人たちの期待が詰まった作品なんだと思います。

Q 沖縄を取り巻く現状についていかがでしょう。

A松下洸平初演の時からどころか71年前から変わってないですね。とくに伊江島は島の3分の1が基地です。栗山さんは大の沖縄通で、この演目への思い入れも相当あると思います。栗山さんも「沖縄は何も変わっていない」とよく仰られています。

Q 松下さん自身は沖縄との関わりはいかがでしょう。

A松下洸平何もないんです。東京生まれなので、海に対するあこがれは強かったです(笑)。サーフィンをやっていると聞くだけで格好いいなと思っていました。沖縄は旅行で2度行っただけです。一度は修学旅行で、戦争にまつわる資料館のようなところにも行ったと思いますが、当時はそういったことを何も考えてはいなかったです。海や空の美しさや、リゾート地として、戦争のことを感じさせない一面もあるので、このお話をいただいてあらためて沖縄戦のことを学べば学ぶほど、知らなければならないことがたくさんあるなと思いました。沖縄戦に限らず、当時の日本のことをいろいろ考えなければならないなと思いました。

Q どんなところに注目してほしいですか。

A松下洸平僕は役者目線で初演を観ましたが、観終わった後にいい意味で胸が締め付けられましたし、しばらく客席から立てないくらい大きな衝撃を受けました。感動とは違うし、すごく勇気を与えられるということとも違うし、人間ドラマを美しく描いているわけでもありません。なのにこんなに苦しいのはなぜなんだろうとずっと考えていました。僕は役者が持っている可能性に打ちのめされたのかなと思いました。
皆さんには何とも言えない気持ちになって帰ってもらいたいです。生々しい作品なので、二人の兵士の魂を少しでも身体の中に入れていただいて、悶々としながら(笑)帰っていただきたい。そのくらいのパワーがある作品です。二人の人間の半生を心で受け止めるときっと衝撃があるので、それを味わっていただきたいです。

Q松下洸平さんからOKWAVEユーザーに質問!

松下洸平自分から友人を飲みに誘う方法を教えてください。断られた時のことを考えると、どんなに仲がいい相手でもできないんです。
山崎樹範さんが同じ悩みを抱えていて、同じ舞台に出演した稽古の休み時間中に、お互いに誘いたいのに誘えない感じで声をかけられないまま5分くらいじっと黙ったままだったこともあります(笑)。
居酒屋で飲んでいる人たちに、どちらがどう言って誘ったのか聞いてみたいくらいです。ぜひ回答をお願いします。

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■Information

平成28年度文化庁芸術祭参加公演・沖縄タイムス社後援
こまつ座第115回公演「木の上の軍隊」

こまつ座公演「木の上の軍隊」2016年11月10日(木)~27日(日)紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(新宿)

実話から生まれたいのちの寓話が今、語りかける。
ある南の島。
ガジュマルの木に逃げ込んだ兵士二人は、敗戦に気づかず、二年間も孤独な戦争を続けた。
人間のあらゆる心情を巧みに演じ分け、観る者の心に深く刻みつける山西惇が、再び本土出身の“上官”を演じる。
注目の新キャスト・松下洸平は、柔らかく、おおらかな存在感で島出身の“新兵”に挑む。
歌手・普天間かおりをガジュマルに棲みつく精霊“語る女”に抜擢。琉歌に乗せて島の風を吹き込む。
2016年、こまつ座版『木の上の軍隊』が新たに立ち上がる。

原案:井上ひさし
作:蓬莱竜太
演出:栗山民也
出演:山西惇、松下洸平、普天間かおり/有働皆美(ヴィオラ)

入場料:6,500円
夜チケット:6,200円(全夜公演対象)
U-30:4,500円(観劇時30歳以下、枚数限定、こまつ座のみ取扱い)

こまつ座 03-3862-5941
こまつ座オンラインチケット:http://www.komatsuza.co.jp/


■Profile

松下洸平

松下洸平(こまつ座「木の上の軍隊」)1987年3月6日生まれ、東京都出身、A型。
幼い頃から生活の一部になっていた芸術と音楽。画家である母の元、幼少時より油絵を始める。中学に入り、ダンスを始め、その後美術系の高校に入学。高校3年生の時たまたま観た映画『天使にラブソングを2』に感動し「歌手になる!」と決心、音楽の専門学校へ入学。初めて自分で詩・曲を書き始める。
2008年より、自作曲に合わせて絵を描きながら歌を歌うPerformanceを開始、「ペインティング・シンガーソングライター」として都内及び関東近郊でライブ活動を行い、同年11月5日、「STAND UP!」でCDデビュー。
2009年に入ると、TV・舞台と、活動の幅を更に広げる。
松下洸平はいつも自分の声で、手で、演技で、みんなに想いを伝えている。

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