Vol.626 書家/アーティスト 紫舟

OKWAVE Stars Vol.626は書家/アーティスト・紫舟さんへのインタビューをお送りします。

Q 自分の作品がどこかに飾られているのを目にすると、どんな気持ちになるでしょうか。

A紫舟作品が飾られているのを目にすると、つくづく“有り難いなぁ”と感じます。ましてや、丁寧に額装されている姿には、息子や娘にとても似合う着物を着せていただけたようで、感謝一杯です。
そして、これは書家をはじめた初期の頃からずっと感じていることですが、作品をお持ちいただいた方が、後々まで、代々まで、あの時にこの作品を買ってよかったと、思っていただけるような人生に、僭越ながら導ける一助になれるよう、これからもできる努力はすべて行っていこうと思います。

Q 書を書く時、作品を作る時はどんな精神状態で取り組むのでしょうか。

A紫舟穏やかで、平和な気持ちに満ちています。
普段の私は、複数のことを同時に考えています。心の中も思考に影響を受け、とても多動です。心がザワザワと波立ち、意識下では落ち着かないことが多いのです。
そんな中でも、筆を持ち、書を書き始めると、波立つ心は一瞬で凪となり、穏やかで平安になります。筆を持つことで、意識下から離れられたような感覚つまりは、“心”から開放されたような静けさになります。自分の心と距離を置くことで、安らかな時間を手に入れます。
たとえ「怒」という文字を書く時でさえも、心は穏やかなままです。
わたしの場合は、仕上がった表現物がどういった感情を人に与えるかと、どう見えるかということは、制作時の精神状態も別ものです。怒って書いても、作品が怒りを表現できるとは限らないようです。書いている時は、心、感情、意識を手放しているので、同時に、喜怒哀楽、様々な文字を、同時に書くことができます。

Q 制作のプロセス、作品の完成形は予め見えているのでしょうか。

A紫舟ほとんど見えておりません(笑)。
書を書いている時は、ただ書いています。
制作中は、とても高い集中力の中におり、それは瞑想状態と近いようです。
数年前に、脳波を調べたいとの申し出を受け、脳波測定を受けました。結果、測定時間の97%が「修行した僧侶がさらに瞑想した状態」と、驚かれるほどの高数値でした。残りの3%は測定中に室内でモノが落ちたためその物音に意識がいったようです(笑)。
幼少から継続してきた書の鍛錬が、高い集中力を与えてくれたのでしょう。今では、日々の節度をもった暮らしと研鑽を重ねていることで、測定したときから比べても、別次元の集中力を持てるようになりました。
集中時の視野は一段と狭くなり、筆の穂先のさらに先に集中力がたまるようになりました。

Q “オン”と“オフ”といった概念はあるのでしょうか。

A紫舟今はオンとオフが、自分の中で区切れるようになったような気もします!?最近です(笑)。
身体や脳の最もよく使う部分、右手腕、目、首や右脳をたまには休めようと、作品について考えない時間をあえて持つようになりました。その時には、筆を持たない逆の手の左手で、お箸を使うこともあります。

Q 創作活動からふと離れた時の過ごし方などお聞かせください。

A紫舟オフの時は“今いる場所”から離れるようにしています。精神的に仕事(天職)と距離をとることは難しく、なかなかうまくいきませんので、物理的な距離をとります。東京にいるとどこにいても仕事が追いかけてきますので、見える景色を変えるのです。羽田から飛行機に乗って別の街へ移動するのが楽ですね。

Q これまでに書けなくなったことはありますか?

A紫舟はい、あります。
時間を選ばず書きたい時に書いていた頃、突然書けなくなりました。書きたいという意思と、心の気持ちと、身体とのバランスとが崩れてしまったのです。
その時、趣味も仕事も成功している先輩から、生活のリズムとパターンを崩さないようにすればいい、というヒントをいただきました。先輩は、平日は仕事を終えたらまっすぐ家に帰って家族と食事をして早寝早起きの生活、そして週末は仕事を忘れて遊ぶそうです。その話を聞いた時は、少々退屈でつまらないとも思えたのですが、まずは試してみました。生活のリズムとパターンを、時間を区切って整えました。すると、また再び、制作ができるようになりました。
心身のバランス以外で、書が書けなくなる時、それは多くの作家の方に筆を置くときが訪れるのはこの理由からではないかと感じています。それは、自分の心に嘘をつき続けた時です。自分が良いと思ったものを、それとは異なる意味の言葉でいう。感動したものを、感動したと言わずに反対の意味のことを言う。きれいだと感じたことを別の理由でそうじゃないと自分に思い込ませる。そうこうしているうちに、自分が感じた掛け替えのないものを、いつしか無視すること。それは、自分で自分を虐待しているようなものです、ネグレクトしているようなものです。例えば、それが人だったどうでしょうか。小さな子供が、あなたに一所懸命感じたことを伝えようとするのを無視し、いつも否定されていたらどうでしょうか。おそらく、その子は、もうあなたには心を開かなくなるでしょう、感じたことを話さなくなるでしょう、痛いときに痛いと言ってくれないでしょう、悲しいときに相談してくれないでしょう。
自分に置き換え直してみると、自分が自分に心を閉ざしてしまうことになるのです。ですので、自分の感じた気持ちを受け入れて、認めてあげて、できるだけ叶えようとすれば、制作できなくなる日はないと、信じています。

Q 今後やってみたいことをお聞かせください。

A紫舟2014年と2015年に、フランスから選出され、パリのルーブル美術館地下会場で展覧会を開きました。私たちがパリに憧れ好きでいるように、パリの方々も日本に高い関心を持ってくれています。モノづくりで日本を世界に発信するために、まずは芸術の都・パリで、写楽や北斎のように、フランスの芸術に、日本の文化で、刺激や影響を与えられる作品を制作、発表できたらと願っています。願わくは、日本がリスペクトされたらいいですね。
具体的なことはたくさんあります。日本の海に、再び海を好きになれるプロジェクション・マッピングをするというアイデアがあります。
また「バーニング・マン」で、日本の和や共生の思想をアートで体感できる作品のアイデアもあります。
作ってみたい作品は、多ジャンルで、いつも、体から溢れ出ています。

Q紫舟さんからOKWAVEユーザーに質問!

紫舟私は、質問を受けると、ある種、思考が停止したようになり、言葉を失いさらに動きも止まります。そのまましばらくいると、突然答えが“思いつく”のです。その時をただ待っています。ですので、質問を受けたときは、肉体は硬直し、意識も働かず、脳の中の答えとの“リンク”待ちをしているのかもしれませんね。
皆さんは、人から何か質問を受けて答えを考える時、頭の中でどんなことが起きて回答が浮かびますか?

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■Information

【作品展示】

「Heart Art in TOKYO 2017 第20回エイズチャリティー美術展」

[期間]2017年1月26日~2月6日
[場所]国立新美術館
[作品]書・書画・屏風・書のキュビズム
酉年にちなんで、「鶏」がモチーフとなった書画作品等を展示します。

〈奈良県立美術館 紫舟作品展〉

[期間] 2017年4月15日~7月23日
[場所] 奈良県立美術館
[作品] 書(その他未定)
古都・奈良を舞台に、紫舟の作品が一挙大公開!


■Profile

紫舟

書家 / アーティスト
代表作、NHK大河ドラマ「龍馬伝」「美の壺」、日本政府「JAPAN」、伊勢神宮「祝御遷宮」。
パリ・ルーブル美術館地下会場Carrousel du Louvreにて開催されたフランス国民美術協会(155年前にロダンらが設立)サロン展2015にて、横山大観以来の世界で1名が選出される「主賓招待アーティスト」としてメイン会場約250㎡で展示。2014年同展では「北斎は立体を平面に、紫舟は平面を立体にした」と評され、日本人初・金賞をダブル受賞。
日本の伝統文化である「書」を書画・メディアアート・彫刻へと昇華させながら、文字に内包される感情や理を引き出し表現するその作品は唯一無二の現代アートとなり、世界に向けて日本の文化と思想を発信している。
大阪芸術大学教授。

紫舟公式サイト:http://www.e-sisyu.com/
OKWAVE Premium 紫舟 official gallery:http://sisyu.okwave.jp/