OKWAVE Stars Vol.635は、映画『雪女』(2017年3月4日公開)の監督と主演を務める杉野希妃さんへのインタビューをお送りします。
Q 小泉八雲の「雪女」を題材に映画化しようと思い立った経緯をお聞かせください。
A杉野希妃ニューヨークの映画祭で現地在住の日本人プロデューサーの方とお会いした時に、その方が小泉八雲のエッセイフィルムを撮られるとのことで、小泉八雲の素晴らしさについてお聞きしました。その時に「雪女をやってみれば?」と言われたのがきっかけで、帰国してから小泉八雲の『怪談』などの著作を読みました。「雪女」には現代人を忘れているものが詰まっていて、今やるべき作品なのではと思って、私の解釈で映画化しようと思いました。
Q 原作はとても短いエピソードですが、そのストーリーの軸に忠実に映画化した狙いは何でしょうか。
A杉野希妃原作の持っている良い部分は壊してはいけないなと思いました。テイストを全く変えて、例えば、完全に現代風にアレンジして描くこともできたとは思いますが、私は原作を読んだ時に感じた世界観が好きでしたので、その世界観の中に自分の感覚を入れて描きたいと思いました。原作では、茂作を殺したところを見ていた巳之吉に雪女が「このことを他の誰かに言ったらお前を殺す」と言いますが、最後、自分との子どもがいるから巳之吉を殺せずに自分が消えます。そんな犠牲的なところから、雪女から怖さ以上に、温かい眼差しを感じました。原作から大胆に変えるというよりは、良さを活かしながら、私が思っている思想などを入れていくことが大事だと思いました。
Q 脚本にも名を連ねていますが、脚本作りはいかがでしたか。
A杉野希妃最初は脚本家さんに脚本をお任せしていました。素敵な脚本に仕上がったのですが、民俗学的な要素が強く、私らしい映画になるかは少し疑問でした。このままでいいのかと悩んでいるうちに、オランダの映画祭で事故に遭ってしまって。それで撮影が1年延びてしまったので、その間に自分で脚本を書いてみようと思いました。より良いものが書けるかはともかく、自分自身が納得のいけるものを書こうと、入院中に書きました。
Q 広島での撮影の狙いについてお聞かせください。
A杉野希妃雪国が舞台だからといって東北で撮るのも自分らしくないし、自分の解釈で映画化するのだから、自分の知っている土地で、慣れ親しんだ言葉で撮ろうと思い、広島で撮ることにしました。国内で最南端のスキー場がありますし、庄原は豪雪地帯でもあるので、それもいいなと。雪女の物語自体、小泉八雲は松江で書いていますし、舞台は武蔵国となっていますが、雪女の伝承は全国にあるので、どこであってもおかしくないなと、安芸の国・広島にしようと思いました。
Q 監督と役者を務める上で現場ではいかがだったでしょう。
A杉野希妃やはり難しかったです。キャストとスタッフの皆さんに支えられてできたと思います。監督も務めていると、役者としてだけ出演する時以上に自分に対して厳しくなってしまいます。でも、だからこそ次もがんばろうという気持ちになりましたので、とても貴重な経験をさせていただいていると思います。
Q 青木崇高さんをはじめ、共演陣とどのように作り上げていったのでしょう。
A杉野希妃私自身は共演の方々と接する時は、ある時は監督として、別のある時は役者として、という感覚ではなく、一緒に映画を作っている同志として、相談しながら作っているという感覚を持っていました。いつもそういうスタンスなので、青木さんや佐野史郎さん、水野久美さん、宮崎美子さんらと色んなお話をしながら、それこそ人間同士としての交流ができたと思います。
Q 着物姿の方と洋服姿の方がいたり、昭和風の制服姿だったり、時代設定が不思議な感覚にさせられますが、その点についてはいかがでしょう。
A杉野希妃設定としては現代のパラレルワールドと捉えています。雪女自体がSF的な存在ですし、でも本当にいるかもしれないというリアリズム的な要素もあるので、観客の皆さんを幻惑させたいという意図がありました。ですので、洋服を着ている人が出てきますし、藁を着ている人も、着物姿の人もいます。町工場も出てきます。いつの時代にあってもおかしくない、時代を超えていく物語という意味で、あえてそういう設定にしました。
Q 川を渡るシーンが印象的です。
A杉野希妃私は川や海、水が出てくるシーンをいつも大事にしています。この作品では、雪女があの世からこの世にやってくる、という狭間の世界を川で表現しています。女の子たちが成人の儀式として川を渡っていくシーンがありますが、子どもと大人の狭間を川を渡るということで表現しています。巳之吉たちの村と山の境目には川があります。私たちは狭間の世界で生きているような気がしていて、言葉で説明できないような、そんな実体のないものが世界を作っているのだと思っています。それを象徴するものとして川を意識的に使っています。
Q 表情などの芝居を大事にされて、説明的なセリフを削ぎ落としているように感じられました。
A杉野希妃原作自体がいろんな解釈ができるのが面白いところなので、私の解釈したエッセンスも入ってはいますが、押し付けがましくはしたくないなと思いました。映画は観てくださった方が様々な解釈をして映画自体が豊かに膨らんでいくものだと思うので、極力、説明的なセリフは削りました。脚本時点ではもう少し説明的なところもありましたが、編集段階でも削りました。観客の方々に自由に考えていただいて、映画を作るという感覚を観客の方々とも一緒に、それこそ映画を通じて対話ができるようにしたいなと思っています。
Q 雪女の描き方は原作と異なるところですね。
A杉野希妃雪女を、ただ人を殺すような怖い存在にはしたくないと考えました。自然はコントロールできるものではありませんし、雪女をそういった自然の象徴として捉えることもできるかもしれません。
Q 娘ウメの物語が描かれます。
A杉野希妃原作では巳之吉とユキは10人の子宝に恵まれますが、その子たちがどういう子たちなのか全く描写されていませんね。この子どもの存在こそ、物語のキーになると思いました。巳之吉の暮らす村では異種の存在である、ユキとの間に生まれた子どもの人生の方が雪女そのものよりももっと気になりました。そこに思いを馳せて、ウメを通して、彼女の存在が何を意味するのかを描こうと思いました。さすがに10人も登場させるより、一人に焦点を当てた方がいいかなと(笑)。
Q 劇的なタイミングで雪に恵まれたそうですね。
A杉野希妃撮影は2~3月に行いましたが、雪が降ってほしいタイミングで雪に恵まれました。宮﨑美子さんが演じた巳之吉の母親・ハルが亡くなった日のシーンも雪が降りましたし、ウメと幼なじみの幹生が山に向かう際に舟で渡る川のシーンも意図せず雪が降ってくれました。暖冬にもかかわらず、いろんなところでなぜか雪に恵まれましたね。
Q ご自身で大変だったと思うシーンは?
A杉野希妃冒頭の白黒で描かれる吹雪の山小屋のシーンです。私は、あそこが失敗したらこの映画は台無しになってしまうと思って撮影に臨みました。夜の撮影でしたが、早朝の3~4時くらいまでかけて撮影しました。巳之吉に対して雪女が「もしこのことを誰かに話したら、あなたの命を奪います。」と話す時の、一番インパクトのある、雪女の顔の角度や目線を探るのが大変でした。私が出演していますので、撮って、モニターを確認して、思っているものと違うから撮り直して、また確認して、と繰り返してかなり時間がかかりました。そこはとくにこだわって作った部分です。
Q 今後の抱負をお聞かせください。
A杉野希妃フランス人監督が広島で撮った、幽霊が出てくるちょっと不思議だけどポップで切ない恋愛映画『海の底からモナムール』に出演しています。ブルガリア映画『ユキとの写真』も秋以降に日本で公開されます。こちらも楽しみにしていてください。
私自身はこれからも合作映画を作っていきたいと考えています。ここ数年はアジアの国との合作が多かったので、ヨーロッパの国や、まだ組んでいないアジアの国の方と一緒に作品を作りたいなと思っています。それと、戦後75年に向けて広島で何か作品を作りたいと思います。8年前からミュージカル映画を作りたいと思っているのでこれも実現させたいです。
Q 杉野希妃さんからOKWAVEユーザーにメッセージをお願いします。
A杉野希妃『雪女』と聞くとホラー映画だと思う方もいらっしゃるかもしれませんし、小泉八雲と聞くと少し堅苦しく感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、観ていただくとドラマとして心に沁みる物語になったと思います。私なりの21世紀版の新しい『雪女』ができました。新しい『雪女』をぜひ観に来てください。どの年代の方にも楽しんでいただけると思います。
■Information
『雪女』
2017年3月4日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネマ・ジャック&ベティ、4月1日(土)よりシネ・リーブル梅田、大阪シネ・ヌーヴォ、京都みなみ会館、神戸元町映画館ほか全国順次公開
恐怖と神秘と、そして雪の結晶のように繊細ではかなく美しい愛の物語。
ある時代、ある山の奥深く、吹雪の夜。猟師の巳之吉は、山小屋で、雪女が仲間の茂作
の命を奪う姿を目撃してしまう。雪女は「この事を口外したら、お前の命を奪う」と言
い残して消え去る。
翌年、茂作の一周忌法要の帰り道に、巳之吉は美しい女ユキと出会う。やがて二人は結婚し、娘ウメが生まれる。
14年後。美しく聡明な少女に成長したウメは、茂作の遠戚にあたる病弱な幹生の良き話し相手だった。しかしある日、茂作の死んだ山小屋で幹生が亡くなってしまう。幹生の遺体には、茂作と同じような凍傷の跡があった。ユキの血を引く娘のせいだと、巳之吉を激しく問いつめる幹生の祖父。
巳之吉の脳裏に14年前の出来事が蘇り、以前から自分の中にあったユキに対する疑心と葛藤する。自分があの夜の山小屋で見たものは何だったのか、そしてユキは誰なのか…。
出演:杉野希妃、青木崇高、山口まゆ、佐野史郎、水野久美、宮崎美子、山本剛史、松岡広大、梅野渚 ほか
監督:杉野希妃
配給:和エンタテインメント
公式HP:http://snowwomanfilm.com/
©Snow Woman Film Partners
■Profile
杉野希妃
1984年3月12日生まれ、広島県出身。A型。
慶應義塾大学経済学部在学中にソウルに留学。2005年、韓国映画『まぶしい一日』で映画デビューし、続けて『絶対の愛』(06/キム・ギドク監督)に出演。
出演兼プロデュース作は、『歓待』(10/深田晃司監督)、『マジック&ロス』(10/リム・カーワイ監督)、『大阪のうさぎたち』(11/イム・テヒョン監督)、『おだやかな日常』(12/内田伸輝監督)、『ほとりの朔子』(13/深田晃司監督)、『3泊4日、5時の鐘』(14/三澤拓哉監督)他多数。
11年に東京国際映画祭、13年に台北映画祭で特集が組まれ、14年のロッテルダム国際映画祭では日本初の審査員に選ばれる。14年、監督第1作『マンガ肉と僕』が東京国際映画祭、エディンバラ国際映画祭、上海国際映画祭等で上映。第2作『欲動』は釜山国際映画祭「Asia Star Awards」の最優秀新人監督賞を受賞。
出演作『海の底からモナムール』(ロナン・ジル監督)、『ユキとの写真』(主演、ラチェザー・アブラモフ監督)が公開待機中。
衣装提供:PARIGOT